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ことばが未来を連れてくる

瀬戸かほが言ったこと、決めたこと。そしてこれまでを知る5つの話

author: 赤井大祐date: 2025/02/15

「タイムマシーンがあっても未来のことは知りたくないです。答えを知ってしまったら、今を楽しく生きられなくなりそうで」。そう語るのはモデル、俳優の瀬戸かほさん。彼女の言う通り、なにかを先取りして知ることが楽しさや安心につながるとは限らない。むしろほとんどの場合その“結果”に縛られ、自由で自立した生き方からは遠ざかってしまう気がする。「瀬戸かほ」にまつわる〈人間関係〉〈お金〉〈遊び〉〈マインド〉〈仕事〉の5つのカテゴリーの話を聞くことで、そんなことを考えた。

瀬戸かほ(せと・かほ)

1993年11月11日生まれ。モデル・俳優。趣味は刺繍。映画『リビングの女王』では第6回賢島映画祭にて助演女優賞受賞。近年の劇場公開作として、『この日々が凪いだら』(常間地裕監督/2021年)、『クレマチスの窓辺』(永岡俊幸監督/2020年)、『神様のいるところ』(鈴木冴監督/2019年)、『ストレージマン』(萬野達郎監督/2022年)がある。原案・プロデュース・主演を務めた短編映画『きまぐれ』が2024年に全国で順次劇場上映した。2025年は主演作『NEW RELIGION』(Keishi Kondo監督)、『はらむひとびと』(中嶋駿介監督)が公開予定。

Instagram:@kahoseto06
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──友人や仕事などいろいろな人間関係があると思いますが、それぞれの場面で意識しているスタンスなどはありますか?

瀬戸:スタンスと言っていいか分からないのですが、人に嫌われたくない! という意識がずっと強くあって。相手の気を悪くさせないことに注力し、夜眠る前に自分の言動を思い返して反省することはしょっちゅうでした。自信がなかったんだと思います。30代に入ってから「誰かに嫌われるとか好いてもらえるとかって、自分で考えてもどうしようもないのでは…?」という考えに至り、それからは前向きな意味での諦めというか、自分を受け入れるフェーズに入っていきました。少なくとも今の自分のことは嫌いじゃないです。

──仕事の面で、こういう人間関係のおかげで今の自分がある、と言える人はいますか?

瀬戸:せっかく声をかけていただいたお仕事でも、自分なんかが関わってもいいのだろうか? この作品に少しでも役に立てているのだろうか? と、考えてしまうことがあるんです。でも作品を観てくださった友達やはじめましての方々から嬉しい言葉をかけていただけることがあって。私はすごく単純なので、その言葉ひとつで信じられないくらい嬉しくなっちゃってここまで続けてる、って感じです。

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──もっと早く買っておけばよかったと思うものは?

瀬戸:刺繍糸全色セットですね。数年前、突然刺繍を始めてみたくなって、道具を色々調べているうちに4万円くらいで売っているのを見つけました。まだ始めてすらいない趣味に4万円……と思うとなかなか踏ん切りがつかなくてしばらく悩んでいたのですが、好きな色の糸を選んで納得のいくものを作ることを想像したらなんだかワクワクして、勢いで購入しました。刺繍は今では私にとってライフワークになっています。それ以降、欲しいものを見つけたときは、ちょっと高くても自分がそれを使う未来が想像できたら、もう悩まずに買うことに決めました。

──反省しているお金の使い方は?

瀬戸:お金を使うことにためらいとか罪悪感があるんです。子どもの頃に親からもらったお小遣いをその日のうちに全部使って、「なんでもっと考えて使わないんだ」ってすごく怒られたことがあって。それからはお金は考えて慎重使わないと、って考えになりました。なので衝動買いして反省、とかはほとんどないのですが、強いて言えば、具体的なコーディネートが見えていない状態で買った服は結局着ないことが多かったので、服に一目惚れしても一旦自分をストップするようにしています。

──歳を重ねることでお金の使い方に変化はありましたか?

瀬戸:自分にとって今まででは考えられなかったことですが、スーパーで食べたいものの値段を見ずに買うようになりました。30代になり健康の大事さを痛感しています。甘酒が体にいいって聞いたので飲んでみてます。日本酒で有名な八海山の「麹だけでつくったあまさけ」という商品がお気に入りです。これまで食や健康にお金を使おうという意識が低かったけど、今は他を削ってでもなるべく体にいいものを取り入れようとあがいています(笑)。

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──初めての一人暮らしは東急東横線の学芸大学駅に住んでいたとのことですが、この街でどんな20代を過ごしていましたか?

