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新聞配達からツーリングまでを乗りこなす

諸君、スーパーカブはいいぞ!

author: 佐藤 旅宇date: 2021/10/15

このところ何かと話題のバイクといえばホンダの「スーパーカブ」。もちろん実用二輪車としてはとっくの昔から世界中で圧倒的な成功を収めているモデルですが、ここにきて「趣味」のバイクとしての存在感も急速にデカくなり、街のあちこちで目にするようになってきました。

登場以来、品薄状態が続いている「CT125 ハンターカブ」。アップタイプのマフラーやエンジンを保護するスキッドプレート、大型リアキャリア、エンジンへ送り込むエアの吸入口を通常よりも高い位置に設置するなど、往年の名車「CT110」で象徴的だったディテールを再現。大人が胸を張って乗ることができる125㏄バイクとして新境地を開いた。

いま、スーパーカブは新聞配達から趣味の乗り物に

その象徴的な現象が2020年に登場したバリエーションモデル「CT125 ハンターカブ」の大ヒット。こちらのモデルの車両本体価格は何と税込み44万円という、カブシリーズとしては異例の高価格にも関わらず、発売から1年以上が経った現在でも品薄が続くという人気っぷり。これ、“新聞配達で使われているバイク”という、従来のスーパーカブのイメージやポジションでは、ちょっと考えられないですよ。

「新聞配達のためのスーパーカブ」から「趣味のためのスーパーカブ」へとイメージが変容し始めたのは2009年に「スーパーカブ90」が「スーパーカブ110」へとモデルチェンジしたあたりからでしょうか。1958年の初代スーパーカブ以来の伝統だったバックボーン+プレスフレームという独創的な車体構造を捨て、オーソドックスなバックボーンフレームを採用する大革新を敢行したんです。

こちらが現代のスタンダードモデル「スーパーカブ110」。ポップな車体カラーが用意され、いまや趣味のバイクとして完全に定着している。昔のスーパーカブのイメージしかない人はその動力性能の高さに驚くことだろう。

フロントサスペンションは従来のボトムリンク式からテレスコピックフォークへ。バイク乗り以外の人は何のこっちゃってハナシですが、要は従来のモデルと比べて走行性能が格段に進化したんスよ。幹線道路の速い車の流れにも難なくついていけるほどに。車格もひと回り大きくなり、それまで良くも悪くも「自転車以上、バイク未満」な乗り物だったスーパーカブが、いきなり現代的な「バイク」に生まれ変わったのです。

それまでのスーパーカブというのは遅いけど存分に軽く、コンパクトで、どんな道も気軽に停車して乗り降りでき、気軽に止められる。そういう独特な特性を備えた乗り物でした。なぜなら新聞や郵便の配達用としてなら、高度な走行性能よりも、取り回しやすく、燃費が良く、構造がシンプルで壊れず、安価であることが求められていたからです。

構造がシンプルでカスタムしやすい点もスーパーカブ人気の理由のひとつ。国内外のメーカーから様々なカスタムパーツが発売されており、自分のライフスタイルに合った1台を作りあげることができる。写真は毎年開催されている「カフェカブミーティング in 青山」の様子(2020年はコロナの影響でオンライン開催)。

ところがスーパーカブってのは世界的な商品なのです。日本のニーズはそうでも、他国のカスタマーの志向や使われ方はまた違う。スーパーカブが史上最大の変革を遂げて一人前のバイクになった(なってしまった)理由は、日本よりもはるかに規模の大きい東南アジア市場のニーズに合わせて車体が統一化されたからです。

そうして生産コストを下げないとますますグローバル化が進む市場で競争力を失ってしまうという判断ですね。パーソナルユースが多い彼の地では、日本よりもしっかりとした機動力が求められるのです。

スーパーカブの特徴のひとつに優れた「ステルス性能」が挙げられる。例えば地方の農道なんかをバイクで走っていると近隣住民から不審な目を向けられることもあるが、日本全国で「生活の足」として認知されているスーパーカブならその心配は少ない。より自由度の高いツーリングが楽しめるのだ。

当時、私を含む、従来のス―パーカブのファンは大いに戸惑いましたね。デザインこそよく似ていても、外装はすべてプラスチック製に変わり、従来のスーパーカブがもっていた伝統的な民具のような温もり感、愛嬌は跡形もなく消失。走りは格段に進化したけど、古くからのファンにしてみれば、そののんびりとした走行性能もスーパーカブならではの魅力のひとつと認識してましたから。これならフツーのバイクでええやんと何とも釈然としなかったもんです。

ただ、そういう石頭はバイクユーザー全体のごく一部。当初は物議を醸した「スーパーカブ110」は時間の経過とともに通勤、買い物、ツーリング、アウトドアレジャーまで使えるマルチな「バイク」として、従来とは異なる新しい層に受け入れられていきました。

