8月に発表された新しいパナソニックの清潔イオン「ナノイーX」は、効果の元であるOHラジカルが史上最高濃度らしい。同社の説明によると「ナノイー」と比べると100倍で、その数は毎秒48兆個発生するとのこと。とはいえ、目に見えないものだし……と、家電レビュアー石井和美氏もどこか納得行ってない様子。そこで、今回の「ナノイーX」は何がそんなにすごいのか、“比較レビュー”よろしく、徹底的にそのスゴい効果について確かめることにしてみた。
そもそも「ナノイー」ってなに?
「ナノイー」は、誰もが一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。パナソニックのさまざまな製品に「ナノイー」マークがついており、もはや“お馴染みの”メジャーな機能で認知度も高い。
認知度がとても高い「ナノイー」。このロゴを見たことがある方も多いのでは?
しかし実際に製品を持っていても「空気がきれいになりそう」「ナノっていうくらいだから、めちゃくちゃ細かい何かが出ているみたい」……こんな漠然とした印象で、なんとなく使っているという方も多いようだ。
私も長く家電業界にいるものの、「『ナノイー』って何?」「『ナノイー』と『ナノイーX』の違いは?」と聞かれたら、ちゃんと答えられる自信がない。そもそもパナソニックに限らず、さまざまな家電でよく登場する「OHラジカル」がよくわからないのだ。そこで「ナノイー」デバイスを生産しているパナソニック アプライアンス社の開発陣に直接教えてもらうことにした。
「ナノイー」のOHラジカル量が4800億個/秒とすると、「ナノイーX」では4兆8000億個/秒、新「ナノイーX」は48兆個/秒と、「ナノイー」と比べて100倍発生するようになったというが、、、、OHラジカルって? そもそもなんだろう?
ポイントはOHラジカル!水の性質を巧みに利用した「ナノイー」
「本来OHラジカルは反応力が強くてあっという間に消滅してしまう。それを、水で包むことで10分間も保ち、有害物質までリーチさせているところが、『ナノイー』の画期的なポイントなんです。パナソニックの独自技術です」と「ナノイー」の開発に携わる企画担当の高橋太道さん。
パナソニック株式会社 アプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 デバイス商品部 デバイス事業企画課の高橋太道さん
「ナノイー」は、その名の通り「ナノ」サイズ。ナノとは10億分の1を意味する。
「ナノイー」デバイスにある金属針に空気中の水分を冷やしてペルチェ素子で結露させ、集まった水に高電圧をかける。すると、ミストが次々と分裂し、5~20ナノメートルの微細なナノサイズになって放出される。その中に反応性が高いOHラジカルが含まれており、アレル物質を抑制できる。サイズは、タバコの煙や霧、ウイルスよりも小さく、繊維の奥まで入り込んでアレル物質を抑制することが可能だ。電気を帯びていているため「帯電微粒子水」と呼ばれており、これが「ナノイー」で、水分子やOHイオンとは異なる。
「OHラジカル」って何者?
「ナノイー」の説明で必ず出てくる「OHラジカル」。中学でも高校でも絶対に習わない専門用語だ。しかし中高で絶対に習うOHイオン(水酸化物イオン)とぱっと見はよく似ている。実は電子の数がたった一つ違うだけで、性質が天と地ほども違うらしい。
「OHイオンの一番外側の電子殻は8個の電子で構成され、安定していますが、OHラジカルは7つの電子で構成され、ひとつだけ足りない超不安定な状況です。安定状態になろうとして有害物質から水素まるごと奪う特性があります。その性質を利用しているのが『ナノイー』で、浮遊・付着する菌やアレル物質、ウイルスを抑制できるのです」(高橋太道さん)
OHラジカルは電子が1つ足りない状態。電子を奪おうとして有害物質から水素まるごと奪う
このOHラジカルが水に包まれていることが「ナノイー」の重要な特長だ。空気(窒素や酸素)は水にほとんど溶けないので、OHラジカルは空気と反応することなく、およそ600秒も空気中を浮遊し続ける。一方菌や花粉、臭い成分などは水と馴染む(浸み込む、溶け込むなど)ため、OHラジカルが本来の強力な反応力を発揮するという。
すぐに他の物質と反応しようとするOHラジカルも、水で囲むことで、空気に直接触れないため寿命が600秒ほどに延びる。結果、空中に長く存在できる
OHラジカルの量が飛躍的に増えた! その理由は?
