MENU
search icon
media
Beyond magazineでは
ニュースレターを配信しています
  1. TOP/
  2. ANNEX/
  3. 世界中の障害のある表現者を対象とした国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2024」開催
ANNEX

“世界の輪郭”を変える可能性を秘めたアワード

世界中の障害のある表現者を対象とした国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2024」開催

author: Beyond magazine 編集部date: 2024/02/28

「“普通”じゃない、ということ。それは同時に、可能性だと思う。」

そんな言葉を掲げる会社がある。知的障害のある作家とライセンス契約を結び、アート作品を軸にさまざまな形でブランド展開をしている福祉実験カンパニー「ヘラルボニー」だ。多種多様な素晴らしいアート作品や、洗練されたデザインのプロダクトで知られ、百貨店や高級ホテルともコラボレーションをしてきた。そんなヘラルボニーは、これらの社会実装が“チャリティ”ではなく、“ビジネス”であることを強調する。さまざまなビジネスを通して「障害」のイメージ変容と、福祉を起点とした新たな文化の創造に挑戦しているのだ。

2024年1月31日、そんなヘラルボニーが初の国際アートアワード「HERALBONY Art Prize(ヘラルボニー・アート・プライズ)」を創設することを発表した。

 

※本記事ではヘラルボニーの障害の社会モデルに基づくワーディングスタンスに準じて「障害」という表記を使用しています。

fade-image

(左から)松田文登(まつだ ふみと)さん、松田崇弥(まつだ たかや)さん、黒澤浩美(くろさわ ひろみ)さん、盛岡笑奈(もりおか えみな)さん、日比野克彦(ひびの かつひこ)さん

東京都・渋谷で行われた本発表会には、創設者の松田崇弥さん、松田文登さん、そして審査員となるヘラルボニー企画アドバイザーで「金沢21世紀美術館」チーフ・キュレーターの黒澤浩美さん、東京藝術大学⻑でアーティストの日比野克彦さん、LVMH メティエ ダール ジャパン ディレクターの盛岡笑奈さんが登場。さらに、海外から審査員として参加するChristian Berst(クリスチャン・バースト)さんからはビデオメッセージが寄せられた。彼は世界最大のアートフェア「アート・バーゼル」で出展実績を持つフランス・パリのギャラリー「Galerie Christian Berst」の創設者だ。さまざまな取り組みを行ってきたヘラルボニーとしても国際アートアワードは初の試み。開催に込められた意図や、審査員それぞれの思いが語られた。

本当に“かわいそう”?

2018年に株式会社として創設されたヘラルボニー。「障害と聞いたときに、欠落と連想するのではなくて、本気で違いや個性として変換されていく社会」の実現のために、アートを使ったビジネスに取り組んでいる。双子の兄弟である崇弥さんと文登さんは、障害のある人への社会からの視線に幼い頃から違和感を持っていた。そこには、重度の知的障害を伴う自閉症の4歳上の兄の存在がある。小さい頃から大好きな兄が、「かわいそう」と言われることが不思議だったそうだ。

松田文登「障害のある人の作品が色々な出会いを作っていくことで、兄に対しての社会からの意識が変わるのではないかと思いました。ビジネスとして成立させることで世間の見え方が変わる可能性を探りたいというところから、ヘラルボニーは始まっています」

社名である「ヘラルボニー」も、兄の自由帳に書いてあった“ヘラルボニー”という言葉がきっかけだ。色々な自由帳にこの言葉が何度も登場していたそう。

松田崇弥「兄貴にヘラルボニーってどういう意味かと聞いても、『分からない!』って今でも言うんですけれども、何かしら意味があったんだろうなって思っていて。重度の知的障害がある人たちが心ではすごく面白いと思っているけれども広まっていないもの、可視化されていないものがあるんだろうなと思い、ヘラルボニーを社名にしています」

