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音楽が楽しいのは、実はここから

「てけしゅん音楽情報」に聞く、音楽を“楽しく語る”ためのコツ

author: Beyond magazine 編集部date: 2024/08/29

いろんな場所でいろんな方法でぼくらは自分の好きな音楽を楽しんでいるけれど、音楽の“語り方”って、実は意外とわからない。音楽の話って何を話せば盛り上がる? やらない方がいいことってあるの?

わからないけど、心許せる友だちと好きな音楽を語り合う音楽トークの瞬間はきっと楽しいはず。音楽シーンの最新情報を伝えるYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」を運営する、てけ(照沼健太)さんとしゅん(伏見瞬)さんに音楽を“楽しく語る”コツを聞いた。

「てけしゅん音楽情報」とは?

音楽メディアで活動するてけ(照沼健太)としゅん(伏見瞬)の2人が「今の音楽シーンがわかる」「音楽がもっと楽しくなる」をテーマに動画を投稿するYouTubeチャンネル。音楽ニュースや最新チャート、注目作、話題のテーマなどについて解説している。

てけ(照沼健太)

写真左。編集者/ライター/フォトグラファー。MTV Japan、Web制作会社を経て独立。2014年より2016年末までユニバーサル ミュージックジャパンのWEBメディア『AMP』の企画・立ち上げ〜編集長を務める。2018年にコンテンツ制作会社『合同会社ホワイトライト』を設立。SATYOUTH.COM編集長や写真家としての活動に加え、Netflix Japanをはじめとする企業からコンテンツ制作やメディアプロデュースなどを広く受託している。

しゅん(伏見瞬)

写真右。批評家/ライター。東京生まれ。音楽をはじめ、表現文化全般に関する執筆を行いながら、旅行誌を擬態する批評誌『LOCUST』の編集長を務める。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾」第3期、東浩紀審査員特別賞。『スピッツ論―「分裂」するポップ・ミュージック』が初の単著。

まずは話し相手のことから考えてみる

――音楽を友だちと楽しく語るために心がけたいことや、楽しく語るコツはありますか?

てけ:人と語り合うときもっとも意識すべきことは「誰に語りかけるのか」ということで、相手がどれぐらいの理解度でいてどんな話をしたら楽しんでくれるだろう? と想像力を持つことが大事。

たとえば自分が好きなバンドの話をするのでも、相手がどれだけそのバンドに詳しいのか、どれぐらいの語彙力があるのか、どれぐらい深く聴いているのかを会話の中で自然と探って「この部分については多分2人で楽しい話ができるよね」っていう領域を見定めたうえで、ちょっとずつお互いの視点に立ちながら、お互いが持っていないカードを出して話していく。

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しゅん:片方の知識量が圧倒的に足りないような状況だったら、足りない側が1回インタビュアーになるようなスタイルもいいかも。教えてもらいたいんだったらどんどん聞けばいい。「教えてあげる楽しさ」というのもあるよね。

劇作家、演出家の平田オリザは「コミュニケーションは情報量の格差でしか生まれない」と言っていて、水が高いところから低いところに流れるように、情報も持っている人から持たない人に向けて流れていくものだから「先生と生徒」みたいなコミュニケーションを相互にやってみるというのも面白いと思います。

――音楽を聴くときに持っていると楽しい視点や、「こういうところを聴くと面白い」というポイントがあったら教えて下さい。

てけ:音楽について語るなら、できるだけ具体的な話をした方が楽しいんじゃないかな。僕の場合は「音色」と「リズム」に注目するところから始めることが多いです。どんなスゴい音が鳴ってるかが一番。

しゅん:自分が好きだと感じる音楽と似ている楽曲を探してみるといいかもしれない。「これとこれが似てる」っていう気付きはシンプルに面白いし、似ているものをたくさん聴くと自分の好みもわかってくる。楽器の音を判別するのが難しかったら、ボーカルの声や歌詞に注目するのもいい。

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てけ:あとは「周りの人は“好き”っていうけど、自分にはピンとこない」みたいな感覚も大事。音楽の聴き方や優劣のつけ方にはいろんな尺度があるし、特に過去の名曲にはクオリティの高さというよりも歴史的な重要性、発明で評価されている楽曲もたくさんあるから、ピンとこなくてもいい。たとえばエルヴィス・プレスリーのファーストアルバムを今の時代に初めて聴く人は「ギターがぜんぜん歪んでなくてロックじゃないじゃん」と思うだろうし(笑)。

しゅん:「RUN DMCのラップあんまりうまくないじゃん!」とかね(笑)。どれだけ有名でもピンと来ないものがあるのは普通だし、極端に言えば、べつに嫌いな音楽があってもいい。嫌いな音楽の「ここが苦手なんだ」ということを言語化できると楽しいし、他人の意見に惑わされることもなくなってくる。

てけ:人にそれを言うかどうかは、最初に言ったとおり「誰に語りかけるのか」をきちんと考えれば決められるはずです。

音楽を語るうえで大事にしたいポイント

・相手の知っていることや姿勢を意識する
・音楽の要素を分けて考えてみる
・嫌いな音楽があっても良い

バンド・羊文学の新曲「Burning」を語ってみよう!

