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大学退学も遅刻も、笑いになってしまったので……

ラランド・ニシダが「過去に後悔がない」理由

author: 早川大輝date: 2025/02/17

「もしタイムマシーンがあったとして、過去の自分が言うことを聞くとは思えない」
 
そう笑うのは、ラランドのツッコミを担うニシダさんだ。
 
2度の大学退学や遅刻癖、怠惰な性格から“クズキャラ”としての地位を確立しつつも、一方では読書好きとしても知られ、2023年には作家デビューを果たした。そんなニシダさんが、20歳に戻ったら? 過去の出来事を振り返るうちに、話題は自然とニシダさんの自意識の変化へ。諦観とも達観ともつかない30歳の等身大の言葉から、「後悔」や「やり直し」について考えてみたい。

ニシダ

1994年7月24日生まれ、山口県宇部市出身。2014年、サーヤとともにお笑いコンビ「ラランド」を結成。作家や俳優としても活動している。著書に『不器用で』『ただ君に幸あらんことを』(ともにKADOKAWA)がある。

X:@mouEyo_Nishida
Instagram:@nishida__kuso_no_ko

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──20代のうちにやっておいて良かったなと思うお金の使い方はありますか?

物欲があまりないので大きな買い物はしないんですけど、20歳の頃から、本屋で毎月5000〜1万円分は本を買い続けていまして、これはやってて良かったなと思います。

大学2、3年生くらいのときに周りの人が一斉に『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』を読みだす時期が来て、僕も一度読んでみたんです。でも、僕にはそもそもイシューがなくて。イシューからはじめたくてもはじめられなかった。

ビジネス本は自分には向いてないなと思ったんですけど、それも読んでみないと分からないことだったので、たくさんの本に触れることで自分に合わないジャンルを知れたのは良かったのかなと。

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──ニシダさんの知識量は、その頃からたくさんの本を読んできた経験によって培われたものなんですか?

どうなんでしょうね。僕にとって読書は勉強のためにするものじゃなくて、映画と同じように娯楽のひとつだったんです。だから本を読んでいたからって頭は良くならなかったし、結局大学も中退しましたからね。

でも、大学生の頃にたくさんの情報に触れていたのは事実だと思います。暇だったので、その時期は1日中Twitter(現X)を見てて、長いときは1日で20時間くらい。この人がフォローしてるこの人に飛んで、その人のタイムラインを見て……を繰り返してましたね。

──なぜそこまでして、Twitterを見たかったんですか?

Twitterって話題の中心にいるような派手で目立つ人だけじゃなくて、いわゆる普通の人や、メインストリームから外れた人たちもやっているから、その入り乱れた場所自体に面白さを感じていましたね。ネットニュースなんかも好きでずっと見てました。

今思うと、全く意味がない時間だったと思いますけど。

──「ララチューン」(ラランドのYouTubeチャンネル)を観ていて感じる、ニシダさんのネットミームや、インターネットで流行ったものに対する反射神経の良さは、その時間があったからなのかなとも思います。

確かに、そうかもしれないですね。ずっと見てたから、自分と同時代の人がハマったものに対して、僕もちゃんとハマってきたというのはあると思います。

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──20歳の頃や、それこそラランドとしてプロでやっていくと決めたときなど、どんな未来図を描いていましたか?

僕はあまりやりたいことがないので、人生設計とかキャリアプランを考えたことがないんですよね。与えられたことをやるのが性に合っているんです。正直、僕は絶対に年功序列で生きていたかったです。年を取ったら偉くなれて、自動的にMCになれる世界だったら良かったのにと思ってます(笑)。

──物欲だけではなく、仕事欲も強くはないんですね。では視点を変えて、いま振り返ってみて、20代のときに経験したこの仕事は大変だったなあという思い出はありますか?

海外ロケとか、肉体的に辛い仕事は結構あるんですけど、結果として「やらなきゃよかったな」と思うような仕事はそこまでなかったですね。そもそも、やりたいことも、やりたくないこともあまりない人間なので。

ああ、でも今になって思うのは、「やってよかった仕事」「やらなきゃよかった仕事」というのは、スタッフさんとの関係性に表れますね。

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──というと?

