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アート

作品と作家の手法が交差する場づくり

デザイナーの蔵出し作に光をあて販売もする画期的な展覧会

author: 高橋 正明date: 2021/09/29

東京を代表するデザイン・イベントとして5年目を迎え、ますます注目を集めるDESIGNNART TOKYO(デザイナート・トーキョー、2021年10月22日から30日まで開催)。2021年のテーマ「チャンス」のもと、インキュベーションスペースであるワールド北青山ビルを舞台に、デザインプロセスを体感できる“着想”のエキシビジョン「KURADASHI ~発想の原型〜」が展開される。キュレーターをつとめるのがデザイナーの倉本仁氏だ。日本のデザイン・シーンで最もアクティブな活動を展開して国内外での発信力も高い。大手家電メーカーのインハウスデザイナーを経て独立後、家具、家電、日用品からクルマや淡路島の地場産業の企画まで幅広いスケールで精力的な製品開発を行なっている。今回のテーマ「チャンス」について倉本氏にうかがった。

倉本仁氏(JIN KURAMOTO STUDIO代表)

「デザイナーや建築家のスタジオには価値のあるものが眠っているんですよ」。完成に至るプロセスでアイディアの検証に使われる試作モデルのことである。

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倉本仁氏のオフィスにて。

「作り手がデザインするプロセスでつくられた物を捨てられずに取っておくのは、そこに価値を見出しているからなんです」。倉本氏はこのようなアイディアの原型をプロトタイプとは呼ばず、“アーキタイプ”とあえて呼んでいる。「試作品の90%以上は製品が完成するまでに捨てられるが、つくり手の手元にごくわずかに残されたものを蔵出しして光を当て“チャンス”を与え、展示しその価値を数値化する上で値段を付けて販売もする」というのが今回の「KURADASHI ~発想の原型〜」だ。

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倉本氏が手がけたガラス製の水差し(Nedre Foss「Vannfall」)。多様な素材を使ったモックが、今も残されている。

倉本氏は多くの知人に連絡して作品を募り若手からベテランに至る作家の参加を得た。柴田文江、長坂常、二俣公一、鈴木元、寺山紀彦、ミナペルホネン、安積朋子、芦沢啓治、関祐介、柳原照弘、藤城成貴、若手では秋山亮太ら各氏。また海外からは、ダニエル・ライバッケン、ヴィクトリア・ウィルモットらが参加予定という。

「作家本人が手放したくないような、個人的に大事にしているものこそ出品してもらいたと思った」と倉本氏は笑う。価値にも機能的な価値と文化的な価値があり、後者にこそ今回は重きを置いていると言う。倉本氏のこうしたものづくりフィロソフィーはアートとデザインとの融合を謳うこのデザイナートというイベントにこそふさわしいだろう。つくり手側からデザインすることの原点を問いかけるものが感じられる。

「20人〜30人のデザイナーのそういう試作品が集まれば、それぞれのアプローチや価値の置き所の違いも分かる展示になる。これは作品を見て買う側の意識の違いにも呼応して、両者の意識のトレードが起こる」。

昨今、コロナ禍を過ごす中で遠く離れた人とのコミュニケーションがとりやすくなった。例えばデザインの仕事でも、海外の現場でプロトタイプのチェックをするのに、従来なら欧州への渡航時間を含め最低4日間かかったが、今はネットを使い、コミュニケーション解像度の高さを望まないのであれば、2時間くらいですませられると倉本氏は言う。

そうしたスピード化とは対照に、パンデミックによってわれわれは室内にこもりがちのスローダウンした環境にもなっている。そのことはデザインにどういう影響を与えているだろうか。

「サステナビリティに絡めて言えば、モノを大事にする人が増えているのではないでしょうか。使い捨ての紙のコップや皿に対する意識も変わってきて、本物のコップや食器を使った方が豊な時間を過ごせることが分かってきた。しかもゴミとして出さないですむ」。

デザインが生活意識と関係の深いものであるなら、デザイナーはそれを豊かにすることが仕事であるだろう。若い層のデザインのリテラシーは近年上がってきている。カラー、マテリアル、フィニッシュ(仕上げ)のデザインの三要素の英語の頭文字をとってCMFと略すが、昨今このデザインの原点というべきCMFへの一般の認識も高まっており、倉本氏もデザインのアプローチの中でそれを特に重視していると聞く。

「世の中全体のものを見る目が変わってきていることだと思います。ここ10年くらいはハンドクラフト的なものが流行ってきていますし、ヴィンテージものは相変わらずの人気です。地方の現場でも職人を目指す若者が増えてきましたし、作家もSNSで発信しやすく、作品を販売するのにも中間業者を経ずにダイレクトになりました」。

