CDからサブスクへ、ラジカセからスマートフォンへ。聴くフォーマットやツールは変わっても、いつの時代も私たちに寄り添ってくれるのが、音楽やラジオなどの音声コンテンツ。「耳ディグ」と題し、気になるあの人のお耳のお供を“digる”本連載。
第3回に登場するのは、イラストレーターとして活躍するかたわら、『ずっと一緒にいられない』や『あ〜ん スケベスケベスケベ!!』などの書籍も出版、毎週月曜深夜2時からは誰もが飾らない言葉で語れるJ-WAVEのラジオ「Midnight Chime」のパーソナリティーも務める、たなかみさきさん。イラストで、そして話し言葉や書き言葉で自身の世界観を伝える彼女が愛聴する6つのコンテンツ。
たなかみさき
1992年生まれ。日常生活を描くイラストレーター。JーWAVE「Midnight Chime」にてラジオパーソナリティとしても活動中。
Instagram:@misakinodon
JーWAVE「Midnight Chime」:https://www.j-wave.co.jp/original/chime/
聴くたびに体内時計をリセットしてくれる「安住紳一郎の日曜天国」
テレビアナウンサーの安住紳一郎がパーソナリティを務めるラジオ番組。
大学生の頃からずっと聴き続けているラジオ番組。友人から勧められたのが聴き始めたきっかけです。ジングルや演出が日曜日の朝の番組らしい爽やかな雰囲気なので、安住さんのラジオを聴くと体内時計が朝にリセットされる感覚があります。私には欠かさず行っているルーティーンもないし、仕事も時間が不規則なので、日曜天国を聴くと「1日が始まった」ような気持ちになりますね。
安住さんのラジオでは、リスナーにプレゼントするポストカードを毎年いろんなイラストレーターの方が担当しているのですが、今年は私が担当にすることになって。しかも20周年という大きな節目の年なんです。ずっと好きだった番組のそんなめでたい機会に関われただけでも光栄なのに、「今日からたなかみさきさんのポストカードです」と、聴き慣れたアシスタントの中澤さんの声で自分の名前が呼ばれたときは感慨深かったです。日曜日に早起きしてリアタイで聴いたのは良い思い出です。
荻上チキの心地いい話し方でマニアックな世界を知れる「荻上チキの session」
メディア評論家の荻上チキがパーソナリティを務めるラジオ番組。
マニアックな話を聞くのが好きなので、「よく知らないけど詳しくなりたい」ことがあるときに聴くポッドキャストです。この番組も人から教えてもらったのが聴き始めたきっかけですが、荻上さんの話し方が心地いいうえに、毎回登場するいろんな専門家の方の話が面白くて勉強にもなる番組です。「知る→わかる→動かす」というコンセプトの通り、時事的な問題も、「海洋生物は新種が見つかりやすい」というような雑学チックなことまで、いろんなジャンルについて視野を広げることができます。
やっぱり聴きたい“芸人ラジオ”「おぎやはぎのメガネびいき」
お笑いコンビ・おぎやはぎの小木博明、矢作兼がパーソナリティを務めるラジオ番組。
やっぱりラジオといえば「芸人さんのラジオ」は一つの大きなジャンルだなと思っていて。少し前久しぶりに聴いたら、小木さんが「本当に何もないけど田中みな実の家に行ってよくわからないチョコとワインをペアリングしてきた」っていうだけの話で、どうしようもないんですけど(笑)。ものすごくプライベートな話をしていて笑ってしまいましたね。小木さん側の下心も素直に話しているんですが、田中さんへのリスペクトも感じるし、大人の男女の友情って感じで面白かったです。
あと、おぎやはぎの2人はずっと仲が良いじゃないですか。本当に仲が良い人たちを見るのが、私は好きなんだなと思います。
レコードで手元に置いておきたくなるほど助けられたお守りのような存在「MIND CIRCUS」(中谷美紀)
俳優の中谷美紀が坂本龍一プロデュースのもと、1996年にリリースしたアルバム『F食物連鎖』の収録曲。
2023年は個人的にいろいろ大変な年だったんです。予期せぬことに巻き込まれて、その中で自分なりに誠実に対応していたら疲れてしまって……。そのときに聴いていた曲が中谷美紀さんの「MIND CIRCUS」です。「君の誇りを汚すものから君を守っていたい」というストレートな歌詞に元気をもらい、私も「愛を信じたい……」と思いながら聴いていました(笑)。当時は本当にずっと聴いていて、移動中の飛行機でも窓の外の景色やこれから着陸する東京の都会の風景を見下ろしながら、うつろな気持ちでこの曲を何度も再生したことを覚えています。