20代の頃は根拠のない万能感があるから、何でも一人でできる気がしてしまうけど、30歳になったいま、やっぱり人と関わることって避けられないよなと思うんです。

現場には、ディレクターがいて、カメラマンがいて、照明もいて、というように収録のチームがありますよね。その人たちに対して「楽しい人たちだな」と思えたときはやってよかったなと感じるし、「嫌な人だな」と思ったらやらなきゃよかったなと感じるので、現場での人間関係を重視するようになりました。

──ニシダさんは、25歳ぐらいからラランドとしてテレビに出演するようになりましたが、当時の自分に「こういう人には気をつけろ」と伝えたいことはありますか?

目の前の人が良い人か嫌な人かは、会話の耳心地だけで判断しちゃだめですね。言葉尻が柔らかいから良い人とは限らないし、全然喋らない人だから嫌な人なわけでもない。

その人が「何を話したか」ではなくて、「何をしたか」。やっぱり行動に人が表れるんだなという気がしています。全員に対して雑な人だったらまだいいんですけど、人を選んで雑に扱っている人には思うところがありますね。

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──これまでの人生で、影響を受けた人はいますか?

10代の頃は南海キャンディーズのネタや、山里さんのラジオにハッキリと影響を受けてました。

20歳の頃は相方に出会ったので、それが一番大きいと思います。どれくらい影響を受けているかは分からないですが、いまここに来るまでに絶対に必要な分岐点がサーヤさんとの出会いなので。相方として一緒に歩んでいるという意味で、影響は受けているはずです。

ただ、僕は誰かに憧れて「こうなりたいな」と思うよりは、「こいつダサいな。絶対こうはならねえからな」と思うことの方が多い気がします。他人からダサいと思われたくないし、自己評価としてもダサい自分ではいたくない、という意識が強いんです。

──20代の頃の自分に対して、あのときの自分ダサかったなと思うことはありますか?

今も残ってはいるんですけど、20代半ばのときは特に見た目やファッションに気を遣ってる人をダサいなと思う気持ちが強かったです。自分の個性を外側で表現しようとしている姿勢をダサいと思っていた。

僕は反対に、個性というものは内面にこそ表れるんだと、自分の内に秘めておくことが美徳だと信じていた。でも今は、その考え方はたぶん間違ってたなというか、表現してもいいじゃんって思うようになりました。

──何がきっかけで考えが変わったんですか?

NHKで、18歳の学生たちがアーティストと一緒に合唱する『18祭』というイベントを毎年開催していて。それを見たんです。

僕はずっと、目立ちたいとか、そういう承認欲求みたいなものを外に出さずに内に抱え続けて、濃縮させていくことを素晴らしいものだと思っていました。けど、アーティストと歌っている学生たちの姿を見ていたら、何かを外に表現したり、表明したいという気持ちや積極性も大事だよなと思えてしまって。僕のものの見方は良くなかったのかもしれないと、30歳を超えてやっと気づきました。

まだダサいと思ってる気持ちもあるんですけど、いまは0か100でダサいと断じられることじゃないなと思うようになりました。

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──いまのファッションのお話にも共通しますが、30歳になったニシダさんが、手放してよかったなと思う「べき論」はありますか?

両親には感謝をするべき、家族関係は良好であるべき、というのは20代の早い段階で手放しましたね。僕は両親と仲が悪いんですよ。大学を退学したことや、芸人になったことでさらに関係性が悪化しました。

うちは4人家族なんですけど、僕は家族って「エレベーターにたまたま乗り合わせた4人」とあまり変わらないなと思っていて。もちろん、家族として過ごしてきた時間の蓄積はありますし、DNAも引き継いでるのだろうけど、家族とはいえ他人であることには変わりないと思うんです。

──家族と良い関係を築けなかった人にとっては、「家族なんだから仲良くするべき」という考えは呪いのようにも作用してしまいますよね。

仲が良い家庭を否定するわけではないですけど、あんまり「仲良くあるべき」だと、信じすぎない方が良いです。世の中にはさまざまな家族の形があるので、絶対に関係を修復すべきとか、絶対に仲良くなれるものだと考えない方がいいなと思いますね。

──それはニシダさんの中で、完全に割り切れている話なんですか?

