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アップルも「AirTag」で参入

話題の紛失防止トラッカー。持ち主が幸せになる使い方とは?

author: 山本 敦date: 2022/01/29

2021年は春にアップルがAirTag(エアタグ)を発売したことで、「紛失防止」を目的としたトラッキングデバイスが再び脚光を浴びました。AirTagよりも早く世界230ヵ国で製品を販売、サービスを展開する米Tile(タイル)もまた秋に新製品を発表しています。「紛失防止トラッカー」は今後もさらに注目されるデジタルガジェットになりそうです。紛失防止トラッカーの便利な使い道と、現時点で課題となるポイントをまとめてみました。

紛失防止トラッカーはみんなの「転ばぬ先の杖」

AirTagとTileはスマホにBluetooth Low Energyでペアリングして、バッグなど紛失したくない持ち物に装着して使います。電源はボタン電池など。デバイス同士の距離が近い場合はBluetoothを、遠い距離にある場合は同じデバイスが結びついて形成する匿名の暗号化ネットワークを介して、位置情報を把握・検索できる機能をどちらも備えています。

アップルが2021年春に発売した「AirTag」。Appleの「探す」アプリケーションを使ってAirTagを装着した持ち物を追跡できます。
Tileは秋に4種類の新しい紛失防止トラッカーを発売しました。それぞれキーホルダーや財布のポケットに入れられるカードとして、ほかのアクセサリーを使わずにそのまま持ち物に付けることができます。

日本国内の場合、多くのトラッキングデバイスは「持ち物の紛失を防止する」ことを使用目的としてアピールしています。一方、海外では大切な持ち物の「盗難を防止」するためのデバイスとしても広く活用されているようです。

日本ではカフェやレストランに入り、少し席を立つ間に手荷物が盗まれる心配はあまりないかもしれません。自分は滅多なことで大切な持ち物をなくさないと自信を持っている方に紛失防止トラッカーは興味の対象外かもしれませんが、油断は禁物です。筆者も落とし物はあまりしない方と自負していましたが、昨年の夏に地下鉄の駅構内で財布を落として本気で焦りました。幸運にも財布の中にTileが入っていたことから、落とした場所の目星が素早くついて、さらに幸運なことに親切な方に拾ってもらえたおかげで無事に財布と再会できました。自分の体験を踏まえて、筆者は家族や友人に紛失防止トラッカーの活用を強く勧めています。

クレジットカードサイズのTile Slim。スマホから音を鳴らして探すことも可能。

同じ製品のユーザーどうしがつながって落とし物を探す

AirTagとTileには、デバイスのユーザー同士が形成するコミュニティ網を介して、国外も含む遠く離れた場所で紛失した持ち物を探せる機能があります。AirTagには全世界の「iPhoneユーザー」がつながる「探すネットワーク」という、強力なコミュニティ網に乗れる大きな強みがあります。Tileもまた地道に築いてきた自社のコミュニティ網に加え、トラッキングアプリサービスのLife360のグループ傘下に入ることで、今後は両社のコミュニティ網をつないで強化することを発表しています。

ユーザーにとっては、大切な持ち物が高い確率で見つけられる紛失防止トラッカーこそが「良い製品」です。願わくばAirTagとTileがそれぞれの追跡サービスに相乗りしてくれることが理想と言えますが、実際はそう簡単に行かないようです。なぜならアップルが「探す」ネットワークと、自社のネットワーク検索サービスを併せ持つ製品をつくることを許可していないからです。したがって今後も当面は「アップルの探すネットワークも使えるTile」のようなパワフルな製品が誕生する見込みは低いと思います。

Tileはスマホアプリから検索可能。Tileを装着した持ち物をどこかに置き忘れて離れるとスマホにすぐ通知が届く、月額360円の「スマートアラート」などプレミアム機能も充実しています。

悪意ある追跡を防ぐための機能も大事

世界各地では紛失防止トラッカーをストーカー行為に悪用したり、目星をつけた自動車にデバイスを貼って追跡して、静かな場所で盗みを働くといった犯罪行為のためにデバイスが使われてしまう残念なケースが発生することもあるようです。

こうした事例を想定して、各メーカーも製品に悪用防止のための機能を設けています。アップルのAirTagは、持ち主の手を離れると8時間後から24時間の間に本体がビープ音を鳴らして知らせる機能を搭載しています。見知らぬAirTagが自分の持ち物に紛れ込んでいたり、貼り付けられていることに気が付ける点ではよくできた機能です。ただ反対に置き引きなどの被害にあった場合、一定の時間が経つと犯罪者に持ち物の現在地が追跡可能であることを知られて、デバイスを取り外されてしまう場合もあります。

アップルのAirTagはユーザーの手元から離れて一定時間が経つとスマホに通知を届けてくれます。AirTagからもビープ音が鳴ります。

Tileには持ち主不明のトラッカーが自分の身の回り75mから最大120mの範囲内にあることを調べられる「スキャン&セキュア」機能が、今後アップデートにより追加される予定です。Tileを所有していなくても、スマホにTileアプリを入れれば誰でも使える機能になるそうですが、不審なTileが近くにあった場合、スマホにプッシュ通知が届く機能も欲しいところです。

紛失防止トラッカーが物理的な形状を伴う限り、犯罪者に見つかって捨てられてしまったり、あるいは肝心な時にバッテリーが切れていて追跡ができない場合も考えられます。そのため紛失防止機能は今後、自動車や自転車のような盗難被害にあいやすいものや、ワイヤレスイヤホンなどに紛失しやすいアイテムに内蔵される方向にも向かっています。ユーザーの数が増えて、より多くの声が拾い上げられれば、紛失防止トラッカーはもっと安全で使いやすいデジタルガジェットになります。

VanMoofの電動自転車「S3」「X3」にはアップルの「探す」ネットワークがビルトインされています。iPhoneなどアップルのデバイスにプリインストールされている「探す」アプリからAirTagと同じように現在地が追跡できます。

家族の落とし物・なくし物にも対応したい

紛失防止トラッカーは「出番がない」ことがユーザーにとって最良なデバイスです。落とし物や盗難のため胃が痛くなる思いはなるべく味わいたくないものです。ところがもし、これが落とし物やなくし物に悩まされることの多い高齢の家族や子どもに代わって追跡できるデバイスやサービスとしても使いやすくなれば、さらに多くのユーザーに幸せを届けてくれそうです。

Tileには本体のボタンを押すと、ペアリングしているスマホからブザー音が鳴って場所を知らせてくれたり、スーツケースなど家族共用の持ち物に装着して、複数のユーザーが自分の持ち物として探せる機能があります。筆者もTileを日々使いながら、「他人のため」に使える紛失防止トラッカーとしてはAirTagよりも優れているように感じています。今後もTileとAirTagに代表される紛失防止トラッカーが互いに切磋琢磨しながら、より便利に使える製品が誕生することを楽しみにしたいと思います。

製品貸与:アップル/SB C&S

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スマートエレクトロニクス・ライター
山本 敦

オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はオーディオ・ビジュアルからIoT、ウェアラブルまでスマートエレクトロニクスを幅広くカバー。ヘッドホン・イヤホンは毎年300を超える新製品に体当たり中。国内・海外スタートアップの製品やサービスを多く取材、開発者の声を聞くインタビューなどもしています。
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