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ファッション

走行性能が高すぎないから面白い

MTBのオリジン「クランカー」は自転車乗りのもうひとつの選択肢

author: 佐藤 旅宇date: 2022/07/08

MTB(マウンテンバイク)は、自然との一体感が堪能できる素晴らしいアクティビティだが、都市部に住んでいると身近に走れる場所が少ないのがネック。クルマがあれば郊外のトレイルに遠征できるが、それではMTB本来の魅力である「気軽さ」が大幅にスポイルされてしまう。そこで私が愛用しているのが「クランカー」。MTBではない、オルタナティブな選択肢のマイナーな自転車といえる。

日常を冒険に変えるローテクなMTB

こちらは筆者が所有するクランカー。ベースとなっているのはクロモリフレームのFOLKの 「GAMBLER」というモデル(すでに絶版)。これにレトロな雰囲気の現行パーツを組み合わせて完成させた。変速ギアのないシンプルな自転車だが、街乗りからちょっとした山道までマルチに遊べる。

もともとMTBは、1970年代にサンフランシスコのヒッピーたちが自転車で急勾配の未舗装路を駆け降りて速さを競う遊びから誕生した。当時は山を走るのに特化した市販自転車がなかったので、彼らは頑丈な戦前の実用車などのフレームに太いタイヤやモーターサイクル用のハンドルバー、ドラムブレーキなどを装着した改造自転車を作った。これがいわゆる「クランカー」である。やがて、専用のフレームやタイヤが開発されるなどを経て、現在のMTBになったのだ。

というわけで、「クランカー」というのは明確なカテゴリーというより、MTBの原点となった改造自転車およびそれをモチーフにしたバイクの俗称なのだが、いちおう現代でもこのクランカーをモチーフにしたモデルが販売されている。その筆頭がグロウンバイクの「HEYJOE」(写真上)。フレーム&フォークセットでの販売なので組み合わせる部品にもよるが、おおむね30万円ほどあれば完成車が入手できるだろう。

もちろん、トレイルを走ることにおいて、現代のMTBは素晴らしいパフォーマンスを発揮する。例えば、アメリカを代表する自転車メーカー・GTの「FORCE CABON ELITE」(写真下)は、その象徴的な一台。

軽量かつ強靭なカーボンフレームに、たっぷりとしたストロークをもつ前後サスペンションや、29インチの大径タイヤを組み合わせ、激しい起伏のオフロードだって難なく駆け降りてしまう。MTB競技で勝つためにたゆまぬ進化を続けた賜物といえる。ところが、バイクが高性能になるほど本格的なトレイルを走らないと満足できないというジレンマがある。

現代のMTBにはない美点

「身近に遊べる場所がないなら、身近で遊べる自転車を手に入れればいい」

「HEYJOE」は、ハンドメイドされた頑強なクロモリフレームと、太いタイヤによってオフロード走行に対応するが、昨今のMTBでは必須の装備となっているサスペンション機構はもたない。いわゆるリジットフレームである。リジットフレームは操作感がダイレクトで、スムーズに走るにはライダーが積極的に荷重移動を行う必要がある。現代のMTBに比べ、パフォーマンスの限界が適度に「低い」からこそ、河川敷や裏山といった身近なオフロードでもエキサイティングに楽しめるのだ。

クラシックなルックスなので、サイクリングウェアではなく、Tシャツ&デニムといったラフな服装で乗ってもサマになる点も現代のMTBにはない美点だ。HEYJOEは、MTBが競技になる前の純粋な遊びだった時代へ回帰させてくれるバイクなのである。

また、シンプルだが、決して安物ではないところもこのモデルの特徴だ。フレームは国内で唯一ハイエンド自転車向けパイプを生産しているKAISEI社製のパイプに防錆処理を施してマットクリアコートのみで仕上げたRAWフィニッシュを採用するという手の込んだもの。流行り廃りに影響されず、スペックが時代遅れになって魅力を失うこともないため長く愛用できる。まさに大人の遊び自転車なのだ。

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編集者・ライター
佐藤 旅宇

オートバイ雑誌、自転車雑誌の編集部員を経て2010年からフリーランスの編集ライターとして独立。タイヤ付きの乗り物全般や、アウトドア関連の記事を中心に雑誌やWEB、広告などを手掛ける。3人の子どもを育てる父親として、育児を面白くする乗り物のあり方について模索中。webサイト『GoGo-GaGa!』管理人。1978年生まれ。
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