「IFA」は世界中の一流家電メーカーが一堂に会する欧州最大の展示会。取材をすれば自ずと家電の向かう未来が見えてくる。ここではコロナ禍以前から、約10年近く訪れ続ける家電スペシャリストの滝田勝紀が、「IFA 2022」から見えた最新トレンドを分析レポート。
テレビは電源オフ時に存在感をどう消す?
20代を中心に、家にテレビを置かない人が増えている。テレビを置かない理由を聞くと、ワンルームで狭いから置きたくない、視聴コンテンツはVODやYouTubeが主で、それらを観るだけならスマートフォンやタブレットで十分、テレビじゃないと観られない地上波コンテンツにそもそも興味がない、などさまざまだ。
そして、30代以上にも実はテレビ不要論の流れは波及している。ただ、彼らの多くはテレビを観ないとか地上波に興味がないというわけではなさそうだ。自分のお気に入りのインテリアに合わない、リノベまでして作った生活空間に黒い大画面が鎮座することが我慢ならないなど、コンテンツ的な話よりも、ハードそのもののデザインに、空間的視点から嫌悪感を示している人が多く潜んでいるように思える。
ただ、そんな両世代に共通していることだが、たとえテレビというハードは置かなくても、ディスプレイがいらないというわけではなさそうだ。むしろ近年コロナ禍の影響でオンライン化が一気に加速した結果、生活の中において必要とされるディスプレイの枚数はむしろ増加傾向に転じている。
そんな相反する状況を解決できそうな様々なテレビがIFA 2022に数多く並んでいたので、ここではそれらについて触れたい。まずはサムスンの「The Serif」。単なるコネクティッドデバイスの黒い無機質なテレビではない。部屋の中心に置いても違和感のない、インテリア的要素の強いデザインが特徴だ。金属製のエレガントなイーゼルにもマッチ。背面もいわゆる剥き出しのコードが散財する原因となる端子などが並ぶのではなく、パーテーションとして使ってもいいようなすっきりとしたパネル状となっている。
LGのライフスタイルテレビ「Objet Collection Posé」もそれと並ぶような特徴を有するが、さらにブックシェルフ的な機能もプラスオン。より生活の中に取り入れやすい仕様となっている。
また、普段は絵画のようなアート作品を映して飾っておくことをデフォルトとしたテレビが、同じサムスンとLGでそれぞれブース展示されていた。サムスンの4K超高画質を実現したライフスタイル向けテレビ「The Frame」はディスプレイ特有の反射をなくしたマットディスプレイを搭載。まるで油絵の絵画のような質感で映像を見せてくれる。
LGのデザインテレビ「Easel」は床置きのオブジェとして壁に立てかけて使える。テレビを映してない時には、リモコンのボタン操作ひとつでパネル部分が上にせり上がり、ディスプレイを細長い表示エリアとして覆うなど、それがただの無機質な黒い盤面として置き去りにされることを防ぐ工夫がなされている。
そしてパナソニックのコンセプトモデルながら、薄型テレビの展示にはかなり驚いた。55インチで総重量約10kgという軽さを実現し、洋服をかけるハンガーラックに、シャツなどと並べてテレビをかける斬新な展示。大画面テレビのそもそもの置き場所を固定せず、用途によって空間のあらゆるところに自由に設置するという新しい常識をさらに加速させた。近年パナソニックはレイアウトフリー テレビ「LF1」で、文字通り部屋のレイアウトに捉われないスタイルを日本国内で確立しつつあるが、そのさらに先をいくスタイルを提示していたのが印象的だった。
冷蔵庫は周囲の壁とどう馴染む?