2023年は「MIND CIRCUS」を収録しているアルバム『食物連鎖』を手がけた坂本龍一さんが亡くなられた年でもあるので、坂本さんの訃報を知ったときに中谷美紀さんのこのアルバムを思い出したという偶然もありますが、これほど音楽に助けられた経験は今までなかったので、お守りみたいなアルバムです。レコードでも手元に置いておきたいですね。
理想の生活を体現した『Miraclous Weekend』(Peter Ivers)
アメリカのミュージシャン・Peter Ivers(ピーター・アイヴァース)が1985年にリリースしたアルバム『NIRVANA PETER』の収録曲。
聴くたびに「ずっとこのままでいたいな」という気持ちにさせてくれるんです。いつでも心はMiraclous(奇跡的)なWeekendを欲している。私にとって理想の生活を体現した曲ですね。中谷さんの曲は現実生活のお守りみたいな一方で、Peter Iversの曲は桃源郷のような存在。お酒を飲んだときのような気持ちにもさせてくれるし、スキップしたまま毎日を過ごせそう。そして、作業中によく聴く曲でもあります。邦楽は歌詞に引っ張られてしまうので、インストや洋楽を作業中は好むことが多いです。
聴くシーンや気分を選ばない、水のように当たり前で肌馴染みの良い「time will tell」(宇多田ヒカル)
今年デビュー25周年を迎えるアーティストの宇多田ヒカルが1999年にリリースした1stアルバム『First Love』の収録曲。
カラオケが好きでよく行くのですが、行くときは大体決まって東京で一緒に暮らしている人と深夜、ゴミ出しのついでに。パジャマのまま2時間くらいシラフで歌い続けます(笑)。最近は、宇多田ヒカルさんの「time will tell」をよく歌うことが多いかもしれません。この曲が収録されている宇多田さんの1stアルバムが大好きで長く聴いているので、アルバムの最初から最後まで全て歌えるぐらいなのですが、この曲は特に歌うことが多くて。ディスプレイに表示される歌詞を噛み締めながら、ときには「あ、こんなこと歌っていたんだ」という気づきを得ることもあります。
宇多田ヒカルさんの曲は聴きたいときに聴く、というよりは自分の地肌にすでにあるかのように自然に馴染んでいるので、聴きたいものがわからないときに聴いたりしていて、自分の好きな宇多田さんの曲だけを集めた『宇多田無双』というプレイリストを作ったこともあるんです。10代でデビューして40代になった今も長く活動されていて、さまざまなことを歌っているし変わり続けているので、どんなときに彼女の何を聴いてもしっくりとくる感じがしますね。
音声コンテンツはイラストに欠かせない文学的で哲学的な要素を補ってくれるもの
たなかみさきさんは「EarPods(Lightningコネクタ)」を愛用中。
ラジオの「サブコンテンツな感じ」が好きです。テレビのようなメインコンテンツに出ている有名人でも、テレビでは言わないようなことをさらっと言う瞬間がラジオにはありますよね。「さらけ出していて飾り気のない感じ」は、ラジオの醍醐味だと思うし、私もパーソナリティーとして意識していることでもあります。ラジオのパーソナリティーを務めるようになってからは、リスナーとしての楽しみに加えて、番組を聴いていて「すごい」と思うことも増えました。無意識にパーソナリティー目線で聴いているときもあるんだと思います。
私はイラスト作品を作るとき、イラストが先に出来上がることもあれば、タイトルが決まってからイラストを描き始めることもあります。でもなぜか、タイトルが先に決まったときの方が丁寧な作品になることが多いんです。私のイラストのインスピレーションは自分が背負ってきた「過去」全てだと思っていて。ふとしたときに忘れていた記憶や風景がフラッシュバックする。そのきっかけになるのが音楽やポッドキャストから流れてくるワンフレーズだったりすることもしばしば。だからこそ、イラストがメインではあるけれど、イラストの世界観を補完してくれる文学的なものや哲学的なものも大事にしていきたいなと思っています。
Text:Takahiro Kanazawa
Edit:那須凪瑳