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大自然が見せるナマクワランドの奇跡

1年に数日だけ南アフリカの砂漠にあらわれる花畑とは?

author: 堀 真菜実date: 2021/06/07

オーロラ、氷の洞窟、鏡張りの絶景……自然を相手に、実際に出会えるかどうかわからない景色を求めた旅は数多いが、なかでも、砂漠で花畑を探す「フラワーハント」は、生命のたくましさを思い知った体験だった。
「荒野に、たった数日間だけ花が咲き乱れる時期がある」という噂を聞いて足を伸ばしたのは、アフリカ最南端の国、南アフリカのナマクワランドというエリアだ。
今回はトラベルプロデューサー、堀真菜実が「人生に一度は行くべき南アフリカの旅」を紹介する。

玄関口は、世界一美しい
港町ケープタウン。

フラワーハントへの玄関口として降り立つのは、南アフリカ第2の都市、ケープタウン。アフリカに抱く印象とはかけ離れた、快適さと美しさに驚いた。

ヨーロッパ調の港町で、欧米からはリゾート地としても人気が高い。社会インフラが整っており、発達した交通機関、きれいな水道水、おいしい食事に、巨大なショッピングモールまであった。何を隠そう南アフリカは、アフリカ最大の経済国なのだ。

世界一美しい港町、とも謳われるケープタウン

私がもっともケープタウンに惹かれた点は、これほどの都会でありながら、手つかずの大自然と隣合わせにあることだった。

町の中央には、ランドマークでもある巨大な岩山、テーブルマウンテンがそびえ立つ。ロープウェイで上れば、平坦な頂上からは町と空と水平線を一望できた。

住宅街のすぐ側あるボルダーズビーチには、なんと数千羽の野生ペンギンが生息する。ペンギンがのびのびと水浴びや日向ぼっこをする様子を、時間を忘れて眺めた。

ケープタウンを巡るだけでも、南アフリカを訪れる価値はある。しかし、ここからが本番。幻の花畑を探しに北へ向かう。

果てしない荒野をさまよう、
宝探しの旅へ

ナマクワランドとは、南アフリカの北西部にある半砂漠地帯だ。ケープタウンとはうって変わって、地平線までひび割れた景色が続いていた。当然、公共の交通網はなく、店やホテルもごく限られた場所だけだった。

遮るものなく太陽が照りつけるナマクワランドの大地

この地のどこかに、毎年8月から9月のうちわずかな期間だけ、色とりどりの野生の花が咲く、と聞いてここまで来た。だが、実際に出会うのは、簡単ではなかった。

そもそもナマクワランドの広さは、日本の面積の3分の2ほどもある。そして、花がどこに咲いているのかは、誰にもわからない。たとえ現地の人であってもだ。

果てしない荒野を車で進んだ。最初の2日間は、ほとんど車窓から赤茶けた地面を眺めていた。

砂漠に咲き誇る、
「奇跡の花園」の秘密とは?

さて、この荒野に咲く花々は、神秘さゆえに「奇跡の花園」と呼ばれる。では、乾いた大地に一体どうやって花畑が現れるのか。せっかく長い道中なので、現地ガイドから詳しく教えてもらった。

その答えは、種の多さと、恵みの雨にあるそうだ。

一見、不毛の荒れ地に見えるナマクワランドには、実のところ、草花、多肉植物など、3000種類を超える植物が息づいている。

地表に落ちたそれらの種子は、春先に降るわずかな雨を受けてなんとか芽吹き、条件に合ったものだけが、ついに夏、開花する。条件というのは、年によって大きく変わる雨の量、時期、気温などのことだ。これらによって、その年に育つことができる花の種類もまた、変化する。

そのためナマクワランドでは毎年、花が咲く時期も、種類も、色も、場所も、ボリュームも、すべてがバラバラ。これが、「どこに咲くか誰にもわからない」理由だ。

つまり同じ花畑が見られることは2度と無い。奇跡の花園は、生物の多様性が1年に数日だけ生みだす、唯一無二の景色だと知った。

花畑を目の前にしたとき、
感じること

さて、私の訪れた年は、数十年に一度の干ばつだった。ただでさえ、毎年移ろう花畑。見つけ出すのは、たやすいことではない。じりじりと太陽が射す大地に立つと、「今年は咲いていないかも」と覚悟してしまいたい衝動と、「せっかくここまで来たのに」と引き下がれない思いが交錯した。

ただ、やけに「旅をしている」実感があった。

多くの人と同じように、私の旅は、はじめから目的地の決まったものがほとんどだ。だが、このフラワーハントは違う。目指す場所も、その姿も、それどころか、本当にたどり着けるかどうかさえ、未知だった。

「あ!」

ガイドのただならぬ声に、視線の先を追う。さっきまでの景色と違うことは明らかだった。

花畑は本当にあった。
夢中でカメラを向けた。

真っ青なナマクワランドの空には、原色の花の色が映えた。蝶がひらひらと舞うと、さっきまでの乾いた大地とは別の世界にいるようだった。後にも先にも見ることはないその光景を傷つけないよう、花の間をそっと歩いた。

何も知らない人が見れば、ただの花畑かもしれない。しかし、どこまでも続く荒野を進み、身をもって気候の厳しさを知ったうえで、ついに咲き乱れる花を目撃したとき、私はその生命力を感じざるをえなかった。

砂漠のなかでいのちを繋ぐたくましさと、一瞬の輝き。奇跡の花園と呼ばれる理由を噛みしめた。

キリンやスプリングボック(写真)など、野生動物との遭遇も

ホテルに向かう車に揺られながら、振り返る。花への感動が「きれい」以上のものになったのは、ここ数日間、ナマクワランドの空気をいやというほど肌で感じていたからだった。

いつの間にか、写真で見た絶景を目指す旅行スタイルがあたりまえになっていた気がする。 旅のおもしろさとは、最終地点だけでなくその道のりにあることを、改めてフラワーハントが思い出させてくれた。

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トラベルプロデューサー
堀 真菜実

新しい旅を作るトラベルプロデューサー。世界弾丸一周、廃校キャンプなど、手掛けるツアーは即日満席。はじめましてのメンバーで行く「シェアトリップ」の仕掛け人として、数千人の旅人と国内外を巡り、その経験をもとに、地方自治体や海外の観光局と、観光資源の発掘やツアー造成を行う。人と地域を繋ぐ場作り、メディア出演などでも活躍中。
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