ここで湧き上がる疑問が。ということは、「ナノイー」内のOHラジカルの量が増えれば増えるほど、効果が上がるのだろうか。
それに対し、同じ開発陣のエンジニア秦秀敏さんはこう説明してくれた。「『ナノイー』はOHラジカルが菌に届き、水素を抜き取ることで菌の細胞組織の一部を変性、菌を抑制する仕組みです。そのため、OHラジカルが多ければ多いほど、その効果は高まります。今年からは、新しい『ナノイーX』デバイスを搭載したので格段にラジカルの数がアップしています」。
「ナノイー」発生の様子を実際に見ることができる「マイクロスコープ」
針が避雷針のように見える! 水を介して放電するので、針が劣化しにくい。長く使えるため交換が必要ないとのこと。
肉眼では確認しにくいが、特殊なカメラで撮影すると、放電が放射状に広がっていることがわかる。
パナソニック株式会社 アプライアンス社 技術本部 ホームアプライアンス開発センター 開発第四部 第一課の秦秀敏さん
「ナノイー」は約4800億個/秒のOHラジカルを発生していたが、2016年発表の「ナノイーX」では、OHラジカル発生量が10倍の約4兆8000億個/秒に増えた。そして今年発表された新「ナノイーX」では、「ナノイー」の100倍である約48兆個/秒に大幅アップ。これは、新放電技術「ラウンドリーダ放電」を採用したからだ。
「ナノイー」デバイスは、「点」の放電だったが、「ナノイーX」では4本の「線」放電に変えることで水分内のOHラジカル量を10倍に増やした。今回の新「ナノイーX」に搭載されたラウンドリーダ放電は、放電を「面」にしたことで、「ナノイーX」の10倍、「ナノイー」の100倍というOHラジカル量を実現している。
OHラジカルの生成領域が拡大することで、OHラジカル量も大幅アップ!
そんな進化を遂げた「ナノイーX」デバイスは、かなり複雑で大きいのかと思っていたが、実物を見て衝撃を受けた。手の平に乗せてもこんなにコンパクト。
2003年に初登場した「ナノイー」デバイスは水補給式。どんどん小さくなり、効果はパワーアップしている。
「ナノイーX」はどんな効果があるの?
水に包まれた「ナノイー」は空気中に多い酸素や窒素には反応せず、長く浮遊するのでカーテンやカーペットまで届く。「ナノイー」に含まれるOHラジカルが、アンモニアなどの臭いの原因物質と化学反応し、分解するので、空中に浮遊している物質だけでなく、繊維などにしみついた臭いなども元から消すことができるという。
ウイルス、細菌、花粉、ホコリ、ニオイ成分、タバコ粒子など、「浮遊」「付着」しているどちらにも効果がある「ナノイーX」
OHラジカルが48兆になった新しい「ナノイーX」は花粉やダニなど全30種類のアレル物質抑制効果が実証されている。なお、OHラジカルはさまざまな物質に効果があるが、物質そのものが消えるわけではなく、変性して抑制されるので、無害な物質になるとのことだ。消えてなくなってしまうわけではない。
さらにタバコ臭、ペット臭、部屋干し服の生乾き臭、ヤング臭から加齢臭まで、12種類のニオイに対しても抑制の実証済み。家庭の中で感じるさまざまな「イヤなニオイ」に効果がある。
同社開発陣のエンジニア今井慎さんは「新しい『ナノイーX』は過去最高の濃度で、抑制スピードも大幅にアップしています。スギ花粉の効果を99%以上抑制(※1)するまでの時間は、従来の『ナノイーX』の約24時間から新『ナノイーX』では約3時間まで短縮しました」とOHラジカル増量の効果について強調する。
パナソニック株式会社 アプライアンス社 技術本部 ホームアプライアンス開発センター 開発第四部 第二課の今井慎さん
さらに、カビはクロカビやススカビなど8種類のカビに対しても効果があり、クロカビ・ススカビは従来の「ナノイー」と比べて約4分の1の時間で抑制(※2)。加齢臭は「ナノイーX」と比べて約8分の1の時間で除去(※3)できるようになった。
ぼんやりと「ナノイー」については知っていたが、最新の「ナノイーX」はここまで進化していたとは……!