割り切ってるつもりなんですけど、それでもたまに親に対しての情は出てきます。

2年前ぐらいに、ウッチャンナンチャンの内村さんが主催する『内村文化祭』というライブに出たんですけど、そのときに母親が観に来ていたんです。4、5年ぶりに会ったのに第一声が「謝罪があるなら聞きますけど」だったので、なんだよと思って。

でも、久しぶりに会った母親が記憶よりも老けていて、内村さんと写真を撮りたそうにしている姿を見ていたらどうにも耐えられなくなって、マネージャーに「写真撮れるのかな」って聞いて、内村さんと撮ってもらったんです。仲良くしたいとは思っていないんですけどね。こんな風に情が出てくるのは、親のことを100回考えたとして1回しか引かないSSレアみたいなものなので、「今日はそういう日だったのか」と気持ちに折り合いをつけています。

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──過去の失敗のなかで、「これだけは本気で反省してる」というものはありますか?

大学を退学した当時はめちゃくちゃ反省してたんですけど、いまとなってはそれがきっかけでテレビやラジオに呼んでいただけるし、たくさんの人が笑ってくれるのでありがたいなと思っています。だから、振り返るとそんなに大きな失敗や後悔はないかもしれない。

もちろん、短期的な後悔はありますよ。昨日の夜に春雨スープを食べたのですが、やっぱり焼肉を食べとけばよかったな、みたいな後悔。でも焼肉を食べてたら胃もたれして、やっぱり春雨スープにしとけばよかった、という後悔が生まれる。結局、どっちに進んでも何かしらの後悔はある気がするので、あまり引きずらないです。

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──それを聞いていると、この企画のそもそもの話になりますが、ニシダさんって過去に戻りたいと思うことはないんですか?

ないんですよね(笑)。本が好きでずっと読んできましたけど、いま小説やエッセイを書くようになって、もっといろいろなジャンルを読んでおけばよかったな、真面目に読んでおけばよかったなと思うことはあります。けど、過去の自分はその時々で一番面白い本を選んできたとも思うんです。だから、しょうがないという気持ちがある。

お笑いに関しても、努力できなかった過去の自分がまわりまわって、いま僕が面白がってもらえていることに繋がっている。

──本当にお笑いは不思議な世界ですよね。努力しなかったことが、結果的に面白さに繋がるかもしれない。でもそれはたぶん、小説も同じで。うまくいかなかった経験が作品になることもある。

そういう意味では、努力したほうがいいのか、しないほうがいいのかよく分からない場所にいますね。でも、全部込みでいまが最善だなとは思うんです。

それに、もしタイムマシーンがあったとして、過去の自分が言うことを聞くとは思えない。10年前の自分に「退学になるからちゃんと勉強しとけよ」と言ったところで、やっぱしなかったと思うんですよ。「ビットコイン買っとけよ」と言われてもめんどくせえなとなってるはずで。

いまの自分は、過去の自分に言うことを聞かせられるほどの見た目じゃないと思うんです。すごいお金持ちなわけでもないし、今の俺と変わんねえじゃねえかって。

──それは逆に、説得力が出るんじゃないですか?

確かに(笑)。20歳の僕が、今の僕を見たら「10年経ってこれなのか」って、頑張るのかもしれない。

新刊情報

『ただ君に幸あらんことを』(KADOKAWA)


「家族」を共通のテーマとする2作品を収録した新作小説集。年の離れたスター俳優の「未亡人」となった一般女性が主人公の「国民的未亡人」と、大学受験を控えた妹を厳しすぎる母から守りたい兄が主人公の「ただ君に幸あらんことを」。

作家の金原ひとみさん、テレビプロデューサー の佐久間亘行さんも推薦する傑作!

定価: 1760円
発売日:2025年01月31日



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編集者・ライター
早川大輝

1992年生まれ。フリーランスの編集者・ライターとして活動しながら、最近はYouTubeのディレクターも。企業のオウンドメディアのほか、ドラマ・お笑いなどのエンタメや食にまつわるコンテンツ制作を行う。
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