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再開発によって変わったもの、変わらないもの

光るヒナ子のときめき放浪記 -下北沢編-

author: 光るヒナ子date: 2023/11/24

高円寺からだと、新宿から小田急線に乗り換えて行くべきか、それとも吉祥寺から井の頭線で行くべきか。勘の良い君ならもうわかるよね? そう、下北沢だ。今日はこの街を歩く。それなりに思い出もあり好きな街だ。

初めて来たのは高校生の頃で、よくライブハウスや古着屋を訪れていた。しばらく何年も行けていない。意外とちょっと前に好きなバンドのライブを観に行ったっけ? でも夜で暗かったし、時間ギリギリで急いでいたしで、街をちゃんと見れていない。だいぶ変わったのは薄々気付いていた。なので今回の散歩はとても楽しみだ。


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駅に着くと「こんなにも変わってしまったのか……」と、不安になった。街が新しくなっている。数年前に小田急線の地下化に伴い再開発され、駅やその周辺も大きな進化を遂げていた。全長1.7kmの小田急線跡地に、駅の2階「シモキタエキウエ」を含む、商業施設や保育園、温泉旅館など、13の施設がある「下北線路街」、井の頭線高架下は「ミカン下北」と、新しい施設が出来ており、ものすごくオシャレになっていた。

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駅前には広場があり、新しい道までも出来ている。そこから見える空は広く、以前には無かった開放感にたじろいでしまった。いや、よく訪れていた頃はずっと工事していて、何にも見えなかっただけか……。逃げるように南口商店街を進むと、見慣れた風景で少し安心した。

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商店街のゆるい坂を下ると王将が見える。下北沢の王将は他の店舗より美味しかった記憶がある。懐かしい。その先に、ずっと気になっていた「旧ヤム邸シモキタ荘」というカレー屋さんがある。ランチは絶対ここと決めていた。蔦が絡まる素敵なお店が見えてきた。有名店なので多少並びはしたが割とスムーズに入れた。

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レトロな内装も素敵で良い雰囲気だ。それでは、是非メニューを見て欲しい。月替わりのメニューで、9月のカレーは「温州みかんとセロリのチャトニと食べる 木耳入りイカスミ鶏キーマ」、「じゃが芋のタラモサブジのせ 鱈とキャベツの酸っぱポークキーマ」、「紅生姜のグリーンハリッサ添え 豚バラ白菜のタジン風牛豚キーマ」。そして、ヤムカレースープ付き。

みかんとセロリ? チャトニ? 木耳とイカ墨? あぁ、想像もつかない。どうやって生きればこの組み合わせが思いつくというのだ……。このメニューを見ただけでも興奮する。もちろん迷わず全がけで注文。お米はジャスミンライスにした。

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来る! ジャスミンライスを中心に3種類のキーマカレーが盛られ、それぞれのカレーの上にもチャトニ、サブジ、紅生姜やハリッサ、お米の上にはアチャールが乗せられている。なんてパラダイス的なカレーなんだ。店員さんがオススメの食べ方を教えてくれた。それぞれのカレーをしばらく食べ進めて楽しんだら、ヤムカレースープを全体にかけて、ごちゃ混ぜにして味わうとのこと。なるほど、それではいただくとしよう!

あぁ、美味い。かなり深くスパイスが効いている。絶妙な味や香りの複雑さが絶妙なバランスで混ざり合い、堪らなく五感を揺さぶる。私はスパイスカレーをよく作るのだが、この極致には到底到達出来ない。ホールの八角のカケラが柔らかい。よく煮込まれている。

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3種類のカレーそれぞれが、見事なバランスで調和していて夢中になった。そしてオススメの食べ方に従い、この調和を混沌にする時が来た。その前に、ヤムカレースープをスプーンに少しだけ垂らし単体で味わってみた。魚介の風味を感じる。美味い。さぁ行こう、冒険に!

