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「志」を旗頭に、新たな価値を量産する

創意工夫に満ちた自律的な活動を生む「からくり」を作ろう!

author: 長島 聡date: 2022/02/03

ここ数十年、企業は自社の商品やサービスをいかにたくさんの消費者に届けて、より多くの収益を獲得するかに注力してきた。最初は、品質を上げて、機能やサービスを拡充して、より良い製品やサービスを生み出し、より大きな対価を得るために頑張ってきた。やがて、品質や機能・サービスの内容では差別化が難しくなり、コスト低減を徹底的に進めて、いかに安い価格で販売できるか、いかにお買い得感を生み出せるかに焦点が移ってきた。日本企業の努力は凄まじく、シェアを拡大しながら、より大きなスケールを実現すると共に、改善に改善を続けて、いつの間にか世界でも有数の良いものが安く買える国になった。こんな状況は今も続いているが、最近のもうひとつの焦点は、ライフタイムバリューだ。その企業にとって大事な「たくさんの商品やサービスを、生涯を通じて購入してくれるユーザー」をいかに増やせるかが勝負になっている。

スマホなどを使った顧客の囲い込みには、中国や一部の欧米諸国に先行を許しているが、ここ数年、日本でも先進的な取り組みが始まっている。ユーザーの行動把握を進め、それぞれのユーザーに合ったプロモーションを実現するケースも出ている。カートに入ったままになっている商品、一度検索した商品、買った商品と同時に買いそうな商品など、色々な切り口でユーザーの行動を分析、リコメンデーションを作り、ユーザーの追加の購買行動を促している。

また、位置情報などスマホの各種センサー情報からユーザーの状況を推定して、タイムリーに行ける「お得なサービス」へと誘導するケースもある。さらに、中国にはまだまだ負けるが、様々なデータを駆使して、独自の基準でユーザーの信用度を格付けして、様々なサービスの提供可否を判断している例まで出てきている。

一方で、そうしたシェア争いや囲い込みによるさらなる成長に限界を感じている企業も出ている。代わりに、社会に対してどんな貢献をするか、なんのために自社は存在するのかという「パーパス」を定めて、その実現のために必要なことを突き詰める。こんな活動に舵を切っている会社がある。ユーザーは、そうした会社が定めたパーパスに沿った活動の「具体的な事象」を見て、共感した会社と付き合うという選択をし始めた。

同じ機能で同じ価格なら、掲げたパーパスに共感できる会社と付き合う。応援したいので高くても良いという感覚を持つ人までも増えている。そうした企業の生み出す商品やサービスには、企画の段階から一貫して志がある。どんな材料を使って、誰がどう作ったか。さらには商品をどう使って欲しいかや、使ったあとの行く末までを考えているのだ。メーカーとしての立場を超えて、原材料の生産者やユーザーの日常にまで踏み込んだ視野の広い活動が始まっている。

まだまだ少ないが、さらに社会に寄り添った活動を始めた企業もある。多くは地域に根付いたスタートアップの場合が多いが、地域に賑わいを生むための起点や触媒になろうとしている企業だ。例えば、ある企業は商店街の空きスペースに保育所を作って、街にいる人の流れを変えて、商店街の賑わいを生み出している。保育所なら送り迎えが必ずあり、商店街に人通りが生まれる。その上で、いくつもある空き店舗を使って、新たな商売をすぐに始められる環境をプロデュースして、大小、多種多様な商売を生み出すのだ。そうすれば、住民同士の買い合いや来訪者の増加が実現できるというわけだ。

一つひとつはとても小さく、それこそ日本の中でのシェアなど無いに等しい。でも、たくさんの供給者が生まれ、商店街という単位で束になると、それなりの存在感が生まれる。なにより、それを構成する個々の商売には創意工夫に満ちた自律性がある。さらに、そうした商店街がたくさん生まれ、相互に繋がれば、商店街群という単位になり、中堅企業にも負けないサイズになるはずだ。

ここまで振り返ってきた通り、企業タイプは時と共に、多様に分化してきた。今は、低価格を謳う企業、自社にとってのライフタイムバリューを突き詰める企業、自社の掲げるパーパスにユーザーの共感を求める企業、そして起点や触媒となって賑わいを生み出そうとする企業が入り混じっている状況だ。

こうして多様なタイプの企業が混在しているのは、とても良いことだと思う。様々な選択肢があれば、どんなユーザーのニーズも満たすことができる。前述の企業はそれぞれ、特別な事情で収入を増やすことができないユーザー、自分の好みを深く知るコンシェルジュを求めるユーザー、企業と一緒になって自分のできる貢献をしたいユーザー、そして賑わい作りの主役となってみたいユーザーに、しっくりくる企業になると思う。

もちろん、ひとつの企業がひとつのタイプだけしかやれないわけでは無い。大企業ならいくつかを同時に進めることも可能だ。ただ、私が大企業に今後最も期待したいのは触媒的な動きだ。創意工夫に満ちた自律的な活動を興す人々に、武器を供給して欲しいと思う。それもプラットフォーマーと揶揄されている「利益の総取り」といった感覚とは異なる「社会インフラの提供」という感覚を持つことが大事だと思う。

言い換えれば、大企業は、より多くの人々の創意工夫に満ちた自律的な活動を引き出し、日本全体の売上総量を引き上げるための役割を担って欲しいと思う。商売を素早く始めるのに必要な機能を、どんな人にでも使いやすくかつ安価に提供して、人々が創意工夫にだけに注力できる環境を作れれば最高だ。機能ごとに無数の人に広く薄く課金をする。たくさんの機能を提供することで一定の収益を獲得するというイメージだ。

大きなビジネスを生み出す存在やそれを支える存在は、もちろんこれからも必要だ。でも、これからの豊かな社会の未来を考えると、小さなビジネスを自律的に生み出す存在や、それを「縁の下の力持ち」として支える存在がもっと増えてもいいと思う。幸いにも、私自身、大企業の方々とも対話をする機会を持つことができる。

少しずつ触媒としての具体的な成果を、自ら生み出しながら、対話を始めたいと思う。そして、仲間を増やしながら、小さなビジネスの量産を実現する「からくり」を作っていきたいと思っている。みなさんにも是非、力を貸していただきたい。

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きづきアーキテクト代表
長島 聡

早稲田大学理工学部にて材料工学を専攻し、各務記念材料技術研究所(旧・材料技術研究所)にて助手として、研究に携わるとともに教鞭も執る。欧州最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーに参画し、東京オフィス代表、グローバル共同代表を務める。2020年には、きづきアーキテクトを設立。「志を旗頭に得意技を集め、新たな価値を量産する」をコンセプトに、共創を梃子にした事業創出の加速化を目指す。経済産業省、中小企業政策審議会専門委員など政府関係委員を歴任。スタートアップ企業、中小企業のアドバイザー、産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト WG3 産業構造転換分野 委員、Digital Architecture Design Center アドバイザリーボード、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教授などを務める。
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