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世界一意識低いクラシック名曲アルバム

クラシック界の伊達男プッチーニ。名作オペラの数々は浮気を糧に作られた

author: 渋谷ゆう子date: 2023/09/17

オペラを見たことがなくても『蝶々夫人』というタイトルは聞いたことがあるかもしれません。オペラ『トゥーランドット』の「誰も寝てはならぬ」という歌を聞いたことがある方も多いでしょう。そんな数々の優れたオペラを作曲したプッチーニですが、自分の人生、特に男女間のゴタゴタ全てをコンテンツ化しちゃえる、非常に気力と精力に溢れたかなりのイケオジ(当社比)だったのです。

ジャコモ・アントニオ・ドメニコ・ミケーレ・
セコンド・マリア・プッチーニ

1858年 (0歳)
イタリア・トスカーナで生まれる

1880年 (22歳)
ミラノ音楽院入学。
宗教音楽の作曲をやめて本格的にオペラ作家の道に

1882年 (24歳)
オペラ第一作目を作る

1884年 (26歳)
人妻エルヴィーラと駆け落ち同棲をはじめる

1893年 (35歳)
オペラ 『マノン・レスコー』 大成功をおさめる

1900年 (42歳)
オペラ 『トスカ』 初演

1904年 (46歳)
エルヴィーラと結婚

1909年 (51歳)
ドーリア・マンフレーディ事件

1924年 (65歳)
咽頭癌で死去

恋愛に忙しく、制作はスローペース

ジャコモ・プッチーニは1858年にイタリアで生まれました。プッチーニ家はジャコモくんが生まれる100年前から、イタリアの宗教音楽を作る音楽家ファミリーです。幼い頃に父親を亡くしますが、親戚の間で手厚く育てられて音楽教育を受けます。はじめは、ファミリービジネスである教会のオルガニストになるのですが、ジュゼッペ・ヴェルディのオペラ『アイーダ』を見たことがきっかけで「オペラ作曲家に俺はなる!」と夢を持つのです。22歳ごろには、ミラノの音楽院で本格的に作曲の勉強をし、2年後には最初のオペラを完成。これを高く評価した出版社が、プッチーニに制作の依頼をするようになります。

とはいえ、20代で作ったオペラは二作だけ、三作目『マノン・レスコー』は35歳の時なので、なんだかずいぶんゆっくりした性格なのかと思ったりします。たいして作曲してないじゃないか、何してたんだということなのですが、そこは典型的なイタリアモテ男プッチーニ、やっぱり恋愛に忙しかったりしたわけです。出版社からは、そんなことしてないで作曲に時間使ってくれと催促されるほどお忙しかったわけで。

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とにかくかっこいいイタリア伊達男

26歳の時に人妻エルヴィーラと大熱愛、いや不倫して、エルヴィーラは家を出てしまい、プッチーニと同棲を始めます。離婚はしないまま、プッチーニと20年近く一緒に生活することになります。やっとこさ、というかついにというか、1904年プッチーニ46歳ごろになって、エルヴィーラの夫が死去し、二人は結婚することができました。宗教観や当時の世情もあって離婚話が進まなかったとはいえ、20年一緒に生活していた不倫はもう事実上の夫婦なわけで。プッチーニにとってみたら、ふつうに家に妻がいるようなもんです。で、ご想像のとおり、世の男性は家にいる女性には、だんだんと興味をもたなくなっていくんです(ほんとサイテー)。

それは当時も同じで、イタリア伊達男プッチーニにも、同棲生活20年の間にあれやこれやがありました。「プッチーニは女好きだから」とあちこちで言われていたようなモテっぷり。不倫同棲中だろうがなんだろうが、あちこちで忙しかったようです。男性の不倫に厳しい筆者でもあの顔、あのスタイルでは仕方ないのかと思わせます。エロさが滲み出るいい男なのです(個人の感想です)。しれっとイタリアのスーツを着こなし、さらっとさりげなくポケットにはチーフがささっています。彫りの深い目とくっきりした鼻筋、そしてその下にあるたっぷりとした髭。ああ、この様子で目の前に現れたら、世の女性たちがお誘いを断れるわけがないんですよ。そうなんですよ。

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浮気を疑われた家政婦が自殺するも…

元夫が亡くなって、やっと正当な権利ある妻になれて、エルヴィーラはほっとしたに違いありません。「ああ、やっと、あちこちの女たちと私は違うんだわ」と思ったのも束の間。今度は、プッチーニと家にいるお手伝いさんがなんかアヤシイ。絶対アヤシイ! ムキーーーーーーッ! と、エルヴィーラはとにかく嫉妬深くなってしまいます。

