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東京・パリ・ベルリンを比較

電動キックボードは「街の足」になれるのか?

author: 山本 敦date: 2021/09/15

フリーランスライターにとって夏休みとは“あってないようなもの”の代名詞ですが、2021年の夏に何か楽しい思い出をつくりたいと考えて、LUUP(ループ)の電動キックボードに乗ってみました。以前に同様の電動キックボードによるシェアリングサービスを海外の街で利用した時の体験を振り返りながら、LUUPのサービスを採点してみたいと思います。

いま電動キックボードが注目される理由

多くの人口が集中するエリアの交通管理と混雑緩和は、東京に限らず世界の大都市が共に取り組む課題のひとつです。電車やバスによる移動が困難なエリアも一人乗りのマイクロモビリティにより効率よく移動できるようになれば、公共交通機関や自動車道路の混雑緩和にも貢献するはずです。

LUUPは株式会社Luupが提供するマイクロモビリティのシェアリングサービスです。電動キックボードよりも先に電動アシスト自転車によるシェアサイクルも始まっています。

2021年4月23日から東京都は渋谷など6つの区でLUUPの電動キックボードシェアリングのサービスがスタートしました。

電動キックボードは日本の現行法上では原動機付自転車、つまり原付バイクに分類されるため、通常はヘルメットを着用して乗らなければなりません。Luupでは「マイクロモビリティ推進協議会」という業界団体を立ち上げ、関係省庁と議論を交わしながら安全性を確保するための実証実験を重ねてきました。その成果として今年の4月23日に国内で初めて政府の特例措置の元、ヘルメットの着用を任意としたLUUPの電動キックボードシェアリングサービスをスタートしました。

もちろん転倒による怪我を未然に防ぐためにもヘルメットは有効なアイテムです。LUUPの利用頻度が高い方、自宅とオフィスとの間など移動ルートが決まっていて、ヘルメットの携行管理が苦にならない方は“転ばぬ先のヘルメット”を持つと安心です。

LUUPの電動キックボードはアプリを使って乗車する

筆者が乗車体験をした2021年8月上旬時点で、LUUPが利用できる東京都のエリアは渋谷区・新宿区・品川区・世田谷区・港区・目黒区でした。エリア内には利用できる電動キックボードが100台以上、乗降できるLUUP専用ポート約300箇所のうち、約200ポートで電動キックボードが使えます。

LUUPのマイクロモビリティはポートと名付けられた専用の場所で乗車・返却することが決められています。

電動キックボードサービスに乗る前に、iOSとAndroidに対応するモバイルアプリ「LUUP」のインストールと、事前の会員登録が必要です。ユーザーアカウントを作ってから運転免許証を読み込み、アプリから「道路交通法テスト」を全問正答するまで受験します。筆者は運転免許証のデータが承認されるまで半日程度の時間がかかりました。遅くともLUUPに乗る予定の前日から、ゆとりを持って準備を始めましょう。

基本利用料金は初乗り10分間が110円。以降1分ごとに16.5円(税込)がかかります。筆者の利用料金はLuupが「実証実験特別価格」として案内しているものなので、今後変更される可能性もあります。

参考までに筆者が2018年にパリで電動キックボードサービス「LIME-S(ライム・エス)」を利用した時は、初乗り料金が1ドル(約110円)、以後1分間に0.15ドル(約16円)のレンタル料金がかかりました。翌年の2019年にベルリンで同じサービスを利用した時にも料金はほぼ同じでした。LUUPの価格は先行する海外のサービスに沿った妥当な値付けではないかと思います。

専用ポートで乗降する利点と課題

LUUPの電動アシスト自転車、電動キックボードはサービス専用の「ポート」で乗り降りする必要があります。そのため最初にモバイルアプリから移動を始める場所と、到着地点のそれぞれにあるポートをアプリから検索します。

専用アプリの出来映えがとても良いと感じました。ポートごとに現在利用可能なマイクロモビリティの種類と台数、バッテリー残量が確認できます。ポート周辺の風景を撮った写真がアップされているので、慣れない場所に電動キックボードを返却する時に建物の外観と比較できて便利です。

目的地のポートまでLUUPアプリのマップを見ながら移動。訪れたことのない場所にあるポートでも、アプリに共有されている写真を見て正しい場所に到着したことを確かめられます。

