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Beyond SDGs vol.04:地熱エネルギー×地方創生

再生可能エネルギーで沸き立つ住み続けられる町づくり

author: 大畑慎治date: 2022/04/04

本連載第4回目で登場いただくのは、「ふるさと熱電」執行役員の吉田浩之さん。熊本県阿蘇郡小国町の地熱発電所の運営を軸に地方創生を目指してさまざまな事業を展開しています。ふるさと熱電の考える地方創生が「SDGs 2.0」たる所以とは。大畑さんがナビゲートしていきます。

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2011年の福島第一原発事故直後、再生可能エネルギー(以下、再エネ)として改めて可能性が見出されている「地熱エネルギー」。火山国である日本は、アメリカ、インドネシアに次ぐ、世界第3位(2347万kW相当)の地熱資源大国です(※1)。このエネルギーを活用すると、原発約20基分に相当するほど。しかし、国内で稼働中の地熱発電所の出力は、わずか約52万kW(36地点)と、地熱資源量のわずか2.2%。豊富な地熱資源をもちながら、十分利用されずにいるという現状です。

そこで今回ご登場いただいたのが「ふるさと熱電」。同社では、温泉街を地域ごと豊かにしようというビジョンを掲げ、温泉というエネルギー源を観光業だけでなく発電に活かすことで、地域資源をベースに新たなビジネスや雇用の好循環を生み出そうとしています。この仕組みは今後、日本全国、そして世界にも広がっていくモデルになるかもしれません。

地熱発電を活用しにくい3つの問題

大畑:まずは「地熱発電」とはどのような仕組みなのか、教えていただきたいです。

吉田:はい。地球の中心には温度が5000〜6000度にもなると言われているマグマが存在します。

それが地熱資源の源泉なのですが、もう少し地表側の地下数km〜数十kmのところには、温度が1000度以上のマグマだまりがあります。さらにその地表側、地下1〜3kmの場所には、マグマだまりのエネルギーでつくられた蒸気や熱水が溜まっている地熱貯留層(ちねつちょりゅうそう)と言われている部分があって、私たちはそれを地熱エネルギーとして利用することができます。

地熱発電は、地熱貯留層に井戸を掘って、地熱貯留層から吹き出した蒸気の力で、タービン(プロペラのようなもの)を回転させて電力を生み出すという仕組みです。

出典:ふるさと熱電

大畑:その井戸って、どんなところに掘ることができるんですか? というか、地熱貯留層はどんなところに存在しているのでしょうか。

吉田:いま掘れる場所としては、ふたつ。ひとつは、国の持ちものである国立公園や、国定公園の特別地域内です。地熱業界では、国立公園は地熱発電のエネルギー源に当たる確率の高い場所と言われています。

もうひとつは、温泉のある地域です。温泉の湧く場所の、さらに地下にエネルギー源があり、温泉源に近づけば近づくほど、地下に地熱貯留槽が存在する確率も高まります。

大畑:なるほど。日本に地熱由来のベース電源をつくっていくためには、2パターンあるということなんですね。ひとつは国の持ちものだから、政治的な問題が絡んでくる。それに関しては、規制緩和されれば、掘りやすくなるのでしょうか。

吉田:そうです。規制緩和の流れにはなってきていますが、まだまだ簡単ではないですね。

大畑:国立公園のなかに発電所を建てられてしまうと、景観の保護とか、そこで暮らす生物たちへの影響がありますからね。ふたつ目は、温泉地域に掘るということですが、こちらの問題点としては、地域の人が関係してくるところなので、住人たちの合意を取らなければいけないという難しさがある。

どちらにしても難しそうですが、それ以外にも例えば、大手電力会社の政治的な圧力があるとか、何か開発を阻害するようなものってあるのでしょうか?

吉田:もうひとつ、電線の問題があります。電線って、実はどこも逼迫していて、つなぐのが難しいんですよ。地熱発電ができる場所というのは山間地域が多いのですが、山間地域の電線網って特に貧弱なんです。これは全国各地に言えることで、再エネ全般の課題でもあります。

大畑:なるほど。そういった問題が絡みあって、ポテンシャルはあるのにもかかわらず、地熱発電の開発が遅れているわけですね。

地域が主体になる仕組みで地域創生を

大畑:ふるさと熱電がある熊本県小国町はどんな町なのでしょうか?

