2023年6月6日に、カリフォルニアのアップル本社で開催されたWWDCのKeynoteに赴き、新しく発表された『Vision Pro』というARデバイスを体験してきた。万全のコンディションで体験して欲しいということで、アップル本社内に建てられたモデルルーム(仮設と思われる)のようなリビングで、フェイスパッドや立体音響、接眼レンズなどが専用に設定されたVision Proを約40分に渡って体験できた。なお、体験の一部始終は撮影禁止だったので、写真の一部についてはアップルから許可を得た、同社公開画像を参考までに表示しておく。
ユース世代の方こそ体験すべきデバイス
顔や耳の形状、視力などの計測も含めて、1時間半ほどの時間が必要だったこともあって、日本人メディアで体験できたのはわずか8人だった。開発者の方で2人ほど体験されたようなので、現在Vision Proを体験しているのは日本人では10人前後ということになる。
USでの発売が2024年の年明け、他の海外のいくつかの国(おそらく日本を含む)は2024年後半とのことなので、我々が日本で購入できるのは、まだ1年以上も先。しかも、価格は3,499ドル(約50万円)と高価なので、多くの若い方は「自分には関係ない」と思っていらっしゃることと思う。
しかし、体験した筆者としては、「ユース世代の方こそ、体験すべきデバイス!」だと断言したい。なにしろ、Vision Proが切り拓く未来を生きていくのは、ユース世代のみなさんなのだから。
仕事の道具として使えるか、どうか?
筆者が体験した瞬間に「Vision Proを購入しよう」と思ったのは、何もお金に余裕があるからではない。「これこそが、未来のデバイスだ!」という体験だったからだ。M2チップを搭載するVision Proは、装着した状態で、ウェブを閲覧したり、書類を作ったりと、仕事環境として利用可能だ。
何もない目の前の空間に4Kサイズのディスプレイを出現させて利用できるし、ビデオ会議も可能。現実空間も見えており、Bluetooth接続のキーボードやマウスも利用可能なので、今、まさに私がやっているように原稿を書くこともできるだろう。
もちろん、機能だけで考えると、従来のMeta Questや、PICO4のようなデバイスでも同様のことは可能だろう。しかし、現実空間とのシームレスな繋がり、解像度の高さ、なにより従来のアップル製品と同様に使える優れたインターフェイスデザインなどにより、初めて「日常で使えるARデバイス」になると感じた。
実際に体験した際には、興奮していたので重さや疲れなど極めて小さいと感じたが、仕事のために約450gのデバイスを一日中頭に装着していなければならないとなると、負担に感じるかもしれない。しかし、バイクのフルフェイスヘルメットが軽いものでも1,600gほどあることを考えると、重心位置さえ悪くなければ、長時間使用も可能だと思う。
利用が快適だと感じたのは、従来我々はディスプレイの前に顔を持っていく必要があったが、Vision Proの場合、自分が楽な姿勢を取って、その状態で目の前にディスプレイを表示することができるからだ。姿勢に無理が生じない。
また、同じApple IDでログインしているMacを視界に入れることで、その外部ディスプレイとして利用することもできるようになる。
実際にビジネス利用が可能になれば、案外便利なデバイスとして普及するかもしれない。もちろん、最初は専門職の方や、新しいモノ好きの人が使うだけかもしれないが、将来、このVision Proが進化して、利便性の方が勝るようになった時、普及する可能性は充分にあると筆者は感じた。
そして、その価値を最も享受するのは定年間近の我々世代ではなく、まさにユース世代の人たちだと思うのだ。
30年前、私は紙にシャープペンシルでプログラムを書いていた
今、“オフィス”と言われてイメージするのは、デスクの上にノートパソコンが置いてある様子だと思う。しかし、実際には長い目で考えると、オフィスの様子は、意外とさまざまな変化を続けている。
