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日本一の“軽トラ”レーサーが話題!

サーキットを爆走!軽トラで本気のモータースポーツに挑戦

author: 佐藤 旅宇date: 2021/08/14

大のクルマ好き自認する人でも、サーキットレースやラリーをはじめとするモータースポーツ活動を実践している人はほとんどいないに違いない。なぜならモータースポーツは猛烈にお金がかかる趣味だからだ。憧れだけでは超えることのできない壁が立ちはだかっているのである。しかし、その壁を独創的なアイデアと努力によって見事に乗り超え、モータースポーツを全力で楽しんでいる若者がいる。

その人物―――軽市さんは20歳になった約5年前からジムカーナ競技やダートトライアル競技や、サーキットレースに参加し、その様子をYouTubeなどの動画サイトに投稿。たちまち多くのクルマ好き、モータースポーツ好きから大きな共感を集めた。

小野圭一さん(軽市さん 自動車免許を取得後、母のダイハツ ミラで雪道を走るなどしてドライビングの基礎を学ぶ。20歳の時にスズキ・キャリィを購入し、ジムカーナやラリー、ダートラといったモータースポーツに挑戦。その奮闘ぶりを「軽トラで本気出してみた」という作品にして動画サイトへアップし人気を博す。北海道出身。声優・水瀬いのりの大ファン。

軽市さんがメインに取り組んでいるジムカーナ競技は舗装路面にパイロンを並べ、あらかじめ設定されたコースを競技車両が1台ずつ走行してタイムを競う。日常で使用しているナンバー付きの車両でも参加することができるという、身近さが魅力のモータースポーツだ。

それでも、本気かつ継続的に競技に打ち込むなら、相応の経済的負担を覚悟しなければならない。そこで、当時まだ大学生だった軽市さんは初めての愛車としてスズキ キャリイトラック、つまりスポーティーな車種ではなく、「軽トラ」を購入し、それで競技を行うという妙案を編み出した。

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「安価かつ軽量な後輪駆動車。そして年式が新しく、部品の流通量が多くて入手が容易。さらに遠征時にタイヤが積めるという要件に適ったのが中古で40万円で購入したこのDA63T型のキャリイトラックでした。軽トラでジムカーナ競技をやることが目的ではなく、合理的な選択だったんです(笑)」

軽トラなら消耗部品代もガソリン代も税金を含めた維持費もスポーツカーに比べて格段に安く済む。レースや練習走行を重ねていれば様々なトラブルが発生するが、その修理費とエントリー費、遠征費を含めても年間45万円ほどで収まっているという。

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ジムニーやアルトでお馴染みのK6Aエンジンを搭載するキャリイ。フロントにエンジンを搭載してリアタイヤを駆動するFRだ。エンジンはフライホイールを軽量化した以外は基本的にノーマル。強化クラッチやクスコ製LSD、初代スイフトスポーツ用のキャリパーを装着するなどのチューニングを行っている(取材時)。

だが、軽トラはスポーツ走行をするためのクルマではない。日本特有の道幅の狭い林道や農道で荷物を輸送するための商用車である。いくらクルマの性能よりもドライバーの技量がものをいうジムカーナ競技であっても資質が劣ることは否めない。しかし、軽市さんはその不利な条件をむしろ前向きに解釈し、テクニックを磨くための糧とした。軽市さんの動画は車の「師匠」である父親のこんな言葉から始まる。

『クルマはFR』

『パワーが無い車に乗らないとそれを補う、絶対的な速さは身に付かない』

『高い車は買って終わり』

『安い車をいじるから楽しい』

『遅そうな車を速く、走らせる、それがかっこいい』

リアリティが支配する競技の世界にあって、じつにロマンに満ちた哲学である。まるで型遅れのハチロクで格上の高性能マシンを次々と打ち負かす走り屋のバイブル、漫画『頭文字D』を連想させる。これを単なる話題集めのパフォーマンスとしてではなく、あくまでガチな姿勢で向き合うところが軽市さんの魅力である。

