なんだこれは!? 「いけふくろう」が可愛い毛糸で包み込まれている……。どうやら、編みものを通して街と人とをつなげる「としま編んでつなぐまちアート2023」というアートプロジェクトのようだ。そう、今回は池袋の街を巡る。高校生の頃、学校が近かったのでたまに遊んだ記憶はある。訪れるのはそれ以来かもしれない。
デカい白い巨塔、デカいアニメイト、デカいサンシャイン60
西口(北)の階段を上ると、遠くに異様な雰囲気の白い巨塔が見える。高校生の頃から気になってはいたが、なんとなく見過ごしていた。今になってまた気になってしまいその場で調べたら、豊島清掃工場の煙突だとすぐに分かった。この機会に近くまで行ってみようと思う。
池袋大橋から見上げるその煙突はめちゃくちゃデカい。しかしあまりにも無機質な外観に、背筋がゾクっとした。振り返り、池袋駅の方を見てみると、何本もの路線が交差する巨大ターミナルとビル、ビル、ビル。この街はデカい。ワクワクしてきた。
IWGPに出てきたボーリング場「ハイパーレーン」があるビル前にて
新しくてデカいアニメイト
池袋大橋を渡り東側へ。高校生の頃はカラオケやプリクラなどが目的で、そこまで街を意識して見てこなかった。IWGP(池袋ウエストゲートパーク)で出てきたボーリング場がある。ドラマの頃のままで懐かしい。アニメイトがデカい。その周辺も新しくなって綺麗でオシャレになっている感じがする。
びっくりドンキーを発見。学校帰りによく行ってたなぁ~って懐かしがってはみたものの、あまり思い出がない。そのため街の変化にあまり気付けず、思い出不足を恥じた。
デカい高速道路の高架下を潜り、サンシャイン60ビルに向かう。東池袋中央公園の木漏れ日がいい感じだ。サンシャイン60ビルがデカい。すごい存在感だ。ずっと行ってみたかった「サンシャイン60展望台 てんぼうパーク」へ。分速600mで動く「シャイニングエレベーター」に乗り60階へ。高速すぎて気圧の変化に耳がキーンっとなった。
お昼頃の時間帯だったからか家族連れが多く、公園のようになっているエリアでは、子供達が元気に駆け回っている。とても和やかな空間だ。
展望台からの風景はまさに絶景。この日は快晴で富士山もバッチリ見えた。全方向で東京の街が見渡せる。晴れていてくっきり見え過ぎたせいか、手前の街並みも遠くの高層ビル群も、がミニチュア化して見える。太陽の光が建物に乱反射してキラキラしており、まるで海面のようだった。
展望台からの風景がかなり良かったせいか足元が軽い。目星を付けていた喫茶店に向かう最中「それにしても池袋の建物はやたらデカいな」とふと思う。
新旧が心地良く入り交じる
美味しいコーヒーの店「伯爵」へ。外壁にあるデカい手彫りの看板がカッコいい。結構混んでいたが、すんなり席に案内してもらえた。
店内の昭和的雰囲気がやはり良い。シャンデリアがゴージャスで、赤い絨毯、天井のステンドグラス、椅子はフカフカで赤いベロア生地。まさに純喫茶。最高だ。私はチョコレートパフェとカフェラテ、カメラマンは昔ながらの昭和プリンとコーヒーを、それぞれセットで注文した。
ここはとても静かで居心地が良い。店員さんの制服がビシッとしていて上品だ。チョコレートパフェはとてもデカく、そしてまさに王道といったビジュアル。そして美味い。完璧です。
もちろんプリンも味見したのだが、これもまた美味い。硬めの食感でとにかく濃厚な味わい。クリームの上にちょこんと乗っているチェリーが愛おしい。カフェラテもコーヒーも美味い。ゆっくりとした時間が過ごせた。
伯爵を出ると日が暮れかけていた。くつろぎ過ぎた……。池袋架道橋、びっくりガードと呼ばれるトンネルを抜けて西口方面へ。このトンネルは薄暗い、本当に向こう口に辿り着けるのかと不安になるくらいに。まぁちゃんと西口方面に出れるのだけれど。
青い電飾で飾られた木々に沿って歩く。近代的なビルが出来ていた。とてもカッコいい。そして西口公園がオシャレになっている。公園の真ん中に噴水があり、リズム良く水が吹き出している。それを見ている子ども達が、親に怒られながらも噴水に近づいては離れを繰り返している。
私は堂々と濡れないギリギリのラインに立ち、背中で子どもたちの視線を確認しながら、カメラ(スマホ)に向かって微笑む。
ふふふ、大人なのだよ、私は。
ガチ中華のフードコート&食料品
何をしているんだ……急がなければならない。実は今回の大本命は「ガチ中華」なのだ。池袋にチャイナタウンがあるなんて全然知らず、つい先日知って興奮した。西口(北)の目の前にあるビルの4階に、ガチ中華のフードコート「友誼食府」がある。
エレベーターを降りたら、聞こえてくる会話や視界に入る文字は中国語で、日本人はほとんどいない。まるで中国の何処かにあるフードコートに、実際にいるような感覚。
ここでは、上海・香港・台湾・四川・ハルピンなどの地域の料理が堪能出来るという、都内では珍しい場所だ。しかもすべての料理が、日本人好みの味に寄せていないそのままの現地の味らしい。興奮してきた。
