昔と比べると、“おしゃれ”は身近な存在だ。SNSでは多くの人が“正解”を発信しているし、流行りのデザインを安く買えるお店に行けば失敗もしにくい。でも、自分らしくファッションを楽しめているのだろうか、と疑問に思うこともある。
だからこそ、服にたくさんお金を使って“着倒れて”いる人は魅力的だ。彼らには正解なんて関係なくて、そこにあるのは猛烈な“好き”だけだから。
ファッションブランド・kolorのフリークとして知られ、「若手のときは服を買いすぎて何度もカードが止まりました(笑)」と語るピン芸人・どんぐりたけしさん。そして俳優・映画監督として活躍しつつ、古着好きで東京・松陰神社前にヴィンテージショップ「FOL SHOP」も構える須藤蓮さん。二人はなぜ着倒れるのだろうか。着こなしのこだわりから仕事におけるファッション論まで。深すぎる偏愛を通じて、自分らしいファッションを知る鍵を探りたい。

どんぐりたけし
1992年生まれ。2013年にデビューし、ピン芸人として活動。一発ギャグを連発する芸風が特徴。2018年からピン芸人であるサツマカワRPG、Yes!アキトと共にトリオ「怪奇!YesどんぐりRPG」でも活動。M-1グランプリでは2年連続で準々決勝まで進出。
Instagram:@donguritakeshi0827 / @ddddddtkc_
X:@c_tkc
YouTube:https://www.youtube.com/@C3PO-R2D2-DTKC/featured

須藤蓮(すどう れん)
1996年東京都生まれ。映画監督兼俳優。『逆光』で映画監督デビュー。NHK大河ドラマ『 いだてん』、Netflixオリジナルドラマ『First Love 初恋』など出演多数。FOL(Fruits of Life)活動の主宰。2023年、監督第2作『ABYSS』を公開。
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X:@Rensudo7
共通点は“ギャガー”!? どんぐりたけし&須藤蓮の邂逅
──本日は、普段の活動からも“着倒れている”感がビンビンに伝わってくるお二人に集まっていただきました。お互い、これまでに面識はあるのですか?
どんぐりたけし(以下、どんたけ):いや、はじめましてです! でも、須藤さんが出演されている映画は観ていて、男前だなーと思っていました。まずは自己紹介させてください! C-3PO! R2-D2! DTKCどんぐりたっけっしー! どんぐりたけしです!!

須藤蓮(以下、須藤):(爆笑)。はじめまして、須藤です! よろしくお願いします。じつは僕、一発ギャグ芸人さんを尊敬しているんです。俳優として駆け出しのころ、舞台で一発ギャグをやらなくちゃいけないシーンがあって。でも、素人だしオリジナルネタはつくれないから、ギャガーのYes!アキトさんとかどんたけさんのネタを勝手にやって乗り切っていました。だから、本当は謝らなきゃいけないですね(笑)。
どんたけ:ええっ! そんなそんな、ありがとうございます!
須藤:芸人さんのネタって本当にすごくて、僕のような素人でも腹をくくって、自信満々でやればギリ笑いを起こせるんですよね。ネタのクオリティ、そして舞台上での堂々とした立ち振る舞いには勉強させてもらっています。
どんたけ:それは確かにそうですね! やっぱり、恥ずかしそうにギャグやってるヤツは笑えないですから。立ち振る舞いには本当に自信があります。
若手のころ、お客さん全員外国人のイベントで1日に10ステージ以上立って、ずっとスベり続けていたことがあって。「言葉通じないし、何やっても無理じゃん」って開き直ってから、ウケはじめたんです。スベりの“向こう側”に行ったんですよね。そういう瞬間を超えてきて、ギャガーとしての精神力を身につけました。
──“ギャガー精神”という意外なところに共通点があったのですね(笑)。