菌やカレーが「ナノイーX」で変性!“存在するけどないものに”
とはいえ、理論上は納得できたものの、やはり目に見えないものなので、なんとなく「ほんとかなあ」という気持ちもある。
そんな表情を悟られたのか、効果検証も担当しているパナソニックの「ナノイー」三姉弟が登場。理系出身とのことで、新しい「ナノイーX 」デバイスの効果について実験してくれるという。これは期待できそうだ。
「ナノイー」三姉弟が実験を行ってくれた
ブラックライトに反応して光る菌の模擬材料を、透明な2枚の板にスタンプ。片方だけ新「ナノイーX」が当たる位置にセットし、しばらくしてそのスタンプを確認。40秒ほどで、新「ナノイーX」を当てたところは薄くなっており、作用が抑えられていることがわかる。
左は新「ナノイーX」が当たる位置にセットした板、右が自然乾燥。左が見えなくなっている
次に2枚の布にカレーのニオイがする液体を染み込ませ、事前にニオイをチェック。スパイシーなカレーのいいニオイが漂っている。その後、片方を新「ナノイーX」発生デバイスがある箱、もう片方を何もない箱に入れて5秒間入れて待つだけ。たった5秒でニオイが消えるのかと半信半疑だったが、それぞれ嗅ぎ比べてみると、新「ナノイーX」の箱に入れた布だけカレーの臭いが消えていた。こんなに短時間で脱臭できたことに驚いてしまった。
カレーのニオイ比較。本当に脱臭されているのだろうか……
あんなに強いニオイだったのに消えている!
次にオキシドールを使った実験が始まった。除菌されると色が変わる試薬に、オキシドールを入れると、一瞬で緑色から赤色に。カレー臭実験と同じように片方を新「ナノイーX」発生デバイスがある箱、もう片方を何もない箱に入れて待ったところ、新「ナノイーX」を当てた液体も赤く変色していた。オキシドールと言えば家庭で使う消毒液として誰もが知っている薬だが、新「ナノイーX」にも同じように効果があるなんて……!
オキシドールと新「ナノイーX」の効果を比較してみる
オキシドールを入れると試薬が赤く変色
新「ナノイーX」発生デバイスがある箱、もう片方を何もない箱に入れて数秒待つと、、、新「ナノイーX」を当てたほうだけが赤く変色している。つまり除菌効果ありだ
「ナノイーX」は見えないものなので効いているのかどうかは日常生活の中でわかりにくいが、この実験によってハッキリ効果を実感できた。今回試したのは狭い実験スペースだったが、秒単位の短時間で反応していたので広い空間でも期待できそうだ。
安全性が気になるところだが、最終的には水になるため無害だという。小さな子どもやペットがいても、安心して使えるとのこと。「ナノイーX」を搭載した家電の前でスーハー息を吸い込んでも全く問題ないそうだ。
日常的に潜む菌やウイルスを抑制し、安心安全な生活を実現
「ナノイーX」はパナソニックの加湿空気清浄機、エアコン、冷蔵庫、衣類乾燥除湿機、脱臭ハンガー、靴脱臭機、洗濯機、食器洗い乾燥機などに搭載されている。
「ナノイーX」が搭載されているパナソニックの製品の一部
さらにその実力が評価され、現在はさまざまな企業に採用されている。全国の鉄道会社、自動車メーカー、公共空間で使われているとのことだ。
全国鉄道会社11社に搭載されている ※2021年8月2日時点
自動車メーカーでは8社 ※2021年8月2日時点
在宅時間が増えている今、家庭内でも空気環境も気になっている。強烈なカレーのニオイだって短時間で脱臭されたのだから、新しい「ナノイーX」はますます期待できそう。空気中だけでなく、カーテンやソファに付着してしまったニオイや有害物質まで作用してくれるのは頼もしいではないか。