ガチ中華に興味津々な私にとって、それはとても深くて広大なので、こういったフードコートは全体を知るのに最適な環境だ。
まずは隣接している「友誼商店」で台湾ビールとサイダーっぽいものを買った。ここで買ったお酒や飲み物はフードコートに持ち込める。それぞれの地域の店で気になる料理を注文した。会計方法が少しややこしいが、それぞれの店の店員さんが優しく教えてくれる。
注文した、羊肉串、台湾角煮ご飯、臭豆腐、薬膳汽鍋鶏スープがテーブルの上に揃った。一番気になっていたのが「薬膳汽鍋鶏スープ」で、食べ方の説明書付きだ。特殊な形をした「汽鍋」を使い、水を一切使わずに4~5時間かけて蒸し上げる、雲南省の伝統料理だ。
具材は骨ごとぶつ切りにした丸鶏に、クコの実、ナツメ、高麗人参などの薬膳、味付けは塩のみ。
薬膳汽鍋鶏スープの美味しい食べ方
①調味料を一切加えず、美味しい薬膳鶏スープをお楽しみください。
②鶏肉をスープから取り出し、もやしの入ったボウルに置きます。
③鶏肉ともやしに青山椒ソースをかけ、よく混ぜてお召し上がりください。
この通りに食べてみる。旨味がすごい! 薬膳効果かポカポカして冷えた身体に染み渡る。鶏肉はそのままでも充分美味いが、青山椒ソースが初めて感じる風味で感動した。こういった初めての感覚を求めていた。最高だ。
数年前の台湾旅行で食べて以来の「臭豆腐」は、やはり臭かった……が、癖になる。すべての料理が美味かったが、「薬膳汽鍋鶏スープ」は是非食して頂きたい。おすすめです。ちなみに、ここに来る時はウェットティッシュなどを持参しておくと良い。美味すぎて骨までしゃぶる事になるのでね、手掴みで。
食事を終え、隣にある「友誼商店」を見て回った。見た事のない中国の食材やスパイスが揃っており、デカい水槽もあって活き魚まで買えてしまう。上等鵝油香葱(ガチョウ油のグリッター)を見つけ購入した。以前の台湾旅行の際に気に入り、ずっと探していたものだ。もっと早くに訪れるべきだった。
池袋西口の夜は終わらない。いざ「大都会」へ
ロサ会館前にて
夜の西口方面をブラブラした。公衆トイレの雰囲気が異様だ。点在する中国語の看板からそのパワーを感じる。街頭のスピーカーから、物騒過ぎて印象的なアナウンスが流れており、この区画一体を注意している。この猥雑な感じも楽しい。
ロサ会館には以前映画を見に行きたような気もする。このビルの側面に遥か昔の残り香があり、哀愁を感じた。東側よりもまだ古い建物が残っているように感じるが、実際はどうなのだろうか? 池袋は東と西で毛色が違い面白い。初めてこの街をちゃんと見て再確認した。
今回の散歩の締めに居酒屋「大都会」へ。ほぼ満席だったが奇跡的に入れた。ガヤガヤしているが妙に落ち着く。和やかでホッとする。ビール、まぐろ刺身、タコの唐揚げ、ポテトフライを注文した。すべてが安くて美味い。タバコも吸える。食券制で気楽なのも良い。
お客さん同士の距離が近く、聞こえてしまう会話の断片も面白い。結構歩いて疲れていたけれど癒された。大都会は最高だ。もっと呑みたかったけど、ほろ酔いぐらいで止めておいた。そして温かいそばで締めて店を出た。
夜が更けて、昼間キラキラしていた百貨店のビルが暗くひっそりとしており、どこか淋しそうに見える。だんだん池袋の街全体もそう見えてきて、新宿や渋谷とは違う、少し肩を落とした独特の哀愁を感じた。そしたら愛おしくなり、なんとなくサンシャイン60ビルを見納めたくなった。
ウイロードを抜けて東側に向かう。この地下道は幻想的な色彩で彩られており、天国への入り口の様な浮遊感を覚える。あぁ、やはり酔っている。
池袋駅はデカい、横断歩道もデカい、喫煙所までもデカい。池袋も再開発で結構変わったようだけど、前回の下北沢ほどの驚きは無かった。賑やかな繁華街の隙間に「栄町通り」があり、手招きする昭和感に吸い込まれる。
その通りを抜けるとすぐに「美久仁小路」の入り口が見える。こちらもデカいビルに挟まれた隙間に、昭和の匂いが残る通りだ。低層の古い建物が連なる小道の先には、サンシャイン60ビルが見える。やはり池袋のラスボス感が否めない。
デカい高速道路の高架下を潜り、サンシャイン60ビルの袂まで来た。ガードレールに座りながら思う。池袋は高校時代に訪れていた頃とあんまり変わってない印象だったけれど、実はすごく変わっている。でもそれに気付けない。昔からある建物がデカ過ぎて、隠れてしまい見えないのだ。
ふと、新幹線の車窓から富士山を見て、手前の風景は歪んで速く流れて過ぎ去っていくのに、遠くの富士山は殆ど動いていない様に見える感覚を思い出した。この錯覚を時間的観点から見れば、池袋を見て、私の高校生の頃から数年の時間が車窓から見る手前の風景の様に、形も掴めずただ過ぎ去っていくだけのものに感じた。そしたら少し不安になった。
Text&Photo:光るヒナ子
Edit:小林雄大