現在、スポーツサイクルの世界では欧米や台湾などの海外ブランドがトレンドをリードしています。かつての「自転車生産大国・日本」にもパナソニックやブリヂストンといった優れた生産技術をもつ大手自転車メーカーが存在しますが、そちらの主力製品は電動アシスト付き自転車をはじめとするシティサイクル(いわゆるママチャリ)であり、スポーツサイクルメーカーとしての存在感はやや薄い印象が否めません。
ところが、小規模で展開している日本発の自転車ブランドに視点を移してみると、ユニークでエッジの利いたモデルが数多く存在します。とくに「街乗り」を意識したモデルは、海外ブランド製品のようにスタイリッシュでありながら、日本人の体形や使用シーン、日本の交通事情などに最適化されており、とても魅力的です。もちろんモデルによっては生産台数が少なく、取り扱い店舗も限られるといった制約もありますが、それゆえに大手とはひと味違う突き抜けた個性を実現しているといえます。今回の記事ではそうしたブランドと個性的な自転車をピックアップしてご紹介します。
ストリートテイストを纏った異色のグラベルバイク
ロックバイクス/Wrath
9万9,000円
「ロックバイクス」は、スポーツサイクルブランド「FUJI」の日本専売モデルの企画やデザインを手掛けていた西山直人氏が2012年に創業した大阪発の自転車ブランド。歴史は浅いものの、ピストバイクのようなストリートを強く意識したテイストのグラフィックと、シティライドで真価を発揮する切れ味鋭いハンドリング設定などによって独自のポジションを確立している。
最新作の「Wrath(ラース)」は近年流行のグラベルバイクをロックバイクス流にアレンジした一台。ホイールの固定方式にスルーアクスルを採用し、やや太めの700x35cサイズのタイヤや油圧ディスクブレーキを装備する点はグラベルバイクの定石通り。
しかし、ハンドルはドロップタイプではなく、低速域での操作性に優れるフラットハンドルバー。加えて変速ギアは使用頻度の低いギア比を潔く切り捨てた1×10段変速を装備する。そのため車体重量は10.8㎏(500㎜サイズ)と軽量で、鋭い加速とハンドリングを実現している。リアエンド部のオリジナリティある造型やパーツを自社ブランドのSIXTH Componentsで揃えた統一感のあるルックスが魅力的だ。アンダー10万円で剛性の高いカーボンフォーク、スルーアクスル、2ピースダイレクトクランクが標準で付いているなど、お買い得感も高い。
日々の暮らしに彩りを与える自転車
トーキョーバイク/BISOU
8万6,900円
その名の通り、東京の街をゆったり走って楽しむ自転車として2002年に誕生した「トーキョーバイク」。ストップ&ゴーの多い東京の道路事情に最適化された無駄のないパーツ構成や、シンプルなカラーリング、リーズナブルな価格設定、東急ハンズやオッシュマンズといった自転車専門店以外での販売など、当時としては類例のないコンセプトで大きな支持を得た。
現在もそのコンセプトに変わりはなく、昨年には清澄白河にスペシャリティコーヒーが味わえるカフェやプランツショップを併設した旗艦店「TOKYOBIKE TOKYO」をオープンするなど、自転車をライフスタイルの一部として提案する独自のアプローチを行っている。
「BISOU(ビズ)」はアップライトな姿勢を可能にするプロムナードハンドルと、跨ぎやすく乗降性に優れたスタッガードフレームを組み合わせており、寄り道を楽しみながらのんびり走るのに相応しい一台となっている。一般的なクロスバイクよりも径の小さい26インチタイヤを採用することで、キビキビと小気味良い加速や良好な取り回しを実現しているのはトーキョーバイク全車に共通する特徴だ。
問:トーキョーバイク
https://tokyobike.com/
古のMTBをモチーフにした大人の遊び自転車
GROWN/Hey Joe
14万800円(フレーム&フォークセット)
