コロナ禍などの災害時には、人々の心に不安とストレスがつきまとう。そんなとき、SNSやネットで頻発するのがデマや誹謗中傷だ。
2019年9月に発生した茨城県の夫婦殺害事件では、今年5月に殺人容疑で逮捕された男と無関係である市議会議員や関連会社が、容疑者の親戚だというデマを流され、脅迫電話や無言電話が殺到。文書で事実無根である旨を表明する事態となった。
デマが発生した理由は、同じ地区に住まう同姓だったことのみ。しかし、噂話をまとめる「トレンドブログ」とSNSにより情報が拡散した。
同種の事件は、コロナ禍以前にも発生している。2019年8月に発生した常磐自動車道のあおり運転事件では、加害者が暴行する様子を携帯電話で撮影していた女性として、無関係の女性の実名やSNSアカウントがネットに拡散した。被害に合った女性は、Instagramに1千件を超える誹謗中傷を受けたという。
誹謗中傷の被害者といえば、芸能人や著名人であり、一般の人は関係がないと考えるかもしれない。しかし、「ある日目覚めたらネットで誹謗中傷を受けていた」ーーそんな時代が来ているのだ。
デマや誹謗中傷を流す人の心理
誰でもデマや誹謗中傷のターゲットになりたくはない。ではどうすればいいのか。まず、誹謗中傷を行う人の心理を理解することから始めたい。
実は、誹謗中傷を行う理由としてもっとも多いとされているのは、正義感だ。「真実を明らかにしたい」「悪人を裁きたい」といった心理から、ネットやSNSで書き込みを行う。
ネットやSNSで得られる情報は、その人の思考に合わせてカスタマイズされている。機械学習により、自分好みのニュースがキュレーションされることを「フィルターバブル」と呼ぶ。また、SNSでは自分と似た興味や関心を持った人達と繋がっている。ふと「この事件はおかしいのでは」と考えたとき、同調する記事や意見ばかりを目にすることで、自分の意見に間違いはないと感じてしまう。こうした現象を「エコーチェンバー」という。ネットやSNSを見るに付け、正義感が増強し、攻撃しても良いという思考に結びつく。
ネットやSNSでは匿名が使えるため気軽に投稿できる。誹謗中傷を行っているにもかかわらず、「自分は正しいことをしている」という高揚感を抱き、自らのストレスを解消する。
正義を貫くのであれば事実確認を丁寧に行ってほしいものだが、持論が固まっているため、他の意見を聞き入れない。
正義感はデマも生む。「ニュースでは報道されない真実」を親しい友人に伝えなければ、とメッセージや電話で振りまく。新型コロナウイルス感染症の対策では様々なデマが発生しているが、元々は正しい事実をいち早く伝えなければという正義感が強く、その結果デマの流布に加担している。
デマや誹謗中傷に巻き込まれないためには
攻撃者は自分の意見と異なる意見を持つ人を攻撃するとなると、トラブルに巻き込まれない手段はないのかもしれない。しかし、SNS運用に関しては、火の粉が降りかからないように対策しておくことはできる。
まず、アカウントを非公開にすることだ。ネットで知名度を上げたい場合は公開にしておいてもよいが、特に理由がない場合はリスクが伴う。非公開や友達限定投稿を活用し、できるだけ閉じた世界を維持することをすすめる。
そして、不用意な発言をしないこと。政治や宗教、差別的な話題は避けた方が良い。リアルに話すときと異なり、SNSでは様々な環境に置かれたすべての人に意見が行き届いてしまう。ふとした投稿が誤解を生んだり、「自慢なのでは」と嫉妬されたりする。
さらに個人情報を出すことにも注意が必要だ。高学歴を持つ人や大企業に勤める人はターゲットになりやすい。Twitterには出していない情報でもInstagramには書いている、といった状況ではすぐに人物が特定される。学生時代に登録したFacebookに顔写真が掲載されたまま、という場合は公開範囲を「自分のみ」に変更しておきたい。
デマや誹謗中傷を発信する人達は特に情報を得られないとなると、飽きて次の話題へ移る。電話を掛けてくるなどのリアルへの影響も最小限に防ぐことができる。
一方、自分がデマや誹謗中傷を流す側にならないことも肝に銘じたい。ネットを見ていると、不快な意見や明らかに誤っている情報を目にすることがある。そのときは怒りにまかせて投稿せず、冷静になるまでネットやSNSから離れることをすすめる。自分が正しいと思っていても、事実を深く検証していくと間違いとは言い切れないことも多い。意見を述べたいときは、まず親しい友人などに雑談として話してみてはどうだろう。それだけで気持ちが落ち着き、リスクを負ってまでネットやSNSに意見表明する必要はないと思えるはずだ。