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仕掛け人は住民たち!

極寒の地アイスランドのクレイジーな年越しカウントダウン

author: 堀 真菜実date: 2021/08/28

大自然と共生する国アイスランド。冬季には、緑が茂る夏とはまったく違った顔が見られる。白夜に近い夏に対して、日照時間はたった4時間ほどで、気温は氷点下となる。おまけにもともと物価が驚くほど高い国だが、それでもオーロラや流氷、青い氷の洞窟など、ここでしか見られない神秘的な絶景を求めて、多くの旅人が極寒のアイスランドに足を運ぶ。

さて、せっかく冬のアイスランドに行くのなら、私は首都レイキャビクで新年を迎えることを強くすすめる。さほど知られてはいないが、アイスランドの年越しには、世界各地のカウントダウンイベントとは一線を画す面白さがある。

トラベルプロデューサー堀真菜実が「人生に一度は行くべき、アイスランド年越しの旅」をご紹介する。

ヴァトナヨークトル氷河のアイスケイブ。数世紀にわたって圧縮された氷には空気や不純物がほとんど含まれず、太陽が当たると青色に見える。天然のスーパーブルーで名高い洞窟は、多くの旅人にとって憧れの地である。安全上、冬季の天候が良い日にしか入ることができない。

主催者なし! 自然発生のカウントダウンセレモニー

Adobe Stock©Danil Nikonov 

世界中の年越しイベントと同様、アイスランドの年越しのメインは花火である。では何が違うのか。まずは町全体がカウントダウンの舞台であること。そして、いわゆる「イベント主催者」がいないこと。大晦日の一大イベントは住民たちの手作りで行われている。

アイスランドでは、年末が近づくと新年を祝うための花火を買い込む慣習がある。年越しの瞬間には、これを各家庭が一斉に打ち上げるため、まるで町に大爆発が起こったかのような熱気に包まれる。あちこちから上がる花火が、結果的にひとつの巨大な花火セレモニーを作り上げるわけだ。

誰かが仕切ることも、いつどこで打ち上げるべきというルールもない。主催者がいないので、当然ながら予約や場所取りも不要。町のメインスポット、丘の上、あるいは船上など、さまざまな場所へ移動してこの光景を眺めるのも面白い。

花火を販売するのは、アイスランドの市民を守るレスキュー隊。売上は、ボランティアで活動する彼らの資金となる。市民はレスキュー隊への支援として喜んで購入し、かつ、年越しの楽しみを手に入れる。話を聞いた現地人の家では、毎年数万円分は購入するそうだ。Adobe Stock©Martina

世界中のイベントに負けない、花火のシャワー

新年を祝う花火のシャワーを見て浮かんだ言葉は、「めでたい」でも「美しい」でもなく、「クレイジー」だった。

日本の花火大会で一発の大きさや美しさを味わうことに馴染んだ身からすると、その数と距離感が尋常ではない。一般の人が扱う打ち上げ花火なので、何しろ距離が近い。新年を迎える瞬間には、頭上10mほどのところで、同時に何百発もの花が咲く。夜空が一気にライトアップされ、見渡す限り360度が火花と煙で埋め尽くされる。ドドドドド、と内臓に響く破裂音の連鎖が、数十分にわたって途切れることなく続く。

首都レイキャビクのシンボルでもあるハットルグリムス教会前の広場は、特に人が集まるため大迫力だ。花火と同時に、打ち上げを楽しむ人々を見ることもできる。道中、花火を上げる人たちと「Happy New Year!」と挨拶を交わして歩けば、まるで町全体がイベント会場のようだ。

自然発生のこのイベントには、カウントダウンのスクリーンも無い。時計を見ながら自分たちでカウントダウンをして新年を迎えた。花火の近さと数がすさまじいので、ゴーグルの持参をおすすめする。Adobe Stock©Danil Nikonov 

ただし、このクレイジーな花火セレモニーが大きなトラブルもなく成り立つのは、平和と秩序を重んじるアイスランドの国民性があってこそ。

アイスランドはとにかく治安がいい。日頃から、ありのままの自然を受け入れ、モラルを守り、穏やかに暮らす人々。国民の人口よりも羊の数が多く、首都のレイキャビクでさえ、人混みらしいものを見ることはない。

そんなアイスランドで、人々が屋外に集まり、熱狂を見せる数少ない瞬間。一年のエネルギーが凝縮された、世界中でここだけの極寒の年越しは、どのカウントダウンよりも熱かった。

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トラベルプロデューサー
堀 真菜実

新しい旅を作るトラベルプロデューサー。世界弾丸一周、廃校キャンプなど、手掛けるツアーは即日満席。はじめましてのメンバーで行く「シェアトリップ」の仕掛け人として、数千人の旅人と国内外を巡り、その経験をもとに、地方自治体や海外の観光局と、観光資源の発掘やツアー造成を行う。人と地域を繋ぐ場作り、メディア出演などでも活躍中。
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