MENU
search icon
media
Beyond magazineでは
ニュースレターを配信しています
検索
Tags
  1. TOP/
  2. ANNEX/
  3. 英国のプレミアムカー・ブランド「ベントレー」が考えるサステナビリティを体感してきた
ANNEX

女性インフルエンサーがバンコクに集結

英国のプレミアムカー・ブランド「ベントレー」が考えるサステナビリティを体感してきた

author: 川端 由美date: 2023/06/26

ベントレーが女性インフルエンサーを対象に、バンコクで「サステナブル・ラグジュアリー」をテーマにした対話型イベントを開催した。20年の長期事業戦略の中で「2030年までにエンジンを持たない企業になる」と決断したベントレーの意図を探る。

アジア各国から発信力のある女性が集うイベント

「アジア・パシフィック地域の発信力の高い女性を対象に、Sustainable Luxury(持続可能なラグジュアリー)をテーマに対話するイベントを開催するので、バンコクにいらっしゃいませんか?」

そんな案内がベントレーから届いた。キレイどころが集まって、きゃいきゃいと楽しむイベントなんて、わざわざ外国まで行くべき価値があるの? と思うことなかれ。

実際、美味しいものを食べながらおしゃべりしたり、バンコクのナイトシーンに繰り出したり、アーリーバードたちは翌朝にヨガをしたりと、様々なタイプの女性が楽しめるアクティビティが充実していたのは事実だ。ただ同時に、こうしたアクティビティを通して、ともに時間を過ごすことで、女性ならではのシスターフッドを発揮して、アジア各国から集まった女性たちが打ち解けて語り合う豊かな時間を共有することができたのは、大きな収穫だった。

fade-image

私自身、アジアを代表する女性でもなければ、ラグジュアリーなライフスタイルを送っているわけでもないけれど、ジャーナリストとして、一人の日本人女性として、参加してみてよかった、と心の底から思えるものだった。

 誤解を恐れずにいえばいい意味で「異例ずくめ」のイベントだった。そもそも、クルマのイベントで試乗会ではないのも異例だし、女性だけというのも異例だ。しかも、年齢層も20代後半から50代前半と、従来のベントレーのイベントに集う面々と比べると、ぐっと若い。

会場に選ばれたのは、バンコクにオープンしたばかりのフォーシーズンズ・ホテルに隣接したレジデンス・エリアだ。バンコクには各国から集まる富裕層向けのサービスが充実しており、例えば、医療ツーリズムでは巨大な市場を形成している。ここ、フォーシーズンズのレジデンスエリアも、ラグジュアリーな空間ではあるが、快適な暮らしにも配慮がなされているといった、いわゆるホスピタリティが充実している。

そんな豪華なイベントを女性限定で開催するなんて、男性に対して、逆差別だという意見もあるだろう。しかし、ここはあえて声を大にして主張したい。筆者のような言葉を仕事にしている人間でも、普段の暮らしの中で男性に囲まれていると、どうしても自分の意見を控えて、男性が望む像を演じてしまう。女性活躍の時代になったとはいえ、そんな女性は意外に多い。だからこそ、女性だけが集う環境で対話することは、女性が素直に発言するには重要な機会に思えた。なによりも重要なのは、従来のメーカー発の情報発信ではなく、私たちとともに「対話する」ことを重視していることだ。

カクテルタイムに集まった顔ぶれは、とにかく華やか。足が長い人か、顔が小さな人しかいない惑星にたどり着いたのかと思ってしまうほど。私自身は、ただただ、自動車の記事を描き続けてウン10年というだけで、それほど華やかな経歴がないこともあって、尻込みしそうになったが、勇気を出して話しかけてみると、意外なまでに話題に花が咲いた。社会的に活躍していると同時に、アジアでは特にいまだに女性への偏見が強い中で、女性として、それぞれの人生の悩みを抱えつつも、自らの人生を切り拓いて来た人たちばかりだったからだ。

image

例えるなら、男の子が冒険の旅に出る話をワクワクしながら聴くような気分だ。つまり、世界中の女の子が、こんな風に生き生きと自分の人生を生きている女性たちの物語を聴きたいと思うはず。そう、女性にとって悩ましいのは、男性のように定まったロールモデルがなく、仕事に生きてもいいし、妻として生きても、母として生きてもいい。欲張ってすべてを選ぶこともできる。女性は、選択肢が多いから悩むのであり、画一的なお手本がないから悩むのだ。

