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思い描く仕上がりを求めて(焙煎編)

至高のおうちコーヒーは焙煎から。美味しい1杯を生むコツ

author: 澤村 尚徳date: 2021/05/16

1杯のコーヒーにかける情熱。「自宅焙煎は一筋縄ではいかない。だが、それが楽しい」――そう語るのは編集者であり、コーヒーをこよなく愛する澤村尚徳さん。コロナ禍でおうち時間が増え、コーヒーを飲む量が増加。そこで引っ張り出してきたのが、15年ほど前に購入したサンプルロースター(焙煎機)だという。コーヒー豆を丁寧に焙煎する。味の追求はもちろん、「いかに自分の手を加えて仕上げられるか」が重要。そう語る澤村さんのコーヒー道とは。

サードウェーブコーヒーの旗手・ブルーボトルコーヒーが清澄白河に上陸して、すでに6年。ようやく狂想曲が落ち着きをみせ始めました。この間、コーヒーを取り巻く環境は大きく変貌。スペシャルティコーヒー、シングルオリジン、カップ・オブ・エクセレンスといった専門用語が溢れかえり、ドリップがプアオーバー、水出しコーヒーがコールドブリューと、一部呼び方もおしゃれに。何はともあれ、それまでコーヒーに興味がなかった人も巻き込み、ひとつの趣味としての“コーヒー”が確立されたのです。もちろんそれまでも“コーヒー好き”は多かったのですが、趣味として広く認められるようになったのは、このサードウェーブコーヒーブーム以降のことではないでしょうか。

そしてこのコロナ禍。コーヒーにこだわる人が増え、楽しみ方がより多様化しました。

朝は忙しいので、簡単に抽出できるクレバーコーヒードリッパーで。休憩タイムにはKONO(コーノ)式のドリッパーで抽出。浸漬式と透過式で抽出方法が異なるため、同じ豆でも2通り楽しめる

それまでコーヒー粉を買ってた人が豆のまま購入するようになったり、コーヒーメーカーを使っていた人が自分で抽出するようになったり、ドリップするときに温度を気にしていなかった人が湯温を計るようになったり…それぞれのレベルに合わせてステップアップ。コーヒーの道具にこだわる人も増え、プロと同じアイテムを愛用する人も見かけるようになりました。そう。コーヒーは、知れば知るほど深みにはまる沼であることに、みんな気づいたのです。ど

趣味としてのコーヒーが確立されるとどうなるか。鉄道ファンが、撮り鉄、乗り鉄、音鉄、車両鉄…と分かれているように、コーヒー好きも、店を巡る派、豆にこだわる派、抽出派などに分派。1杯のコーヒーを軸に、あらゆる方向に嗜好が散らばっていきました。

自宅焙煎は一筋縄ではいかない。だが、それが楽しい

そんな私は自宅焙煎の虜に! 自宅にいる期間が長くなり、コーヒーを飲む量が増加。1日40g、1週間で300gを消費するので、豆代がバカにならなくなってきたのです。そこで引っ張り出してきたのが、15年ほど前に購入したサンプルロースター(焙煎機)。ここ数年は街のロースターで豆を買うことが多く出番がなかったのですが、懐事情も考え再開。やり始めると、焼けぼっくいに火が付いたかのように昔を思い出し、ズブズブと沼にはまっていったのです。

15年ほど前に購入した、ユニオンの「サンプルロースター(焙煎機)」。もともと少量の豆をサンプル焙煎するためのものだが、家庭用の焙煎にもぴったり。最大で450g焙煎できるようだが、いつも200gで焙煎している

何が楽しいかって、一筋縄ではいかないこと。自宅焙煎の主目的は「焙煎したての美味しいコーヒーを飲む」「自分が飲みたい豆を好きな度合いで焙煎する」「コストを抑える」の3つ。それを果たすための手段が自宅焙煎のはずなのに、思い描く仕上がりを求めて、飲む分以上に焙煎を繰り返してしまいます。結果、コストを抑えるという目的は果たせず、ミイラ取りがミイラに。

