DESIGNART TOKYO 2022 の今回のテーマは、「NEXT CIRCULATION」。SDGsが叫ばれるこの時代にふさわしく自然志向を謳う環境意識の高いものになっている。会場構成は建築家・板坂諭氏による大樹をかたどった空間。そのなかに置かれるのは豊島株式会社の天然由来のプラスチックのニュータイプ「LandLoop」によるアートプロジェクト“Printed Sculpture”からアーティスト集団・GELCHOP(ゲルチョップ)とBCXSYによって作られたアート作品だ。革新的なマテリアル「LandLoop」について、豊島株式会社の加藤藤啓充(東京二十部六課 課長)さんを交えて、GELCHOPのモリカワリョウタさん、デザイナートのクリエイティブディレクター、青木昭夫さんにお話をうかがった。
アートと環境問題の切っても切れない関係
──「NEXT CIRCULATION」というテーマを選んだのはどういう経緯でしょう。
青木さん:流行り言葉になってきた感のあるサステナビリティやSDGsですが、世界的なモノづくりやその関連イベントでも、いまや最初からスペック・インされ、ベース、必須条件となっています。そこでDESIGNART TOKYO 2022でも、これからのモノづくりに好循環を見出していきたいという思いからです。
メーカーをはじめ、そのパートナー各方面までを巻き込んで進めていく課題ですが、まずは第一歩として、再生可能素材を使うこと。そして、その処理などの循環システムに注目し、「NEXT CIRCULATION」として、新しい気づきをつくる機会として、オランダ、イスラエル、台湾の作家さんたちの参加を得ました。
── 一般の方には、デザインやアートに対して、サステナビリティや環境問題はなかなか結びつかない部分もありますね。
青木さん:どうしても、環境というと「デザインへの制約」として色や形で我慢しなくてはいけない要素のように思われている部分もありますね。たまたま出会った素晴らしいものが、実は環境への配慮のあるものだったという場面をたくさんつくっていけたらと考えています。
── モリカワさんは創作活動をするなかで、環境問題について、どのようにお感じになっておられますか。
モリカワさん:僕の場合は大きな視野というより、モノづくりのなかで素材を見るわけですが、何を使えば自分が気持ち良くつくれるかどうかです。
印象の悪い素材だから環境に問題かと言うと一概にそう言うわけではないないですよね。例えば、ガラスを使うなら、その加工に大量のガスを使うだろうし、陶磁器を作るのに土を使うなら山を崩すことになるとか。最終的にバランスが取れているかどうかが大事なのだと考えています。
環境に対して突き詰めれば作らないことが一番いいとなってしまう。自分にとって納得のいくことになるかどうかということで、素材と向き合うしかないですね。
素材の選択がこれからますます難しくなるなか、プラスチックのような容易に加工が可能で、環境への負荷が少ないとか土に還るとかリサイクルできるとなれば、「LandLoop」は理想的な素材だと思えます。環境への負荷って、モノづくりしている人ならみんなが考えることだと思うのです。
いろいろなことのバランスがおかしい、そこに強く意識しないと持たないぞ、という状況に今なっています。100円でなんでも均一にモノが買えるというのも普通に考えるとおかしなことで、そういうこともどこかでつながっているような気がします。
青木さん:ここ10年くらいで環境への意識は強まっていますよね。大震災が大きなきっかけのひとつだったと思いますが。日常がモノで溢れている時代に自然を顧みるいい機会だったのかもしれません。
気づいた人から環境への関わりを考えていくことが大事で、モノづくりに関わる者にとって重要な責任でもあると言えるでしょう。最終的に長年愛されるものになるかどうかは大事なことになりますね。
そんななかで注目されるが豊島株式会社が一念発起して立ち上げたのがLandLoopなのです。60年代くらいから世界中で広く使われ、日常生活で欠かすことのできない素材となったプラスチックも今は悪者扱いされてもいますが、本来ならその使い方などを見直し、改良すれば、もっとポジティブに使える、そのことをLandLoopは示してくれます。
革新的マテリアル「LandLoop」の拡がる可能性
── LandLoopについて詳しくお話ください。
加藤さん:プラスチックは石油由来であることでネガティブに言われ出したことに違和感を感じていました。そこで環境と産業にプラスになるプラスチックというのをLandLoopのテーマとしました。
