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アート

between the arts×Beyond Magazine #000

アーティストを育て、コレクターを醸成するbetween the artsが生んだアートのプラットフォーム

author: 山田ゴメスdate: 2022/04/02

「もっと、コレクションを。」──そんな明瞭なスローガンを掲げる企業「between the arts」が運営する、「アーティストの創作活動を多角的にサポートすること」を目的としたサービス〈artworks〉が、日本の若手アーティストを中心に話題になっているという。今回は〈artworks〉でディレクターを務める座間エイミさんと、新進気鋭のアーティスト・タカハシマホさんに、日本アート界の現状と〈artworks〉の存在意義、アートのこれから……さらには、Beyond世代に向けた「アートとの接し方」についてのアドバイスまで、たっぷりと語っていただいた。

〈artworks〉は、若手アーティストたちにとって、いわば“駆け込み寺”的な存在となりつつあるらしい。自身の創作活動のみに専念したいアーティストにとっては、まさに「かゆいところに手がとどく」かのごとく、画期的できめ細やかなサービスだと聞く。その具体的な背景と活動内容を〈artworks〉のディレクター・座間エイミさんから話を伺った。

「ギャラリーへの所属」に代わる〈artworks〉の包容力

座間さん:「between the arts」では「もっと、コレクションを。」というミッションを掲げています。代表もアートコレクターであり、「購入作品をどこへ預ければいいのか?」「大事に保管するのがむずかしい」など、多くのアートコレクターが抱える悩みを解決するサービスとして、アート作品を保管するサブスクリプションサービス〈美術倉庫〉を立ち上げました。

アートコレクションを撮影してオンラインで整理・一覧化できたり、自宅で保管できないコレクションを万全のセキュリティと温度・湿度管理のもと保管することにも対応しており、現在、リアル・オンライン登録含めて3万点以上の作品をお預かりしています。

それに付随して「アーティストに対しても、サービス展開したいよね」という話になり、2021年6月にローンチしたのが〈artworks〉です。

──現在、何名くらいのアーティストが〈artworks〉に登録しているのでしょう?

座間さん:約270名です。ただ、よく勘違いされてしまうのですが、〈artworks〉に作品掲載されているアーティストさんは「所属」しているのではなく、弊社が運営しているウェブサイトにオンラインで「登録」していただき、「作品のポートフォリオを作成している」という形になります。

さらに、そこからいろんな経緯やご縁でお仕事に繋がった場合のサポート……また、作品制作じゃない部分のお手伝い──細かい例だと、額装や配送手配……お客さまへ作品を売る場合の「さし箱(額縁箱)」(作品を保管するための段ボール箱)の作成などをさせていただいたりもしています。

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従来、アーティストの多くは作家活動をより円滑にすすめていくため、「ギャラリー」に「所属」する。バンドにおけるレコード会社や、役者と芸能事務所との契約に似たようなものだ。そして、ギャラリーによっては「契約は結婚と同じ」とまで断言してくるケースもあるという。それは、極論すれば「一生の付き合いで、一生面倒をみていく」ということで、「作品が売れたときも、万が一売れなくなってしまったときも、すべて責任を持つ」ということである。

そんななか、“業界のスタンダード”に反して「カジュアルな関係」を提案する〈artworks〉のことを、アーティスト側はどのように捉えているのだろう? ここからは〈artworks〉に「登録」する、只今若手注目株の女性アーティスト・タカハシマホさんにも会話に加わっていただこう。

タカハシさん:〈artworks〉さんには「契約」がありません。「契約がないこと」への不安もなくはないのですが、私にはその“軽さ”が合っている。「結婚」という関係は、現時点では、私にとってはやや重いですね(笑)。

私はブランディングや、展示方法なども自分で携わっていきたいし、作品も外部の力に影響を受けることなく、健やかに制作していきたい──そういう意味で、〈artworks〉のスタンスは私のような作家には、メリットがあると思います。

ギャラリーだと「うち以外では作品を出さないでください」とかの縛りがあったり、「売れるからこういうのを描いてください」と、作風に深く介入してくるケースもあるそうです……。

