2021年11月、LINEに大きなリニューアルがあったことをご存じだろうか。LINEアプリの画面下部に表示されている「VOOM」がそれだ。LINE VOOMは、短尺動画を閲覧、投稿できる機能。これまで「タイムライン」として、「友だち」になっているアカウントの投稿を閲覧、自分の近況を投稿する機能だったが、リニューアルにより繋がりのないユーザーの投稿も見られるようになった。
もしLINE VOOMを見たことがないなら、さっそく開いてみてほしい。「フォロー中」には友だちの投稿が、「おすすめ」には見知らぬユーザーの投稿が表示されているはずだ。
そして、おすすめを見て、あるサービスを思い浮かべた人もいるだろう。LINE VOOMには、短い動画の投稿が多数表示される。そして動画を上に向かってフリックすると、次の動画が自動再生される。この仕様は、短尺動画共有サービス「TikTok」に類似している。そして、InstagramとFacebookの「リール」、YouTubeの「YouTubeショート」とも似ているのだ。
なぜ各SNSは一斉にTikTokライクな短尺動画のサポートに乗り出したのか。短尺動画の強さについて解説する。
エンタメからビジネスに繋がったTikTok
TikTokが国内で注目され始めたのは2018年。GMOメディアが2018年5月に発表した「女子中高生と動画サービスに関する調査」の「動画を視聴したことのあるSNS」として、LINEのタイムライン、Twitter、Instagramに次いで、4位にTikTokがランクインしていた。当時は10代女子に人気のSNSとして捉えられていたが、その後動画のジャンルが広がり、年齢層にも広がりを見せた。
そして2020年には、TikTok発のヒット曲が誕生する。ミュージシャン瑛人の「香水」は、その年のNHK紅白歌合戦に出場するほど大ヒット曲となった。
2021年には「TikTok売れ」というキーワードが誕生する(「2021年のTikTok売れを振り返る 」)。リップシンク動画を作って楽しんでいるだけのサービスと思いきや、ビジネス面でも大きく貢献するプラットフォームへと成長したのだ。
その理由は、いくつかある。まず、スマホに適したコンテンツの提供だ。TikTokの動画は縦長が基本なため、スマホを縦に持ったまま楽しめる。一般的に映画やミュージックビデオを視聴するときはスマホを横長に持ち替えるが、TikTokは持ち直す必要がない。このちょっとした動作の軽減により、他のアプリと縦断しながらTikTokも見るようになる。Instagramを見ていたら通知が来たのでメールを読み、ふと思い出してそのままTikTokを見るといった動作が、持ち替えなしでスムーズにできる。片手でスマホを操作する人でも楽々だ。
縦長のコンテンツにも、スマホの全画面を占有するというメリットがある。動画以外の情報が目に入らないため、没入感が高く、飽きずにTikTokの世界を楽しめる。また、ひとつの動画が数秒~15秒程度と短い点も時代に合っている。
ちょっとした空き時間などにTikTokを開けば、数本の動画を見ることができる。短い時間でもしっかり充足するのだ。このように、縦長で短尺の動画がスマホ時代にマッチした。さらに、AIによるレコメンド技術が人々を魅了している。
これまで自分が検索したり、フォローした動画を視聴するものだったSNSに、TikTokはおすすめする動画をどんどん流していく画期的なスタイルを提供し、その面白さが受け入れられた。それはテレビを流し見する楽しさに通じる。受け身となって見させられることで、自分では考えてもみなかった新しい興味を発見できる。しかもTikTokは、ユーザーの好みに合わせてチューニングしてくれる。この動画が好きなら、こっちもどうだと提案してくれるのだ。
他のサービスの追随
このセオリーを他のサービスが逃すわけはない。TikTokのヒット後、InstagramとFacebookは「リール」を、YouTubeは「YouTubeショート」をリリースした。そして、LINEはタイムライン機能を「LINE VOOM」へと生まれ変わらせた。
現段階では残念ながらどの短尺動画を見ても、TikTokで作成した証であるTikTokのロゴが入った動画が投稿されている。TikTokのアプリは誰でも手軽に投稿が作れるような優れた設計がされていること、TikTokでの操作に慣れていることも利用が多い理由だろう。
しかし、各サービスはユーザー層も使われ方も異なる。Instagramはセンスの良いファッションやグルメ情報の検索や、ショッピングにも使われる。ユーザーに合わせてカスタマイズされている「発見タブ」には、フィード投稿以外にリールも表示されている。動画に目が留まり、つい次の動画を閲覧することもあるだろう。
Facebookは人と人との繋がりが強固でビジネスにも使われているため、メッセージを見るついでに投稿を閲覧するユーザーも多い。Facebookのリールはまだ表示されるようになって間もないが、自動再生の動画が気になっている人も少なくない。
そしてYouTubeは、言うまでもなく動画視聴の定番サービスだ。横長の長尺動画と縦長の短尺動画のどちらも見られるとなれば、エンターテイメントを欲している人は必ず開く。
どのサービスも大きな可能性を秘めているが、日本のユーザーにもっとも使われているコミュニケーションアプリ、LINEはどうなるか。かつてのタイムラインではそれほど存在感を示すことができなかった。しかし、ほかのSNSを親に禁止されている小中学生などはタイムラインを閲覧しており、LINE VOOMになった今も人気があると聞く。LINEユーザーの幅広い年齢層が、TikTokのようになんとなく視聴するようになればしめたものだ。
それぞれの短尺動画に、プラットフォームの色が出てくるようになれば未来の展開が見えてくる。「TikTokの真似」を超えた世界がこれから生まれるかもしれない。