福岡に僕が日本最高の立ち飲みと称した立ち飲み屋があった。あったということはもう無いわけなのだけれど、その「赤たん」の店主・西山さんが店を後進に譲ったその後に開いた店はなんと中津唐揚げのフランチャイズ店だった。この予想を斜め上どころじゃ無くかなり超越した転身には常連客の誰もが度肝を抜かされたのだけど、実際行ってみると「赤たん」スピリッツ溢れる唐揚げ店となっていた。この最強店「とりあん六本松店」に関しては本連載でも詳細にご報告済みであり、ここまではそのおさらいということになる。
さて、先の見えないコロナ禍の中、朗報が舞い込んだ。なんと西山さんがまた絶品焼酎を揃えた立ち飲み店を始めるのだという。その名も「丹ぜん」。場所は福岡県知事公舎もほど近い閑静な住宅街・白金。福岡の味として県外にも広く知られている「皮焼き」の代表店「とりかわ粋恭」や、観光客は全く訪れない知る人ぞ知る名居酒屋「久米」など名店が多く軒を連ねる薬院からも遠くない絶妙なロケーション。つまり0次会に良し、会食から流れて一人焼酎を味わうのも良し。
外から見るに古民家風のカフェかなにかの居抜きだろうか。思わず靴を脱いで上がりたくなるが土足のまま入る旨指示あり。廊下の先には「赤たん」を彷彿とさせるカウンターの立ち飲みスペースとテーブル席。オープン間もないのにかつての常連が集まっているのか満席御礼。玄関の脇に実は個室があるそうで、そちらではどうかと提案される。大勢で来るには良いスペース。
いやぁ、しかし相変わらずの焼酎ラインナップ。西山さんはまだまだと謙遜なさるが、東京では夢のまた夢。そしてもちろんリーズナブル。早速いつもの「栗東」をいただく。アテは西山さんの真骨頂、たこ焼き。2個ずつ塩とソース。こんな酒飲みに優しい細かいオーダーができるのも泣ける気遣い。たこ焼きが焼酎に合うのか? 合うんです。
かつては皆このたこ焼きを目掛けて「赤たん」にやって来ていた。そして麦チョコもよく合う。そんなマリアージュも「赤たん」で教わったんだっけ。口がさっぱりしてまた焼酎が進んで困るサメ軟骨の梅肉和えも健在。ドリンクは焼酎のほか、ウイスキーやリキュールなどもあるが、福岡のクラフトビールも置かれている。最初の一杯もしくは焼酎を何杯か続けてちょっと目先を変えるのにもちょうど良い。「白金すりおろしレモンサワー」も気になるじゃないか。
後継者の問題などで皆に親しまれたお店が閉業することがよくある。コロナのやつのせいだろう。神保町の老舗餃子店「スヰートポーズ」が閉店したことは記憶に新しい。斜向かいの歴史ある洋食店「キッチン南海」も続けて営業を終えた。こちらは建物の老朽化が原因のようだが。ただ「キッチン南海」は暖簾分けという形で、ほど近い場所に新店がオープンした。今も「包丁人味平」のブラックカレーのモデルと噂されるあの漆黒のカツカレーをこの地の人々に提供し続けている。「丹ぜん」は名店を閉じたご本人が再びアップデートし蘇らせるという稀有なケースだろう。良い店はずっと続けてもらいたい。一番の応援は我々が足繁く通うことなのだ。
丹ぜん
立ち飲み屋
住所:〒810-0012 福岡県福岡市中央区白金2-15-17
電話:092-521-5007
営業時間:17:00~24:00
※新型コロナウイルス感染対策のため、営業時間は変更の場合がございます。