「着てみて“調子良い”かどうか」。それぞれの“着倒れ人生”のきっかけは?
──ファッションとの出会いや現在の服へのこだわりを教えていただけますか?
どんたけ:まだ服に詳しくなかったころは、SHIPSやUNITED ARROWSのような有名セレクトショップに通っていましたね。ブランドとかデザインの良し悪しがよくわからなかったので、基準はやっぱり値段。若手芸人ってお金がないですから、「これかっこいいけどちょっと手が出ないな……」「これだったらイケるか……」という感じでいろいろと買って、着て、試しているうちにだんだん似合うものとか、ブランドとかがわかるようになっていきました。
そんななか、あるときUNITED ARROWSに行ったら、kolorというブランドの服が置いてあって。「なんじゃこりゃあ! 見たことない服だ!」って衝撃を受けたんです。セールで7、8万円くらいになってて、当時その値段でもキツかったんですが、これは逃せないと思って買ったんです。それが人生で初めて服で大きな買い物をした瞬間で、それからずっとkolorのファンです。

──どんたけさんといえばkolorというイメージがありますよね。このブランドの魅力はどんなところですか?
どんたけ:あんまりほかで見かけない形や色使いをしていますよね。今日着ているアウターもそうですけど、異素材や違う系統のアイテム同士をドッキングしたようなものとか。こんな発想があるんだって、初めて見たときの興奮は忘れられないですね。
須藤:僕もkolor最高だと思います。昔、お金がなくてブランド品を定価では買えず、古着をよく買っていたんですが、RAGTAGのようなブランド古着屋さんに行くと、kolorやsacaiが売ってて(kolorの創業デザイナー・阿部潤一とsacaiのデザイナー・阿部千登勢は夫婦)。古着にも通じるようなデザインに驚きました。
どんたけ:そうなんです! 例えばこのジャケットは、古着のミリタリーアイテムのようなカモフラージュ柄の素材を使っているし、わざとダメージを入れている。着ているうちに糸がどんどんほつれてくるんです。こういう細かいところがたまらないですね。

──須藤さんは、ファッションにはどんなこだわりがありますか?
須藤:僕は、そもそも芸能の仕事をするようになったきっかけがファッションだったんです。ファッション雑誌『MEN'S NON-NO』のオーディションからモデルや俳優をやるようになって。それ以前は、ずっと古着屋でバイトをしていました。
古着って、「このタグがついていたらスペシャル」とか「〇〇年製までがヴィンテージ」とかあるじゃないですか。でも、僕が働いていたお店はちょっと変わっていて、多分「プレミアがつかない“レギュラー古着”を、着たときのかっこよさで売る」っていうスタイルを日本で最初期にやりはじめたお店だと思うんです。
その店の商品は10年ちょっと前とかにつくられた全然ヴィンテージとはいえない服だったり、何ならタグがついてなくて素材や製作年とかがわからないものだったりする。だから細かい知識で付加価値をつける接客はできないけど、「何か良いでしょ? 着てみて。ね? 調子良いでしょ?」って(笑)。
どんたけ:うわー! 「着てみたら“調子良い”」はすごいわかるわー!(笑)
須藤:そういう、「自分が良いと思うかどうか」の審美眼が磨かれました。だから、僕はもちろんブランド物も大好きですけど、ブランドネームとか情報だけでは買いません。例えばこのジャケット。何てことないデザインですけど、着たときの肩の落ち方とか袖丈とか、完璧で。世間での評価とは関係なく、僕にとっては“いい服”なんです。

