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「志」を旗頭に、新たな価値を量産する

バイクの多様性、両極端の愉しさ

author: 長島 聡date: 2021/11/12

17歳の時、大きな機械を操作したくて、どこにでも行けるようになりたくて、原付の免許を取った。初めて手にする写真付きの免許、友達に見せて回ったのを覚えている。それから、すぐにバイク探しの日々が始まった。当時、新車など買えるわけもなかった。中古車も貯めたお小遣いで手が出るものは限られていた。なかなかいいものが見つからず、しばらく悶々としていたが、出会いはあるものだ。友達がバイクを手放すという情報が入ってきたのだ。よく聞くと、憧れのギア付きの50cc、ヤマハのRZ50だという。レースにも出られそうなデザインが魅力的だ。値段もなんとか用意できるレベルだったので、すぐに飛びついた。

この世の自由をすべて手に入れた気分になった。歩きや自転車とは機動性が段違いだった。大きな機械を操作している感覚も最高だった。なかなか思い通りにはいかず、ギクシャクしてしまうことが多かったが、スムーズなギアチェンジやコーナリングができると、ヘルメットの中で笑みが溢れたのを覚えている。少しずつバイクが自分の手の内に入っていくような感覚は自転車では味わえないものだった。ただ、値段が安かったこともあったのか、トラブルも多かった。バッテリー切れ、テールランプの異常、オイル漏れ。「詳しい友達に聞いては、自分でなんとか修理する」という繰り返しの日々だった。そんなこともあり、このバイクとは2年弱の付き合いとなった。

その後といえば、19歳で車の免許を取った。そこからは車の個室感にどんどん引き込まれていった。いつの間にかバイクが頭の中から消えていたように思う。車でも、上手い下手は別にして、操る楽しさを堪能していた。クラッチを踏んでギアを変える。この動作がたまらなく「格好いい」と感じていたものだ。バイクとは違い、車中泊という選択肢もあった。スキーはもちろん、家に帰るのが面倒な時は、車で寝るという選択をよくしたのを覚えている。わざわざ深夜に峠に出かけて走る。こんな少し馬鹿げたことも、習慣のひとつに組み込まれていたような気がする。

また転機が訪れた。25歳の時、「ツーリングに行こう」という友人に誘われて、中型免許を取った。久しぶりのバイクは、新車のヤマハDT125、モトクロスタイプで、排気量は125ccだ。ピンクナンバーには少し恥ずかしさがあったが、50ccとは明らかに異なるパワー感に感動した。緑溢れる場所でのツーリングも、とても爽快だった。ショートツーリングにも何度となく出かけたものだ。でも夏はとにかく暑かった。Tシャツで乗ろうものなら、ひどく日焼けした。ただれる一歩手前まですぐにいく。長袖襟付きがマストな服装だと気づいた。それから、維持費の低さには驚いた。車とは比べ物にならないくらい低く、バイトのみの大学院生にとって懐に優しいものだった。その後、高速に乗れるレーサータイプのバイク、ホンダCBR400を友人から譲ってもらい大学院生活を満喫した。

就職してからは激務。バイクはエンジンの掛からない毎日となり、買取業者の下へと去っていった。それから18年、車とは相変わらずの付き合いが続いていたが、バイクとは縁のない暮らしを過ごしていた。そんなある日、自分には大型二輪免許の申請資格があることがわかった。詳しくは説明しないが、海外赴任中に作った海外の免許での実績が日本でも認められるというものだ。当時、大型といえば、取得が難しい免許と言われていたので、完全に頭の中になかったのだが、これを聞いて一気に夢が膨らんだ。運転技量が乏しいことに不安を覚えながらも、大型を申請して、大型バイク選びが始まったのだ。

