都内の景観に慣れすぎたのか、たまに見る山にやけに興奮してしまう。思えば登山らしい登山なんてしたことがない。何年か前に高尾山を登ったっけ、たしかあのときはケーブルカーで。自分の足で登って、降りる。そんなシンプルな行動に、なぜ多くの人が魅せられているのだろう? 山頂からの眺め? 登り切った達成感?
山にハマった人が言うには、どうやらそんな単純なものでもないらしい。それはきっと登らないことにはわからない。この好奇心と勢いをエネルギー源に山頂を目指してみよう! ということで、山を愛するモデル・PUTAMIさんと登山計画を立ててみることにした。

PUTAMI
広島県出身。眼科勤めを経て夢だったモデルとして2021年から活動開始。趣味は登山。美味しいものを食べることをこよなく愛し、食に妥協することなし。常にアクティブに活動し、都内は基本的に自転車移動。飾らない姿で人気を集め、活動の幅を広げる等身大のアップカミングモデル。
Instagram:@i_putami
まさかり担いだ金太郎伝説発祥の山「金時山」へ、いざ
とはいえ、正直なところ山登りはハードルが高い。装備も必要だし、まず目的の山へ向かうまでが大変だ。PUTAMIさんいわく「夜中に出発することもザラ」らしい。初心者としては、朝都内を出発して半日くらいで楽しめる山がいい。山頂からの眺めが良くて、限りなく普段着で登れるならもっとうれしい。

そんなちょうどいい山が、なんと箱根にあるらしい。「今まで行った山で1番、富士山が大きく見えました! 2〜3時間で往復できるコースもあるので、自分の体力に合わせてコースを決められるのもいいと思います!」とのこと。

「金時山は、登山に慣れてきたころ初心者の友達と一緒に登れそうな山を調べていたときに見つけた山です。もともと山が好きになったきっかけは、地元·広島で友だちと遊び感覚で山を登っていたこと。そこから上京してしばらく経ったころコロナ禍になっちゃって。山なら人も少ないしのびのび過ごせるんじゃないかなと思って、当時住んでいた場所からアクセスのよい大山(神奈川)に登ってみたんです。何度も登っていくうちに少しずつ距離を伸ばし、塔ノ岳、鍋割山に登り、一緒に登っていた仲間たちともっと遠くの山に挑戦してみよう! と初めてちゃんと登山らしい登山をしたのが磐梯山(福島)でした。そこから少しずつ装備も揃えるようになって、本格的に山登りをするようになりました」

神奈川県と静岡県の境界にそびえる金時山は、標高1212m、日本三百名山のひとつとのこと。その名のとおり、昔話でお馴染みの金太郎が生まれ育った山とされ、いまも金時山一帯にはさまざまな伝説の名残が点在しているのだとか。なんだかキャッチーな響きにも後押しされ、いざ金時山へ!

都内を出発して、車を走らせること約2時間。今回は「金時見晴パーキング」の登山口から最短ルートで山頂を目指す片道60分程度の初心者向けコースにトライ。
ちなみに、この日の撮影担当·須田マリザさんも大の山好き。PUTAMIさんとふたり「そのシューズかわいいね~」なんて登山ギアトークに花を咲かせながら、装備と呼吸を整えて、いよいよ登山スタート!
意識するべきは、丹田と水分補給

意気揚々と歩き出して5分、朝霜が溶けてべちゃべちゃになった山道をスイスイ進むPUTAMIさんと須田さんのうしろ姿を転ばないよう追いかける。トレイルランニングシューズではちょっと心許なかったか……とシューズの大切さを感じつつ、矢倉沢峠との分岐を通過。

「クマ出没注意」の看板にドキッとしたり、霜柱にはしゃいだり。「山、面白いかも~」と感じ始めたのも束の間、普段歩かないような傾斜を何分も続けて歩いてきたからか、未舗装の竹藪を進むにつれて息が苦しくなってきた。日頃の運動不足も相まって、早くも息切れ。「たまに立ち止まりながら無理のないペースで。水は喉が乾いたと感じる前に、こまめに飲みましょうね!」とPUTAMIさん。小休憩を挟みつつゆっくり歩くこと20分、視界が開けたのもあって、段々身体がラクになってきた!
それにしてもPUTAMIさんは、結構な傾斜を軽々登りながら、息切れをするどころか、ずーっと喋っている。できるだけ疲れない山歩きのコツは?
「おへその下あたりの丹田を意識するとラクに歩けるし、脚も疲れにくくなりますよ。とくにふくらはぎは第2の心臓といって血液を心臓に戻すポンプの役割があるから、なるべく負担をかけないほうがいいって仲間から聞きました!」