吉田:古くからの温泉地区で、町全体からいつも、もくもくと蒸気が沸いているような場所です。観光業が地域としてのビジネスだったのですが、それだけだと町の存続が難しい。それに少子高齢化が進んで、町の高校が存続するかどうかの帰路に立たされているくらい、若者がいなくなってしまっているんです。

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大畑:少子高齢化によって、町の存続が難しくなっているんですね。

吉田:ですから、私たちとしては、地熱発電をうまく活用して、そこから生まれた財源をどのように活用していけば、地域が豊かになっていくかという地域創生にチャレンジしているんです。

具体的には熱源を利用したグリーンハウス事業や、一般家庭などに温泉を供給する分湯事業など。あとは地熱発電って、日本全国の限られた地域にしかないので、見てみたい人たちを誘致して地域の温泉に泊まってもらったり、飲食店で食事をしてもらったり、観光業とセットでの視察などを企画しています。

大畑:地熱から生まれる財源を、地域に還元するというスキームについても詳しく教えていただきたいです。

吉田:はい。地下資源っていうのは、基本的に地域の人のものだと自分は思ってます。それを利用するのは、第一に地域の人であるべきなんですよね。だから地域の人が主体となって事業を行ってもらいながら、我々が裏で支えるという仕組みをしっかりつくっているんです。

それが今後、全国に展開していくための重要なポイントかなと思っています。ですので、売り上げは地域の人たちのもの。我々が業務委託を受けて、地熱発電事業を営んでいるという形にしています。すべての収益は一旦地域の方たちにいき、その一部が我々に入るようなイメージです。

出典:ふるさと熱電

大畑:なるほど。ふるさと熱電が主体で事業を行うのではなく、あくまで事業の主体は地域の人というスタイルをとっているわけなんですね。

吉田:そうです。発電所を運営していくには、日々O&M(Operation & Maintenance/運用および保守点検)もしていかなければいけないですし、積極的に地域の方たちを雇用するスタイルをとっています。

地域の軋轢を解消した地熱エネルギー

大畑:最初の話に戻りますが、地熱はふたつの場所からしか掘ることができないと教えていただきました。小国町は温泉街で、地熱を掘るには地域住人の合意が必要なんですよね。その合意をとるのは、難しかったのでは?

吉田:やはり、最初は「入ってきてくれるな」という感じだったようです。「お前たち何者なんだ」っていうところからスタートで。でも正直これって解決策はなくて、時間をかけて対話をしていくのが大事なんです。会社がどうかというよりは、人間ひとりひとりが見られていて。都会のビジネスとは違って、どれだけの時間を一緒に過ごしたかが最後には決め手になるというか。

大畑:ふるさと熱電が入る15年前に、大手企業が小国町で地熱事業をやろうとして失敗したという歴史もあると聞いています。そのときはうまくいかなかったのに、ふるさと熱電は成功した。それができた理由は、やはり、対話をしてきたからということになるんでしょうか?

吉田:よく聞かれるんですよね、それ。まず、地熱事業をはじめるタイミングってあると思うんです。もともと90年代に、大手企業が大規模電源開発をしようとしていて、それが地元住民の応援を得られず、撤退に追い込まれたという歴史があって。

そのときは何よりもタイミングが早かったと思うんです。地域もまだ、今と比べて高齢化していなかったので、地域存続の危機感が高まっていなかった。でも今は、町の平均年齢が60歳を超えているんじゃないかな? 子どもや孫が都会に出て行って、帰ってきてくれない。それをなんとか戻したいと思っているんです。

大畑:時期尚早だったというわけですね。そこから少子高齢化が顕著になり、地域存続のために、町全体でできる事業を考えなければいけなくなった。

吉田:そうです。そこで、豊富な地熱資源を今度こそ発電所建設のために使おうと、住人が立ち上がったというわけです。

大畑:とはいえ、最初は「入ってきてくれるな」という反応だったんですよね。それって、過去に大手企業が入って失敗した経験があるからなんでしょうか。

吉田:それはあると思います。地域の中に入り込まないと、地熱事業ってできないんですよ。再エネのなかでも、地熱は特に、地域との関わりが強い発電事業かなと思っていて。なぜかというと、地熱の近くにはどうしても温泉地がありますよね。その温泉をビジネスにしている方たちとの、コンフリクト(軋轢)が生まれやすいんです。

もともとその方たちは、自分たちで井戸を掘って、温泉を取り出しているので権利関係が難しいんです。温泉旅館を経営している人の隣で地熱発電をやると「自分たちが発掘した地下資源を勝手に使っているんじゃないか」とか、「温泉に影響が出たらどうなるんだ」とか。地下の見えない部分の話なので、どれだけ技術を使っても「100%影響がないです」とは言い切れなくて。