「GROWN」は、京都の自転車工房「E.B.S」が展開する姉妹ブランド。小径車を主軸としたラインナップにあって異彩を放っているのが、福島県のKAISEI社製パイプを用いてハンドメイドされるこちらのモデル。完成車ではなくフレーム&フォークセットでの販売だが、オールドスタイルのMTB(マウンテンバイク)をモチーフにするマニアックな一台だ。
現在のMTBとの大きな違いはサスペンションシステムをもたない、リジットフレームを採用しているところ。トレイルをハイペースで下るときには絶大な恩恵をもたらすサスペンションシステムだが、車重の増加を招きバイクとの一体感が損なわれるというネガもある。「Hey Joe」は高性能化が進んだ現代のMTBのようにイージーには走れないが、ライダーが積極的に荷重移動を行いながら駆けるMTBライドの原点ともいえる味わいが魅力だ。本格的なトレイルに出かけずとも河川敷の砂利道や丘のような身近なフィールドでもMTBライドを満喫できるのである。
一方で、Hey Joeは現代的なパーツが装着できるようアレンジも加えられている。フレーム&フォークは27.5×2.3インチのセミファットタイヤが装着できるようクリアランスが設計されており、相当の悪路にも対応できる仕様だ。またブレーキもディスクブレーキ仕様となっている。
問:GROWN
https://grown-bike.jp/
キャンプを身近にする「運ぶ」自転車
LOG/ログワゴン
4万9980円
いまや日本全国あらゆる都市に店舗を展開している「サイクルベースあさひ」。その快進撃の要因のひとつとなっているのが多彩な自社ブランド商品である。「LOG」は、近年大きなブームとなっているキャンプなどのアウトドアシーンを見据え、2020年から展開されているブランドだ。
ログワゴンはその名の通り、「たくさんの荷物を運ぶ」ことにこだわって作られた自転車。ダックスフンドのような胴長短足の車体は、重心を下げて積載時の走行安定性を確保するためのもの。フロントとリアにキャリアが標準装備されており、後者は展開して横幅を広げることで30Lの収納ボックス(オプションで用意される)をそのまま載せることも可能だ。
堅牢なスチーフフレーム&フォークの各部にはアクセサリーを取り付けるための台座(ダボ穴)が設けられており、用途に応じてさまざまにカスタマイズができる。車体重量は22kgとかなり重いが、ローギアードに設定された7段変速と、漕ぎ出しの軽い小径タイヤを採用することで補完している。もちろんスピードは出せないが、リーズナブルな価格と相まって自転車によるキャンプやピクニックをうんと身近なものにしてくれる革新的コンセプトの一台だ。2021年グッドデザイン賞受賞。
問:サイクルベースあさひ
https://www.cb-asahi.co.jp/
【番外】機能美が魅力のロードバイク
FUJI BIKES/バラッドΩ
13万7500円
こちらは番外編としてご紹介。というのも「FUJI BIKES」は、日本生まれの自転車メーカーでありながら90年代後半からは海外資本となり、現在は米国を拠点に展開するという特殊な「ニッポン発」ブランドだからだ。「日米富士自転車」(以前の商号)といえば戦前から続く名門高級自転車メーカーとして一目置かれる存在であり、1970年代初頭には当時の自転車大国である米国市場で最初に名を轟かせた日本ブランドとして、大きな成功を収めている。
現在、FUJIはツール・ド・フランスをはじめとするロードレースで活躍する一方で、日本の自転車シーンにローカライズした製品も数多くラインナップしている。「バラッドΩ」は競技やトレーニングではなく、ストリートを駆け抜けるために作られたロードバイク。
細身のクロモリ製パイプを用いたホリゾンタルフレーム(トップチューブが地面と水平になっている形状)は、エアロダイナミクスを取り入れた昨今のハイパフォーマンス系ロードバイクとは一線を画すシンプルな造形美を実現している。ハンドルバーやステム、リムといったパーツがブラックで統一されている点もスタイリッシュさの向上にひと役買っている。手間のかかるグラデーション塗装が施された写真の「パープルブルー」がとくにおすすめ。
問:FUJI BIKES
https://www.fujibikes.jp/