スープをかけて全部を混ぜて食べると、これがまた美味い。まさにカオス! 色んなものが混ざり合ったこのごちゃごちゃした街並みが、このヤムカレースープをかける事により進化し、まとまる。あれ、街並み? 進化? そうか、これが下北沢ってことか! 『旧ヤム邸シモキタ荘』のカレーが予想を超えて美味しかったので、私は妙なテンションになってしまった。余談ですが、スパイスカレー熱が冷めず、「シモキタエキウエ」の雑貨屋さんでガラムマサラを買いました。

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「hickory」という古着屋さんの前を通った。素敵な店構えで、椅子が2脚置いてある。良い雰囲気だ。なんだか見覚えがある。あ、そうだ、『街の上で』という下北沢を舞台にしたとても好きな映画で、主人公が座っていた椅子だ。偶然巡り会えたことに嬉しくなって、お店に許可を取って座ってしまった。なんだか妙に馴染んで、もしも下北に住んでいたらこんな感じの古着屋さんでバイトして……なんて妄想してしまった。

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「古書ビビビ」。この古本屋さんはよく訪れていた。広い店内に幅広いジャンルの主にサブカルチャーや芸術系が豊富な品揃えで、BGM(前野健太「マシッソヨ・サムゲタン」が流れていた)も素敵で雰囲気が良いから大好きだ。ちなみにこのお店も『街の上で』の舞台になっている。

当時モノの安部慎一短編集「私生活」がある。この漫画にはだいぶ影響を受けた。もう私の魂だ。新版しか持っていないので欲しい。ここは欲しい本があり過ぎて、この後予定がある時に来ると大概困る。古本であったら買おうと思っていた「スヌープ・ドッグのお料理教室」を発見した。嬉しい、今日はこれだ!

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お会計の際、ふとレジ奥の川島小鳥さんの写真の女の子と目が合う。まるで冬子ちゃん(『街の上で』での古書店の店員)のようにレジに立っている私。あぁ、また妄想してしまった。

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スズナリの前を通る。この建物の雰囲気がとても好きだ。下北沢の象徴的な場所だ。演劇にはあまり触れる機会がなく、中に入ったことはないけれど惹かれるものがある。いつか一階のBARででも、ちゃんと浸ってみたい。

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期待と不安を胸に駅の方に歩き出す。新しく出来た場所に少し触れてみようと思う。オシャレな「ミカン下北」を通って、駅を上り「下北線路街」を歩く。途中ソファーがあって、花が咲いており蝶々が飛んでいた。爽やかだ。「雨庭広場」という小さな公園が出来ている。芝生が気持ちいい。遊具に登って見渡してみると、住宅街が広がっているのが見える。まだほんの一部しか触れていないが、この街に居続けて親になり、ちゃんと生活をしていく。そういった“丁寧な暮らし”が見えた。再開発にちゃんと愛を感じた。

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公園を抜けると大きな枝垂れ柳が見えて来て、新スポットの「BONUS TRACK」に着いた。ここは店舗・住宅一体型のSOHO4棟と4店舗の商業棟で構成されていて、住みながら働く長屋みたいな商店街。日記だけを揃えた本屋さん、発酵食品の専門店、VHS喫茶などの、個性が強いお店が多くとても面白い。真ん中に広場があり、タープの下に机と椅子が設置されている。腰掛けてちょっと休憩。

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この日は残暑が厳しく、暑くて溶けてしまいそうだった。地元の高校生っぽい男女グループが美味しそうなかき氷を食べている。食べたい。辺りを探すと「お粥とお酒 ANDON」というお店の「手作りラズベリーソースのかき氷」だった。すぐに購入して食べたら、これがまた美味い。その高校生たちはもう食べ終えて談笑している。心地良い風が吹いている。なんだかいい空間だった。

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「BONUS TRACK」の先には保育園、温泉旅館があり、どちらも洗練された上品さがあった。途中ベンチがあり、そこにステッカーがいっぱい貼ってあった。それが綺麗に貼ってある。このステッカーの貼り方が高円寺のそれとは違った。「下北線路街」を外れて西口方面へ。

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老舗のクレープ屋さん「アンドレア」に後ろ髪引かれつつも、まだお腹いっぱいなので通り過ぎる。悔しい。その2、3軒隣にあるパンクショップ「KILLERS」。ハードコアパンクが大好きで、ずっと気になっていたお店だったので入ってみた。バンドTやスタッズのベルトなどのパンクグッズがたくさんあって、しかも安い!