先ほどのポイントを抑えて実際にてけ・しゅんのお二人に音楽について語ってもらった。テーマとするのは、「てけしゅん音楽情報」でも取り上げている、バンド・羊文学の「Burning」。TVアニメ『推しの子』の第2期ED曲であり、デジタルシングルで7月3日にリリースされた楽曲だ(インタビューの収録は7月8日)。

てけ:新曲聴いた?『推しの子』の2期のエンディングの。イントロのドラムの“鳴り”がやばくて。

しゅん:聴いたよ!ドラムの音やばいよね。

てけ:鳴った瞬間にスタジオの広さが伝わるようなドラムで。

しゅん:そうそう!若干ね、この間亡くなったスティーヴ・アルビニ(※)が録音したような音像の、格好いい生々しい音になったと感じる。

※NirvnaやPixiesといった数々のインディーロックアーティストの作品に携わったことで知られるレコーディングエンジニア/アーティスト。2024年5月に逝去。

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てけ:ギターの音もデカいし、これまでの羊文学の楽曲の中では一番オルタナティブロックぽさがある。

しゅん:それをさ、『推しの子』のEDでやるっていうのがおもしろいよね(笑)。アニソンでこれか! という。アニソン文脈でいうと『輪るピングドラム』のED(「DEAR FUTURE」)を作ったCOALTAR OF THE DEEPERSも思い出すな。あれのギターの音が異常にデカい版、みたいな。

てけ:なるほどね。録り音が変わったという点も含めて僕が今回連想したのはRadioheadの「High and Dry」やTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの「太陽をつかんでしまった」かな。あそこでドラムの音が変わったというのもあるし、グランジ感のある楽曲で、どこかメロディックなところも似ている。

しゅん:確かに、リズムパターンも似てるね。

てけ:でもタイミング的にはさっき名前の出た、亡くなったアルビニへのオマージュも込められているのかな? って思うよね。

しゅん:この間の横浜アリーナのライブでもギターの音がめちゃくちゃ大きくて驚いた。「こんなにデカい音でやるんだ」って。

てけ:横浜アリーナ公演もアジアツアーもやって、明らかに今羊文学は新しいフェイズに来ていて、なおかつ『推しの子』という“覇権アニメ”のEDを手掛けるというタイミングだから、“かますぜ”という勢いがサウンドにも出ているのかな。ロックバンドのアティチュード(姿勢)としては順当という感じもする。

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しゅん:「Burning」っていう曲はバンドの音が生々しくなったという点ではポップではないけれど、羊文学の楽曲としては「明確なサビがある」という点でポップ。「Burning」はAメロ→Bメロ→サビっていう進行なんだけれど、既存の楽曲にはAメロ→サビ→サビみたいな進行も多くて、あんまりはっきりしたサビがない曲も多い。

てけ:「more than words」(TVアニメ『呪術廻戦』「渋谷事変」ED)は明確なサビがないパターンだよね。

しゅん:個人的には以前の楽曲のような構造が好きだけど、「Burning」のような構造になる理由もわかる。

てけ:『NME』で読んだ羊文学のインタビューが面白くて、塩塚さんは「OP曲は作品全体のテーマを背負う楽曲だから書くのが苦しい」というような話をしていて、羊文学が手掛けたOP楽曲で言うと「光るとき』(TVアニメ『平家物語』OP)は僕は好きな曲なんだけど、確かに無理しているというか、苦しそうなところがあるじゃない。

しゅん:わかるよ。羊文学にしては歌詞の物語性が結構強くて、いつもと違う楽曲だと感じる。

てけ:対してエンディングテーマは「作品の中の感情の一部分にフォーカスして書くことができる」ということをそのインタビューで言っていて、「more than words」が持っている“抜け感"っていうのは、エンディングテーマだから生まれたものなのかなとも思ったんだよね。今回の「Burning」には「光るとき」でチャレンジした盛り上げ感と、「more than words」の抜け感の両方があって、いいバランスだと思う。

しゅん:『推しの子』のEDをやるっていうのは単純にビックリしたけどね。YOASOBIの「アイドル」(TVアニメ『【推しの子】』第1期OP主題歌)のイメージがあったから(笑)でも、今回の「Burning」は作品にも合った曲になっている。暗い・重いシーンもある作品だし、羊文学自体、初期の曲は暗い曲も多かったからこういう楽曲が作れるのもわかるしね。


大好きなアーティストや楽曲について友だちと共有する。こんな楽しいことはない。ときには嫌いな理由や違和感の正体を分析してみると自分や他の人が大切にしているセンスも見えてくるかも。今回紹介してもらったポイントは音楽以外にもなにかを語るときに幅広く使えそうだ。ぜひ参考にしてみてほしい。

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Text:白石倖介
Photo:村上大輔
Edit:赤井大祐

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Beyond magazine 編集部

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