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単なるビューティコンテストではない

世界のデザイン賞が面白い理由

author: 田中 一雄date: 2022/07/29

「デザイン賞」って何だろう?「デザイン賞と言えば、グッドデザインじゃないの?」。確かに日本人の8割以上が、別名「Gマーク」というグッドデザイン賞を知っている。では、そう言った各種デザイン賞は、どんな基準で選ばれているのだろうか。

歴史的には外国製品の模倣防止の観点から始まったGマークだが、その後長く「美しいデザインを選ぶ賞」としての時代が続いた。しかし、今日のGマークは随分と様子が変わっている。もちろん、正しく美しいデザインを選ぶ視点は無くなってはいないが、それ以上に重要視されているのが「イノベーション」だ。そして、そこに社会的課題の解決などの姿勢を持ったものが高い評価を受けている。

日本のグッドデザイン賞は、グッド「エステティック」デザイン賞から、グッド「イノベーション」デザイン賞へと変貌したともいえる。今日のデザインは「イノベーション・ソリューション・ビジネス」のつながりが大切なのだ。しかし、本当にそれだけで良いのかは、また別の問題だが、そのことは後で話そう。

世界三大デザイン賞というものがある。ドイツのレッドドットデザイン賞、同じくドイツのiFデザイン賞、そして日本のグッドデザイン賞だ。この三つは歴史も長く、規模の大きさからも広く知られている。

それぞれ特徴があるが、グッドデザイン賞は、社会的視点と対象領域の広さで先行しているだろう。一方、レッドドットデザイン賞は今日の時代性を見据えつつも、ジャーマンデザインの価値観をしっかりと持っている。iF賞は、その中間的位置づけかもしれない。

 グッドデザイン大賞2020「WOTA BOX」。2020年のグッドデザイン大賞となったWOTA BOXは、世界初の「持ち運べる水再生処理プラント」である。生活排水を98%以上再利用し、上下水道を必要としない。このような、大災害等を前提とし、AIや先端技術の活用によって社会課題を解決し、ビジネス化する取り組みが高く評価されている。https://www.g-mark.org/award/describe/51162

近年注目も中国のDIA賞とは?

これ以外にも、アメリカやイタリアを始めとして、歴史あるデザイン賞は世界中に数多く存在する。そんな中で、急速に発展しているのが中国だ。中国は2007年に温家宝主席が「要高度重視工業設計(インダストリアルデザインを高く重視せよ)」をスローガンとして打ち出し、「インダストリアルデザインは国家発展の根幹である」という姿勢を取っている。これは何も中国に限ったことではないが、中国は国策としてデザイン振興を推進しているのだ。その中で近年注目を集めているのが中国DIA賞(Design Intelligence Award)だ。これはイノベーションによる産業発展を評価基準とし、莫大な賞金とともに日本でも知られてきている。

2020年には、ソニーのデジタル教育玩具の「ゲズンロイド」が金賞を受賞している。そして、その特徴はデジタル技術を中心としたイノベーションと、社会課題の解決だ。ゲズンロイドもロボット技術とアナログ感覚を組み合わせてユニークな商品だが、DIA賞ではこのような明日を見据えた視点のものが高く評価されている。

DIA賞2020 金賞「ゲズンロイド」。中国のDIA賞は、元々中国のベンチャー企業を発展させる目的で、中国美術学院(日本の東京藝大に相当する)と政府が連携して始めたアワードである。現在は、中国最大のデザイン賞に成長し、イノベーションを重視した意欲的製品が高く評価されている。日本からの応募も増加しており、ソニーの知育玩具「ゲズンロイド」は2020年の金賞を受賞した。https://www.jida.or.jp/site/information/dia2021

また、デジタル技術を活用したイノベーションと同時に大切なのは、「ソーシャルイシュー」だ。世界は常に課題に溢れており、その多くに解決策が見出されていない。国連の提唱するSDGsはその代表的なものと言える。2025年の関西・大阪万博とテーマともなっているSDGsを、デザインによって解決しようとする国際組織がWDO(World Design Organization)だ。WDOは、地球的、環境的、人道的観点から、WDIP(World Design Impact Prize)を主催し、デザインによる、より良い社会の形成を目指している。

