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オンライン空間ではSNSで存在感をアピール

パナソニックがオーブントースタービストロで成功を収めたインスタ戦略

author: 鈴木 朋子date: 2021/11/06

Instagramは日々進化している。美しいビジュアルを投稿するフィードに加え、今を伝える「ストーリーズ」、短尺動画「リール」、長尺動画「Instagram動画(フィード動画とIGTV動画の統合)」など、ユーザーのニーズに応える機能を次々とリリース。国内のMAU(月間アクティブユーザー数)は、2019年に3300万を突破、その後も順調に数字を伸ばしている。

ビジネスにも力強い機能が増えている。例えば、「発見タブ」から店舗の地図検索が、「ショップタブ」ではECサイトへの誘導が可能だ。飲食店は公式アカウントから席の予約やテイクアウトの注文も受けられる。

Facebook Japan 代表取締役 味澤 将宏氏によると、Instagramユーザーの83%は、Instagramで商品やサービスを見た後にアクションをしたことがあると回答している。つまり、Instagramでのマーケティングは比較・検討、購買のファネルへと導けるのだ。

本稿では、Instagramが2021年9月に行ったマーケター向けイベント「House of Instagram Japan」において、Instagramを中心としたマーケティング施策でオーブントースター「ビストロ」が前モデル比2倍の売り上げを達成したパナソニックの事例を紹介する。

トースター市場では後発だったパナソニック

パナソニックは2021年2月、オーブントースター「ビストロ NT-D700」を発売した。「遠近トリプルヒーター」と「インテリジェント制御」を搭載しているため、厚切りや冷凍の食パンを自動でおいしく焼き上げる。「サクッとふんわり、中まであつあつ」が特徴だ。

オートメニューは、トーストだけでなく、具材を載せたアレンジトースト、クロワッサン、焼き芋など、15種類のメニューが用意されている。オーブン調理は120℃~260℃まで、8段階の温度調節が可能。グリル野菜やグラタンなら10分前後で調理できる。

さらにデザインを前モデルから一新し、モノトーンに統一。前面にはクリックダイヤルとボタンを2つ、小さな液晶画面のみ。高級感のあるシンプルなデザインへとリニューアルを遂げた。

パナソニックは、この商品の発売キャンペーンをInstagramの公式アカウント「@panasonic_cooking」で展開した。

Panasonic Cookingは、冷蔵庫やレンジ、トースターなど幅広いキッチン家電を通じて顧客の食生活を「おいしい」と「嬉しい」で心まで満たしたいというコンセプトで運営されている。キッチン家電を使ったレシピや、モデル家族が調理にチャレンジする動画などを掲載している。フォロワーは約8割が女性、年齢層は20代~50代、執筆時点で11.7万のフォロワーを持つ。

Instagramは、30代以降の女性に強いと言われている。ファッションがもっとも強い分野だが、食に関する情報を得たいユーザーも多い。その点、Panasonic CookingはInstagramの文脈に合致しており、実際のアカウントも華やかでいて実用性のある情報が投稿されている。

パナソニック アプライアンス社CMJ本部コミュニケーション部メディア戦略課 デジタル戦

略係 主幹 富岡広道氏によると、ビストロ NT-D700は高級トースター市場においては後発だったため、顧客にどのように商品の魅力を伝えるか、その方法に工夫が必要だったという。

「そこで、消費者のインサイト(潜在ニーズ)を探るためにプランニング以前の段階からFacebookにお手伝いいただきました」(富岡氏)

富岡氏によると、Instagramでインサイトを探ることに決めた理由は2点あると述べる。

「当社は日本の暮らしに長年寄り添ってまいりましたが、コロナ禍でお客様の暮らしの変化を改めて理解し、キャンペーン初期から新たな気持ちで取り組もうということで、生活の中でトースターや我々のビストロブランドがどう語られてるのかを改めて把握したいと思いました」(富岡氏)

Instagramの利用者数や利用者属性を考えると、Instagramで観察できるインサイトは世の中を反映しているとの判断もあった。

「もう一つは、Instagramにおけるお客様の行動やトレンドの傾向を理解しておきたかったということがあります。Instagramは食というカテゴリに非常に相性がいいと考えてましたが、プラットフォーム全体としてのイメージを、このタイミングで改めて掴んでおきたかった」(富岡氏)

従来の製品は、パンが焼けてオーブン調理もできるといった、何でもできるコンパクトな家電として訴求してきた。しかし、高級トースター市場が定着してきたなか、パンが美味しく焼けるトースターという訴求へ大きく方針を転換した。

同課 キッチン空間係 曽我彩夏氏は、「キャンペーン設計全体でどのように訴求をしていくべきか、またInstagram上でどのようなメッセージを伝えていくべきかを社内で非常に悩んでいた。そこにFacebookと協業のお話をいただけた」と今回の経緯を説明した。

CMとは異なるクリエイティブが必要なInstagram

パナソニックはFacebookとの協業を開始、Facebookはインサイトを探るべくInstagramにおける投稿トレンドの分析を行った。

例えば、「トースト」というキーワードは、調査期間中に投稿といいねなどのエンゲージメントが増加しており、投稿への反応が多いのは、アレンジレシピ系の投稿だということがわかった。

また、「在宅&ランチ」という投稿はコロナ期間中に増加していて、その後も一定のボリュームをキープしており、新しい需要であることが見えた。これらの調査は「これまで何となくそうかなと思っても確証が得られてなかったことや、見逃してしまっていたことをデータで裏付けることができ、非常に大きな価値を感じた」と富岡氏は振り返る。

パナソニックが過去に出稿したクリエイティブの分析も行った。それにより、商品で調理された料理のイメージビジュアルを先に出した上で、商品ビジュアルを出した方が、よりユーザーの反応が良かったといったことが判明した。