そうなると、一緒になって事業を進めるスタイルじゃないと、どこまでいっても対立軸は解消できないんですよね。

大畑:多くの企業は、そういったところのケアをするのが難しいのですかね。

吉田:そうかもしれません。こういったら変かもしれませんが、我々はほかの会社さんと違って、社員は基本的に地域に移住しているんです。大企業の人たちは出張で小国町に時々やって来て、地域の人たちとコミュニケーションをとるスタイル。我々はそうではなくて、小国町に家を借り、「わいた会」(※2)の人たち以外ともコミュニケーションをとっているんです。

大畑:地熱事業に直接関係のない、小国町の住人ともコミュニケーションしていると。

吉田:はい。「わいた会」の人たちを中心にコミュニケーションとっていても、仕事のためだけにここに来ていると思われてしまう。でも、地域全体とコミュニケーションをとっていけば、いろんなところから噂になって、「あいつら、意外といい奴だよ」と広まっていく。そういうことの積み重ねで「あいつらとだったら一緒にやってもいいかも」と感じてもらえたのかもしれません。

大畑:それで、小国町の伝統的な盆踊りも復活したんですよね。その話もぜひお聞きしたいです。

吉田:90年代にこの地域で地熱開発を計画したときに、町で分断が起こってしまって伝統的なお祭りもすべてなくなってしまったということがありました。当時、町には30世帯の方が暮らしていたのですが、多くの世帯が地熱開発に賛成するなか、数世帯の方が反対したみたいなんですね。

大畑:そのことが影響して、数百年続いた伝統的な祭りがなくなったと。

吉田:はい。地域の祭りというのは全員が揃わないとできず、特に反対していた世帯の方が祭りに積極的な方たちだったそうで。「岳の湯盆踊り」といって、一日かけてずっと踊り続ける伝統的な行事なんです。でも、自然と行事もやらなくなってしまった。

大畑:それがなぜ、復活したんですか?

吉田:それから時間が経ち、「ふるさと熱電」と地熱発電をやろうと決まってからですね。当初は、反対派の方たちの合意はとれていない状態でスタートでしたが、発電所の運営がはじまると状況が変わったんです。

ちゃんと発電されているところを目の当たりにしたり、我々もしっかり地域の方たちとコミュニケーションをとったり、温泉への影響をモニタリングしたりしていくなかで、信頼感が醸成されていったんです。そうすると、「地熱があってよかったじゃん」という雰囲気が出てくるんですよね。

大畑:軌道に乗りはじめたら、状況が好転したんですね。

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吉田:そこで地域の人たちと話をして、「もう一回盆踊りやりましょうよ」と持ちかけたんです。みなさん、心の中ではやりたがっているし、なによりも盆踊りを大事にしている。なにせ、700年も続いている伝統行事ですから。

それで、これを機に反対だった世帯の方たちも「わいた会」に入れようという話も出てきて、その方にももう一度地熱のことをしっかり説明したんです。「『わいた会』に加わって、一緒に地域と地熱発電を盛り上げていきましょう」と。それで、盆踊りも復活することができました。

小国町の人たちにとって、盆踊りって本当に大事なもので。「ふるさと熱電が来てよかったことは盆踊りが復活したということ」って言ってくれる人もいるほどです。

大畑:地熱がきっかけで地域が分断し、その地熱をきっかけにまた元に戻れた。すごいストーリーですよね。

未知への挑戦は現場に根付くことからスタート

大畑:最後に吉田さんのように、ソーシャルな課題にチャレンジしようとしている人たちに向けて、後押しになるような話ができたらうれしいです。

吉田:そうですね。ソーシャルな課題は一朝一夕に解決策が出てこないので、小手先だけでなんとかしようとするのは無理。それだったら、その課題が起こっている現場にいないとダメだという思いがすごくあるんです。

頭のいい人たちって、どうしても先のことを考えるじゃないですか。「これはうまくいかないかもしれない、大変そうだ」とわかってしまう。だからうまくいかないんです。そこに本質的な課題解決のポイントがあるんじゃないかなって思うんですよね。

ふるさと熱電で言えば、小国町と力を合わせて進めていくことができたから、結果として地元の雇用を生むことにまでつながった。中小規模の自治体なら一つの企業でも十分に地域の課題解決に貢献できると思います。

最近はインターン生を募集して、大学生に働いてもらっているんです。少子高齢化が進んで、町に若者がいないから、インターン生が来ると地域の方から喜ばれるんですよ。そのうちの2〜3人でも、小国町に住んだり、ふるさと熱電に就職するとか、そういう未来を目指していきたいな、と。

大畑:吉田さん自身は、ベンチャーへの転職って、勇気が要りましたか?