座間さん:現在、国内の芸術家・クリエイターの数は約60万人にものぼっており、その多くが特定のギャラリーに所属することなく、個人で活動しています。SNSが主流となった「個の時代」である今、とくに若い世代はマホさんのような考え方のアーティストさんが増えているのかもしれませんね。

タカハシさん:〈artworks〉の距離感は、私にとって理想ではありますけど、ブランディングやビジネス面、展示方法などを考えることは制作の傍らで行うことは普通は難しいことで、とにかく作品を創るだけに集中したいという考えのアーティストさんなら、ギャラリーと契約したほうがいい気もします。

座間さん:活動方針やお仕事の選び方はさまざまですよね。アーティストを応援する企業も増えてきているので、どんな場所がフィットするのか、アーティストさんにとって選択肢はひとつでも多いに越したことはないと思います。

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タカハシさん:ここ数年、企業さんがさまざまなかたちでアートの世界にどんどんと進出してきているのは事実です。だけど、正直なところ、直近の利益だけを求めてくる場合も少なくはありません。なので個の時代ということもあり、作家側もしっかりと見極める力が必要になってきています。

でも、between the artsさんは、社長さん自らがちゃんとアーティストの展覧会にまで足を運んでくださるじゃないですか。なによりも「アートが好き」という情熱がひしひしと伝わってきます。「この絵、好きだから飾りたいな」みたいな発信も作家にとってはモチベーションアップに繋がりますよね。「真摯に作品やアーティストと向き合ってくれている」ということを感じます。

座間さん:そう言っていただけたら、私どももいっそうやり甲斐を感じますね。

タカハシさん:とにかく親身で、密に連絡もくださるんですよ。プラスαのコミュニケーションがあるから、私のほうも「配送業者さんどうしよう?」とかって悩んでいたりしたら、つい座間さんに頼ってしまって……。「契約」もしていないのに(笑)。

それに、他のサービスと決定的に違うなと感じるのは、展覧会を開いたとき、必ず作家と連絡をとってくださっていたスタッフさんが在廊していること。between the artsの皆さんがお客さんと積極的にコミュニケートしてくださっているから、心配もなく、ありがたいです。だから、アーティストの在廊率もめちゃめちゃ高いと思いますし、その分お客さんにちゃんと挨拶もできる。普通はもっとビジネスライクで、展示の準備ができれば終了、なんなら展示もお任せ……といった流れなので。

座間さん:作品に関しては一切口出ししません。でも、一人ひとりのアーティストさんの悩みには、可能なかぎり柔軟に対応できるように努めております。もちろん、雑談だけでも大歓迎! お客さんだけではなく、アーティストさん同士の“交流の場”としても〈artworks〉をどんどん活用していただければ……と。コロナ禍が明けたらビールサーバーも用意していますから(笑)。

あと、弊社は広尾にギャラリーを持っているので、今年からは〈artworks〉のアーティストさんにも積極的に利用していただく企画を多数進行中です。

タカハシさん:アーティストって基本は甘えん坊だし、私も創ることしか能がないポンコツな人間ですから(笑)。そんなアートでしか……なにか“ものを創ること”でしか呼吸ができない私の手助けをしてくださっているのが〈artworks〉なんです。

ヒト対モノではなく、ヒト対ヒトとの関係

では、最後に日本の現代美術シーンの最前線に身を置く座間さんから、アートの現状と今後について……私見を述べてもらいながら、Beyond読者であるZ世代に、アートリテラシーを磨くための秘訣を伝授していただいた。

座間さん:スマホの画面をポンとタップしただけの一瞬で、すべての物事が始まり、評価されてしまう今の時代には良い面も悪い面もあります。良い面は、アーティストさんが自身で積極的にセルフプロデュースの舵取りができたり、ネットを通じてより多くの人に作品を見てもらうことができます。

とは言え、作品をInstagramなどにアップするだけですべてが伝わるわけじゃありません。アーティストさん側の「とにかく作品そのものを最低でも30秒は観てほしい!」「(作品の)写真を撮るのはそのあとでかまわない…」という、シンプルな“衝動”は大切にしたい。

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一方、日々押し寄せるテクノロジーの波を無視することはやはりできないので、私たちのようなデジタルとアナログの狭間に生きる「葛藤の世代」がその矛盾を循環させ、それを下の世代にどう繋げていくか……が、これからの課題になってくるのではないでしょうか。

──その、おそらく最後の「葛藤の世代」になるであろうZ世代にも「アートって、どうも敷居が高くて…」と敬遠しがちな層は、わりと多い印象もあるのですが……?