会社を立ち上げた最初の1年は、事業説明のため企業訪問をしても、会議室にたどり着くことすらできなかったという。ビジネスではなくチャリティーだと捉えられやすく、真剣に受け取ってもらえなかったこともあった。そうしたなかで、事業として成り立たせ、経済と結び付けていくのであれば、リスクを背負って世界観を作り込まなければいけないと気付き、キービジュアルをきれいに美しく撮影し、アート作品が持つ世界観を前面に打ち出すようになっていった。今では、有名百貨店のハイブランドに並んでヘラルボニーのポップアップが開催されるまでに成長した。そして今年、その活動は世界まで広がる。

fade-image

HERALBONYの “H” と、Art の “A” を組み合わせたシンボルマーク。「主役である作家」を照らす「スポットライト」をイメージしている

Slide 1
Slide 0
Slide 1
Slide 0

ヘラルボニーが販売しているプロダクト一例。(画像提供:ヘラルボニー)
A:「カードケース『(無題)(丸)』」Sanae Sasaki
B:「ランチプレートペアセット|SŪJIランチ」小林覚

国らしさというより一人ひとりの“その人らしさ”

fade-image

「異彩を、放て。」というヘラルボニーのミッションにちなんで、1月31日「異彩(イサイ)の日」からエントリーが開始した「HERALBONY Art Prize 2024」。この公募制のコンペティションは、作家にその創造力を披露する場を提供し、より多くの観客に作品を伝え、表現する仲間とのつながりを深めるだけでなく、キュレーター、コレクター、批評家、ギャラリー・ディレクターなど、多くの人の目に触れる機会となることが期待されている。

審査員の1人で、東京藝術大学⻑/アーティストの日比野克彦さんは、“国際”を国単位ではなく人単位で見ることができるのではないかと話す。

日比野克彦「国際コンペなので、より私自身もこれまでに出合っていないような価値観と出合えるのを楽しみにしています。国際というと、国連とかユネスコとか、色々な国が参加するっていうイメージがありますけど、世界の人口80億人が参加するっていう考え方もできますよね。『アール・ブリュット(※)』って、一人ひとりの“その人らしさ”ということだと私は解釈しています。障害者というのはアート界の言葉ではなく社会保障的な文脈で生まれてきた言葉だとしたら、アートに関していえば障害者だから価値が変わるというわけではないと思います。こういったコンペが認められていけば、将来そのあたりの定義自体もアート的な文脈で変わっていくかもしれないですね」

※アール・ブリュット:「生の芸術」を意味するフランス語。解釈は人によってさまざまだが、「芸術的教養を受けたことがない人の作品」などと説明される。

 

同じく審査員で、へラルボニー 企画アドバイザー/「金沢21世紀美術館」チーフ・キュレーター黒澤浩美さんも障害とアートの流動性について語っていた。

黒澤浩美「現代社会にはまだまだ、何かこう見えない“境界”みたいなものがあるのかなと思っていて。それは色々なジャンルにおいても同じですよね。“男性”と“女性”とか、色々なことをわかりやすい括りに別けているんですよね。でも若い世代の方たちの間では『そこをもっとなだらかにしようよ』とか、『曖昧さはあるよね』とか、そういうことを受け入れられる社会に変えていこうという風が吹いていると思います。アートの世界もそこに向けて進んでいくべきじゃないかなと。そもそも最も曖昧さがあるジャンルがアートですから。『これしかありません』というのがないのがアート。そんなアートを通して、皆さんがそういったことに気付いてくださったら良いなと思います」