瀬戸:大学を卒業したタイミングで一人暮らしを始めてから20代後半まで学芸大学周辺で暮らしました。一人暮らしを始めてまず感じたのが「あ、これはひとりだ」ってこと。

あまりにも寂しくて、植物や花にすがる時期がありました。何も喋らないけど一緒に暮らしてくれている感じがしたんですよね。学芸大学の〈fan〉という花屋さんなどに通って、破産するかと思うぐらい切り花や鉢植えの植物を買ってました。

ベランダはモッコウバラやハゴロモジャスミン、月下美人の鉢植えで足の置き場もないくらい。よく虫が湧いていましたね。

切り花を壁中に吊るしてドライフラワーにしていたら、最終的に風水好きな友達が来て「ここは“死の部屋”だ」って言われてそこで我に返りました(笑)。他にも、モノマネバーでバイトを始めたら昼夜逆転生活が辛かったり、碑文谷公園近くの〈DEAN & DELUCA〉がおしゃれすぎてビビって入れなかったり、大好きな〈てんや〉に行ったりしてました。

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〈fan〉の前にて撮影

──そんな20代と、30代になった今とで、自身の変化について感じることはありますか?

瀬戸:20代の頃はなんだかずっと不安で。常に人に会いたかったんですよね。一人で過ごすのが嫌で、夜遅くまで友達とご飯に行ったりしていました。人に会ってる時間がとても多かったと思います。

コロナウイルスが流行りはじめて人と会えなくなったので、気になっていた刺繍の道具たちを買って、刺繍を始めたんです。最初はうまくできなくてイライラしてすぐやめちゃってたんですけど、慣れてくると精神統一というか瞑想みたいな感覚でできて。セリフを憶えながらとか、映画やゲーム実況動画をお供に刺繍を続けました。それが自然と自分と向き合う時間になっていたんです。一人で過ごすのって悪くないかもって思えるようになりました。もちろん、今でも友達と会うのは好きなんですけど、同じぐらい、自分の時間が好きになりました。

──自分と向き合う時間が増えたことで自分に対する理解も進みましたか?

瀬戸:自分がどういう人間かを考えるようになって、得意や不得意がなんとなく見えてきました。それで私の中の2つの正反対な要素に気づいたんです。

1つは真面目さ。例えば今回の取材でも、事前にいただいたすべての質問に対して回答を用意して書き出すとか。映画の取材や舞台挨拶でも、事前に質問に対してできる限り回答を用意していました。伝えるのが得意じゃない自覚があるので、一回自分の中でまとめたいんです。それに相手に誤解を与えたくない気持ちも強くて。あとは忘れ物チェックを何度もやるとか。自分の真面目さをもはや信用しているのですが、ものすごく心配性だってことも分かりました。

もう1つは、ものすごく突拍子もない性格。今まで思いつきもしなかった映画のプロデュースを突然やってみるとか、思いつきで写真集を作ってみるとか、急にゲーム実況の配信を始めるとか。昨日までまったく考えてなかったことを急に思いついて、誰かに話した勢いで始める。自分から動いておきながら、その速度についていけなかったりすることも多々あります(笑)。

──映画のプロデュースを手掛けたのは2023年公開の『きまぐれ』ですね。まったく初めての状態からの挑戦だったのでしょうか?

瀬戸:以前出演した『クレマチスの窓辺』という作品の監督の永岡俊幸さんに一緒にやりましょうって声をかけたんです。「やりましょう」って言っておきながら「言ってしまった」と思っている自分もいましたが、誰かに話した時点で責任が伴うので、勢いのまま進めました。他の取り組みのときも感じることですが、『きまぐれ』の制作や上映までの取り組みはものすごく貴重な体験でした。多くのことを知る機会になりましたし、最後はやってよかったなって思えました。ただ、あまりにも大変だったので、もうこれっきりにしようと心から思うのに、忘れた頃に「また言ってる」みたいな感じです。

──自分でも不用意に言葉にすることで次にやりたいこと、やるべきことを作っている。

瀬戸:慎重派なはずなんですけど、急に突拍子もないことを知らない間に自分で言ってて。自分から言い出したくせに、言ってしまったらやるしかない、と進めていくことが多いです。いつも自分に驚かされています。

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──20代で捨てた方がいい“べき論”はありますか?

瀬戸:「自分はこうあるべき」という自分への思い込みは捨ててもいいと思っています。20代の頃は私自身にあるべき自分像を押しつけて、がんじがらめになっていた感覚がありました。ピンチの瞬間の選択肢を自ら消していた気がします。最近はその“悪い自分らしさ”を見つけ次第追い払うことにしていて、別の選択肢も見つけられるようになりました。昔の自分に言っても響かないかもしれないけど、年齢と共に自分の現在地が分かってきたことが大きいかもしれません。

──2025年に20歳に戻ったら何がしたいですか?

瀬戸:今は私が20歳の頃よりもSNSの存在が大きくなっていて、日常に溶け込んでいる気がします。だからあえてSNSをまったくやらないでみたいですね。20歳になれたとして、SNSをやらないことによって何が得られるのかとか知りたいと思います。SNSによる黒歴史履歴一切なしで!(笑)。この人生も大好きですが、せっかくですので真逆の生き方をしてみたいです。

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──モデルの仕事に興味を持ったきっかけを教えてください。

瀬戸:大学生のときまで写真を撮られるのが苦手だったんです。友達同士で写真を撮るときに、一人だけ顔が引きつっちゃうのが嫌で。それを克服したいなと思ってたところ、たまたま私を撮影したいと言ってくれる方に出会いました。

