次々と新しいプレイヤーが登場し、入れ替わりの激しいのがストリートシーンの常だが、本特集「ユースカルチャーの発信者たち」に登場していただく、MPC GIRL USAGIもMPCを抱えて颯爽とシーンに現れた一人だ。そんな彼女にここまでの軌跡とこれからを聞いた。
16個のドラムパッドを搭載したサンプラー/シーケンサーのAKAI「MPC」。1987年の発売以来、ヒップホップのトラックメーカーを中心に愛されてきた機材だ。
もともとドラマーだったUSAGIは、同機材との出会いをきっかけにドラムをやめるほど夢中になり、現在はMPC GIRL USAGIとして活動。一発撮りで音楽と向き合う「THE FIRST TAKE」では、シンガーソングライターのiriに抜擢され演奏するなど、じわじわと話題を集めている。
「叩くこと」に快感を覚えた音楽キャリア
3歳でピアノを始め早い時期から音楽に触れていたUSAGIさんだが、なかでも「叩くこと」が彼女にとって快感だったといいます。今でこそ、MPCプレイヤーとして活躍していますが、キャリアのスタートはドラムでした。
USAGI:3歳でピアノを始めて、中学で吹奏楽部に入ったんです。そこで打楽器のパートになって、叩くことがめちゃくちゃ楽しくなって(笑)。
高校からはヤマハのドラムスクールに通い、学校ではメンバーにギターを弾ける子とベースを弾ける子がいて、彼らはハードロックが好きだったんですよ。なので、最初はレッドツェッペリンのコピーから入って。
ドラムを本格的に習うようになって、ファンクとかブラックミュージックがかっこいいと思ってたんで、バックビートをしっかり行くタイプのドラマーでしたね。
バンドのドラマーというよりも、スタジオミュージシャンのようなストイックなスタイルに憧れ、そのときに出会ったのが、アメリカのファンクバンド「グラハム・セントラル・ステーション」でした。
USAGI:あるとき、YouTubeでベースのスラップ奏法の動画を見つけたんです。ラリー・グラハムの動画だったんですけど、それをベースの子に見せたら「すごい!」って影響を受けて、そこからファンクをやるようになっていきました。
でも、コピーバンドではなくて、ファンクが持っている同じことをループする楽しさというか、自分たちの思う、それっぽいことをしてましたね。そのままプロのドラマーになりたいと思っていたので、ドラムコースがある大阪芸大に進学しました。
YouTubeで出会ったMPCに夢中に
多くの人がそうであるように、芸大で学んだからといってそのまま音楽の仕事に就けるというわけではありません。USAGIさんも芸大卒業後、プロのドラマーとして生活していくことと向き合うことになります。
USAGI:芸大卒業後、アルバイトをしながらライブのサポート演奏とかをしていたんですけど、「どうしたらドラムでご飯が食べれるんだろう」とも思っていて。そんななか、DJにも興味があったのでDJスクールに通ったんです。それが演奏とはまた別の世界で楽しかったんですよ。
そして、DJを練習している時期に、YouTubeでMPCと出会ったんです。これならドラムを続けてきたことも活かせるし、「職業にできるのでは?」と思ってのめり込んでいきました。
MPCというとブレイクビーツのイメージが強いですが、USAGIさんの感性はHIP HOPの文脈ではなく、ドラムのように「叩く」ということに反応しました。そのジャンルにとらわれないスタイルは、現在も一貫しています。
USAGI:ブレイクスやヒップホップに特化した使い方って、私よりちょっと上の世代の感覚。それよりも、「こんなことができるんだ!」「機械でドラムを叩くんだ!」っていう衝撃のほうが大きかったですね。
自分のスタイルはもっと自由だと思っていて。いまリリースしている楽曲も、ひとつのジャンルに収まらないことが私の中では大事で。
洋服とかでも異素材ミックスみたいなのがあるじゃないですか? ここは革やけど、ここはニットみたいな。土台はインディーロックっぽいけど、トップスはシンセポップっぽいとか。そういうバランスの掛け合わせが好きで。何かをお手本にするとか、誰々みたいに、みたいな発想はそんなにないなって思います。
USAGIが感じる自分たちの世代観
好きなアーティストや、尊敬する人がいないまま生きてきたというUSAGIさん。その背景には自分たちの世代観があるといいます。
USAGI:「影響を受けたアーティストは?」って質問にいつも困っていて……。そういうのがいないまま生きてきたんです。
サブスクとかで音楽を聴いていると、勝手にいろんな曲が再生されるじゃないですか? 「いいな」と思うアーティストのページに飛んで、そこから掘る人もいますけど、次にスマホを開けたときは、またどんどん違う曲が流れてくる。