たとえば、私が新卒として会社に入った約30年前には、まだパソコンは仕事には使われていなかった。仕事を終えて会社を出る時には、机の上には何もなかった。正確には電話機だけで、パソコンはなかった。つまり、ウェブブラウザも、メールも、ワードもなかったのだ。
では、どうやって仕事をしていたのだろう? と、筆者でさえも不思議に思ってしまう。思い出してみると、手書きの書類をファイリングしたり、コピーしたり、郵送したり、電話で折衝したりするのが仕事だったように思う。
実は、今から考えると笑い話のようだが、筆者が入社した会社は大型コンピュータのソフトウエアの会社だったが、プログラミングは「コーディング用紙」という紙に、シャープペンシルで書き込んでいた。最終的に、完成したら「コンピュータルーム」に行って、入力するのだ。ソフトウエア会社なのに、手書きで仕事をしていたのだ。
何が言いたいかというと、今、当たり前のように感じている「デスクの上のノートパソコンで仕事をする」という形態も、数年、もしくは数十年のうちにはかならずや変化していくだろうということだ。
現に、ここ数年においても、オフィスでなく在宅での勤務も一般的になり、「日本では普及しない」と言われていたビデオ会議が普及したのだ。10年後に、我々がVision Proや、同種のデバイスで仕事をしている可能性がないとは言えない。
最初登場した時、多くの人がパソコンやスマホを軽視した
今から、考えるとiPhoneが発売された時にも「タッチパネルは使いにくいから普及しない」という人が大勢だった。今のiPhoneよりずっと小さいにも関わらず「こんな大きな電話を使う人はいない」と言われたものだ。
もはや、おそらく言った人自身も忘れてしまっていると思うのだが、本当に革命的なデバイスが登場する時は、そういうものだ。
筆者が高校生の時(1985年ごろ)に30万円の大枚をはたいてシャープのX1 turboというパソコンを買った時も、親は「高価なオモチャを買った」と思っていた。将来誰もがこのパソコンという機械を使って仕事をするようになるとは思っていなかったのだ。
そんなわけで誰もがVision Proのようなデバイスを使って仕事をするようになるという時代が来る可能性は充分にあると思う。いや、むしろ来なければおかしいとさえ思う。
Vision Proはみなさんの時代のデバイスだ
想像してみて欲しい。オフィスに出社して、ソファに座ってVision Proのようなデバイスを頭に装着して、仕事を始めるところを。
現実空間と、VR空間が混じった環境で仕事をすることができる
好きなサイズで、好きな枚数、眼前にモニターを広げて仕事ができる。立体的な製品や、建築に関する仕事をする人なら、図面を表示するだけでなく、実際に立体物を眼前に創出して打ち合わせができる。建築物なら、1/1サイズで表示して、中に入ってみることも、上空500mから俯瞰的に見下ろすこともできる。
隣席の人とコミュニケーションを取る必要があれば、声のした方に現実空間が広がり、実際に隣にいる人と会話することもできる。また遠方の人とは、FaceTime経由(もしくは、ZoomやWebexも対応するだろう)で打ち合わせもできる。
VR空間を展開していても、現実空間の人に話しかけられると、そちらの方の映像がぼんやりと見えるようになる
写真も、映像も立体物として見ることができる。Vision Proを使いこなせるようになれば、Vision Pro登場以前は、どうやって仕事をしていたのか、不思議に思うようになることだろう。
そして、まさにそれを体験するのは、あなた方ユース世代なのだ。
30年後、あなたは後輩たちに「昔は、平面の小さなディスプレイしか持たないノートパソコンで仕事をして、日常的にはスマホという小さなデバイスを使って生活していたんだよ。今から考えると信じられないけど」と語ってるに違いない。
過去を振り返ると、我々の環境は常に大きく変化している。次にどう変化するのか? ユース世代のみなさんこそ、新しいデバイスで、新しい未来を切り拓いていってほしいのだ。
取材協力:アップル