個人的には、加湿空気清浄機に注目している。春だけでなく秋も花粉が気になるので、加湿空気清浄機に搭載されている高性能HEPAフィルターと「ナノイーX」のダブル効果で部屋の空気をきれいにしたい。窓を開けて換気をした後もスピーディに部屋の浄化ができそうだ。
すぐにでも欲しい……。最新型の「ナノイーX」搭載加湿空気清浄機は、子どもや旦那などの家族が集まるリビングで使いたい
今までは目に見えないものなのでいまひとつ信じられなかったが、確実に存在し、自分が過ごしている空間を守ってくれるものだということが今回の取材でよくわかった。前回の「ナノイーX」から新「ナノイーX」はOHラジカル量が10倍もアップし、「ナノイー」からはデバイスの小型化も進んでいるということも驚いている。
これから私もリケジョである娘に、「『ナノイー』って結局なんなの?」と聞かれても、家電の比較レビューをやった後のように、自信を持って根拠も説明できるし、確実に効果があるんだと断言することにしよう。
パナソニック 「ナノイーX」
※1 スギ花粉の抑制時間(「ナノイー X」比)
「ナノイーX」(ラジカル発生量 4.8兆個/秒)約24時間で抑制に対し、新「ナノイーX」(ラジカル発生量 48兆個/秒)約3時間で抑制
【試験条件】
23㎥の試験室の中央に、日本でもっとも主要な花粉(スギ)を設置し、新「ナノイー X」を搭載した送風機器を所定時間運転して、ELISA法にて抑制を確認。
【検証概要】
試験機関:パナソニック株式会社 プロダクト解析センター
検証時期:2020年12月~2021年6月
検証対象:スギ花粉由来のアレル物質
試験方法:試験空間:23㎥試験室、曝露時間:3時間
分析方法と判定:ELISA法を用い、抑制率を確認。
【検証結果】
3時間で99%以上の花粉(スギ)の抑制を確認。
※2 ●カビ菌の抑制時間1/4(「ナノイー」比)
「ナノイー」(ラジカル発生量 4,800億個/秒)8時間で抑制 に対し、新「ナノイーX」(ラジカル発生量 48兆個/秒)2時間で抑制
【試験条件】
30㎥の試験室の中央に、カビを付着させた試験布を設置し、新「ナノイー X」を搭載した送風機器を所定時間運転した後、試験ガーゼを回収し、温度:25℃、湿度:90%で培養し、カビの発育の抑制を確認。
【検証概要】
・試験機関:(一財)カケンテストセンター
・検証時期:2021年6月
・検証対象:クロカビ
・試験方法:試験空間:30 m3試験室、曝露時間:2時間 分析方法と判定:カビ菌の発育を確認。
【検証結果】
付着したカビ菌(クロカビ)に対し、2時間でカビ菌の発育の抑制を確認。
※3 ●加齢臭の脱臭時間1/8(「ナノイー X」比)
「ナノイーX」(ラジカル発生量 4.8兆個/秒)約120分で抑制に対し、新「ナノイーX」(ラジカル発生量 48兆個/秒)約15分で抑制
【試験条件】
23㎥の試験室の中央に、体臭(加齢臭)を付着させた試験布を設置し、新「ナノイー X」を搭載した送風機器を所定時間運転して、脱臭効果を確認。
【検証概要】
・試験機関:パナソニック株式会社 プロダクト解析センター
・検証時期:2021年4月~2021年5月
・検証対象:体臭(加齢臭)
・試験方法:試験空間:23㎥試験室、曝露時間:15分 分析方法と判定:六段階臭気強度法にて脱臭を確認。
【検証結果】
体臭(加齢臭)に対し、15分で自然放置との臭気強度に差を感じるレベルとなることを確認。