ミレニアム世代(M世代)に代わって、次の社会の主役として注目を浴びている「Z世代」。テレビやインターネットでは彼らに関する特集が目立つようになってきている。今回はミレニアム世代である筆者の視点から、「なぜZ世代は注目されているのか」「Z世代を知ることが何に繋がるのか」を解説していく。
M世代とZ世代の間にある
大きな価値観の差
筆者は現在、コンサルティングファームでジュニアコンサルタントとして業務を行うかたわら、「2度目の大学生」として九州大学共創学部に在籍。Z世代の学生とともにキャンパスライフを過ごしている。Z世代とは、日本では1996年以降の世代を指すことが多いが、筆者は1995年生まれ。ぎりぎりミレニアム世代に区分される。
世代が違うとはいえ、その差は1年。音楽やゲームなど親しんできたエンタメに多少の差はあれど、大きな違いはないだろうと思っていたが、実際にZ世代のコミュニティに入ると、そこにはミレニアム世代とは大きく違う価値観があった。
ネット社会で価値観が形成された
最初のデジタルネイティブ
価値観の違いはどこから生まれたのだろうか。Z世代が注目を浴びる理由のひとつに、彼らが「完全なデジタルネイティブ世代」であることが挙げられる。
一般的にデジタルネイティブ世代といえば、ミレニアム世代からと言われているが、これは当事者であるわれわれミレニアム世代からすれば違和感がある。筆者はZ世代に近いミレニアム世代だが、LINEに初めて触れたのは高校生だった。スマートフォンをまわりが持ち始めたのは高校生の終わり頃(2013年ごろ)からで、パケットを気にしながらガラケーを使っていた世代でもある。
ミレニアム世代はガラケーからスマホへの転換期やTwitterの黎明期、GAFAが国家を超える様を中高生として間近に見てきた。一方、Z世代は、スマホが世界中に普及し、GAFAが席巻し、さまざまなSNSが社会のプラットフォームに「なった後」の世代。昨今のデジタル社会の始まりを知らず、それが当たり前にある世界で大人になったのだ。
完全なデジタルネイティブ世代であるZ世代と、デジタル社会の黎明期を知るミレニアム世代との価値観や感覚の差は、それよりも上の世代から見える以上に大きい。ミレニアム世代の筆者から言わせれば、Z世代こそが「ネット社会に影響を受けながら価値観が形成された最初の世代」なのである。
いつでも繋がっている時代と
SNSに潜む「小さな炎上」
Z世代の価値観を語るうえで避けて通れないのがSNSだ。SNSが登場し、生活に浸透したことでコミュニケーションのあり方は大きく変わった。友人がどこに行っていたのか、何を見ていたのかをSNSの投稿を見て知っていて、そのことについて会ったときに話すのが当たり前になりつつある。
しかし、友人とオンライン上でいつでも繋がっている時代になったことは「負の側面」も持っている。SNSでお互いにフォローしていることが相互監視のようになってしまうことがあるのだ。
本人は何気ないつもりで投稿したものが、たまたま一部の人の反感を買ってしまい、陰口を叩かれてしまう。政治や社会問題、スポーツに関して意見を発信したら知らない人からSNS上で反論や批判を受ける。さりげない投稿から会社や学校のずる休みがバレてしまう。このような経験は多くの人にとって身近なものだろう。これを「小さな炎上」と呼ぶが、小さな炎上は一般的な炎上と違ってありふれた日常のなかに存在し、すぐそこにある危機だ。特に、Z世代はそう認識している。
Z世代はネットとリアルが密接に結びついているため、小さな炎上はネット空間上だけでなく、リアルなコミュニティでも起こるようになった。これまでは知らない人から、SNS上で反論されることはあっても、SNSの投稿がきっかけで学校で陰口を言われたりするようなことはなかった。
だが、今は違う。この小さな炎上への危機感がZ世代の日常生活にはつきまとい、リアルでもインターネット上でも常に誰かの目を気にしているのである。
心理的安全性に敏感なZ世代の
背景にある小さな炎上
Z世代の価値観は、この「小さな炎上」の影響を大きく受けている。10代の多感な時期から小さな炎上に向き合ってきたZ世代は、無意識のうちに小さな炎上を避ける行動を好むようになっている。
「小さな炎上を避けるためには他人から批判されたり、賛否の分かれる言動をしないことが重要だ」
これがZ世代のSNSへの“配慮”であり、みんなが肯定するであろうものを重視し、炎上する余地のある言動にとても慎重になっているのだ。
この小さな炎上を恐れた生活を、相互監視社会のように感じてしまう。その結果、Z世代が重要視するようになったのが「心理的安全性」だ。
心理的安全性とは、とても簡単に言ってしまえば「本音をなんの心配もなく晒け出せること」。常に監視されているような不安のなか、慎重で、炎上のリスクがない言動をZ世代は無意識のうちに選択している。その反動として何を晒しても大丈夫な場所と仲間の存在を非常に重視しているのだ。
世界をフラットに見るZ世代に
ネット社会とリアルに境界線はない
Z世代にとって、ネット社会とリアルの世界に境界線はなく、ネットでの会話とリアルな世界での会話に違いなどない。だからこそ彼らは小さな炎上をほかの世代以上に大きな危機と感じ、その反発として心理的安全性を重視するようになっている。
「Z世代はネット社会とリアルの世界に境界線を持たず、世界をフラットに見ている」
私がZ世代に注目する理由はここにある。真の意味で人々がデジタル対応したとき、ネット社会とリアルに差などないはずだ。VRやARが普及した世界で、人々はメタバース上の友人と、リアルの世界の友人を対等に扱うだろう。
ミレニアムより上の世代はネット社会とリアルの世界に境界線があった頃を知っている。この境界線の感覚を完全に捨てることは難しい。だからこそZ世代の価値観を知ることが、未来を考えるうえで重要な手がかりになるかもしれない。
この連載では、そんな真のデジタルネイティブであるZ世代が持つ新しい価値観や、ほかの世代との差にフォーカスを当てていきたい。