単に焙煎したての美味しいコーヒー豆を自宅で飲みたいだけなら、パナソニックから出ている焙煎機「The Roast」を使えばこと足ります。世界各国のスペシャルティコーヒーが送られてきて、アプリでそこに付いているQRコードを読み込み、焙煎開始を押せばものの10分で美味しいコーヒー豆のできあがり。本当に便利で美味しい。でも違うんです! 美味しいコーヒー豆ができるだけじゃダメ。いかに狙い通りの焼き加減に仕上げられるかが、趣味で楽しむ焙煎の、もうひとつの側面なのです。ちなみに「The Roast」も、エキスパートコースなら自分で焙煎温度、時間、風量などを調整し、自分で焙煎プロファイルを作れます。

自宅焙煎に必要な道具とは

焙煎に使うのは、ロースター(焙煎機)とテストスプーン(焙煎機内に入れ、豆の状態を見る)、キッチンスケール、ストップウォッチ、温度計、ザル、扇風機(ドライヤー)、手袋。ロースターとテストスプーンさえあれば焙煎はできるのですが、豆の量を計ったり、冷ましたり、焙煎前後に使う道具がいくつか必要です。

サンプルロースターは、本格的な焙煎釜に比べて単純な構造で、コーヒー豆を中に入れ、手でドラムを回すだけ。家庭用のガスコンロの上に置いて焙煎しているが、カセットコンロにも対応する
左がコーヒー豆をロースターに入れるときに使用する漏斗。右がコーヒーの煎り加減を見るためのテストスプーン。ロースターに差し込んで、焙煎中のコーヒー豆をすくい出して色を確認する
発酵豆や虫食い豆、死豆、パーチメント(内果皮)といった欠点豆をハンドピック。毎回、同じ量で焙煎するために、計測は欠かせない

焙煎工程は、暖気→豆投入→水抜き→1ハゼ→2ハゼ→煎り止め→豆冷却といった流れですが、大事なのは、先に“煎り止め”を決めておくこと。つまり、目標設定ですね。豆をどんな焙煎度合いで仕上げるのかをあらかじめ決め、そこに向けて焼き上げていくのです。好みは中深煎り。2ハゼで止め、タイミングを見ながら上げます。

焙煎を終えた豆と、焙煎工程による色の変化。水分を含みグリーン色の生豆が水分が抜け白っぽくなり、火が通るにつれ次第に焼き色が付いていく。煎り止めをどこにするかは、豆と好みによる

“煎りたて・挽きたて・淹れたて”の3たてが美味しい!

焙煎工程の中でも圧倒的に楽しいのが、1ハゼから煎り止めまで。ハゼとは、そのまま“爆ぜ”で、ポップコーンのようにコーヒー豆が音を立てて爆ぜること。ポップコーンがしっかりと爆ぜた方が美味しいように、コーヒーもぷっくら膨らんだ方が美味しいのです。プチプチと小さな破裂音が鳴り始めたら、どのタイミングで火を弱めるか、止めるかを考えながら、テストスプーンでロースター内の豆の状態を頻繁に確認。もう少し、もう少し、今か! まだか! と、しばらく緊張が続きます。釣りでいうと、魚が針に掛かってから、どうあげるかまでの格闘に近いものがあるかもしれません。

ところで、コーヒーは“煎りたて・挽きたて・淹れたて”の3たてが美味しいといわれています。もし“挽きたて”“淹れたて”を実践しているのなら、次は“煎りたて”に挑戦してみてはいかがでしょうか。産地、焙煎度合い、粉の粒度、抽出温度、抽出方法…1杯に至るまでのストーリーを知れば、よりコーヒーを深く味わえるはずです。

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編集者
澤村 尚徳

大学卒業後、雑誌、書籍をはじめ、さまざまな紙媒体の編集に携わる。2017年、全国誌の編集長からITベンチャーに転職。コンテンツ作成、イベントプランナー、オウンドメディア編集長を経て、現在、出版社系Webメディア編集長。コンテンツ作りや体制作り、データの分析・活用など、企業メディアにおけるお悩み解決もしている。
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