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香りの世界への誘い

LAの老舗香水屋に聞く、いまとこれからの香りのトレンド

author: なかやま ひろdate: 2022/10/16

先日、お香の創作ワークショップを開催するためにロサンゼルスに出かけました。その際に、お洒落なお店が並ぶメルローズにある老舗のニッチフレグランスブティック「luckyscent/Scent Bar」の一号店に立ち寄り、最近の LA の香り事情を伺ってきました。

ここ 10 年くらいの世界的な傾向としては、YUZU、Oud がトレンドになっており、次に何が来るだろうと模索していました。一部ではインセンスアコード(お香を基調とした香りのブレンド)との声もあり、「お香の香りをイメージした香水」ではなく、実際に「お香」をプロデュースするブランドが後を絶ちません。

また、香りのトレンドは季節や気候にも引っ張られる傾向が強く、夏や暖かい地域では軽い香りが好まれるなどの一般論はありますが、暖かく過ごしやすい南カリフォルニアではどうでしょうか?

luckyscent/Scent Bar 

今年の 11 月で 20 周年を迎える luckyscent/Scent Bar は、ニッチフレグランスブティックのリーダー的存在です。その始まりは、ウェブデザイン、マーケティング、カスタマーサービスのバックグラウンドを持つ創業者ふたりが、当時、LA を拠点とする Kai、Sarah Horowitz、Sage といったユニークなニッチフレグランスブランドを、より多くのユーザーに紹介するアイデアに基づきます。ニッチなブランドを紹介するという点では、2017 年にローンチした日本の NOSE SHOP も似ています。

オンラインショップとして始まったアイデアは、オンラインでの体験を実店舗で実現するために、ワインバーのような雰囲気の中で、香りを楽しみ、新しい発見ができる Scent Bar へと発展します。LA ベースのニッチブランドから心躍るような特別な香りを世界中から集めてキュレーションする取り組みを続けています。

その後、店舗数も増え、2017 年にはダウンタウン LA、2019 年には最大の市場で、競合がひしめくニューヨークの SOHO へ参入。そういえば、ニューヨークの店舗では、Angel by Mugler など著名な香水を手がけたマスターパフューマーの Olivier Cresp さんと 47 分の入れ違いになったことがあります。

DTLA ROW と言われるダウンタウン LA にある商業施設での店舗は、コロナの際に他の多くの店舗がクローズするのを余儀なくされた時でも、ずっとオープンできたそうです。

Scent Bar は、百貨店のようにプレッシャーのない販売環境で、自分のペースで多くの香りを試香することができます。私自身がニューヨークの Bloomingdale’s という百貨店で半年間ほど週末バイトの販売員を経験したことがあり、日本の街頭のティッシュ配りのように、次から次へて試香紙が渡される戦場のような場で、ゆっくり香りのショッピングを楽しむことが叶わない環境とは異なって、ひとりで、友人同士で数ある香水を試すこともできますし、スタッフに紹介してもらいながら、自分の好きな香りを発見することもできます。

ちなみに、私は毎回、ふたつのポイントで試香します。最新の香水と担当スタッフの方の好きな香り。香りの知識は様々です。初心者からベテランまで、どのレベルの方々にも豊富なニッチフレグランスブランドをナビゲートするサポートをしています。

実際に気に入った香りを使ってみたいという方には、無料でサンプルを渡しています。後で後悔するようなボトルを購入するよりも、サンプルで試して、納得してから購入に戻ってきて欲しいという彼らの想いがあります。今でこそ当たり前のサンプリングを、luckyscent では早くから導入していました。

Scent Bar の目標は、シンプルに「人々を幸せにすること」です。気に入った香りのフルボトル、サンプル、または何も手に持っていなくても、幸せな気持ちでいっぱいいになって Scent Bar を後にすること。