アジア各国からバンコクに集まったインフルエンサーの女性たち。タイ、フィリピン、シンガポール、台湾、日本からは筆者とYoutuberの華音さんの2人が参加。

実際、ベントレーが声をかけた女性たちの生き方はカラフルで、弁護士兼ジャーナリストで赤ちゃんを育てる母だったり、モデル兼デジタルクリエーターで3児の母だったり、ジャーナリストで自身のファッション・ブランドを立ち上げていたり、と欲張りな人生を送っている。シンガポール、フィリピン、タイ、台湾…と、多様な国の文化的な背景の違いも、女性の生き方や悩みを反映していて、興味深かった。日本から参加したのは、私ともう一人、英語で旅とクルマについて配信しているYoutuberの華音さんだった。20代の彼女が世界中を生き生きと旅する姿を世界中の人が見ていると思うと、日本人女性として溜飲が下がる思いだ。

ベントレーが目指す「サステナブル・ラグジュアリー」

前置きが長くなったが、本題に入ろう。そもそも、”サステナブル・ラグジュアリー”とは何か? 感覚的には、「サステナビリティ」と「ラグジュアリー」は相容れないと思われがちだ。この機会に、私にとってのラグジュアリーとは何か? と考えて見ることにした。

私にとって、ラグジュアリーとは、本質的であり、タイムレスであることだ。人生という限られた時間の中で、長く向き合えるものに出会ったり、思い出に残る印象的な体験を重ねることで、人生が豊かになるはずだ。一方、サステナビリティとは、周囲の人物やステークホルダーまで含めて、持続的に幸せでいられることだろう。それであれば、ラグジュアリーとは、常に消費し続けることではなく、本質的でタイムレスなものやことに囲まれて、心身ともに満たされたライフスタイルを送ることと言っていいだろう。

fade-image

実は、ベントレーはそうしたことを体現してきたブランドでもある。そもそも、1920年の創業から100余年を迎えるという老舗ブランドであると同時に、その時代ごとの変化を取り入れているからだ。一例として、創業100周年を記念して発表された長期事業戦略「Beyond 100」では、「世界で最もたくさんの12気筒エンジンを生産する自動車メーカー」から、2030年までにエンジンを持たない企業になるという決断をしている。日本では大抵の企業が中長期戦略と称して、3~5年の経営戦略を発表するのだが、「Beyond 100」の中でベントレーは20年もの長きに渡る経営戦略を打ち出している。従来積み重ねて来た100年の歴史に加えて、今後の100年もクルマを作り続けるための施策が盛り込まれている。

image

image

電動化の手始めとして、「フライング・スパー」と「ベンテイガ」という2車種のハイブリッド・モデルが加わった。インテリアには、サステナビリティとラグジュアリーの共存を意識した素材がふんだんに奢られる。

彼らの戦略の中で最も重視されているのは、カーボンニュートラルの実現である。ハイブリッド・モデルに代表される電動化の推進といった製品のエコ化にも取り組むと同時に、部品調達のサプライチェーンや物流、開発や販売、生産工程まで含めて、エンド・トゥ・エンドでのカーボンニュートラルの達成を目指す。

ここで少々、座学になるが、欧州を中心に、原材料の調達から物流、販売後の利活用、最終的なリサイクル・リユースまで含めたサプライチェーンのすべてを見据えて、CO2排出量を考えるという動きが製造業全体で活発になってきている。スコープ1では、自社による燃料の使用や電気の使用といった範囲に留まるが、スコープ3では、自社のみならず、物流から販売後の温室効果ガスの排出まで含めて、他社からの間接的な排出についても算出対象となる。

え? 購入する部分のCO2排出量や自分たちで作る製品のCO2排出量だけではなく、製品を購入したあとに排出するCO2まで面倒見るの? と思われるかもしれないが、これは2021年にオランダで環境団体がシェルを相手取って行った訴えに対して、「2030年までに19年比で45%のCO2排出量の削減」を命じる判例が出たことに由来する。

そう思うと、ベントレーが「Beyond 100」を発信したのは、その判例に先だった動きだったのだから、時代を先取りしていると言っていい。ただ、「言うは易く、行うは難し」である。従来のベントレーは、高貴な身分の男性たちがあえて危険なレースに挑むベントレー・ボーイズの物語や、世界的なレースで数々の輝かしい戦績を残すこと、大排気量エンジンでパワフルな走りを追求するといったイメージがセリングポイントだった。当然、そのままのブランド・イメージでは成り立たない。

「サステナビリティとラグジュアリーは、従来、相反するものと認識されていますが、ベントレーではあえてこの二つの対極にあるコンセプトの両立を皆さんとの対話を通して、考えたいと思っています」と、アジア・パシフィックの広報・マーケティング部門を率いるカリスタ・トンバジョンさんは言う。

fade-image

 左から、ベントレー・ジア・パシフィックの広報・マーケティング部門を率いるカリスタ・トンバジョンさん、サステナビリティ・コミュニケーション部門を率いるジョー・オブライエンさん、サステナビリティ・コミュニケーション部門を率いるジョー・オブライエンさん。