昨今、セカンド冷蔵庫や冷凍庫という存在が日本国内ではブームである。キッチンという主戦場ではなく、あらゆる場所に付属の冷蔵庫や冷凍庫を設置。コロナ禍で加速したまとめ買い需要を解決するだけでなく、家の中のそれぞれの部屋でより快適に過ごすための機能的な設置手法だ。元々置かれるところが決まってないため、あらゆる空間に馴染むようカラーバリエーションが豊富だったり、シンプルで洗練されたものが数多く用意されている。
とはいえ、あくまでこれはサブ的役割の冷蔵庫の話。メインの冷蔵庫は相変わらずキッチンに縛られ、かつルックスも残念ながらガラストップの旧態然としたものがほとんどだ。昨今ダイニングキッチンとリビングがオープンにつながっている住環境も一般的になり、多くの人の目に触れやすくなったにもかかわらず。
メインの冷蔵庫は最も大型でフェイス面も広く、存在感がある家電だ。だからこそ、冷蔵庫は本来シンプルで、建物の壁紙や建材に近い素材の外観の方が空間的な調和が図れ、インテリアとの相性は確実にいいはずだ。IFA 2022にはヨーロッパメーカーを中心にそういったものが数多くラインナップされていたので、ここでいくつか触れたい。
まずはドイツのプレミアム家電メーカー・ミーレの冷蔵庫「K 4000」。扉を開けるたびに野菜をフレッシュに保つ機能などが搭載されていたり、冷凍室をまさにパーティー前日などには冷蔵庫の温度帯に変更できる機能を入れ込んでいる。ただ、やっぱり注目はその見た目。プレミアムブランドならではの隅々まで美しくシンプルな佇まいは、日本メーカーのそれとは明らかに異なる。
ドイツのメーカー・リープヘルは、まさに“冷蔵庫はあなただけの冷蔵庫になる”と「My Style」というシリーズ名で冷蔵庫を展示。30種類以上のカラーリングから住環境に合わせて選べるほか、フェイス面やサイド面を様々な模様にもデコレーションできるので、どんな空間にも調和させられるのが強みだ。
ドイツの総合家電メーカーのひとつ・シーメンス。ここのビルトイン冷蔵庫「IQ700」に関しては、もはやそれ自体が冷蔵庫の扉かどうか、ひと目見ただけではわからないほどだ。フレンチドア、2ドア、シングルとどの冷凍冷蔵庫にも限らず、扉もその周辺も全て木や石壁と同じ素材感に統一してしまうことで、そこに冷凍冷蔵庫が存在することに気づかないくらい、さまざま住環境においてその存在感を消すことができる。とはいえ、ただシンプルなだけではなく、amazonのopenAssistにより、「アレクサ、冷蔵庫を開けて」といった音声コマンドで冷蔵庫のドアを開けることができたり、食品の鮮度を最大3倍長く保つことができる先進の冷却技術「hyperFresh premium」を搭載しているのは驚きだ。
一方、そんなヨーロッパ勢に対して、韓国のLGの冷蔵庫「MoodUP」とサムスンの「MyBespoke」はこぞって冷蔵庫の各扉を好きな色の組み合わせで楽しむという展示を行っていた。空間に調和するかどうかについては、選ぶ色次第といった感じだろうが、少なくともユーザーが自分色に冷蔵庫を染められるという楽しみがあるというのは、単なる食材を冷やす箱ということではなく、一緒に生活を楽しむ存在と捉えているように思えた。
家電は気づかれないくらいがちょうどいい
かつて家電は“三種の神器”扱いされ、それを購入したことを自慢するなんて時代もあった。当時は力いっぱいデザインを主張する必要があったのかもしれない。ただ、もはやそんな時代はとうの昔に終わった。
家電の存在理由を考えると、大事なことは自ずと見えてくるはずだ。家電が目立つ必要はない。デザイン的に主張することよりも、人の生活を快適にすることが重要だ。主役はあくまで人である。持続的な幸せを送り届ける、まさにウェルビーイングを共に追求するためのパートナー的役割を担うことこそ、家電が存在する最も大事なことだろう。
テレビが無機質なこれまで通りのテレビの顔をしている必要はない。むしろ使っていない時は、テレビである存在感は極力ない方がいい。冷蔵庫も無駄にそこにあることを主張する必要などないのだ。ユーザーからすればテレビはディスプレイというハードが大事なのではなく、それでどういう楽しみ方ができるかが大切で、冷蔵庫も外観を目立たせるよりも、鮮度の良い食材などをしっかりと保管し続けてくれることが大事なのである。
つまり、家電が家電であることを空間において声高に主張する必要はないのだ。これからの時代、テレビがテレビの顔をしていてはダメだし、冷蔵庫が冷蔵庫の顔をしていてはダメだ。家電自体が空間において、家電であることを気づかれないくらいがちょうどいい時代が確実にやってくる。