吉田:はい。だって、それまでは、ひとり暮らしもしたことがなかったんですよ。ずっと実家暮らしで、そのまま結婚したので、地元から離れたことがなかった。当然、勇気は要りますよね。

大畑:それでも、再エネで地域創生を目指すということにチャレンジしようと思ったんですね。

吉田:地域で何かを成し遂げるという経験自体は役に立つと思いましたし、小さなベンチャー企業で、事業を成し遂げるというのもキャリアアップにつながると思いました。誰もやっていなかったからやってみたかったというのが一番の理由ですね。

大畑:やっぱりそれですか。誰もやっていない領域へのチャレンジ。

吉田:元も子もない話だと思いますが、一番は教育だと思っているんですよね。高学歴でいい企業に入って、安定した収入を得ることが勝ち組だという風潮を持っている人って、いまだにすごく多い。それが根底にあると、教育もそれがベースになってしまうから、我々が変わることで子どもたちに教えていかないとと思っています。そのためにも、いま、地域創生にチャレンジしているのかなって思います。

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撮影:吉岡教雄 執筆:山下あい

※1 出典:日本地熱協会

※2 わいた会:2011年に発足した熊本県小国地区、わいた地区の地熱事業組織。温泉と周辺環境を守ることを掲げ、地熱エネルギーを活用することにより、地域に雇用と産業が生み、発電した電気の売電収入によってサスティナブルな運営を行っている。

大畑慎治のSDGs2.0 POINT of VIEW

ふるさと熱電・吉田さんのポイントは「誰も解決できいないから挑む」という思想。

本連載の趣旨「SDGs2.0時代のサステナブルアクション」を生み出していくためには、成功事例があるからやるとか、市場が伸びるから参入するとか、そういうマインドでは成すことができない。今まだ誰も解決できていない課題だからこそ、挑戦する意味があるし、解決することに価値があるし、それを達成したときに社会から大きく評価される。本気でそういうマインドを持てるかどうか。

ふるさと熱電の挑戦も、理屈上では、地熱発電は大きなポテンシャルを持つ自然エネルギーだし、地域経済の自立は地域が持続していくためには大きな意味がある。でも一方で、政治、利権、技術、収益、感情など、これまで上手く進んで来なかった理由もそこにはある。

重要だけれどもすごく面倒だし、上手いかないかも知れない。そんな課題の存在をチャンスだと捉えて、ワクワクして挑戦できるかどうか。その思想があるからこそ、その挑戦がチャレンジャー個人のウェルビーイングを満たすことになるし、結果、悪戦苦闘しながらでも一歩一歩ソーシャルイノベーションを進めていくことにつながると思いました。

ふるさと熱電株式会社
吉田浩之┃Hiroyuki Yoshida


1979年生まれ、神奈川県出身。シンクタンクである日本総合研究所でのコンサルティング経験から、地方×ベンチャー企業というビジネスに興味を頂く。地熱発電事業を推進しているふるさと熱電㈱と出会い、地熱発電特有の地域密着型事業に共感を頂き5年前に参画。以来、経営メンバーとして会社運営に携わる一方、地方創生事業にも力を入れ、ふるさと熱電の全国展開に向けた事業モデルの構築を目指している。


企業名:ふるさと熱電株式会社
所在地:熊本県阿蘇郡小国町宮原 2322-1

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ソーシャルマエストロ
大畑慎治

ソーシャルグッドの社会実装プロデューサー。メーカーのイントレプレナー、ブランドコンサル、新規事業コンサル、ソーシャルクリエイティブグループで一貫して、新たな事業や市場を生み出す仕事に従事。2016年以降は、SDGs、サステナビリティ、サーキュラーエコノミー、エシカルなどの領域の企業変革、事業開発、ブランド開発、プロジェクトプロデュースなどを手がける。現在、O ltd. CEO、Makaira Art&Design 代表、THE SOCIAL GOOD ACADEIA(ザ・ソーシャルグッドアカデミア) 代表、IDEAS FOR GOOD 外部顧問、感覚過敏研究所 外部顧問、おてつたび ゆる顧問、MAD SDGs プロデューサー、早稲田大学ビジネススクール(MBA)ソーシャルイノベーション講師、ここちくんプロデューサー などを兼務。
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date 2024/11/13