ラグジュアリーを「贅沢」と訳すと、たしかに相反するイメージがあるが、ただ、ラグジュアリーの定義には、単に豪華であるだけでなく、快適であることも含まれている。世界中のセレブがただ贅を尽くしたものを選ぶのではなく、より持続可能で快適な暮らしを選ぶ時代になっているのも、近年の傾向だ。

「私自身、インテリアの素材を選択するに当たって、風合いや手触り、そして色合いといった人間の感覚に訴える価値観を重視すると同時に、素材の調達の過程における環境負荷も意識しています。それらが両立することで、顧客がお気に入りのベントレーの室内で過ごす時間を、より快適で、充実したものにできると考えるからです」というのは、ベントレーでカラー・マテリアル・フィニッシュのリード・デザイナーを務めるスーザン・ロスさんだ。

手元で触れるようにインテリアのサンプルをたくさん見せてもらったのだけれど、その中には、革や木目といったいかにも豪華な雰囲気を醸す素材に加えて、今の時代らしいエコ・フレンドリーな素材も使われていた。具体的には、金属の質感を大切にするパーツは従来のメッキから再生アルミに置き換えることができたり、持続可能な森林から調達した木目を使っていたり、アニマルフリー素材を採用したりと、新しい時代の価値観をラグジュアリーに反映している。視覚から得られる高級感だけではなく、触覚から得られるテクスチャー、そして香りや音といった五感を適度に刺激するように考えられている。

image

持続可能性を重視して、資源の管理や調達、製造工程までこだわったインテリア素材がベントレーの内装に採用されている。

驚くことに、コミュニケーションのための言葉の選び方にも、持続可能性を意識しているという。サステナビリティ・コミュニケーション部門を率いるジョー・オブライエンさんは、「ラグジュアリーという言葉を単体で使うのではなく、サステナブル・ラグジュアリーとして組み合わせることで、持続可能性を意識しながらも、より快適で豊なライフスタイルをベントレーが提供しようとしていることが伝わるはずです」という。

世界中にSDGsという言葉が浸透しつつある今の時代だからこそ、最新のファッションやセレブリティにとっても、持続可能性は重要なテーマになりつつある。同時に、女性にとって、いや、男性にとっても、今の時代は選択肢が多いゆえに、現代を生きる悩みも増えている。自分にとって大切なこと、どんな選択をしたら幸せに思えるか、といったことを常に考えて、より満たされた時間を過ごすことを心がける時代になっているからだ。世界的にもサステナビリティは重要な関心事でもあり、このテーマに取り組むことは次世代を担う層にもブランドのあり方を問うことにつながる。そんな時代だからこそ、ベントレーのようなハイエンドのラグジュアリー・ブランドにとっても、従来の固定観念に囚われない新しい価値観を提供することが重視されるはずだ。

自らのジェンダーバイアスを取り外す

fade-image

ヨガの体験を通して、参加した人たち一体感が増す。 

華やかな経歴のない私としては、いささか尻込みしたが、自らのジェンダーバイアスを外す良い機会になった。なぜなら、これまで「自動車メーカーの国際イベント」といえば、男性が主流の職場という意識もあって、お化粧もあまりせずにパンツにジャケットというスタイルで挑んでいた。テクノロジーに主軸をおいて取材をしていることもあって、男勝りと誤解されても、まあ、そんなものだと諦めていた。そう、私自身も、フェミニンな女性にスポーツカーの乗り味や最新技術を語られるより、男性と同じ目線の方が重みが増すという前時代的な思い込みがあったし、古臭い考えに囚われていたのだ。

自動車をサーキットで走らせて、テクノロジーの記事を書く人が、女性らしくても、お料理が好きでも、アンティークの雑貨を集めていてもいいではないか。これまで、そんな自分を少数派だと思っていたが、今回のイベントでは、アジア各国に自分らしく生きている女性がたくさんいると知って嬉しかった。

取材協力:ベントレー

author's articles
author's articles

author
https://d3n24rcbvpcz6k.cloudfront.net/wp-content/uploads/2021/08/002.jpg

ジャーナリスト/戦略イノベーション・スペシャリスト
川端 由美

工学修士。住友電工にてエンジニアとして務めた後、自動車専門誌『NAVI』の編集記者に転身。『カーグラフィック』編集部を経て、ジャーナリストとして独立。自動車を中心に、新技術と環境問題を中心に取材活動を行なう。海外のモーターショーや学会を積極的に取材する国際派でもある。戦略コンサル・ファーム勤務後、戦略イノベーション・スペシャリストとして、再び、独立。現在は、ジャーナリストとのパラレル・キャリア。近著に、『日本車は生き残れるか』講談社刊がある。
more article
media
【総論】ミドルクラスは電子レンジ機能がどれも優秀オーブンや独自機能で個性が際立つ
ANNEX
date 2024/11/20