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ドイツ老舗ブランドの生存戦略

AEGが歩む、ヒントとコツを提供し続ける道

author: 田中 謙太朗date: 2023/11/22

100年を超える歴史を持つドイツのプレミアムビルトイン家電ブランド「AEG」。そんな同ブランドを保有するエレクトロラックス・グループがIFA2023に出展した。独自調査に基づいた裏打ちのある数字をもとにストーリーを伝え続けるAEGは、コミュニケーションでユーザーを変えようとしている。IFA2023から、伝統的ドイツブランド、AEGの欧州での生存戦略をユース世代の現役大学生がレポートする。

ベルリン出身の高級家電ブランドとして知られるAEGは、ドイツの技術大国としての礎を築き上げた企業のひとつである。かつて、発明王として名高いトーマス・エジソンが設立したゼネラル・エレクトリックと世界市場を分け合う、国際的電化製品メーカーの元祖というべき企業だった。

1881年にパリで開催された第一回国際電気博覧会にて、創業者のエミール・ラーテナウが電球に関する権利を購入したことを始まりとして、高級なカフェやレストラン、劇場における照明器具のメーカーとしてAEGはその営みを始めた。その後、1887年の改称以降に小規模な発電所の操業を開始し、当時国家基盤事業として急速に成長を遂げていた電力事業への進出を実現した。

その影響力は約9,000kmの距離を超えて、当時は船に乗って50日前後かかる日本にも届くほどだった。現在の東日本における電源周波数の標準は50ヘルツだが、これは1895年に操業開始した浅草発電所において利用された発電機がAEG製の50ヘルツの発電機だったことに由来する数字なのである。

その後、世界に兵隊の足音が鳴り響く時代が近づくと、AEGは電力事業へのより強固な地盤を固め、大恐慌により傾いた機関車製造企業のベルジッヒを買収して鉄道の電化を手掛けるなど、電力関係事業を基盤とした財閥へと変貌を遂げようとしていた。

結果的に、砲弾の雨によりほとんどの生産設備が消失したことでその試みは失敗に終わったものの、戦後の西ドイツへの米仏資本の注入による経済の春を謳歌し、1970年には約18万人もの従業員を抱える世界最大のエレクトロニクス企業のひとつとして再生を果たした。その後は破綻やダイムラー・ベンツへの合併などを経て、1994年に欧州最大の家電製品メーカーであるエレクトロラックスグループに買収され、現在に至っている。

伝統的なドイツのメーカーというだけあって、IFA2023内にて行われたプレス・カンファレンスでも技術や数字、調査結果を基にストーリーを構築していた印象だ。今回のIFA2023にはエレクトロラックスグループより、欧州CEOクリス・ブラーム氏、欧州サスティナビリティ分野担当副社長のサラ・シェファー氏、ドイツ・オーストリア地域担当GMのマイケル・ガイスラー氏が登壇した。

ガイスラー氏(左)、シェファー氏(中)、ブラーム氏(右)

新たな製品ポートフォリオの“ブルー・オーシャン”

AEGの行ったプレス・カンファレンスにて、マーケティングデータ解析を行うGfK(Growth from Knowledge、日本語訳:知識からの成長)のドイツ・オーストリア地域を担当するアレクザンダー・デーメル氏が、AEGをはじめとしたエレクトロニクス分野を取り巻く市場の状況についてコメントした。

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「ここ数年、サスティナビリティは生活における重要な要素として顧客に認識されています。インフレーション、真っ当に生きるための金額というふたつの話題と並び、最も気を払うべき社会的な課題のひとつとして認識され始めているのです。この分野において25年以上調査を続けてきましたが、特に今年はその存在感の強さが際立っています」

「では、どのようなカスタマーがエコ・フレンドリーな製品を購入するのでしょうか?」とデーメル氏は続け、さまざまな属性分析の中でも年齢・収入・家族構成における特徴を指摘した。