さて、オーナーのフランクさん自身も、お父様へのオマージュとするフレグランスライン「FRANK」を展開しています。私と彼は 10 年来の知り合いで、私がお香ブランド「Bridge and Blend」を始めるキッカケになったのは彼の一言でした。

グローバルでも Scent Bar のようなニッチフレグランスを専門に扱うブティックが増え続ける中、「フレグランスは成長市場であり、ブランドのグローバル化により、香りのキュレーションはチャレンジングになっています。よりテーラーメイドな体験を提供するために、求められるキュレーション方法に試行錯誤しています」と語ります。

3 つある店舗では各店舗のカスタマーが求める香りを店舗別にキュレーションしてます。

Scent Bar Hollywood

こちらの店員さんの多くは、もともとカスタマーだったことが多く、今回お話しした店員さんも元カスタマーでした。

今回、出迎えてくれたのはジョニーさんとエミさん。滞在時間、約 1 時間。全部で 1100 の香水を扱っており、まだ出逢えていなかった香水すべてを網羅するのは到底無理だったので、いま売れ筋の香りだけを試香。

売れ筋ブランドは日本でも購入可能な BDK Parfums と Matiere Premiere でした。特にそれぞれ世界的にも人気の Gris Charnel と Encens Suave でした。

新たに出会った香りは、南アフリカのブランド Neo-Animism。「生」を感じるフレグランスだそうです。アフリカの海のミネラルのノートと、人間と水の関係を表現しているそうです。

最近の傾向を伺ったところ、ウッディーやグルマン系。香りが強く(インテンスとも言います)、比較的寒い時期に暖かさに包まれている気分になる香りで、夏にはあまり身に付けないので、一年中暖かい気候の南カリフォルニアでのトレンドとしては驚きました。

一方、数年前、Parle de Moi de Perfume の Benjamin Alamac が 三越伊勢丹新宿店の Salon de Parfum 出展・登壇で来日した際に、欧州ではライトな香りも人気が出てきたと話しており、昨年取材に行った Pitti Fragranze でもシトラス系のクリーンな香りを目にしました。

ニッチ愛好家が好むインテンスな香りも未だに生まれていますが、クリーンな香りや、以前も書きましたがシングルノートが増えている中、インテンスな香りは意外でした。

私なりの見解ですが、香料業界のフレーバー(味覚)部門の活性化の影響、日本でも毎週のように新しいフレーバーのスナック菓子を見かけますが、このフレーバーに引っ張られた結果、グルマンなのでは?

ということで、ニューヨークを拠点とするフレグランスマーケティングとフレーバーマーケティングを専門とする Trendincite の Amy Marks-McGee さんに伺ったところ、香ばしい風味は、徐々に香りに影響を及ぼしており、特に限定品によくみられるそうです。デザートとも思える香水やボトルデザインのローンチもセレブリティフィレフランスを中心に増えてきたとも。

香りの好みはダイバーシティー化しているのですが、トレンドの構築も変化しているのかもしれません。もう季節感で香水を選ぶ時代ではないのかもしれません。雑誌では新商品の公開のタイミングでローンチする香水や、季節感で香りを紹介している内容を未だ目にします。これが一般的なトレンドになるのですが、別のトレンド構築はもしかしたら、いま食しているその味覚かもしれません。

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香りのコミュニケーター
なかやま ひろ

香りのコミュニケーター。Project Felicia 代表。ニューヨーク・ロサンゼルス・パリ・シンガポールと海外でのキャリアが長いマルチワーカー。元広告代理店 IW Group、JWT、Burson-Marsteller、元人材会社デジタル担当、元香料会社ジボダンマーケティング担当。2017 年夏、活動拠点を日本に移し、日立製作所、Google、現在外資 CRM 企業会社員。「源氏物語が体験できるお香『Six in Sense』」を自社ブランド「Bridge and Blend」でプロディース。クラファン「Kickstarter」と「Makuake」でチャレンジ。五感を使ったマーケティングが求められる今「香り」の可能性を日々追求中。
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