「異彩」が「当たり前」に存在する世界へ

当日記者会見に参加した3人目の審査員、LVMH メティエ ダール ジャパン ディレクターの盛岡笑奈さんは、審査の視点に関して「心が動くか」を大切したいという。

盛岡笑奈「審査の視点の一つは、まず作品が自分の心を動かすかどうかです。これは美術大学で習う構図や歴史の話とは異なり、どれだけ心が打たれ、感動を覚えるかが大切だと考えています。主観的な側面もあると思いますが、アートは一人ひとりの人生や現在の環境と密接に関わるものだと思います。『アート・ブリュット』の領域において、あまり既存のアカデミックな枠にとらわれず、個性を大切に観るべきだと感じています」

fade-image

本アートアワードは、2024年1月31日(水)10:00~3月15日(金)23:59を応募期間とし、特設サイトからエントリーが可能。4月中旬に一次審査(画像審査)で通過作品を選出、その後、二次審査(現物審査)でグランプリと企業賞が選出される。8月上旬には受賞者及びファイナリストの作品が一堂に集結する展覧会や授賞式等の関連イベントの開催も予定されている。

この取り組みには、障害者ではなく、一人の作家としてその才能が評価され、さらなる活躍の道を切り開いていけるようにとの思いが込められている。「HERALBONY Art Prize」が多くの障害のあるアーティストの目標になる日はそう遠くないかもしれない。

「今まで障害のある方たちとアートをやっていくなかで、目標になる場所を作りたいと思い始めました。何かに挑戦したいと思ったときに、ヘラルボニーにはアクセスできる状態を作っていきたい。以前イベントに来てくださった障害のある子どもを持つ親御さんの話だと、特別支援学校で絵画を描く会とかでヘラルボニーが話題に上がるらしいんです。『ヘラルボニーで採用されたらどうする?』って会話になるみたいで。その親御さんから言われた印象に残った一言が、『もっともっとヘラルボニーが高嶺の花になってもらいたい』だったんです。近しい存在というよりは、障害の概念を変えてもらいたいというのが親御さんとしても強くあったのかなって。その先に、ラベリングされて評価されるのではなく“ありのまま”が認められる社会や、あらゆる方々のチャンスが広がっていくと思っています」(松田文登)

fade-image

HERALBONY Art Prize 2024
応募要項

応募対象者


1. 国内外で活躍を志望する、障害(※)のある作家を対象とします。
※障害者手帳をお持ちの方
※一次審査通過者は本人確認書類としてコピーを提出いただきます

2. 作家本人または所属団体等(※)による応募申し込みが可能です。
※以下のいずれかに該当する方
①作家本人 
②親権者(作家が未成年の場合) 
③親族・保護者 
④後見人
⑤作家が所属する福祉施設その他団体

3. 国籍・年齢・性別及びプロフェッショナル・アマチュアを問いません。

応募方法


公式ウェブサイト上の専用応募フォームからご応募ください。 

特設サイト(日/英):
日版:https://artprize.heralbony.jp
英版:https://artprize.heralbony.jp/en/

応募期間


2024年1月31日(水)10:00〜3月15日(金)23:59まで(JST)

応募の詳細はHERALBONY Art Prize 2024 特設ウェブサイトをご参照ください。

審査基準


・独自の視点を持ち、新たな芸術創造性があるか

・社会に新たな視点や変化を投げかけるような独創性があるか

・多様性を体現する、自由な発想があるか



・グランプリ (1名):賞金 300万円
・企業賞(協賛企業より複数賞、各1名)

※企業賞は、本プライズの協賛企業から複数社が選出する賞です。

受賞作品は、その企業のサービス・プロダクト・事業のいずれかに採用される可能性があります。詳細は2月以降、特設ウェブサイトに掲載予定です。

author's articles
author's articles

author
https://d22ci7zvokjsqt.cloudfront.net/wp-content/uploads/2023/03/001-EDIT2.png

Beyond magazine 編集部

“ユースカルチャーの発信地“をテーマに、ユース世代のアーティストやクリエイター、モノやコトの情報を届けるWEBマガジン。
more article
media
MIYASHITA PARK パンエスで、シャオミ・ジャパンの製品と「Xiaomi 14T Pro」の作例を楽しもう!
ANNEX
date 2024/12/20