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TOTOウォシュレットのチラシと戸川純のカセット「裏玉姫」のセットが売っている。欲しい。USEDのロンジャンも気になる。袖が編み編みのG.B.Hを着たマネキンの前に、リアルなチワワのぬいぐるみがいるなぁーって思ってたら本当にチワワだった。おとなしくてめっちゃ可愛い! 強さとキュートのコントラストにやられてしまった。

USEDのタートルアイランドのパンク歌舞伎マクベスのTシャツと相当迷ったが、結局かっこいいサングラスを買った。お会計の際もチワワが近くにいてくれて和んだ。このお店にはもっと早くに来るべきだった。

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一番街を通って駅の方に向かう。好きな古着屋も紹介したかったが今回は無し。お店の入れ替えはあるにせよ大きく変わったのは駅周辺だけで、この辺りはあまり変わっていないが、古いビルが取り壊されて新しいビルが立っていたり、更地のままの所もあった。今まで見ることが出来なかった隣のお店の側面や、その奥の方まで見えたりして面白いが、見慣れた風景が少しずつ変わっていく様に肩を落としてしまった。

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趣のある路地を抜けると、いきなりむちゃくちゃ大きな月が浮いていた。あまりにも急に現れたので驚いて後ずさりした。どうやら「下北線路街 空き地」で行われている「月」がテーマのアートフェス「ムーンアートナイト下北沢」のリハーサル中だったようだ。不意の驚きにテンションが上がっていく。

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空き地の中に入ってみると、ドラえもんでしか見た事のない様な「3本の土管」が鎮座している。月と土管、なんだかいい響きだ。結構な時間はしゃいでしまった。興奮している。楽しくなってきちゃって、下北でやり残したことはないかと考える。

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アンドレアだ。アンドレアのクレープは、クリームたっぷりで大きくて生地もモチモチですごく美味しい。そして安い! 頭によぎっちゃったら行くしかない。今はそういうテンションだ。大きな通りなど行かず、ごちゃごちゃ入り組んだ路地をアンドレアに向かって横切る。奇跡的に迷わず最短距離で到着した。昔から変わらないこのファンシーな雰囲気が大好きだ。すっとこのまま有り続けてほしい。

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メニューが無限にあるので、色々迷ったが定番のイチゴバナナクレープを注文した。優しい店主さんが丁寧に作ってくれた。やっぱりデカい。昔食べた時と変わらずすごく美味しい。ここに来て良かった、最高の気分だ! クレープを食べてこの散歩を終えようと思っていたが、さらにどんどん思い出して来る。

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老舗の町中華「珉亭」だ。ここでも『街の上で』と被った。下北沢を代表する名店で雰囲気も良いからしょうがない。初めて2階のお座敷に通された。嬉しい。壁一面に貼られている著名人のサインたちに歴史を感じる。

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久しぶりだしクレープは別腹ということで、がっつり食べたくなってラーチャン(半ラーメン+半チャーハン)じゃなくて、ラーメンとチャーハンを注文。餃子は機械の故障により頼めなかった。珉亭のラーメンはシンプルに美味い。

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珉亭のチャーハンはなぜかピンク色をしてて美味い。どうしてピンク色なんだっけ? そういえば初めて食べた時も同じことを思って調べたな。そうだ、チャーシューに食紅を使っているらしくその為だ。そんな事を思いながら食事を終え、いよいよこの散歩を終えようと思う……。

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お腹いっぱいになって眠いけど、なんだか名残惜しくて帰れない。ヴィレヴァンの前の塀に腰掛ける。ライブ帰りの若いキラキラした女の子達が感想を言い合いながら駅に向かっている。その後方から、おそらく同じライブを観ていたのであろう若い女の子が一人で歩いている。私好みの服装で姫カットだった。その子のどことなく気怠く不満げな表情に、昔の自分を見た気がして嬉しくなった。

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駅周辺は確かに変わってしまったが、洗練された愛のある再開発であることが分かって嬉しかった。オシャレな新しい景観が加わったことで、ごちゃごちゃした街並みがより際立って面白く感じた。今回紹介させてもらったようなお店や劇場、ライブハウス、古着屋、ヴィレヴァンがある限り、またそれらを求める若者たちがいる限り、この街の文化は残り続ける。この街を構成するすべてのものを愛おしく感じた。

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動画クリエイター
光るヒナ子

日常の中にある“ときめき”を求めて動画を制作、YouTubeやTikTokを中心に投稿している。どこかサイケデリックな空気が香る不思議な世界観に中毒者が続出中。総フォロワー数は10万人を超える(2023年5月現在)。
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