「着こなしは身体で覚える」。二人が思う、“トレンド”と“自分のスタイル”の関係
──最近はSNSの影響でトレンドの移り変わりが速くなり、メルカリのようなフリマアプリも登場して、「買うときから売ることを考えている」という意見もあります。お二人は、集めた服に飽きたり、売ってしまったりすることもありますか?
どんたけ:もちろん、これまで買った服で「全然自分に合わなくなってきたな」と思ってメルカリに出した物もあります。でも、本当に好きな物、それこそkolorのアイテムは手放したことはないですね。
kolorの服からは、「トレンドだからこうしなきゃ」っていう意識を感じないんです。例えば最近なら、オーバーサイズが流行ったことで、いろんなブランドがゆったりしたサイズ感になったりしていると思うんですが、みんな意識のどこかで「いつSNSで『これからは細身だ』っていわれはじめるんだろう」などとビクビクしているところがある気がするんですよね。でもkolorのデザインは、べつに10年後、20年後でも全然着られるだろうなって思えるんです。
それに、このパーカーなんて、もともとは僕の妻の物で、彼女は断捨離しようとしてたんです。いきなりゴミ箱に突っ込みはじめて、それを僕が「いや待て待て待て! 俺が着る!」って拾ったんです(笑)。絶対捨てちゃダメでしょ、これ。

どんぐりたけしさんの妻でヤバイTシャツ屋さんのありぼぼ(Ba,Vo)が捨てようとしていたというkolorのアノラックパーカー
須藤:僕は、もともとは“ジャイアンツ方式”で服を揃えてたんですけど……。
どんたけ:“ジャイアンツ方式”?
須藤:「全員4番が打てるバッターを揃える」、つまりコーデの主役になれる服ばっかり揃える、という買い方だったんです。
どんたけ:(笑)。
須藤:僕、男子校出身なんです。周りの友だちはちょっとヤンキーっぽかったりかっこつけたりしてるヤツが多くて、そうすると自分も「バカにされたくない」ってマインドになるじゃないですか(笑)。だからどんどん尖った服装をするようになって、派手な組み合わせのレイヤードをしたりとか、スカートを穿いたりしていたんです。でも、そういう主張が強い服って、すぐ飽きちゃう。だからそのころはすぐ売ってしまっていました。
ただ、そのうち都心のショップや古着屋に通うようになったり、自分でも働きはじめたりして。最初は、そういうお店で何でもないプレーンなデザインの服が高額な値段で売られていることに「何で?」と思っていたけど、買ってみたらだんだん「なるほど、かっこいいな」と思えるようになった。それから“ジャイアンツ方式”は卒業して、ちゃんとトータルのコーディネートを考えるようになりました。
どんたけ:ちゃんとバントできるヤツも入れようと。

須藤:そうそう。そこからは、「このアイテムはボタンをどこまで留めたらかっこいい」とか、「これはシャツだけどアウターっぽく羽織ったほうがいい」とか、買って着て、身体で覚える日々です。
どんたけ:確かに、思い返すと僕もめっちゃそうですね。僕、地元が茨城で、周りに古着屋さんとかおしゃれなショップとか全然なかったんです。だからUNIQLOとかMac-Houseに行くしかなくて、謎にチャックがいっぱいついてるデニムとか買っちゃって(笑)。友だちから「何それ(笑)」って言われたり、時には「今日の服おしゃれだね」って言われたりして「なるほど、これはダメでこっちはおしゃれなのか……」と調整していく。ファッションを身体で覚えてきましたね。

表現とファッションの関係。芸人、俳優、映画監督として見る“服の力”
──お二人は芸人や俳優として表舞台に立ったり、監督として映画やドラマをつくったりされていますが、“衣装”としての服にはどんな役割があると思いますか?
どんたけ:僕の場合は、ネタのときの見た目はギャグを邪魔しないバランスの良さを一番大切にしています。
僕はギャガーなので、極論をいえばパンイチで舞台に出て行ったほうが面白いと思う。漫才師とかコント師の場合、すごく良い仕立て屋さんでスーツを仕立てたり、世界観を表現する衣装を準備したりする人も多いです。でも、僕が舞台に出て行ったとき、最初に衣装に目が行くようだとやっぱりギャグの邪魔だと思う。なので、いつも同じセットアップと決めていますね。ただ、シルエットだけはこだわって、Paul Smith風です(笑)。
──なるほど。芸人仲間から、服選びの相談をされることはあるのでしょうか?
どんたけ:あるんですけど、僕は苦手なんですよね。自分のことしかわからないから、好きな服やアイテムを勧めてみるけど、「僕のコスプレをした人」が出来上がってしまって。
須藤:どんたけさんは完全に自分のスタイルがありますもんね。僕はよく系統が変わるし、いまみたいに髪の色を青くしちゃったりしたら持ってる服がほぼ似合わなくなったりして、よく困ってます(笑)。
どんたけ:服との相性だと、僕みたいな坊主は最高っすよ(笑)。