47歳の頃だったか、ようやくバイクが決まった。デザインとスタイルに一目惚れした。DucatiのScrambler Italia Independentという800ccのバイクだ。今回はジャケット、パンツ、ブーツなどアパレルも揃えて、乗っている時の姿にも拘った。「走りは」といえば、パワフルそのものだった。アクセルをぐっと開けるなど、恐ろしいと思うほどの加速感だった。運転に自信もなかったので、常にゆっくり、慎重なドライブを心がけた。そうして運転してみると、ゆとりや余裕といった新しい感覚も味わうことができた。ただ、ひとつ頭を悩ませていたものがあった。それは、バックミラーの取り付け位置だ。ハンドルバーの下側に向けて付けられていた。スタイルは格別なのだが、ミラーをみるたびに視線が下向きとなり、緊張がなかなか治らなかった。

4年半乗ったDucatiだが、京都での起業を機に売却をした。街乗りを重視する車に乗り換えたのだ。お抹茶色のホンダクロスカブ110だ。クラッチはついていないが、操る楽しさのあるマニュアル車だ。レトロな雰囲気が町家を改装したオフィスによく似合う。また、最近はコロナ禍でかなり減っているとは思うが、街中の渋滞もスイスイと抜けていくことができる。さらに、京都の街には至る所にバイクの駐車場があり、どこに行くにも自由自在だ。1年くらいはクロスカブの凄さをただただ実感する日々が過ぎていった。

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今年の夏、無性にツーリングに出掛けたくなる出来事があった。クロスカブで街中を走っていた時、信号待ちでとなりにアメリカンの大型バイクが止まった。「お抹茶色、いいねえ」とバイク乗りは気軽に声をかけてきた。ついつい「アメリカン、欲しいんですよ」と、話返す自分がいた。「あ、ツーリングに行きたいんだ」と思った瞬間だった。そこからはアメリカンバイク探しが始まってしまった。もちろん、前傾姿勢になるバイクではなく、ミラーがハンドルバーの上についていて、視線を常に前に向けたまま運転できるバイクだ。真のゆとりを持って、運転できるものを探した。なぜか出会いはすぐにきた。ウェブにも乗っていない中古車が、たまたま寄ったお店に置いてあったのだ。ハーレーダビットソンのソフテイルスリム、1745ccだ。一目惚れで出会いから1週間後に購入してしまった。バックをつけて、ETCをつけてツーリングに出かける準備も万端だ。アパレルは既にあるDucatiを使いつつ、徐々に揃えていきたい。

様々な排気量、タイプのバイクを乗り継いできた。操る楽しさやファッションとしてのバイク、さらにはゆとりの実感。色々な体験をしてきた。今度は、初めてのバイクの2台体制だ。しかも、街乗り特化のクロスカブと、ツーリング特化のハーレーだ。自分は一人なので、乗る機会は限られるとは思うが、多様なバイクの世界観を堪能できると感じている。共に味わい深いバイクだと思う。両極端の行き来で、どっちのバイクに乗っても常に新鮮な体験ができるのを楽しみにしている。本稿が出る頃は、ハーレーの初回ツーリングを楽しんだ後だと思う。おそらく行き先は兵庫県の丹波篠山だ。またどこかで体験談などお話ししたいと思っている。バイクにはもちろん限らない。みなさんも何かを題材に多様性を楽しむ旅を始めてみてはどうだろうか。

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きづきアーキテクト代表
長島 聡

早稲田大学理工学部にて材料工学を専攻し、各務記念材料技術研究所(旧・材料技術研究所)にて助手として、研究に携わるとともに教鞭も執る。欧州最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーに参画し、東京オフィス代表、グローバル共同代表を務める。2020年には、きづきアーキテクトを設立。「志を旗頭に得意技を集め、新たな価値を量産する」をコンセプトに、共創を梃子にした事業創出の加速化を目指す。経済産業省、中小企業政策審議会専門委員など政府関係委員を歴任。スタートアップ企業、中小企業のアドバイザー、産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト WG3 産業構造転換分野 委員、Digital Architecture Design Center アドバイザリーボード、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教授などを務める。
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