こうした傾向もアートとクラフト、デザインの融合を連想させ、ニュースタンダード時代のデザインの新しい提案としてマッチする。

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 スキーマ建築計画 / まかない家具

KURADASHI ~発想の原型〜の会場構成で倉本氏はアーティストの松延総司氏とコラボする計画だ。松延氏の手法は、例えば包装紙やガムテープのようなありふれた物や道具が用い方次第で日常と切り離れた意外感の衝撃を与えるシュルレアリスムのデペイズマン的なアプローチを特徴とする。

「展示が開かれる青山の大理石張りのビルのラグジュアリーなロビー空間と人の手のラフな痕跡を残すプロトタイプの作品とがうまくコントラストを出せたらと思います」。

作品が並ぶ展示台は作品より目立たないが、展示台そのものも見るに値する価値のあるものにしたいと語る。展示物と展示台の自由な等価交換とはユニークな発想である。

「“見ようとすると見えるが引いて見ると見えない”微妙な境界にある情報の表現が何気ない日常のプロダクトからどう伝わるか。そのあたりも見てもらえたら面白いでしょう」。

最後に展示作品を購入できるメリットも忘れてはならない。「買えるということはその作品が公にされるということです。作家のもとにあったら眠っているだけかもしれない作品が公開されて、作家のそれぞれのデザイン手法思考が見える、作品どうしでの比較対照もなされる。作家の値踏みと買い手の希望が合致して契約が成立することの面白さです」。

今回、主催となるデザイナート・トーキョーは、掲載手数料0円のクラウドファンディングサービス「うぶごえ」の協力のもと、作品とユーザーを繋ぐプロジェクトページを用意し、実際の展示作品を目で見て、クラウドファンディングで購入するまでの体験を提供している。

この新しいクリエイティブマーケットは、またとない世界に向けてのクリエーターの蔵出しといえるだろう。倉本氏という創造的なディレクターを迎えて、この展覧会がこれからのデザインの新しい見せ方、あり方を提案する画期的なイベントとして世界に発信されるだろう。

KURADASHI ~発想の原型〜

参加デザイナー:秋山亮太、 芦沢啓治、 安積朋子、 Anker Bak、 板坂諭/h220430、 we+、 Victoria Wilmotte、 Øivind Slaatto、 Gabriel Tan、 熊野亘、 Claesson Koivisto Rune、 倉本仁、 GELCHOP、 柴田文江、 Sho Ota、 鈴木元、 セキユウスケ、 Daniel Rybakken、 寺山紀彦、 DRILL DESIGN、 長坂常/スキーマ建築計画、 藤城成貴、 前田麦、 松山祥樹、 minä perhonen、 元木大輔、 柳原照弘、 山中一宏、 YOY、 吉行良平 

設置期間:2021年10月22日(金)〜31日(日)

場所:ワールド北青山ビル 1F(東京都港区北青山3-5-10)

企画:DESIGNART

協賛:うぶごえ株式会社

コーディネーター:今川拓人

※うぶごえサービスサイト:https://ubgoe.com/(コンテンツは10月上旬アップ予定)

倉本仁(くらもと じん)

JIN KURAMOTO STUDIO代表。家具、家電製品、アイウェアから自動車まで、多彩なジャンルのデザイン開発に携わるデザイナー。素材や材料を直に触りながら、機能や構造の試行錯誤を繰り返す実践的な開発プロセスを重視。プロトタイピングが行われているスタジオでは、常にインスピレーションと発見に溢れている。

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DESIGNART TOKYO 2021

開催期間:2021年10月22日(金)〜31日(日)

開催エリア:表参道・外苑前 / 原宿・明治神宮前 / 渋谷・恵比寿 / 代官山 / 六本木 / 銀座

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 倉本仁氏のオフィスにて。

撮影/下城英悟

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高橋 正明

建築、デザイン、アートを取材するライター、翻訳者、キュレーター。オランダのFRAME誌や英、米、独、香港、マレーシア等国内外の雑誌媒体に寄稿。『建築プレゼンの掟』『建築プロフェッションの解法』『DESGIN CITY TOKYO』など著書多数。翻訳書に『ジェフリー・バワ全仕事』『カラトラヴァ』などがある。近著は『MOMNET Redifininfing Brand Experience』。建築家を起用したDIESEL ART GALLERYでのキュレーターや韓国K-DESIGN AWARD審査委員なども務めた。2018年からJCD(商環境デザイン協会)主催のトークラウンジ「タカハシツキイチ」のモデレーターを続けている。東京生まれ、独英米に留学。趣味は映画。
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