「平均値は43歳、45%が44歳以上であることに気をつける必要がありますが、25-34歳が23%を占めるなど、若い層も多いようです。また、収入の面でも彼らのうちの57%がフルタイムワーカーで35%は高所得層に分類されます。

そして、特筆すべきは彼らのうちの41%が子供を持つ家庭であるということです。さまざまな面で大人になるにつれて、“よりよい生活を実現しよう”とする傾向があるのです」

加えて、デーメル氏が指摘した欧州市場における省エネ性能を表すエネルギー・ラベルへの信頼度にも注目したい。72%のカスタマーがエネルギー・ラベルと実際の消費量の性能が合致していると感じており、実際に欧州の主要な五カ国におけるエネルギー・ラベルAクラスの洗濯機の導入率は38%と、新たな基準が導入された2021年の第二四半期の時期の値である13%と比較して3倍近くまで向上していることが明かされた。

欧州にて利用されるエネルギー・ラベル。Aに近づくほどエネルギー消費量が少なく高性能という格付けになる

そして、今回のIFA2023のAEGからの発表において最も重要になるデータこそ、デーメル氏が次に紹介したものだ。

「これから私が示すのは昨年白物家電を購入した2万人のカスタマーに対するブランドへの意識の調査結果です。興味深いことに、35%のカスタマーはブランドイメージを認知する際に『エコ・フレンドリーなブランド』として認知していませんでした。

それに対して、高品質なブランドと認識せずに購入しているカスタマーは4%と、サスティナビリティなブランドという認識においてはまだまだ参入する余地があることが判明しました」と、エコ・フレンドリーなブランドとして認識されているブランドが65%と、高品質なブランドとして認識されているブランドの96%という値と比較して開拓可能性のあるブランド価値であることを指摘した。

そして、サスティナビリティなブランドとしての認識を促進させるための4つの要素として「バリューチェーン全体の情報の開示」、「顧客とのコミュニケーション」、「気軽な操作感」、「サスティナビリティへの貢献感」を挙げ、カスタマーに対する訴求を行うための施策への具体的な提案へと繋げた。

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環境への影響を軽減するために、メーカーとしてできること

欧州CEOのブラーム氏は、AEGにとってのサスティナビリティの価値を次のようにコメントしている。

「AEGの持つ持続的なビジネス戦略は、AEGの関与するすべてのことに対して有利に働くものであると考えています。製造、資源の獲得、製品開発や市場への参入など、バリューチェーン全体に対してより良い影響を及ぼしています。AEGのDNAに刻まれ、何年にもわたって意識し続けていることです。

私たちがサスティナビリティに対して真剣に話し続けているのは、根拠に基づいた測定可能な数字があるからです。ライフサイクル・アセスメント(LCAs)に基づく検証の結果、我々の製品の及ぼす環境への影響の85%が使用段階に生じるものであることが判明しています」

続いて登壇したのは、サスティナビリティ担当副社長のシェファー氏。AEGを含めたエレクトロラックス・グループにとっての環境へのインパクトの持つ意味を指摘したコメントは、AEGブランドの性格を捉える上で大きな役割を果たすだろう。

「我々は材料の獲得、製品制作、流通、使用段階、再利用という一つひとつの段階における環境影響性能をライフサイクル・アセスメントにより検証しました。そのような検証の結果として85%の環境への影響が使用段階で生じるものであるという事実をキャッチしているため、カスタマーに対して最適解となる使い方を提供することが重要であると確信しています」

現在、欧州市場においては製品による環境へのインパクトをどのように削減するかという目標が大きなトピックになりつつある。エレクトロラックス・グループが行ったライフサイクル・アセスメントのように、部品のトレーサビリティやロジスティクスの記録が管理されることにより、業種や事業規模を問わずライフサイクル全体の環境影響を可視化できるようになる。