写真が自分だと思えないくらい素敵で、嬉しかったんです。それでお礼の連絡をしたら、SNSに載せてみたらいいんじゃないかとアドバイスをくれたんです。ドキドキしながらTwitterに載せたらたくさんの方から反応をいただけて、モデルのお仕事の依頼をもらえたのがきっかけです。自分を求めてくれる人がいることが嬉しかったです。

事務所に所属できることになって、モデルと俳優どちらの活動をメインでやっていきたいかと問われたときに、自分は身長がそれほど高くないし、モデルとしての武器を何も持っていない気がしました。比べて俳優は技術職だという認識が自分の中であって、演技を磨いていくことは自分にはできるかもしれないと思い、俳優の道を進んでいくこととなりました。俳優としての初出演は『orange-オレンジ-』という映画で、オーディションを受けて出演が決定しました。

撮影期間は何もかもが初めてで、目まぐるしい日々でした。撮影が2015年だったので、あれからもう10年ということに驚きを隠せないですが、目の前の仕事に向き合い続けて今ここにいます。

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──さらに遡ると、もともとは家庭科の教師を目指していたとのことです。

瀬戸:そうですね。家庭科の先生の資格が取れるという理由で大学を選びました。高校のときの家庭科の先生がすごく好きで、こんな先生みたいになりたいなと思ったんです。でも教職の授業は「マズロー」とか「人は考える葦である」とか、心理学や哲学的な内容も多くて。教育者として必要な科目だと理解はできても、自分のやりたいことと離れすぎてると感じてしまって耐えられなくて、早々にリタイアしました。

その後に写真を撮ってもらう機会がありモデル活動に勤しんでいくのですが、同じ時期に就活も始まりました。就職するかしないか選べないまま、唯一行きたいと思っていた会社の説明会に参加したのですが、そこでうっかり寝てしまい、自分には受ける資格がないと断念して事務所への所属を目指すことに決めました。

──自分で決めたルートを外れる不安はなかったですか?

瀬戸:モデルの仕事が果たして自分に務まるのか、いつまで続けられるのかという不安と、親に対して申し訳ないという気持ちがありました。でも、モデルのお仕事は楽しくて、自分にとって初めて挑戦してみたいことだったんです。説明会での居眠りも相まって踏ん切りがつきました。

──自分の中で転換点になった仕事はありますか?

瀬戸:仕事はどれも同じ熱量でやっているので特にこれだ! というのはないのですが、2年ぐらい前からSNSを自己開示をする場にしてみたんです。写真に写ることは克服したと言っても、笑顔はやっぱり苦手で。あんまり笑顔で写真に写ることもなかったので、対面で会った方から「実は怖そうな人だと思っていた」と打ち明けられたことが何回かあったんです。他者から見る自分が、本来の自分とよくない意味であまりにもかけ離れていると感じ、「自分はこういう人間です」という部分を出していくことに決めました。

──Instagramに載せているショート動画のことですね。写真から感じるクールな印象との差に驚きました。

瀬戸:改めて見ると恥ずかしいですね(笑)。周りに引かれてしまうかもしれないと思っていましたし、両親はこういう私が世に出てしまうことを心配していました。でも、ある日猛烈に喋りたいことがあったので、それをスマホで撮影してそのまま勢いで投稿したところ、思ったよりもポジティブな反応が多かったんです。お仕事につながることもあったので、投稿してよかったです。

──俳優、モデルの仕事だけでなく、刺繍やゲーム実況といった趣味の活動もどんどん広げていらっしゃいますね。今後に向けてどのようなことを考えているか教えてください。

瀬戸:自分がどんな活動をしているのかを示すためにモデルや俳優という肩書きを使っていますし、これからも変えないと思います。ですが、自分の意識としては俳優、モデルと別れておらず、全部「瀬戸かほ」というひとつのコンテンツとして関わったり発表していく気持ちで動いています。こういう考え方に至ったのはここ数年ですが、以前にも増して楽しくのびのびと活動できるようになりました。

大学を卒業してこの道に進むと決めたときから、両親にも心配をかけたくないということもあり、どうにか結果を出さなきゃって気持ちでがむしゃらに走ってきたのです。でも頑張りたい気持ちだけじゃどうにもならないこともあると、ふと気づいたんです。だったら楽しくやっていくのがいちばん素敵なんじゃないかって。

──お話をお聞きしていると、30代にかけて自己決定権のようなものを少しずつ自分の中で育んでいったのかな、と感じました。

瀬戸:そうかもしれません。日常でも仕事でも選ぶ機会はたくさんあって、私は優柔不断で臆病なので誰かに決めて欲しくなることもあります。他者の選択に従うことは楽だから。でもその選択や責任は自由を楽しめることでもあるって分かったんです。昨年事務所を退所してフリーランスになったので、これをきっかけにもっと自分と向き合って、楽しいと思える方向に進んでいきたいです。

Photo:橋本美花
Text&Edit:赤井大祐


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編集者・ライター
赤井大祐

1994年生まれ。広告代理店の営業やウェブメディアの編集者を経て2024年からフリーランスとして活動。カルチャー、テクノロジー、DIY精神が好き。調香ユニット・tuuro(ツーロ)の一員としても活動。
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