須藤:僕は、俳優としても監督としても、衣装にはめちゃくちゃこだわります。例えば、僕が監督した『逆光』(2021年)という映画は、服のシルエットでキャラクター像を見せることを意識しました。この作品は同性愛が題材の一つなのですが、主人公二人が画面に登場した瞬間に、何となくそれを想起させたくて。
構図やカメラワークはもちろん、衣装でも「この人物は少し子どもっぽいからピタッとしたポロシャツで」「もう一人は先輩でキザだから、上質なシャツをサラッと羽織らせて」とか。自分が演じるときも、その役っぽくない衣装を渡されるとすごく嫌ですね。
“物語”からファッションを知る。二人がユースに贈る“着倒れの極意”
──実際に服を買って着たり仕事をするなかでスタイルを確立してきたお二人ですが、情報源が多様化している現代のユースたちはどのようにファッションと向き合っていけばいいのでしょうか?
須藤:正直、いまの時代良い服は誰でもつくれます。あらゆる技術が発展しているし、みんな情報も持っている。いま、どこに行ってもダサいショップなんてないでしょ?
でも、例えばハイブランドのアイテムとコピー品が同じ価値かっていうとそうじゃない。デザイナーがゼロから考えて、ボタンやジップの位置を数ミリ単位で調整したり、微妙な触り心地の違いにこだわったりしてつくったアイテムが、コピーアンドペーストでつくられたものと同じなわけはなくて、受け手がそれを感じ取れるかどうかだと思います。そのためには、写真や文字だけじゃないものの見方が必要なんじゃないかな。
どんたけ:そうですよね。それこそ、すごく入りづらい店構えのショップに勇気を出して入ったり、良いか悪いかわからなくてもとりあえず何か買ってみたり、店員さんにいろいろ教えてもらったりして、ファッションとカルチャーを学んできた気がします。スマホで見る写真とテキストだけでポチるのももちろんアリですけど、やっぱり足で探してたどり着いて会話して、そんな“物語”を経験することで自分の好きを知ることができたと思うんです。

須藤:そう、“物語”ですよね。それはファッションのことだけ知ろうとしていたら体験できない気がしていて。音楽とかアートのようなほかの分野も同じで、いまはカルチャー全体が変革期だと思っています。
僕がやっている映画も、撮って映画館で流すだけでは、過去の名作のように社会現象を起こすことはもうできないし、服もただつくってショーをしたり雑誌に載せるだけでは人の心を動かすのは難しい。でも、例えば一本の映画に登場する衣装が、じつはファッションブランドのコレクションにもなっている、みたいな仕掛けをつくったら、ちょっと心を動かされませんか?
どんたけ:確かに! それめちゃくちゃ面白いですね!
須藤:ファッションっていろんなカルチャーに通じる重要な要素だな、と思います。ユースのみなさんも“物語”を体験して、ファッションを通じていろんなことを学んでほしいです。あと、僕もいままさにファッションブランドを立ち上げようとしていて、映画やアートと掛け合わせた斬新な企画をたくさん考えています。それもぜひチェックしてください(笑)。
どんたけ:俳優、映画監督、古着屋に加えてファッションブランドも……!? 須藤さん、手広すぎませんか(笑)。