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「志」を旗頭に、新たな価値を量産する

パーパスで始める「ありたい未来社会」の実現

author: 長島 聡date: 2021/05/04

事業戦略のスペシャリストにして、自ら起業した「きづきアーキテクト」の代表であり、企業のアドバイザーとしても、多面的に活躍する長島 聡氏が、「志」を旗頭に得意技を集め、新たな価値を量産するというコンセプトをひもとく。初回は、大きな志に向かって、視野を広め、社会と向き合うパーパスの作り方の作り方を解説する。

パーパス・ドリブンな事業展開は持続可能な成長につながる

最近、世の中で話題となっているパーパス。「会社や個人の社会における存在意義を改めて意識しよう」という取り組みを象徴する言葉だ。パーパスのある世界では、なによりもまず、社会における自社や自分のパーパス、つまり目的や存在意義を定めることが大事だ。その上で、そのパーパスに共感する仲間を集めて、その充足に挑戦していく。パーパスの充足への貢献度が挑戦するか否かの意思決定の尺度となる。これまでの「自社の強みを活かせるのであれば、どんな商品やサービスでも手掛けていく」や「いち早く差別化してシェア争いを制する」といった企業経営に対して一石を投じるアプローチだ。

例えば、ソニー。数年前、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを設定した。「満たす」という言葉からは並々ならぬ意欲が伺える。ご存知の通り、ソニーはエンタテインメントやエレクトロニクス、金融など、多岐にわたる事業を展開している。このパーパスは、世界に約11万人いる社員の拠り所となって、部門の壁を打ち壊し、迷わずにそれぞれの社員の持つ力を発揮するための「共通の土俵」を準備したのだ。その効果は、社内に留まらず、このパーパスに共感した学生の入社やユニークな能力を持った外部企業との新たな出会いにまで広がっているようだ。

最近、パーパスドリブンな事業展開には大きなメリットがあると強く感じている。特に、持続的な成長の実現に役立つと思う。理由はこうだ。社会における存在意義や目的は、多くの場合、誰もが賛成しうる抽象度が高い表現となっている。言い換えると、その目的を満たすための具体的なアクションには大きな自由度を持たせているのだ。故に、目的に適っているのであれば、どんな分野の人がどんな創意工夫をしても良いのだ。また、目的の「完全なる充足」などはどれだけ頑張ってもあり得ない。だからいくらでも新たな取り組みを足していける。仲間はどんどん増えるし、終わりがない。更には、これまでのようなピラミッド内の歯車的な働き方ではなく、それぞれが主役になる働き方となるから、格段に楽しい。だから、成長が持続するわけだ。

実体験に沿って、少しずつ大きく設定する

一方で、「パーパスって、言ったって、どう定義すればよいかわからない!」という声も聞こえる。確かに抽象度が高いので慣れるまではとても難しい。でも、もっと楽に捉えて、とにかく始めてみるのが良いと思う。例えば、だいぶ前に、「モノづくり」から「コトづくり」にというキーワードがあった。「モノづくり」は、極端に言うと、作ったモノの使い方は、買ってくれた人の自由という考え方だった。一方で、「コトづくり」は、モノのクールかつ社会に優しい使い方に共感してくれる人を集めるという考え方だと思う。クールだけど社会に優しい使い方に、みんなの使い方の方向性・ベクトルを合わせていく取り組みだ。こう考えると正にパーパスの考え方に沿ったものと捉えることができる。こんな形なら誰でも始められるのではないだろうか。

京都のシンボル的存在である東寺・五重塔。54.8mと、木造建築では日本一の高さを誇る。モノ作りの技巧も素晴らしいが、五重塔の各層を貫く心柱(大日如来)の周囲を如来や菩薩が囲む構造や、内部に施された極彩色の密教空間など、弘法大師によって建立された際の思想が盛り込まれており、コト作りに通じるものを感じる。

この例は、1つの商品とその使い方という極めてピンポイントかつ具体的なものだ。でも、最近はもっと進化した取り組みも身近にある。自動車であれば、MaaSなどがこれに相当する。SUVやミニバンの使い方を提案する「コトづくり」の世界観を大きく踏み出し、社会をモビリティで活性化しようという世界観を生み出そうとしているのだ。正にパーパスだ。こうなってくると、車を買ってくれた1人の顧客を対象にした提案から、社会のインフラとしてのありたい姿のデザインとなってくる。モビリティを使った笑顔を生むサービスはもちろんのこと、そのサービスを生むための支援もモビリティでしたくなる。社会が相手になると、途端に関わりの出てくるプレーヤーも増えていく。実体験と共に、目的や存在意義を少しずつ大きくすれば良いだけだ。

大きな志に向かって、視野を広めていく

札幌・羊ヶ丘展望台にあるクラーク像の右手を挙げるポーズは、「遥か彼方にある永遠の心理」を指し、そこに向かって大志を抱けとの思いが込められている。

ふと、頭に浮かんだ。北海道大学が札幌農学校だった時代の初代教頭のウィリアム・S・クラーク博士が語った言葉だ。以前は教科書にも載っていたような気もするが、Dr.コトー診療所2006で知った方も多いと思う。「少年よ、大志を抱け、お金のためではなく、自分のためでもなく、名声という空虚な志のためでもなく、人はいかにあるべきか、その道をまっとうするために大志をいだけ」。今読むと、パーパスを連想する。ここに出てくる「大志」は極めて抽象度が高いものだが、しっかりと社会に向き合ったパーパスだと思う。

大きな志に向かって、まずは身近な自分が関わっているものを、より社会に優しい形で、社会に組み込んでいく。少しずつ視野を広げ、視座を高め、自分の関わる範囲を広げていく。その過程ではこれまで出会ったことのない人と触れ合い、新たな視点、多様性を集めていく。社会は、間違いなく広く、色々な価値が組み合わさってできている。それらすべてを初めから相手にするのはもちろん大変だし無理がある。でも仲間を増やしながら、その仲間と共に、小さく始めたパーパスを少しずつアップグレードしながら、大志に近づけていく。大志への貢献総量を増やす活動を続けていくことができたら面白い人生ではないだろうか。

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きづきアーキテクト代表
長島 聡

早稲田大学理工学部にて材料工学を専攻し、各務記念材料技術研究所(旧・材料技術研究所)にて助手として、研究に携わるとともに教鞭も執る。欧州最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーに参画し、東京オフィス代表、グローバル共同代表を務める。2020年には、きづきアーキテクトを設立。「志を旗頭に得意技を集め、新たな価値を量産する」をコンセプトに、共創を梃子にした事業創出の加速化を目指す。経済産業省、中小企業政策審議会専門委員など政府関係委員を歴任。スタートアップ企業、中小企業のアドバイザー、産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト WG3 産業構造転換分野 委員、Digital Architecture Design Center アドバイザリーボード、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教授などを務める。
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