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WAKAYAMAごんぱち家族の移住日記

あいさつ前から、みんなは僕らを知っていた

author: 利根川 幸秀date: 2022/01/24

いよいよ本格的に移住生活をスタートした利根川一家。右も左も分からずキョロキョロしながら過ごすも、どんどん顔見知りが増えていくという不思議な現象に見舞われます。どこまで踏み込んでいいのかわからない、限界集落の“ご近所関係”を赤裸々に語ってもらいます。

陽気なピンクでご挨拶、はじめましての豆しぼり。

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谷の話をしてくれる、おいやん(=おじいちゃん)90歳

数年住んでいても、言葉を交わしたことのないご近所さんが多数いるのが都会なら、挨拶する前から、すでに我が家を知っている人が沢山いたりするのが田舎。人口減少に反比例して、ご近所さんとの繋がりは強くなっていく訳で、“豊かなご近所付き合い”と喜ぶか、“面倒くさい人間関係”と思うかは、あなた次第! さあ!とね家挨拶回りはじまりまーす!

とね川ファミリー、よろしくです!

僕たちが引っ越してきたところは谷にある集落で、すぐ近所に(半径500m以内)4世帯が住んでいる。ちなみに20代30代はおらず、40代は僕たち夫婦とご近所にひとり。子でもは我が家のふたりの子だけである。そこで引っ越してきた初日、ご近所さんに家族で挨拶に行った。

これから長くこの地で楽しく暮らしていきたいと願っていたので、僕たちがどんな人間なのか少しでも理解してもらえたらと、簡単な家族構成とプロフィールのようなものを作り、ピンクの豆しぼりの手ぬぐいを添えて一軒ずつまわった。前に住んでいた大家さん家族が、ちゃんとご近所付き合いをしていたおかげだろう、みんなとても穏やかに、引っ越してきたことを本当に喜んでくれてるようだった。

タイトルでもある"ごんぱち家族の~”の、ごんぱちという言葉も、この時に”ごんぱち”(イタドリ)をムシャムシャ食べながら、おいちゃんが子どもたちに教えてくれたのだった。挨拶に行った印象は、どのお家の人も、子どもが集落に来たことがうれしいという感じで、僕たち夫婦にはそれがありがたかった。何度も「若い人が来てくれて……」と言われたが、「すんません、もう42才なんです」という思いは胸にしまっておいた。ちなみに田舎では、50代くらいまでは脂ののった若手と数えられるらしい。

SNSより早い、田舎の伝言ゲーム

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初登校の日、気持ちのいい朝

バタバタと地に足つかぬ日々が続いていたが、長女の種は晴れて地元の小学校に入学(新一年生3人)。無事スクールバスでの初登校を終えて帰ってきた。その夜、町の中心部で打ち上げ花火があるとのことで、家族で見に行き椅子に座っていると、見知らぬ女性が保育園児くらいの女の子と現れて「種ちゃーん! よく来てくれたよー」と、ニコニコ話しかけて去って行った。

「種ちゃん、だれ?」と娘に聞くと、「知らないけど、スクールバスに乗ってた人だよ」とのこと。それならご挨拶しようと「はじめましてー」と声をかけると、「はるばる東京から、よう来てくれましたー! お父さん、カメラマンさん? 東京っぽいわー。弟くんは保育園はいつからですか?」と、自己紹介するまでもなく、我が家の基本情報をよく知っていた。なんで?

仁王立ちで、バスを待つ

ご近所挨拶や出先でちょっと挨拶するような場面でも「東京から~」と言うだけで、「おおっ!杉谷さん(仮名)の上に越してきた家族やろー! お父さんがカメラマンの。知っとる知っとる、よう来てくれたわー」と言われたり、「これが仕事の人やろ?」と、おもむろにカメラで写真を撮る仕草をしたりする人。全員初めましてのはずなんだけど、この自己紹介する前にすでに紹介済みの感じは、苦手な人は苦手かもしれないが、僕たち家族にはちょうどいい距離感だ。

極めつけは、とある人に挨拶したとき、「ああ!この前、新宮の日産に、車を修理に出してたやろ? 谷に下りるにはあの代車、だいぶ大きかったんちゃうん?」と言われたことだ。数日前に、調子の悪くなったマイカーである日産「キューブ」を40km離れた新宮市に持って行き、代車「セレナ」として借りた件について、“初めまして”の返事で言われたのだ。そこでもはや、全部知ってくれているものだと、開き直って安心することにした。

人口密度大激減×関係密度激倍増=田舎スタイル

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「泳いでたなー。橋から見えたでー!」と知らぬ人から声かけられる 

引っ越して来る前、田舎の小さいコミュニティでの人間関係の難しさを、ニュースやネット記事などで目にすることが多かった。移住した友だちが、絵に描いたような村八分をされたリアルな体験談も聞いたことがある。そのせいか、こっちで暮らし始めた当初、田舎には都会とは違う絶対に犯してはいけない暗黙のルールがあるような気がして、それがナニかまったく見当もつかず必要以上に気を使っていた部分もあった。

近所の杉谷(仮名)さんに挨拶するたび、「なんか気になることあったら教えてください!」と言っては、「かまわんでー」と穏やかに返されていた。いつもかまわんでーと言ってくれるもんだから、「ちなみにやっちゃいけないことって、なんかありますか?」と、超直球でアホみたいな質問を真面目にしたことがある。

そのときも、「無茶苦茶なことせんかったら、別にかまわんでー」と笑ってくれた。そりゃそうである、「都会」や「田舎」といった話じゃなくて、無茶苦茶したら万国共通どこだってアウト。本気で好き勝手にやりたければ、人の暮らしていない土地を買って、山水なりソーラーパネルなんかを駆使して、人と関わらずに自己完結した暮らしをしたらいいだけなのだ。

そもそも、暗黙のルールなんてものはなく、「こんにちわ」「ありがとうございます」「すみません」

これくらいのコミュニケーションが出来たら、大体問題なく暮らしていける気がする。ただ、都会で暮らしていたときより人口は超激減しているのに、顔見知りは激増する不思議な現象が起きる。挨拶の機会は数倍増えたし、車で走れば必ず誰かとすれ違う。そこまでする必要はないが、すれ違う軽トラは目が合ったらとりあえず軽く会釈をするようにしている。全然知らない人に間違って手を振ってしまうことも多々あるが、そのくらいでいいと思っている。

※人口密度 東京・杉並区 17,269人/1㎢  和歌山県・本宮町 12.5人/1㎢(実際にはもっと少ない)2021.3月データより

次回は、田舎暮らしあるある「頂き物」について書いていきまーす。

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フォトグラファー
利根川 幸秀

1978年埼玉育ち、99年にインドよりエジプトまで陸路で旅して、途中イスラエルで旅費を稼ぎ、2000年ハンガリーより帰国、その後も東南アジアなどバックパッカーしたのち、職人などを経て、2006年写真家・𣘺本雅司氏に師事。2010年フリーランスとして独立。雑誌、webメディア、ポートレート、家族写真等、多岐にわたり撮影。趣味:川遊び、ダム瞑想。2021年、家族で東京より和歌山に移住。
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