プッチーニの妻となるエルヴィーラ

いや、もともと嫉妬深いんでしょう。でもこれまでは、プッチーニの浮気にイライラしたり、嫉妬してしまったりしても、他の女性と自分はまだ法的にはあまり差はありません。その時点で騒げば騒ぐほど、自らの立場は悪くなってしまうのです。だからエルヴィーラはちゃんと20年、その嫉妬心を抑えて(たまにはキーキーいうくらいで)耐えて来たわけです。なのに、ようやく結婚できても、夫はなんだかまた浮気心を持て余しているっぽいし、どうやら家庭内でお手伝いさんに手を出してるんじゃ? 外で浮気してないっぽかったのは、家の中で済ませているからでは? ムキーーーーッ! 妻という地位を手に入れて、それまでの我慢が効かなくなったエルヴィーラの暴走は止まりません。

結果、エルヴィーラの嫉妬に駆られた強力な叱責に耐えかねて、このお手伝いさんはプッチーニ家を去っていきます。しかしエルヴィーラは出て行った彼女をさらに追い詰め、主人と寝たと言いふらし、罵詈雑言を吐いたというのです。それも執拗に。

それに耐えかねた女性はなんと、毒を自ら飲んで自殺してしまいます。なんとも後味の悪い辛い結果に終わって….いや、この話はこれで終わらなかったのです。死後に検査に出された彼女、なんと処女だったというのです(この検査嫌!)。つまり、プッチーニの浮気はエルヴィーラの勘違いだったというわけで。エルヴィーラはこの件で起訴される(ドーリア・マンフレーディ事件)ことにもなって、世間を相当騒がせました。

ところで、ねえ、プッチーニ? おまえ、この間何してたん?

恋愛沙汰もオペラの糧に

その答えは全部オペラにある。と、プッチーニ本人が言ったわけではないんだけど、そうとしか答えはなさそうです。プッチーニのオペラを見ると、こんな恋愛沙汰が彼の人生の糧になっていたと思えちゃうんです。プッチーニの浮気とそこから起こった悲劇、妻だけでなく名前も残っていないプッチーニとの間で嫉妬にさいなまれた数々の女性たちのことを考えると、そんなプッチーニの肩を持ちたくはないのに、プッチーニのオペラには生き生きとした女性たちの生身の姿が現れてくることを認めないわけにはいかない気がしてくるんです。

捕えられた恋人をおもって危ない橋を渡り、さらには殺人まで起こして助け出したトスカ。売られそうになったところを自分の人生をかけて助けてくれる恋人を持ったマノン・レスコー。ひとりの男を死ぬまで信じて待った蝶々夫人。高級娼婦だろうと身分が違おうと、愛を貫いてくれた男に出会えた「ラ・ボエーム」のミミ。プッチーニのオペラに出てくる女性たちは、たとえどれほど状況が悪くても、運命が悲惨なドアを開けようとも、自分の意思を持ってしっかりと立ち、イキイキと生を全うしている強い女たちが描かれています。たとえ物語そのものが男性優位のご都合主義だったとしても、主人公の女性たちは自らの命を最大限に輝かせる魅力をしっかりと持っています。そしてすごく、現実感のある女性たちなんです。

プッチーニには、女性たちのそんな強さや優しさや、弱いところもずるいところも含めて全部を愛する器があったのかもしれません。女好きの真骨頂! としかもう言いようがありません。プッチーニが好きになった数々の女性たちはきっと誰にも、これら主人公たちに似た生命力があっただろうと容易に想像できます。プッチーニが「女好き」と揶揄されるくらいたくさんの女性の心に実際に触れて、そのそばでエネルギーを感じていた。死ぬちょっと前も、「精力減退しないように手術したい」と言ってたほどの女好き。現代に生きていたら、絶対バイアグラ買っちゃってた。それくらい彼のそばにはいつも女性がいたわけで。

そしてそんな彼女たちがいたおかげで、今に続く名作オペラができたっていうことに、とりあえずはしておきたいと思うのです。つまりは私もイケメンに弱い女。プッチーニの魅力に抗えない弱い女ってことなのを認めたくはないんだけど…。

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音楽プロデューサー
渋谷ゆう子

株式会社ノモス代表取締役。音楽プロデューサー。執筆家。オーケストラ録音などクラシック音楽のコンテンツ製作を手掛ける。日本オーディオ協会監修「音のリファレンスシリーズ」や360Reality Audio技術検証リファレンス音源など新しい技術を用いた高品質な製作に定評がある。アーティストブランディングコンサルティングも行う。経済産業省が選ぶ「はばたく中小企業300選2017」を受賞。好きなオーケストラはウィーンフィル。お気に入りの作曲家はブルックナーで、しつこい繰り返しの構築美に快感を覚える。カメラを持って散歩にでかけるのが好き。オペラを聴きながらじゃがいも料理を探究する毎日。
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