何にも無かった日の、ただただ平凡な夜。このままご飯食べてダラダラして寝て終わりでいいのか!? それでもいいじゃないか? いや、ダメだ。みたいな、そんな葛藤の夜は、是非いつもと違う選択をしてみようではないか。そう、勇気だ。
私は「ときめき」を軸に日々を過ごしている。散歩する度に好奇心に火をつけて、なるべく被らないように、歩いたことのない道を選ぶようにしている。それを心掛けて歩いていると、高円寺の街の隅から隅まで、だいたい一年足らずで網羅してしまったと思う。しかし、それでも移り変わっていく街や人々に、毎回違った発見があるから面白い。
でも足りない。もっと何かグッと来るものが欲しい。みんなもそうでしょ? この企画で、皆さんと共にこの高円寺の夜の街を歩いてみようと思う。さぁ、夜はこれから。ときめいていこうではないか諸君!
光るヒナ子
動画クリエイター。日常の中にある“ときめき”を求めて動画を制作、YouTubeやTikTokを中心に投稿している。どこかサイケデリックな空気が香る不思議な世界観に中毒者が続出中。総フォロワー数は10万人を超える(2023年5月現在)。
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庚申通りの終わりからスタート。駅に向かう形にはなるが、いつものように歩いてみようと思う。
「サンカクヤマ」は大好きな古本屋さんだ。時間があるときはチェックしている。今日はついている。憧れのルーリードの伝記的な本がある。この企画の主旨に相応しい『ワイルド・サイドを歩け』というタイトルの本だ。価格も安かったし、興味深いので購入することにした。でも、一番の決め手は裏表紙のこの顔である。説得力がある。
どんな本が好きなのかと考えてみると、昔からサイケデリックな匂いのするものに惹かれる傾向がある。サイケデリックとは? と聞かれると、なかなか言語化するのは難しいが「なんか変」とか「なんだかよくわからないもの」と捉えている。
脳内で「Walk on the Wild Side〜♪」と流れている。いい感じだ。
サンカクヤマを出てすぐに、「ご自由にお持ち帰り下さい」の貼り紙が。その下には食器など色々あるが、一際輝く換気扇(ダクトの中間取り付けタイプ)がある。ちょっと欲しいかもしれないと悩まされる。もちろん今回はパスだ。これを持っては歩けない。しかし確実にテンションが上がった。
ダメだ、このペースだと終わらない、さぁ、先に進みましょう。
この先に珍しいラインナップの自販機がある。見たことも聞いたこともないような名前の商品が充実していて、面白いので是非紹介したかったが撤去されていた。つい最近買った記憶があるのに、なぜ……。夢だったのかもしれない……。
高円寺には趣のある路地がたくさんある。その中でもかなりお気に入りの路地だった場所が、最近取り壊されて建設工事が進められている。ここは、一階にスナックが並んでいたマンションの廃墟のようなところで、公園へ抜けられる路地だった。淋しい。この変化についていけない私。ただただ地団駄。
鉄板の四文屋の角を曲がれば「揚げ物ストリート」である。まぁ勝手にそう呼んでいるのだけれど、コロッケやメンチ的なお店が3軒、天ぷら、串カツのお店が並んでいる。残念ながらこの時間は閉まっているけれど、ホットなストリートだ。
このまま駅に抜ける前に、曲がっておきたい路地がある。北中通りに抜けられる狭い路地なのだが、ここもお気に入りだ。
「あっ……」
今、誰かとすれ違った。あの大好きなバンドのギターの人だ。あのバンドだ。曲は思い出せる。バンド名が思い出せない……。でも、たしかにあの人だ。うん、今日はツイてる。
さて、すっかりキレイになってしまった高架下のケンタッキー周辺。マックも無くなってしまった。あのなんとも言えない趣がなくなって残念かと思いきや、少し高架下の方に進むとその趣は健在である。底力を感じる。好きだ。