企業や地方から出る廃棄物、バイオ由来の廃棄物であれば何でもこれと融合できます。木と樹脂(プラスチック)を融合するなら、添加剤を加えて高温で溶かして融合するのがこれまでやり方でしたが、LandLoopは添加剤を必要とせず、一瞬の高熱を加えて摩擦と衝突エネルギーで分子レベルでの融合(衝突融合)させるのが特徴です。
例えば、これまで廃棄するしかなかった屋久杉の樹皮。これを樹脂に融合させます。ここに持ってきた木の切り株型のプロダクトですが、これは、屋久杉51%、PLA(植物由来樹脂)49%でできています。天然由来100%となるのでプラスチックというものとは違っています。バイオ由来の樹脂は従来から出ていますが、ツルッとして無機質な感じでした。これですと、表面に表情を出すことができますし、そこは大きなポイントでもあります。
そのほかにも、奈良県の吉野杉を使ってつくったサングラスのフレームなどもつくっていますが、日本中を探せばどの地方に有名ものがたくさんあります。そういうものを素材に用いてLandLoopの形にすることができます。
「地方創生」に絡めて言えば、地方特有のものをアピールすることにもなります。その意味でももっと広く知ってもらいたいし、グローバルにも展開したいと考えています。
青森のリンゴの皮でおもちゃをつくるプロジェクトがあります。従来、皮は捨てられるしかなかったものです。また、ホタテの貝殻などは処理に困るものですが、これを使えばハンガーをつくることもでき、自然由来の色になるのでホタテなら白いものができます。
摩擦と衝突で有機物なら何でもできるので可能性は無限です。融合する成分で、プロダクトとしては、天然由来100%の「オーガニックプラスチック」、天然由来51%の「再生バイオマスプラスチック」、天然由来25%の「通常のバイオマスプラスチック」の3種類のタイプがあります。25%ならメガネフレームやカゴ、51%ならコップやカトラリー、アート作品などは100%、というようにクライアントの要望によってアイテムに合ったものを選んでもらえます。
──今回、この御三方がコラボすることになったのはどんな経緯だったのでしょうか。
青木さん:もともとは私の学生時代の友人が豊島で働いていて、そのご縁でサポート的なお仕事をさせていただいていました。GELCHOPさんは以前から活動を知っていて、いつか一緒に仕事をしたいという憧れのアーティストさんでした。ファッションブランド・SACAIのインテリアなどの仕事もされていて、非常にユニークなアートとデザインの中間領域をいくような仕事をされていた。
そこへLandLoopという素敵な素材があることをお伝えして、デザイナートへの参加をお願いしました。
モリカワさん:お聞きして夢のような素材だなと思いました。昨年、LandLoopで出力したこの切り株は「偽物は偽物らしく」というテーマで20年前につくった作品ですが、ある意味ではアイロニカルにマッチングする部分を感じました。LandLoopがこれから普通に使われる時代になるだろうと楽しみです。
加藤さん:われわれはアパレル中心の商社なので、こういうものをつくったことはなかったのですが、青木さん、モリカワさんの力で世に発信していきたいと思って、そのスタートが一年前の切り株で、素材の宣伝として提示したやすい作品でした。
青木さん:切り株は、この見た目がフックになって、どんな素材なのかと見る人の関心を誘います。同じ素材を使っても表現によって人の興味をそそるものとそうでないものがあると思いますが、これは旗印みたいな役割をしています。
モリカワさん:これはプランターになっているので、植物を植えれば、すべてがそのまま土に還ることになります。
加藤さん:100%天然由来ですからね。
「プリンテッド」されたもののアートの価値を変える
── 今回のデザイナートでLandLoopによる作品のテーマはなんですか。
青木さん:今回のテーマはPrinted Sculpture(プリンテッド・スカルプチャー)で、古代の土器とか現代のヤカンとか洗剤の容器をモチーフにした彫刻作品と考えています。
60~80年代に活躍したアンディ・ウォーホルはシルクスクリーンで複製芸術を始めたように、まだアートのメディアとしてはさほど価値が認められていない3Dプリンターを使って、「これからはプリンテッドされたものでもアートとしても認められていくだろう」ということを示すために、「プリンテッド・スカルプチャー」と名づけました。原型をモリカワさんに制作してもらい、それを3Dプリンターで天然の木粉やPLAを使って出力します。
モリカワさん:廃棄物同然のものが、高速回転で融合することで素材に価値の変換をもたらすと考えました。大量に生産され大量に消費され、悪者扱いされてきたプラスチックが土に還る、これはライフスタイルを変える革新的な変化だと思います。
