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部活かクラブかではない第三の選択肢

プロユースのスポーツジムが中学野球部を変える社会実験!?

author: 村瀬秀信date: 2021/10/09

「新しく中学生のクラブチームを起ち上げた理由は、息子が中学に上がり『野球を続ける』となったときに、いろいろと調べていくと中学校の部活も、既存のクラブチームにもも難しい現状があったということ。しかし、それはホンの切っ掛けに過ぎませんでした――」

1回表の子どもたちの物語はこちら

“学校の部活”から“町の部活動”という考え方は正しいのか?

東京・西麻布のオフィス。一流のアスリートや芸能人、実業家など、各業界の限られたトップの人たちを顧客にする少数会員制スポーツジム『DeportareClub』の代表であり、”素晴らしい大胸筋の持ち主“である竹下雄真氏が設立の理由を語る。

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「今、世の中の動きとして『総合型地域スポーツクラブ』の必要性が考えられ始められています。簡単に言えば、学校の部活から、地域でスポーツクラブを持ち、育み、発展させていくことへシフトさせていく考えです。その背景にあるのはまず従来の部活動モデルの崩壊です。少子化による生徒の確保や、ブラック企業以上に黒い教員の長時間労働問題。顧問の指導経験のレベルのバラつきなどが原因で、従来の部活動というものでは、学校や教員には負担が大きく、生徒にとっては魅力が乏しいものになってしまいました。かねてから指摘されていたこの問題に対して調査・研究・育成が行われていましたが、昨年秋には経済産業省が【地域×スポーツクラブ産業研究会】を立ち上げ、有識者による議論が重ねられるなど、いよいよ本格的に始動する流れとなってきました」

これまでの日本では、中学生は部活動でスポーツをやるのが一般的であり、どうしたってクラブチームには人より能力が秀でていたり、上を目指したい子どもなど“一部の特別な存在が通う場所”という認識で語られることが多かった。お金の面でも、手間暇の面でも、だ。

だが、世界的に見れば、欧州やオーストラリアには元々部活動という概念はなく、100年以上も昔から全国に“地域型のスポーツクラブ”というものが根付いていたという。そこでは、家族で在籍しながらも息子はサッカー、娘はチアリーディング、親はテニスなど、違ったスポーツをやるケースも珍しくなく、スポンサーや補助金などの公費が投入されているクラブなどでは、個人の金銭的な負担もグッと抑えられているそうだ。

「日本でも、少子化がはじまる以前、1995年頃から地域スポーツの担い手の期待を受けて『総合型地域スポーツクラブ』の育成がはじまっていましたが、その多くはボランティアが主体の運営であり、経済的に自立した“サービス業”としての本格的な参入は、まだはじまったばかりです。『総合型地域スポーツクラブ』とひとくちに言っても、現在全国に3600クラブ以上とかなりの数が存在していますけど、その運営の形態は、地域によって本当に様々なものがあるようです」

プロの知識や経験技術を適切に中学生に注ぐ実験!?

クラブチームとしての有名どころでは『アルビレックス新潟』がサッカー、女子サッカー、BリーグのバスケットにBCリーグの野球、スノーボード―にレーシングチームと各界で存在感を示しているほか、Jリーグの『東京ヴェルディ』もサッカークラブ創設50周年となる2019年から軟式野球、バスケットボール、バレーボール、チアダンスにeスポーツなどにも参入し“総合クラブ”へと進化を遂げている。

「これからは部活動に代わり、地域のスポーツクラブへと主流が移っていくことは明らかです。僕らが目指すべき“健康革命”もその延長線上にある。これはビジネスというよりはCSR(企業の社会的貢献)含めて、これから日本のスポーツへの取り組みに対し、僕らに何ができるかの挑戦でもあります。ただ、うちがやるからには、面白いことをやりたいですよね。世の中の抱えている課題に対して、芯を外さず、新しいチャレンジを僕らが住む茅ヶ崎の町から仕掛けていく。その第一歩としての『茅ヶ崎ブラックキャップス』です。まず、僕らがやりたいのは、野球エリートを引っ張ってこなくても、お金を掛けずとも、現役のアスリートのトレーニングを見てきた、各専門分野のプロフェッショナルがその経験と、知識と、環境を、適正な成長段階に合わせて中学生に注いでいけたら、どんなことが起こるのか――。そう。これは“壮大な実験”なんです」

ブラックキャップスに地域を代表する有名選手はいない。地区予選敗退が常連のチームを中心に、隣のチームの下位打線にいた選手が3名加わっただけのいわば寄せ集めの集団である。

選手個人、チーム、そして町や地域でも、スポーツにおける様々なことが劇的に変わって行くであろう端境期にある時代。その中で、誕生した『茅ヶ崎ブラックキャップス』という新しい社会実験には、経済産業省に実証実験として採択されるなど、その成否の行方と可能性に注目を集めている。

主戦場を硬式野球のポニーリーグに選んだ理由とは?

チームの監督にはオーストラリアの独立リーグでプレーしていた阪口泰佑氏が決まり、GMには名門・鹿児島実業サッカー部出身の松元大将氏が就任。選手たちのメディカルサポートには野球医学の専門家であり「ベースボール&スポーツクリニック」の馬見塚尚孝氏など主要メンバーも集まり、日々の練習の場として茅ヶ崎市北部の文教大学湘南キャンパスのグラウンドや、地元茅ヶ崎で創業50年以上の歴史をもつ林水泳教室、その他にも地元企業などの支援の輪が広がってきた。

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所属するリーグはリトルシニアでもボーイズでもヤングでもない、参加チーム数でいえばボーイズの約8分の1。どちらかといえばマイナーな印象を受ける硬式野球の老舗ポニーリーグを主戦場に選んだ。

「このポニーリーグが面白いんです。なぜポニーなのか。今現在、新しい時代に合わせた改革をしている最中のリーグだったということがひとつ。そして制約に自由が多いということですね。たとえばチーム名を自由に付けられる。ユニフォームもロングパンツも許容され、ストッキングを履いても履かなくてもいいし、スポンサーのロゴをつけてもいい。4つのリーグで唯一本部が日本じゃない、アメリカのピッツバーグですから、MLBの選手もほとんどがポニー出身で世界人口が一番大きい。そんな歴史のあるリーグが今現在改革の最中であれば、一緒にいろんなことを変えていくことができる。近年は参入するチームも増えてきていますし、非常に面白いリーグですよ」

新たなチームと改革を行う老舗のリーグ。彼らが目指す改革とは一体何なのだろうか。

2回の表/こどもたちの物語へ続く

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作家・ライター
村瀬秀信

1975年神奈川県茅ケ崎市出身、旅と野球と飲食のライター。著書に「止めたバットでツーベース 村瀬秀信野球短編集」(双葉社)「4522敗の記憶~ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史」(双葉社)「気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている」シリーズ(講談社)など。文春野球の初代コミッショナーであり株式会社OfficeTi+の代表。
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