そういう意味では、世代的に私みたいな感覚の人もいるんじゃないかなと思います。もちろん、同い年の友だちには、好きなアーティストの作品を全部聴いているような、本当に音楽が好きな子もいますけどね。
ラリー·グラハムやMPCとの出会いがYouTubeであることであったり、サブスクの音楽の聞き方であったり、ほかの世代とは異なる自分たちの世代の感覚について、あるエピソードを話してくれました。
USAGI:自分の世代のことしかわからないですけど、私たちは「みんな違う」っていうのが大前提としてあるなと思うんです。過去に、40代半ばくらいの方に言われてビックリしたことがあって。「本音でぶつかってこいよ」「お前ももっと来いよ」みたいなこと言われたときに、「ぶつかり合うみたいな習慣ってないよな~」って思いました(笑)。
フィーチャリングするときも、トラックはすべて私が作りますけど、ボーカルの部分はお任せです。もちろんトラックに関係する内容は話し合いや相談をしますし、それ自体がすごく楽しい作業なんですけど、そもそもその人の感性が素敵やと思って頼んでるんで、ボーカルについて細かく指示をする気はないですね。
「自分を通そう」みたいな感覚ってあんまりなくて「この人はこう」「この人はこう」っていう感覚が私たちの世代にはあると思います。
Spliceで音素材をディグってコラージュ的に楽曲制作
リリースされている楽曲のなかには、MPCを全面に出していない楽曲もあるものの、フィーチャリングの楽曲も含めてトラックはすべてUSAGIさんによるもの。楽曲作りには彼女なりのこだわりがあります。
USAGI:生活のなかでトラックがふと思い浮かぶこともありますが、「Splice Sounds(スプライスサウンズ)」っていう、サブスクで使えるサンプル素材をディグって、組み合わせながら作っていくことが多いですね。コラージュ的なアプローチで、破壊して、再構築して組み上げることが多くて。なので、Spliceはその材料を見てる気分です。
あと、リリース作品とSNSに載せているものを分けていて。とくに、ボーカルで客演してもらっている曲は、まずきちんと音楽として聴いてもらいたいんです。
SNSは、インスタだと叩いている姿が見えるので、MPCプレイヤーらしいものを載せています。今後は、インスタでやっているものを本線にしていきたいなとは考えています。
MPCを面白く楽しく、かっこよく演奏する女性アーティストになりたい
「THE FIRST TAKE」でのiriとの共演に始まり、今後の活躍が見逃せない「MPC GIRL USAGI」。その目はすでに海外に向いています。
USAGI:今年はアルバムを作ろうとしています。そのリリースパーティを海外でやりたいと思っていて。
私のインスタやYouTubeのコメントは海外の方がすごく多くて。海外のお客さんが多いライブだと、反応がダイレクトですごく盛り上がるんです。日本人は自分の知らないことや新しいものを見たときの反応が薄いというか。そういった意味でもすごく興味がありますね。
MPCをひたすら面白く楽しく、かっこよく演奏するアーティストになりたいです。
世界的にMPCを使ったライブというのはブルーオーシャン。まだやっている人が多くないので、行けるところまでダッシュでいこうと思っています!
Text:富山英三郎
Photo:吉岡教雄
Edit:山田卓立
取材協力:銀座スタジオルアン
MPC GIRL USAGI
大阪芸術大学芸術学部演奏学科卒業。在学中からドラマーとしてのキャリアをスタートさせ、卒業後にMPCプレイヤーに転身。MPCを用いた独自のライブパフォーマンスは、ミュージシャンのライブスタイルに新たな可能性をもたらし各所で話題となっている。2022年1月に公開された iriの「THE FIRST TAKE」にサポートメンバーとして大抜擢され、そのプレイに注目が集まった。自身の作品では、YonYon、Shin Sakiuraを客演に迎えた『Space Girl』、ペトロールズの三浦淳悟、asobiのIsami Shojiを迎えた『Someone Like Her』をデジタルシングルとしてリリース。YeYeを客演に迎えた『Dancing Womer』ではSpotifyプレイリスト”Electropolis”のカバーを飾った。自身のアーティスト活動と並行して様々なアーティストの楽曲制作やレコーディングにも参加し、トラックメイクだけでなく、ミュージシャンとしての力量も発揮する日々を送っている。
web:MPC GIRL USAGI
YouTube:MPC GIRL USAGI
Instagram:@usagibeats_