乗車可能な電動アシスト自転車、電動キックボードの空き状況は100%リアルタイムに更新されているわけではないため、特に台数が限られている電動キックボードはポートに足を運んでも空きがないということがありました。

筆者がLIME-Sに乗った当時のパリでは明確なポートが決められていなかったため、実質乗り捨て可能なサービスでした。見つけた電動キックボードが利用中のものでなければすぐに乗れるし、事前に返却場所を調べる手間もありません。利用する側にはありがたい反面、人の往来が多い場所は方々に乗り捨てられた電動キックボードが散らかるため、街の美観が損なわれます。ベルリンでは街の自転車置き場に電動キックボードを駐めるようにルールが決められていました。パリでも2019年には電動キックボードを利用する際のルールとマナーをしっかりと決める方向に動き出していました。

2019年パリの街中では写真のような有名百貨店の玄関前などにラフに乗り捨てられている電動キックボードをよく見かけました。
2019年ベルリンに訪れた時にLIME-Sを利用しましたが、歩道の隅に数台の電動キックボードがきれいに並んで停車している様子をよく見かけました。国民性が表れるのかもしれません。

ポートを決めておけば、電動モビリティのバッテリー残量などコンディションを良好に保てるメリットが得られます。パリやベルリンでは、せっかく見つけた電動キックボードのアクセルやブレーキが壊れていて使えないこともよくありました。

LUUPではポートの数を順次増やしているそうです。現在の提供エリアにはもう十分にポートが充実しているように思いましたが、あえて注文を付けるのであれば「ここならば必ずLUUPが駐められる」という、飲み物の自動販売機やコンビニチェーンなど誰もがよく知っている場所がポートになればもっと気軽に使えると思います。

時速15kmの速度制限は日本の街に最適

LUUPの電動キックボードは最高速度が時速15kmに制限されています。乗ってみた感覚は「ゆっくりと自転車をこぐスピード」に近いと思います。ちょっとした坂道でスピードがヘタらないし、小道に入れば速度はほどよく感じられます。

都内でLUUPに試乗する筆者。車体が大きめなので走行が安定していました。

パリでは2018年から2019年の間にシェアリングサービスの電動キックボードが出せるスピードが時速24kmに制限されました。時速24kmは「自転車を速くこぐ」ぐらいのスピード感なので、交通量の多い場所は慣れないと恐怖感がありました。スピード調整も難しいので、多くの歩行者がいる場所では危なっかしくて乗れませんでした。

筆者が2019年にパリで利用したLIME-S。車体が軽いので、安定した走行ができるようになるまで少し練習が必要でした。

LUUPの電動キックボードは歩道の走行が禁止されています。また自動車の走行量が多い道路は安全性を優先して自主的に「走行禁止道路」とされており、アプリのマップで注意を促しています。政府の特例措置において電動キックボードに乗らずに手で押しながら歩く場合は歩行者扱いになるので、交通量の多い場所では無理せず手で押しながら移動することをおすすめします。

筆者が海外で乗車したLIME-SよりもLUUPの電動キックボードはひとまわりほどサイズが大きいように思います。車体の安定感は高いのですが、手で引きながら歩くぶんには少し持て余す大きさかもしれません。

LUUPは初めて街を訪れる方の観光や散策の用途にも最適なサービスです。コロナ禍が落ち着いてきたら、海外から日本に訪れた方も使いやすいようにアプリのインターフェースは早く英語表示に対応するべきです。

LUUPのようなマイクロモビリティのシェアリングサービスが街の交通手段として普及と認知を拡大できれば、いずれはビジネスパーソンが活用することで公共交通機関の混雑緩和に大きな効果をもたらすのではないでしょうか。筆者は次に出かける時にもまた積極的にLUUPを活用してみたいと思います。

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スマートエレクトロニクス・ライター
山本 敦

オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はオーディオ・ビジュアルからIoT、ウェアラブルまでスマートエレクトロニクスを幅広くカバー。ヘッドホン・イヤホンは毎年300を超える新製品に体当たり中。国内・海外スタートアップの製品やサービスを多く取材、開発者の声を聞くインタビューなどもしています。
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