※以下は2017年3月に書かれたものであるが、今回「世界のホテルに泊まりたい!Vol.3」文中にて本レストランに関しての言及があるため参考までに修正して再掲載する。
「ファーム トゥ テーブル(Farm to table)」という食の一大潮流がアメリカにある。日本で言うところの「地産地消」にも似た考え方だが、この辺のアメリカ人に起こった変化の流れは、佐久間裕美子氏著『ヒップな生活革命』に詳しい。この数年、彼らのライフスタイルの変容はさまざまな形で世界中へ伝播し、一大トレンドとなっている。
日本でもサードウェーブコーヒーが話題になったことは記憶に新しいし、パナソニックから家庭用焙煎機が発売されるに至るほど定着した感がある。「ファーム トゥ テーブル」、日本でもよくレストランのメニューに「〜牧場のチーズ」「〜さんの畑で採れたトマト」などの表記を良く見かける。その日の仕入れ先をボードに掲示する店もある。自分が口にするものの出自と品質が確認できるし、なにより直接農家から仕入れることで輸送時間も短縮され、新鮮で栄養価の高いものが提供されるという利点がある。そして当然美味しい。
マンハッタンの人気レストラン「Blue Hill」。オーナーシェフのダン・バーバーはマサチューセッツに農場を持ち、そこで採れた食材を使った料理の数々で人々を魅了してきた。その食に対する姿勢は高く評価され受賞多数、TEDでの講演や自らの著作などもある。今話題のエリア・アップステートにある彼のレストラン「Blue Hill at Stone Barns」を訪れる機会を得た。オバマ元大統領夫妻も訪れたという予約困難な店だ。
この辺りはロックフェラーの邸宅などがあったことで有名。今も観光名所として訪れる人は多いが、この「Blue Hill at Stone Barns」のある農業教育施設「Stone Barns Center for Food and Agriculture」も元々ロックフェラー一族の肝入りで作られたものだ。広大な敷地には牧場や農園がある。
今回は食事の前に野菜の仕入れ担当者の案内で菜園を見学した。温度管理されたハウスでは自然の状態に近づけるためか鳥が放たれていた。様々な種や苗が持ち込まれ、試される。初めて見る野菜も多々あったし、日本の椎茸も作られているようだった。ここからの収穫で8割方を賄い、あとはユニオンスクエアなどのファーマーズマーケットからも仕入れるそう。
さて、席に着き食事が始まったのだが、十数皿を3時間に渡って味わう贅沢な時間となった。2皿を除くそのほとんどが野菜。そしてここにメニューはなく、提供される料理もそれぞれのテーブルで異なると言う。何故かと言うとその日の仕入れや収穫によって、どうしても用意される食材にばらつきがあるため、あえて統一せず無駄なく使い切ることを目的としているからだそう。
どの皿も見せ方が凝っている。最初のサラダはうっすらとドレッシングのかかったラディッシュなどが釘のようなものに刺されて供される。素性確かな野菜の姿を一目で確認できる趣向だろうか。その後もペーストの上に立てられた生の葉野菜、ビーツのピザもあれば、タルトが杉の葉の中に埋めてあったり、藁をかき分けて食べるパスタもある。パンの提供は、レストラン内のベーカリーへ移動して担当者からの説明を受けて。楽しませる仕掛けが満載だ。
最後の一皿は牛の骨髄。満腹状態でのこのプレゼンテーションにはさすがに箸が進まなかったが(笑)ほぼ野菜だけの夕食、物足りない感じは全くなかった。むしろ翌朝、体の調子が随分良い気がした。日本の食文化は世界的にもレベルの高さが認められているが、野菜に関しては特に東京ではよほどの努力をしないと美味しいものが手に入らないようだ。大味で量だけが取り柄と言われていたアメリカですらこの進歩。今、日本でなされている様々な取り組みに注目したい。
Blue Hill at Stone Barns
レストラン
住所:75 Washington Pl, New York, NY 10011
電話:+1 212-539-1776
営業時間:17:30~22:00
休:月、火
※新型コロナウイルス感染対策のため、営業時間は変更の場合がございます。