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ハワイ三部作③「おじゃまします」と旅をしよう

旅する心構えはハワイ島が教えてくれた

author: 堀 真菜実date: 2022/07/03

旅の価値は「実際に自分の目で見ること」にある。折に触れてそれを実感したのが、地球上でもっともアクティブな火山があるといわれる「ハワイ島」の旅だ。

大噴火が起こった直後の島では、現地のハワイアンの案内で、溶岩のエネルギーを目の当たりにし、宿のホストから教わった低音で力強い「フラ」や葉っぱで包んで作るハワイアン料理には、「知ったつもり」だったハワイ文化のイメージが覆された。

ハワイ島のダイナミックな自然に魅了され、一年間で三度リピートしたトラベルプロデューサー堀 真菜実が「人生に一度は行くべきハワイ島の旅」で得た、旅に対する心構えを見つめなおした。

「火山で焼きマシュマロ」への嫉妬は一転恥じらいに

初めてハワイ島へ訪れたときだった。現地ガイドから島のことを紹介してもらっている流れで、まだ見ぬキラウエアの話になった。キラウエアとは世界有数の活火山で、ハワイ島の代表的な観光地でもある。

「そういえば」……彼は言った。「キラウエアの溶岩でマシュマロを焼いて食べるっていうのを、日本のテレビ番組がやったみたいでね」「真似してハワイ島にくる観光客が増えているんだよ」ーーマグマで焼きマシュマロとは、面白そうなことを考える。私はテレビ局に嫉妬した。しかし、続く言葉は意外なものだった。

「キラウエアは、火山の女神『ペレ』が住む神聖な場所なのに! マシュマロを焼くなんて、本当に悲しいことだよ」

その深刻な表情に言葉が詰まった。彼らがいかに自然を大切に考えているのか、火山がいかに特別な存在なのか、短い会話でも察することができたからだ。私は、内心「やってみたい」と思ってしまったことを隠して「そうなんだ」と相槌を打ったが、ハワイアンの思想を何も知らずに観光に来たことを自覚して、恥ずかしくなった。

「ペレ」とはハワイ神話に出てくる火の女神で、ハワイアンにとってはもっとも馴染みの深い神。畏怖の対象でもあるが、地元の人からはそれ以上に敬意や感謝の念を感じた。
同様のできごとは他にも。「ある神聖な泉に、観光客が無断で入って泳いでしまうので、ガイドたちがその泉の名前を公表しなくなった」という話も聞いた。

推しツアー「ライトサップ」さえ自然思いの活動

観光スポットやアクティビティの情報はガイドブックでも得られるが、その背景にある人の思いは実際に足を運んでこそわかる。

私のいちおしツアー「ライトサップ」も、蓋を開けてみると単なるレジャーではなかった。

ライトサップとは、ライトが付いたSUPボードのことなのだが、ボードの半分がスケルトンになっていて、ライトで照らした海の中を覗けるようになっている。いわばポータブル水族館付きのSUPボードである。

特にサンライズツアーがおすすめ。満天の星の下でライトアップされた魚を観察し、海原に昇る朝日ときらめく海を見たら、早朝のサンゴ礁をひとり占めできる、フルコースなのだ。

あまりに感動したので、どういう経緯でこの体験を思いついたのかガイドに尋ねると、「傷ついたサンゴ礁のために、何かしたくて」と返ってきた。「お客さんにはサンゴ礁の美しさを伝えられ、代金の一部はサンゴを守る活動に充てられるから、一石二鳥なの」だそう。個々人が自然と向き合っていることに触れるたび、私も背筋が伸びた。

目の前の人が大切にするものを大切にする

繰り返しハワイの価値観を目の当たりにすると、自分にも変化がある。

一緒に旅するメンバーへ「エコバックを持って行ったほうがいい」と呼びかけたり、旅行代理店と相談して「海にダメージの少ない日焼け止め」をツアー特典として組み込んだり。

旅をしたからといって、すぐにハワイアンと同じ思考になるわけではないが、少なくとも旅先で出会う人たちを深く知り、悲しませたくないと思えば、自ずと行動は変わる。

旅先での出会いは、「サステナブル」「SDGs」などのフレーズよりも簡単に、人の行動を変えることがある。
知り合った人がフラの催しに出ると聞いて見に行くと、4年に一度の大式典だった。1時間を超える厳かな儀式に圧倒され、フラのイメージが覆った。

ハワイに残る「和の文化」に飛び込んでみた

現地の声に耳を傾ければ、ただの観光では知り得なかった出会いもある。

東部最大の町「ヒロ」を散策していると、地元の人から「君たちは日本人? 今夜、近くの町でbon-dance(盆踊り)大会があるから来てみたら?」と教えてもらった。ヒロ付近は、かつて多くの日系移民が移り住んだ場所とは聞くが、そんな慣わしまで残っているとは驚きである。

私たちは夕方、教えてもらった町に行き、太鼓の音だけを頼りにお祭りの場所を探し当てた。

音の先には、ちょうちんに囲まれたやぐらや法被を着た人たち。見かけは日本のお祭りそのものだ。

会場では、お年寄りから子どもまで、総勢100名近い地元の人たちが踊っていた。見る限り、観光客は私たちだけ。これは想定外だった。妨げないよう遠巻きに見学していると、何人ものハワイアンが目の前に来て、お手本がごとく踊ってみせてくれた。私たちは誘われるように輪に入り、結局ラストまで、20曲はご一緒したと思う。観光でヘトヘトだったが、歓迎された喜びが勝った。

祭りが終わると、町内会の打ち上げにも招待してもらい、食事までごちそうになった。彼らの中に日本語を話す人はひとりもいなかった。だけど「日系人」というアイデンティティを持ち、日本の文化を受け継いでいる。

歴史の知識で「日本とハワイの関わり」を知るのとはわけが違う。ハワイへの親しみが一層増したことは言うまでもない。

前半は、聞き馴染みのある盆踊りの曲やアニメソングが続いたが、後半にはや、K-POPと思われる曲、高速ダンスが混ざってきた。ハワイの盆ダンスは独自の進化を遂げていた。

マシュマロ事件に始まる三度のハワイ島以来、「おじゃまします」という心構えで旅をするようになった。

日常で使うこのシンプルな言葉には、そこにすでにあるものへの敬意が集約されている。現地に暮らす人、根付く文化、環境のことを知ろうとする。自分が妨げとなる可能性をわきまえる。人の家に土足で上がらないのと同じ。心構えひとつで、現地の人と関わりが増え、旅先への愛着が増す。いいことづくした。

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トラベルプロデューサー
堀 真菜実

新しい旅を作るトラベルプロデューサー。世界弾丸一周、廃校キャンプなど、手掛けるツアーは即日満席。はじめましてのメンバーで行く「シェアトリップ」の仕掛け人として、数千人の旅人と国内外を巡り、その経験をもとに、地方自治体や海外の観光局と、観光資源の発掘やツアー造成を行う。人と地域を繋ぐ場作り、メディア出演などでも活躍中。
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