こうした分析結果をふまえて、今回のキャンペーンのストーリーラインをパナソニックとFacebookで策定した。しかし、色々と苦労があったという。

「料理のイメージビジュアルであるシズル感と商品情報のバランスを取らねばならず、すごく検討を重ねました。モバイルを意識したクリエイティブを用意するという点も今までとは少し違う考え方が必要でした。CMなどの場合は最後まで見てもらうことを前提としているので最後にポイントを持ってくることが多いんですが、今回のようなモバイルファーストだと、最初にポイントを持ってくる必要があります。弊社のクリエイティブチームとも連携をしながら制作を進めました。」(曾我氏)

検討を重ねた結果、トーストへのこだわりを一番に伝えることを重視し、「サクッとふんわり黄金比トースト」というメッセージに決定した。このメッセージを軸に、プラン策定、クリエイティブ制作を行った。

クリエイティブを作成するとき、時間と予算の面でCMのノウハウをそのまま活かしたいと考える企業は多いが、そのまま流用することは難しい。この点においてパナソニックは、Facebookと相談して検討した。企業が自ら投稿するケースでも、最初にメーカー名や製品名、訴えたいことを表示するように発想を転換しておくとよい。

適切な時期を見て最適な情報を訴求する

キャンペーンのプランニングには、マーケティングフレームワーク「ジョブフロー」を導入した。顧客のジョブから購入までのファネルの各段階で、トースターやビストロが顧客にどう認識されているのか、またどう認識されたいのかを整理して表に落とし込んだ。

ジョブフローの設計では、顧客の心理と認識してほしい内容などをすべて言語化した。認識フェーズごとに認識変容を起こすためのコミュニケーション内容、それに活用するコンテンツ、広告メニュー、クリエイティブ、そしてそれに基づくKPIなど、非常に細部までFacebookと共に組み立てた。その後、バナーに添える文言などをひとつずつ、ジョブフローに合わせて設計していった。

「ビストロはとても多機能な商品ですので、メーカーとしてお伝えしたいことは山ほどあります。例えば食パンをトーストするにしても厚切り、薄切りといったパンの厚さであったり、常温か冷凍かといった保存の状態によってプログラムを変えることで、誰でも黄金比トーストに焼き上げることができます。トースト以外にも、ハード系のパンや総菜パンもお任せできますし、コンパクトなオーブンとしてグラタンやグリル野菜を作れてしまいます。その美味しさを支えているのが当社の独自技術である遠近トリプルヒーターとインテリジェント制御という機能になります。

というようにお伝えしたいことはたくさんあるのですが、すべてをバラバラと一方的にお伝えしたり、当社の持つ技術面だけを強く訴求しても、お客様には伝わりません。そこで、お客様に何をお伝えしたら商品の良さに気付いてもらえるのかをジョブフローに沿って考えて、それを一つ一つクリエイティブに落とし込んでいきました。」(曽我氏)

企業が新製品を紹介するときはすべてを伝えたくなるが、今回はインサイトをデータドリブンでしっかり検討し、メッセージを絞っている。スマホを手にしているときは特に、情報をすばやく効率よく入手したいと考える人が多い。情報の厳選は他の企業がプランニングする場合でも役立ちそうだ。

Instagramが提案しているメディアプランも利用した。今回のキャンペーンにおいては、フルごとで広告配信をしたオーディエンスグループと、アッパーファネルだけ広告を当てたオーディエンスグループで、それぞれブランドリフトの調査を行った。フルファネルで広告配信をしたグループの方がブランドリフトで高い効果を得られた。

Facebook Japan 営業部長 伊坂英雄氏は、今回のキャンペーン結果として、広告想起としては業界平均の2.5倍、そして「サクッとふんわり黄金比トーストと聞いて一番に思い浮かべるブランドはどれですか」というメッセージ想起については、業界平均の2.8倍という良い数値を残したと発表した。

富岡氏はキャンペーンを振り返り、「CMを打たずにInstagram中心の施策で売り上げを旧モデルの2倍にできた。Instagramの特徴を理解して最大限に効果を引き出したこと、Facebookとコミュニケーションプランを作成したこと、そしてジョブフローにより注力すべきメッセージを最適化できたことが成功の理由だった」とまとめた。

今後の展望として曽我氏は、「Instagramはネット検索を行う前に触れるツールとしても使われるようになっていますので、ビジュアルや雰囲気を伝える媒体としてうまく活用しながら、オーガニックと広告の連携強化というのも図っていきたいなと思っています」と述べた。

イベント後の10月、Panasonic Cooking公式アカウントは、食のセレクトショップ「DEAN & DELUCA」とのコラボレシピの作り方をInstagramライブで紹介した。今回のキャンペーンにとどまらず、調理家電全体でInstagramの積極的な活用を継続している。

今や企業において無視できない存在となったInstagramは、様々な活用が行われている。今回は新商品キャンペーンにInstagramを活用した事例だが、実店舗への誘導や実売に結び付ける活用もできる。コロナ禍でリアルなPR活動が難しくなっているが、Instagramをうまく活用してオンラインでの存在感も高めることが成功への道程だろう。

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ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー
鈴木 朋子

SNSが専門でtoB、toCともに取材し、最新トレンドを常に追っている。身近なITに関する解説記事も執筆しており、初心者がつまずきやすいポイントをやさしく解説することに定評がある。スマホ安全アドバイザーとして、安全なIT活用をサポートする記事執筆や講演も行う。近著は「親が知らない子どものスマホ」(日経BP)、「親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本」(技術評論社)。著書は監修を含め、20冊を越える。
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