人との距離感を縮めてくれる山の魔法
歩き始めて40分、小さな子ども連れの家族や老夫婦、外国人カップル、犬を2匹つれた男性、その他いろんな人とすれ違った。その度に「こんにちは~」と挨拶を交わす。それだけで、同じ山を愉しむ仲間! という感じがして、なんだか気分がいい。
山頂から降りてきたとある紳士からは「これ、なんだかわかる?」と小さなクロモジの枝をもらった。ほんのり甘くて爽やかな香りと「もうちょっとだよ! がんばって!」の声に励まされる。
「山登りをするときの一番の楽しみは、歩きながらの会話。すれ違う人に挨拶したり、降りてくる人に『山頂まであと何分くらいですかー?』って声をかけたり。人と人との距離感が近くなるのが山の面白いところだなって思います。仲間と登っていてもだいたいスタートしてすぐは黙々と登るんですけど、20分くらい経つと自然と会話が増えてくるんですよね。歩きながらただお互いのことを話す時間って普段はなかなかないから、普通に街で出会うよりもその人のことを深く知れる気がします」

山頂までもう少し! と聞いて、俄然やる気が出てきたところで現れた岩場の険しさに軽くくじけそうになりながら、地道に歩みを進めていく。不思議とちょうどいい位置にある手すり代わりの木がありがたい。「みんなが触るから、こんなにツルツルになったんだろね」なんて話しながら山頂を目指す。その間、上から人が降りてくるたび「あと何分?」「あと10分!」という会話をしているのに、一向にたどり着けない(ちなみにこの「あと10分!」は、下り道の体感時間が圧倒的に短いからだと下山時に実感……)。
ついに金時山の山頂に到着!

登り始めて約60分、時刻はなんと12時ちょうど。岩場の先に続く長い段差を登り切り、ついに金時山のてっぺんに到着! 最後の一段を登ったその先にはドーン! と富士山が。ここまでのご褒美にふさわしすぎる景色に、強烈だった脚のしんどさもスーッと引いていく。

大パノラマの絶景をひとしきり眺めたあとは、「金太郎茶屋」名物·まさカリーうどんでランチ。がんばった身体にピリッとスパイスの効いたカレーが効く~! 「これはお米が欲しくなりますね!」と、PUTAMIさんは家から持参したおにぎりと一緒に丼一杯ペロリと完食。
山頂の「金太郎茶屋」名物・まさカリーうどん(1200円)。別添えのガムラマサラで味の調整もできる本格的な味わい。
本格的に山を登るようになったことで、食に対する考え方にも変化があったというPUTAMIさん。
「山に登るときは、おにぎりとエネルギー補給のための行動食を必ず持っていきます。今日のおにぎりは、山登りで白馬に行ったときに道の駅で買った玄米をいいお塩で握ったもの。少し前までは行動食を買っていたんですけど、最近は自分でおにぎりを握って持っていくようになりました。玄米の塩おにぎり、とてもシンプルだけど自分で握ったのもあってとても美味しく感じます! 一緒に山を登っている仲間も食べものを家から用意してくるようになったので、最近は持ち寄ったものを分け合って食べたり、行った先々でその土地で採れた食材を買ったりするのが楽しみです」

登山の醍醐味は自分との対話にあり? 山にいるときが一番幸せな理由

素晴らしい景色と山頂の空気とおいしいカレーうどんを満喫して、記念写真もしっかり撮ったし、ゆるゆる下山することに。登りは苦戦した道も心なしかテンポよく歩けるようになった気がする。普段運動らしい運動はしていないけれど、自分が思っている以上に身体って動いてくれるもんなんだな、というのが今回の一番の感想だ。
思い返せば、登り始めからずっと自分のコンディションを注意深く観察してきたようにも思う。目にするもの、口にする言葉にも心なしか敏感になっていた気がする。大きな山を歩きながら見ていたものは、もしかして自分自身だった?

人はなぜ山に登るのか、その理由がなんだか少~しだけ見えてきた気がする。そこで改めて聞いてみた。
PUTAMIさん、あなたが山に登る理由はなんですか?
「山頂まで登り切る達成感とか、仲間と会話をする時間とか、下山のあとの温泉とか、登山の楽しみはいろいろあるけど、山に行きたくなる一番の理由は自分が自分らしくいられる時間を過ごしたいから。人のことを羨ましがったり嫉妬したり、普段生活しているときの自分のイヤなところが山に行くとスーッとなくなる気がするんです。だから、山にいるときの私が一番かわいいし、最高に幸せ!」