座間さん:私はアート初心者である友人には、よく「美容やファッションに一年を通して投資するお金の10%だけでいいから、アートにも投資してみない?」とアドバイスしています。高額な作品をいきなり購入するのはハードルが高いかもしれませんが、私も最初は、あるハイブランドの現代アートのアーティストさんを起用したエコバッグを買って、そのバッグに描かれた絵があまりに素敵で、次にそのアーティストさんの絵を買った……という経験があります。

バッグに描かれた絵も素晴らしかったのですが、アーティストさんが自ら描いた絵は一点モノだし、作品そのものが発するオーラはプリントされた絵と全然別物でした。発色から、平面ではなく立体的に何重にも積み重ねられたマチエールまで……自分の生活にアートが組み込まれたときの感動は、なににも得がたいものがあります。

「アートがよくわからない」という率直な疑問はむしろ当然のことで、長く業界にいる“プロ”でもわからないことだらけ……。ヒト対モノではなく、ヒト対ヒトとの買い物なので、アーティストさん自身から届く一点モノのアートを、フランクな気持ちで購入して、そこから生まれる体験を味わっていただきたいです。

撮影:佐坂和也


【artworksとは?】

「アートをはじめとしたコレクションが生み出す資産価値を大切に守ることを理念とし、アート領域でさまざまなDX推進事業を手掛ける「between the arts」が運営。アーティストが創作活動に集中できる環境づくりのため、多角的なサポートを行なっている。「一作品からの預かり・管理」「アーティスト専用ページの作成」「作品登録代行」から「額装・配送手配」「展示・販売会の開催」など、そのサービス内容はフレキシブルかつ多岐にわたる。

URL:
https://bwta.jp/services/artworks/
登録アーティスト一覧:
https://artworks.am/artists

タカハシマホ
千葉県香取市生まれ。デザイン専門学校を卒業後、フリーランスのイラストレーターやデザイナーを経て、美術系教育機関で講師を務めたのちアーティストへと転身。2019年から、幼少期の記憶を模した「あの子」を制作して以来、日本の伝統工芸である「金」や「箔」を使用した作品を多く発表し、その精力的な創作活動が日本に留まず、海外のアート界でも注目を集めている。2020年に「Independent TOKYO 2020」審査員特別賞と高橋正宏賞、2021年に「いい芽ふくら芽 in Tokyo 2021」アートファクトリー賞を受賞。国内および中国、台湾、オランダ等のアートフェア・グループ展に参加多数。
HP:https://www.tmaho-art.com/
Instagram:@t.maho_art

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文筆家・イラストレーター
山田ゴメス

大阪府生まれ。年齢非公開。関西大学経済学部卒業後、大手画材屋勤務を経てフリーランスに。エロからファッション・学年誌・音楽&美術評論・人工衛星・AI、さらには漫画原作…まで、記名・無記名、紙・ネットを問わず、偏った幅広さを持ち味としながら、草野球をこよなく愛し、年間80試合以上に出場するコラムニスト兼ライター&イラストレーター。『麗羅』(漫画原作・作画:三山のぼる/集英社)、『「若い人と話が合わない」と思ったら読む本』(日本実業出版)、『「モテ」と「非モテ」の脳科学~おじさんの恋はなぜ報われないのか~』(菅原道仁共著/ワニブックスPLUS新書)ほか、著書は覆面のものを含めると50冊を超える。特に身体を張った体験取材モノはメディアからも高い評価を得ている。2019年、HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)カウンセラー資格取得。2020年、温泉マイスター取得。2022年、合コンマスター取得(最年長)。
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