そろそろひと休みしたいところでしょう。タバコも吸いたい。ならコーヒーも必要だね。せっかくだし、このキレイになった高架下についに出来た「タリーズ」に行ってみましょう。“趣(おもむき)”ばかり言ってないで、清潔感とオシャレさも紹介しときたい。しかし営業時間が終わっていた。これでいいんだ。と、私はなぜかほっとしている。
「七つ森」という老舗の喫茶店に向かう。友達が働いていて、雰囲気も良い。大好きなお店だ。少し距離があるが、全然歩ける距離だ。最近の気候は散歩に向いている。風が気持ちいい。パル商店街を抜けて、ルック商店街へ。
帰路に着く人、ギターを背負った人、古着屋の人、足早に駅に向かう人。この長い商店街でさまざまな人々とすれ違う中、イタチが目前3メートルを横切った。
「!!!!!!!!!!!!」
猫ではなく、完全にイタチである。たしかに何度か見たことはある。しかし年に数回レベルだ。それをこの企画の最中に横切ってくれるとは、高円寺のイタチは粋である。一瞬の出来事だったため、皆さんにお見せ出来ないのが残念でならない。
「七つ森」は素敵なお店だ。コーヒーも美味い。ひと休みに最適な場所だ。ここの喫煙所の雰囲気も相まって、「高円寺の好きなところについて」という質問を考えてみた。
“おしゃれな街です”みたいな顔して、実はめちゃくちゃ小汚い。都内の中でも物価が安いとか、単純に音楽好きな若者が多いところとか好きだ。ど深夜に散歩してても、私と同じような若者とすれ違うことがある。その若者も「同じような悩みや不安を抱えて歩いてるんだろうなぁ」とか、「しかもその悩みが同じベクトル向いてて……」とか思うと、妙に安心する。
街は人だと思う。駅前のロータリーとかそこら辺のただの裏路地でさえ、歴代の若者が悩んで頭を掻きむしった跡とかが残ってる気がして、哀愁が深い。古着屋とかいっぱいあってかっこいい街に見えて、こういう側面が絶妙な苦味をかもしてて、秋刀魚の肝みたく絶妙で好きだ。
と、カッコつけて答えてしまい、少し恥ずかしくなりながら店を出た。
この企画にかこつけて企んでいたことがある。「寿司が食いたい」である。『ちょっとお腹すいてきましたね』との編集さんの言葉に、すかさず提案してみたら『いいですね〜』と、あっさりと通った。しかも特上を買って頂けた。私は自分の卑しさを恥ずかしく思った。
テイクアウトした寿司をどこで食べるかを考えた。真っ先に思い浮かぶのは、よく行くあの公園だ。手元に寿司があることで浮かれた気持ちになっていたのか、少し歩くスピードが上がっている自分に気付き、セーブして歩いた。
またも恥ずかしくなり、はにかんでいると『ヒナ子さんですよね?』と通りすがりの女性に声を掛けられた。光るヒナ子の動画をよく見てくれているようで、嬉しかった。少し談笑し、その女性のお連れの男性に目をやると、私がよく見ているYouTuberの方だった。
なんだかいつにも増して今日はツイている。まるで高円寺がこの企画を応援してくれているようだ。そう思いながら浮かれて横断歩道を渡っていると、『あれ、ヒナ子さん浮いてませんか?』と真剣な表情で言われた。楽しかった。だから少し気が緩んで、実際に少し地面から浮いていたんだと思う。普段は、私が天使なこと、隠してるのに……。しかし本当の所、私は高円寺でも少し浮いているのだ。
自販機でモンスターを買って、高円寺中央公園に着いた。石垣に腰掛け、今日の戦利品を眺める。ルーリードの本と寿司。短い時間だったけど、かなり充実した散歩だったと思う。背後には憧れの居酒屋「まら」。このお店には大好きなミュージシャンや芸人さんたちがよく来るらしい。私もいつかあのお店でたらふく食べてみたいなぁと思った。
ふとルーリード先輩と目が合った。去年も全く一緒のこの場所で、全く一緒のことを思っていたのが頭をよぎった。何にも変われない私がまだここにいる。少し不安になった。でも寿司が美味そうだ。私は寿司を食べた。ものすごく美味しかった。寿司越しのルーリード先輩が少し微笑んでいるように見えた。
Edit:小林雄大
Photo:野口悟空
Video:Gen Sakai