「ヤカン」とか「洗剤の容器」とか大量生産という方法で多くの人が同じ意識を共有するなかで生まれた形状と、「縄文土器」という自然のなかの情報だけで生活していた時代のなかで生まれてきたカタチを合わせてひとつの形にしようと考えました。
こうした違う価値観のなかで生まれたものが、衝突融合でできた素材でプリントされるということで「フュージョン・スカルプチャー」と呼んでいろいろアイディアを考えています。
青木さん:DESIGNART TOKYO 2022では、GELCHOPとBCXSYで4点の作品が今回展示されています。まだプロトタイプをつくって素材研究を同時に進めている最中という感じです。
モリカワさん:実際に取り組んでみて、さらっとしたものになるかと予想していたんですが、そうでもなく、例えばこれから金型を使って成形したりするとまた変わっていく可能性もあると思いました。まだまだこれからの可能性を秘めた素材で実験も楽しみながら可能性に注目しています。
青木さん:射出成形というプラスチックの成形方法では、フレーク状になっているものを溶かしてチューブ状に注入して外側に広がったものがコップや器になる、というのがあります。射出成形でやると同じ素材でも半ツヤが出てツルッとした感じになります。
加藤さん:それでつくったのが、トレーやコップで、茶葉を使ったコップはまだお茶の香りが残っていたりします。コーヒーの豆や腐葉土も素材になります。いままでのプラスチックにはなかった匂いや表情があることでアート作品として面白みが出ます。デメリットもメリットになる。
SDGsの波に対するアートのカウンタームーブメント
── SDGsの話に戻りますが、アート業界でのそのリテラーというか受容はどうでしょうか。
青木さん:だんだんと上がってきてはいると思います。例えば、企業にアートを展示するとかそういうケースも含めて、環境への配慮を意識するメッセージを発する作品が求められていたり、そういう依頼が急増しています。
私はプロデュースする側ですが、そういうプロジェクトが多いです。それに合わせてアーティスト自身の環境意識もかなり上がっているという印象があります。もしかしたら、環境配慮が広がり過ぎて、そこへのカウンタームーブメントのようなものもあり得なくはないでしょうが。
モリカワさん:アーティストが個人的な考えをいろいろな方法で表現する人々だと考えたら、意識の高い人は高いし、活動家のようなアーティストもいる。作家も時代の流れのなかで活動しているわけですから、どこかでそういうことに意識があり、それを「正」とするか「誤」とするかは自由ですが、時代とリンクしたものが垣間見れないと作品としても魅力のあるものになりにくいのではないでしょうか。
青木さん:ちなみに、DESIGNART TOKYO 2022の会場構成はかなりカラフルにしています。環境配慮の製品や作品には、茶系や、ナチュラル系なアースカラーが使われることが多いですが、顔料や塗料の開発も進み、武蔵塗料という会社がかなり環境に配慮したバイオ塗料を開発しており、今回の会場はPANECO(廃棄された洋服を使った繊維リサイクルボード)で使ってカラフルに展示しています。
その会場構成は建築家の板坂諭さんが手がけています。エルメスのサステナブルな取り組みである「プティ・アッシュ」にもデザイナーとして参画されている、いま一番の注目作家の一人で、今回オファーさせてもらいました。
モリカワさん:この素材にはとても魅力を感じています。今回の作品を見て、いろんな人がいろんなことに考えを巡らせ、これからの未来に可能性のある多様な提案が生まれてくるきっかけになったらいいなと思っています。
加藤さん:従来のプラスチックは環境面以外の点では最高の素材だったと思うのです。世の中をより便利にすることに貢献してきました。
それを受け継いで、さらにいいものになるために生まれた素材「LandLoop」をまずはアート作品にして、DESIGNART TOKYO 2022で世の中の人に知ってもらい、その価値を広く認められて欲しいですね。5年、10年後にはこれがもう当たり前の素材になっていく、アートとサステナブルを感じてもらう、そのスタートになってもらえればと思います。
撮影:佐山順丸
Printed Sculpture
展示期間:2022.10.21(fri)〜2022.10.30(sun)
営業時間:10:00〜18:00(21日のみ12:00〜18:00)
会場:東京都港区北青山3-5-10
URL:https://designart.jp/designarttokyo2022/exhibitions/613/