軽市さんはインターネットを頼りに独学で整備技術を身に付け、トライ&エラーを繰り返しながら愛車をチューニングしてきた。何せ他に同じことをしている人間はいないのである。自分自身でゼロからセオリーを構築していくしかない。ドライビングにおいても同様だ。軽トラには軽トラならではの速く走らせる技術があり、その方法は誰も教えてくれない。

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だから軽市さんの動画は、クルマ好きの平凡な大学生が経験ゼロの状態から手探りで成長していき、草レースから公式戦、ついには全日本ジムカーナ選手権にまで参戦する過程を追った克明な記録である。それを見ていると私のような口だけ達者なクルマ好きも「ひょっとすると自分にもできるのではないか」と背中を猛烈に押される。事実、動画のコメント欄は恐らく僕と同世代以上と思しき中年からの熱い激昂メッセージでいっぱいだ。

そして現在、軽市さんは社会人となって故郷の北海道から愛知県へ移住。メインの車両をこれまでのスズキ キャリイトラックからジムカーナで常勝を誇るマツダ ロードスターに変更し、競技を継続している。軽トラで培ったテクニックが上位クラスにどこまで通じるかの「答え合わせ」と軽市さん。すでに地区戦で優勝するなど結果を出している。

「先日、ロードスターを買って以来、久々にキャリイでジムカーナをしたんです。改めて感じたのは、キャリイは決して『良いクルマ』ではなかったということ(笑)。むしろ不足な部分だらけでした。でも逆に考えれば、そのキャリイを乗りこなせればどんなクルマも操れるとも言えます」

2020年からメインカーとなったマツダ ロードスター(ND型)。軽市さんが参戦中のジムカーナPN1クラス(排気量1600㏄以下、2輪駆動、市販ラジアルタイヤ)では圧倒的な強さを誇る車種である。軽トラで身に付けた技術を発揮し、すでに東海地区の公式戦で優勝するなどの快進撃を見せている。2021シーズンは、所属するチームからスカラシップとして、タイヤは「ダンロップタイヤ」、オイルは「フォルテック」、ブレーキパッドは「ブリッグ」からそれぞれサポートを受けているそう。

われわれ日本人は学校体育の悪影響もあってスポーツというものを理解するのが少々苦手だ。50mを8秒で走ったから「良くできました」。あるいは11秒かかったから「もう少し頑張りましょう」。運動神経の良い人がスポーツ万能で、運動神経の悪い人はスポーツが不得手。多くの人がそんな単純なものであると誤解している。だが、スポーツから得られる本来の価値とは、11秒かかった50m走が思考的&肉体的なトレーニングを経て早く走れたことでタイムを縮めたことで得られる喜びと達成感だろう。本来スタートもゴールも人それぞれに設定されるべきものである。

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そういう意味において、軽トラでベストを尽くす軽市さんはまさにモーター「スポーツ」の素晴らしさを体現している存在といえる。パイロンの間を自由自在に縫って走るキャリイはパワーのものをいわせて直線路をぶっ飛ばすそこらのスポーツカーより遥かにスポーツカーらしく、そしてカッコいい。

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荷台のアオリには「軽トラで本気出してみた」のバナー。「達磨かえる元帥」という絵師さんが描いた女の子のイラストはキャリイを擬人化したオリジナルキャラクターだ。

写真/高柳 健

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編集者・ライター
佐藤 旅宇

オートバイ雑誌、自転車雑誌の編集部員を経て2010年からフリーランスの編集ライターとして独立。タイヤ付きの乗り物全般や、アウトドア関連の記事を中心に雑誌やWEB、広告などを手掛ける。3人の子どもを育てる父親として、育児を面白くする乗り物のあり方について模索中。webサイト『GoGo-GaGa!』管理人。1978年生まれ。
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