二代目「クロスカブ110」の衝撃

そして決定的だったのが2018年に登場した二代目「クロスカブ110」。これは、「スーパーカブ110」をアウトドアユース向けにアレンジしたバリエーションモデルです。2013年に登場した初代モデルは何となく実用車の色を消し切れていない中途半端なアウトドア感だったのですが、この二代目からいかにもホンダらしい遊び心を感じさせるデザインへと一気に洗練されたんですね。当然、発売されるやいなや大人気に。

こちらは2018年に登場した二代目「クロスカブ110」。スーパーカブ110をベースにしながら、レッグシールドを廃したアクティブなスタイリングによって実用車イメージを払拭。バイクファンのみならず、アウトドア好きの間でも大人気となった。

私も登場後すぐに試乗しましたが、これはイイと感心しましたね。実用車ではなくレジャー用のバイクとしてなら、110㏄のパワフルなエンジンや大柄なボディサイズ、がっちりと強靭なバックボーンフレームの車体構造もすべてポジティブに受け入れられる。キャンプや釣りなどを楽しむレジャー用バイクとしての高い完成度に、私の古いスーパーカブ像はガラガラと音を立てて崩れ落ちました。

「CT125 ハンターカブ」にいたっては、当初から完全なる大人向けのホビーバイクとして登場しました。個人的にこのモデルはスーパーカブだけではなく、日本の125㏄バイクの概念すら変える画期的商品だと思っています。

これまでの125㏄バイクって軽便な日常生活の足、あるいは中・大型バイクを縮小コピーみたいな入門スポーツモデルが多かったんですが、「CT125 ハンターカブ」は125㏄ならではのイージーさと軽便さを持ちながら、乗っても眺めても大型バイクと同等の「イイモノ感」が車体全体にみなぎっている。いわゆる「クラスレス」な商品なんです。

その分、相当に高価な値付けになってますが、かねてから中古市場でプレミアが付くほど人気となっていた往年の名車「CT110」をデザインモチーフにすることで説得力を高めるというあざとさ。そういう裏付けがあると年季の入ったベテランライダーだって思わず欲しくなるわけですよ。

現在のスーパーカブ人気の背景には、バイクユーザーの平均年齢が50歳以上にまでに高齢化していることも大いに関係あると思ってます。私自身がそうですが、加齢で体力が衰えると大きなバイクを扱うのはどうしても億劫になるし、長距離ツーリングに出かける機会も減ります。

ついでに年を食うと嫌でも若い頃より自然や文化や歴史などの教養が深まって身近なモノ・コトから様々なバックグランドをイメージできるなるようになる。だからスーパーカブで下道をトコトコ走るだけでも充足感のあるツーリングになるんですね。

こちらは私が所有するスーパーカブ。ブロックタイヤに履き替えてちょっとしたオフロード走行にも対応できるようにしてある。アジア製のカスタムパーツを駆使すればそれほどお金をかけずに自分好みのスタイルに仕上げられる。

スーパーカブのある生活

とまあ色々とアツく語っておきながら申し訳ないのですが、私が所有しているのは92年式モデル、いわゆる「C50」って古いやつです。排ガス規制前の4.5馬力仕様。ノーマルでも最高速65km/hという俊足?です(笑)。十数年前に知人からタダでもらったものですが、入手直後にキャプをOHした以外はこれといったトラブルもなく健気に動いてくれています。

日常の足として普段から使っていますが、一度だけ神奈川県から福島県までキャンプツーリングに行ったこともあります。1Lのガソリンで50km以上も走るうえ、無料のキャンプ場を利用したので一泊二日のツーリングなのに1500円ぐらいしかお金を使いませんでした。それで二日間も楽しめるんだからコスパ良すぎて笑っちゃいますよ。

風を切って走る爽快感や、マシンとの人馬一体感。機械いじり面白さ、苦労、エンジンの鼓動感にエグゾーストノート、レース……私は原付から大型までかれこれ20台以上のバイクを乗り継いでいますが、バイクの楽しみの7割ぐらいはスーパーカブでも享受できると思っています。どうです? そろそろ欲しくなってきましたか?

有名観光地ではなく、身近な場所で「自分だけの」絶景を見つけるのがスーパーカブのツーリングの醍醐味。昔と比べ、現代のスーパーカブは車格も性能も随分と立派にはなったが、気になる風景を見つけたら気軽に止まれるという美点は不変だ。

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編集者・ライター
佐藤 旅宇

オートバイ雑誌、自転車雑誌の編集部員を経て2010年からフリーランスの編集ライターとして独立。タイヤ付きの乗り物全般や、アウトドア関連の記事を中心に雑誌やWEB、広告などを手掛ける。3人の子どもを育てる父親として、育児を面白くする乗り物のあり方について模索中。webサイト『GoGo-GaGa!』管理人。1978年生まれ。
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