例えば、工場の受発注にも大きな影響を及ぼすと予測されており、コスト面だけではなく二酸化炭素排出量などの環境性能に対しても査定され、より良い体制を要求される時代へと変化している。そのような中で、名実ともにエコフレンドリーであることはこれからの欧州市場においてはブランディングの意味合い以上により実利的な意味を持つことにつながるのだ。

エレクトロラックス・グループは2025年における二酸化炭素排出量の削減目標を製造段階と使用段階にてそれぞれ設定している。製造段階においては80%(2015年比)、使用段階においては25%(2015年比)が目標となる値だ。2022年の値はそれぞれ82%(製造段階・2015年比)と25%(使用段階・2015年比)と、2025年を目処とした達成目標を前倒しして達成したことが発表された。

「エネルギー・ミックスの変化に起因する二酸化炭素排出量の削減により、2025年を達成時期としていた『製造段階における二酸化炭素排出量の削減目標』である80%を達成することができました。これにより、(AEGの母体である)エレクトロラックス・グループは全業種を含めても気候変動への対策において最も先進的な企業のひとつとなりました」と、設定された目標に企業としてのアイデンティティが立脚していると、シェファー氏はコメントした。

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エレクトロラックス・グループが継続的に挑戦する“カスタマーに対する最適解を提示し続けること”の具体的な指標のひとつとして、低温水を用いた洗濯を行うユーザーの割合がある。同社のまとめる洗濯に関するレポートである「Truth About Laundry Report」(日本語訳:洗濯の真実に関する報告)にて、12カ国、1万人の顧客を対象として、カスタマーの製品利用に関する調査を実施している。調査が開始された2020年と比較して、同社の製品により10%のユーザーが30℃から40℃の低温水で洗濯をしたことに触れ、この効果は3億6700万本の木が植えられたことと同等の環境影響があるとした。

年を追うごとに着々と進むエレクトロラックス・グループによる環境影響への対策により、エコ・フレンドリーなブランドとしてのアイデンティティを獲得するための挑戦に取り組み続けていることを強調した。

ユーザー/エコフレンドリーな『AEGエコライン』を設定

そして、サスティナビリティ・ブランドへのポジショニングを図るAEGが新たに取り組むのが、エネルギー消費量において最優秀の性能を持つ製品のみをポートフォリオとしてピックアップした「AEGエコライン」だ。

「すべての家電製品のカテゴリにおける最も(水、エネルギーなどの)資源消費の少ない製品を『AEGエコライン』としてひとつのシリーズにまとめ、カスタマーに対するより良い選択肢の提供をサポートします。

持続可能性を保ちながら生活を続けるという目標は独りでは決して達成できません。だからこそ、我々はカスタマーの生活のパートナーとして新たな選択肢を提供し続けるのです」と、ブラーム氏は同社とカスタマーにとっての「AEGエコライン」の意義を強調した。

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続けて、「AEGエコライン」のコンセプトについてシェファー氏は次のようにコメントした。

「すべての製品分野において、カスタマーに対して最も資源効率性の高い製品を選ぶ手助けとなります。ライフサイクル・アセスメントなどの調査に基づく科学的な見地から、日常生活のすべての事柄におけるサスティナブルな選択を取ることを助け、勇気づけることが『AEGエコライン』の考え方の源泉にあります。

商業的な話題だけではなく、『最もサスティナブルな生活を実現するために、どの製品をどのように使うのか』という情報・ヒントを提供することでカスタマーの助けになると考えています」

「AEGエコライン」にラインナップされたいくつかの製品について、ドイツ・オーストリア地域担当GMのガイスラー氏が紹介した。

「AEGエコライン」にラインナップされた製品について説明するガイスラー氏(左)

「『AEG』エコラインにラインナップされるすべてのランドリー製品は、エネルギー消費性能における最高レベルのものです。水やエネルギーなどの資源消費量を抑えるだけではなく、衣類を保護し、より長く使える状態を保ちます。