日本のデザイン教育に一抹の不安

このような、世界のデザイン賞の潮流の中で、日本の企業も意欲的に取り組み始めている。ドイツのレッドドットデザイン賞が、シンガポールで主催するレッドドットアワード:デザインコンセプトに、日本のベンチャー企業のBionic Mが「ロボット義足」で、最高賞(Luminary)を2020年に受賞した。

これは、ロボット技術を活用しているが、神経の生体情報とつながり、自然な歩行感覚を達成している。私は、オンラインでのアワーディングを務めたが、日本人として大変喜ばしい事であった。しかし、こうした日本企業の躍進とは裏腹に、デザインを学ぶ日本の学生たちはどうしているのだろうか? レッドドットのコンセプト賞には、先端的な企業とともに、数多くの学生も参加している。日本では現在大規模なコンセプトデザイン賞はなくなってしまったが、世界には有名な賞も多い。そこに、アジアをはじめとした世界中の学生たちが、活発にチャレンジしており、そのレベルも高い。

レッドドットデザイン賞コンセプト 2020 最高賞「ロボット義足」。本賞は、ドイツのレッドドットが、シンガポールで毎年開催する、コンセプトデザイン賞。かつては学生デザインコンペの側面もあったが、現在はトップ企業の意欲的な研究も数多く参加している。2020年の最高賞(Luminary)は日本のベンチャー企業であるバイオニック Mが獲得した。https://www.adfwebmagazine.jp/design/robotic-prosthetic-knee-by-bionicm-is-the-winner-for-the-red-dot-award-luminary-2020/https://www.red-dot.org/design-concept/about

ただ、残念ながら、日本からの応募は極めて少ない。これまで、世界十ヶ国以上でデザイン賞の審査に参加してきたが、日本の参加者は滅多に見ないのだ。昨年も、九州大学の主催で学生を対象として開催された「SDGs Design International Award 2020」にも、日本での開催にもかかわらず上位入賞者に日本人は1人もいなかった。応募から審査までの全プロセスが英語であったためもあるだろうが、実に残念だ。日本のデザイン教育はどうなっているのだろうか。

デザインの対象は、どんどん拡大し変化している。「イノベーション・ソリューション・ビジネス」とデザインがつながり、デジタルテクノロジーがそれを推進する。これが、今日のデザイン潮流だが、コロナ禍を経て今一度「心」に目が向けはじめられている。

それはウェルビーング(Wellbeing)やコンビビアル(Convivial)といった言葉となって次の兆しが始まった。こうした変化は、デザインを更に変えていくだろう。そこに、日本の若者の姿はあるのか。単なる言葉の壁だけではない問題があるのではないか。デザインとは「明日を拓く行為」である。未来を創る次世代に期待したいものだ。

SDGsデザイン国際賞 2020 最優秀賞「死者を送る船」。九州大学が主催する国際学生賞。今回はシンガポール国立大学のチーム(Viany Sutisna, Bonaventura Kevin, Faith Lim Rui En)が獲得した。テーマはCOVID-19による死者との最後の別れを安全に行うための「顔の見える密封棺桶」だ。上位5賞の受賞者に日本人は無く、中国、インドなどの学生たちであった。 https://www.sdgs.design.kyushu-u.ac.jp/awards/

※本記事は2021年6月に寄稿されたものです

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株式会社GKデザイン機構 代表
田中 一雄

1956年東京生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。世界屈指の総合デザイン会社の代表として活躍するほか、(公社)日本インダストリアルデザイン協会 特別顧問、(公財)日本デザイン振興会グッドデザイン・フェロー、世界デザイン機構(WDO)アドバイザーなども務める。また、グッドデザイン賞、ドイツRed Dot Design賞 、オーストラリア国際Design賞、などの国内外の審査員を歴任。グッドデザイン賞グランプリ総理大臣賞の他多数受賞している。インドAjeenkya D.Y. Patil 大学名誉博士。技術士(建設部門/建設環境)。これまで、プロダクトから都市環境まで多様なデザインを手掛け、常に社会的視点からデザインを考えてきた。現在は、総合デザインプロデュースや国際デザイン運動など幅広い活動を続けている。
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