3 月初め。待ちに待ったイタリアのミレニアル世代ブランド「Step Abroad(ステップ アボード)」がついに日本に上陸しました。先日公開された「ニッチフレグランスがトレンドセッターになるまで」の記事内でも記載しましたが、日本のニッチフレグランスの人気を支えているのがミレニアル世代です。若年層であるミレニアル世代へのアプローチや、彼ら彼女らのニーズに応えた商品開発により、フレグランスの分野でも生活者動向にあったマーケティング戦略が功を奏しているとのことでした。それに反応したミレニアル世代は消費者としてだけでなく、ブランドクリエイターとしても香りの世界で活躍を始めています。
香水ユーザーの増加
NOSE SHOP Inc. の中森友喜さんは、4 年前のブランドローンチ時に「香水が売れるの? しかもニッチフレグランスでしょ?」と、周りからフィードバックをもらったと言います。しかしコロナ禍で“見えないモノ”に対する認識の変化、各々“癒しの再定義”の結果、香水にも癒しを求めたのではと話します。実際、コロナを境に若い世代による購入も伸びたのだそうです。
また、1 年前のデータですが、巧みな SNS マーケティングで若者の心をつかんだ香水サブスクリプションのスタートアップ「COLORIA(カラリア)」は、コロナ禍で会員数を 7 倍以上に伸ばし、驚異的な成長を見せました。(日経クロストレンド)
能動的な選択方法
ようやく日本でも外出自粛は解かれましたが、欧米と異なりマスク着用はまだまだ続きそうです(2022 年 5 月現在)。規制が続く中、自分らしい時間の過ごし方、自分だけで楽しむ時間を築いた生活者も増えたと、以前の記事でも書きましたが、社会のトレンドが“自分軸”に戻っているようです。香りを選ぶ基準も同様に、自分が心地よい香り、自分を嬉しくするために纏う傾向にあります。
若者はファッションにはこだわっているのに、香りにこだわっていなかったことにこの 2 年間で気づいたと前述の中森さんに加え、同社の吉澤美波さんも口を揃えていました。
強い香りで、おそらく以前では香害と言われていたかもしれない複雑な香りや、ユニークなコンセプトが 20 代に好まれているようだと Nasomatto を例に出して教えてくれました。
香りに意識を向け始めた若者は、ディフューザーや香水の購入だけでは留まらず、アロマの勉強を自ら始めたり、自分で調合をしてみたり、与えられたものから手に入れやすいものを探している気がします。Twitter でも「香水の沼」の会話に参加している世代は一回りくらい若いような印象を受けます。
行動が受動的から能動的に変わってきているようで、自分で動くことで、新しい自分の発見が容易になってきているのかもしれません。自分自身の発見ができると自分の価値が形成されていきます。モノコトの選択価値が、この 2 年の間で心地良さや癒しに変化してきたのではないでしょうか。
5 - 6 年前であれば、みんなと一緒であることが大切だったのが、今では周りと同じモノコトには愛着がなくなるそうです。商品などに自分でストーリーを見出し、自分の生活に迎え入れる。自分のテリトリーというか、お話を伺いながら自分の一部になるのかと思いました。その昔、ブランドロイヤルティという表現がありましたが、それとは別次元で、あくまで自分が中心です。
ネットでポチポチする世代とは異なり、ミレニアル世代、Z 世代はネットショップであっても吟味する傾向にあるようです。ご本人自身ミレニアル世代である吉澤さんは「買い物するアクション、それ自体が尊い」と話します。「彼らが香りを選択する時には、自分の嗅覚との会話が成立している」と続けて教えていただきました。
Step Aboard
Step Aboard は、日本では NOSE SHOP で展開しているイタリアのミレニアル世代ブランドです。スプレー缶に込められたストリートの空気を香水で表現したブランドのクリエーターは Georgiana Mocanu さんと Daniele Morando さん*。フィレンツェで最後に訪問したブースにいた Georgiana からは知的さと勢いを感じました。
*Morando さんは現在、退社しています。
今年 3 月の日本上陸の際の取材で Georgiana さんは、「ストリートやアンダーグランドには、オリジナリティやオーセンティシティが見え隠れしている」と答えてくれました。
2018 年のデビュー作は、グラフィティーアートのごとく創造性豊かにスプレーで街を彩るかのように、ミラノの街の香りと空気を自分自身にスプレーして香りで自らを彩る。街と一体化できるのでしょうか。ほかの街にいてもミラノを思い起こすことができるのでしょうか。
香りのコンセプトに加え、一本で髪にも体にも使える香水にも注目したいものです。Chanel Chance が最初のデザイナーブランドだったかと思いますが、香水と同じ(コンセプトの)香りを髪にも使用できるヘアミストが発売されて、時間は経っております。一本で複数のニーズに応えられるのは嬉しいもの。
その香りのコンテナーに選んだスプレー塗料缶のイノベーティブなテクノロジーには、 2 年の研究を費やしています。その結果、①ガスを使わず空気を圧縮して噴き出す特殊構造をもつスプレー缶は、逆さにしても使用でき、美しくも細やかな連続的な霧状噴射に成功、② 特殊な機構で空気の侵入を防ぐことで結果的に香りの劣化も抑え、アルコール使用率も抑えて体と髪へのダメージを減らすことにも成功しています。
体と髪をひとつの香りの商品で纏うことを目的とはしましたが、アブダビに展開した際には、髭を生やしている男性にも高評価だったそうです。
香りに戻りますが、2 人のミレニアル世代クリエーターをこれらのコンセプトにマッチした香りへ導いたのは、香水業界で長らく挑戦し続ける巨匠調香師 Bertrand Duchaufour さん。広く作品を世に送り込んでいますが、ニッチフレグランスで最初に思い浮かぶ調香師です。L’Artisan Perfumeur でも数多くの作品を残しています。
Georgiana さんが学んだアカデミーの先生からの紹介で、コンセプトを Bertrand さんに共有。彼は挑戦を試みるクリエーターのプロジェクトを比較的頻繁に受け入れているとよく耳にしていたので、なるほどね、と納得しました。
New Perfume Experience|次世代香水の新体験
ニッチフレグランス業界が、複雑な香りやコンセプトからシンプルでわかりやすい過去のものに回帰し、アクセスしやすく、アプローチしやすい商品展開の変革期を迎えようとしている中、同じ思いでありながら一般的な香水の印象とはほど遠いストリートでポップな雰囲気をまとった独特のブランディングで革新的な体験を生み出しているのが Step Aboard です。
私が運営しているブランド Bridge and Blend で「古くて新しい」お香体験と謳っている逆説的な表現とは異なり、ストレートなメッセージがミレニアル世代やZ世代には刺さるのでは?考えさせられました。
「グラフィティー」のデザインと「嗅覚の感動」を組み合わせた、驚きを生み出す Step Abroad の製品サイトではバーチャルショップも閲覧できます。こちらは開発進行中のよう。ここから香りのサンプリングができたらと妄想に走りそうです。
アメリカの化粧品業界ではミレニアルブランドとして若い世代の活躍が数年前から話題になっています。次はどんな新体験で、香りのミレニアルブランドが私たちの想像を超えてくるのかが楽しみです。ミレニアル世代は、次世代型フレグランスを選ぶのではなく、生み出すのかもしれません。