『AEG9000シリーズ』はその最高の例といってもいいでしょう。欧州エネルギーラベルの最高レベルの基準よりも30%高いエネルギー消費性能を誇ります。まさに、ベスト・オブ・ベストです」

ガイスラー氏は、AEGの手がけるランドリー製品の特徴でもあるスチーム機能と3Dスキャン機能についても言及した。

「普通の洗濯作業においても、水資源の消費量の削減において大きな役割を果たす弊社製品ですが、スチーム機能を用いることで水資源の消費を96%抑えられるようになります。それだけではなく、衣類の寿命をより長く保つことも可能です。また、AEGの乾燥機に搭載された3Dスキャン機能により、衣類ごとに最適化された乾燥作業を施せるようになりました」

『AEGエコライン』はキッチンシーンにも選択肢を提供する。ガイスラー氏が続ける。

「キッチンにおいてもAEGの持つスチーム技術が活躍します。エネルギー消費量を20%削減し、オーブンにおいては低温調理を実現することで最大90%の(過熱によって失われやすい)ビタミンCを残しつつ調理することができるようになります

加えて、庫内のクリーニングにもスチーム機能が活躍します。みなさんがクリスマス・ターキーを焼いたときに活躍する機能でしょう。AEGの提供する新たなスチーム機能によるクリーニング工程により、従来のプログラムと比較して最大95%のエネルギー消費量を削減できます。

スチーム機能による食材の再生も魅力的です。ラザニアを作りすぎてしまったときのことを考えてください。AEGのオーブンの持つスチーム機能によって、みずみずしさを保ったまま温め直されます。これは電子レンジでは実現できないことです」

「AEG 9000スチームプロ」の展示
「AEG8000ボイル&フライ・インダクションハブ」の展示

AEGの掲げるサスティナビリティとは、長い間無理なく使える状態を作り続けること、と当てはめることができるだろう。前分野の製品におけるトップクラスの環境性能に加えて、ランドリー製品における衣類へのダメージを軽減するスチーム機能などがその例だ。

AEG製品の表面加工について、ガイスラー氏がコメントした。

「我々の製品はガラス・セラミックによる新たな加工を施しました。従来品よりも4倍傷つきにくく、2倍掃除をしやすくなりました。

加えて、マット・ブラックの色彩により極めてエステティックな雰囲気を持つことも重要なポイントです。これによりキッチンシーンをよりファンタスティックなものへと演出します」

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ドイツ企業らしい解答を出したAEG

今回のIFAにおいて、いくつかの企業のプレスカンファレンスを拝聴したところ、今後の欧州市場にて求められる環境性能へのアプローチの仕方としてふたつの方向性に分かれていくだろうと感じた。

ひとつはコネクテッド製品によって形成されたネットワークを利用したエコシステムを構築することで管理し、使用段階の環境性能に対してアプローチするという方向性だ。特に巨大な販路を持つアジア地域の企業が採っている戦略だ。対して、AEGのような伝統的な欧州企業が採るのがコミュニケーションを重視する戦略だ。AEGの場合であれば、セールスの段階でより良い選択肢を提供できる「AEGエコライン」を整備することでユーザーとのコミュニケーションの機会を創出し、ユーザーに対して、彼らの言葉を借りるならば“Tips and Tricks”、ヒントとコツを提供し続けることが欧州市場での生存戦略としてAEGが選んだ道なのだ。

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ライター
田中 謙太朗

2001年東京生まれ。早稲田大学在学中。共同通信社主催の学生記者プログラムに参加したことをきっかけに執筆を開始。その後、パナソニックのイベントへの登壇など、記者としての活動と並行して、英自動車雑誌『Octane』の日本版にて翻訳に携わる。主専攻である土木工学に関連したまちづくりやモビリティに加えて、副専攻に関係するサスティナビリティに関する話題など、これからの時代を動かすトピックにアンテナを張る。
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