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広がる視野と、高まる視座

新たな日本に貢献しうる「未来の部品」を作ろう!

author: 長島 聡date: 2022/11/19

大将軍が見る景色。これは、漫画「キングダム」で出てくる有名な言葉だ。死に瀕した天下の大将軍の王騎が、将軍を目指す主人公の信に、目を閉じさせ、全身を使って今の状況を感じるように諭す。そして、王騎は「将軍の目には色々なものが見えます。例えばほら、敵の群れを、敵の顔を、そして味方の顔を、天と地を。これが将軍の見る景色です」と語りかけます。そして、「改めて全身で王騎の馬から見る景色を感じ取る信は、身震いをして、全身に力がみなぎるのを感じる」と続く。信が「将軍とは何か」を僅かながらにも掴んだ記憶に残るシーンだ。

私の最初のキャリアは自然科学者だった。原理原則に沿って、自然の中で起こるさまざまな出来事を、解き明かすことに没頭していた。最初の論文は、指導教授の言葉を頼りに、なんとか書き上げたのを覚えている。「出来が良い悪い」の手触りなどなく、受理の知らせを受け取って初めて喜びが込み上げてきた。その後も論文を書き続けていったが、その過程で徐々に論文の勘所なるものを掴んでいった。何が新しい価値なのか。何が一流紙に通じる価値なのか。論文のレフリーの考える新たな価値や、論文の読み手に役立つ価値が、おぼろげながら見通せるようになってきたのを感じていた。

10年間、自然科学の世界にいた後、突然、コンサルティングファームに入った。もちろん、それまで経営に向き合ったことなどはなく、右も左も分からない中での挑戦だった。マネージャーから言われるタスクを何とかこなしてはいたものの、もやもやと頭がすっきりとしない状態がしばらく続いた。何のためにこのタスクをやるのだろうか。どんな意思決定をしたいのだろうか。タスクの奥に隠れている世界が全く見えないでいた。少しずつ変わり始めたのは、クライアントとの対話がきっかけだった。クライアントの人たちの中には、それぞれゴールのイメージがあり、それらのイメージに触れる中で、経営戦略の軸を持てるような気がした。

対話の相手は、事業を統括する部長、それを管掌する役員にはじまり、現場を仕切るマネージャー、店舗のスタッフなど、さまざまだった。それぞれのゴールは一見バラバラだったが、全員のゴールを充足する「答え」を、ひたすら追い求めていったのを覚えている。考える上での拠り所は、「成長」や「付加価値」だった。「成長」や「付加価値」による収益は、それぞれの持つゴールに近づける余力を生み出せることが分かったからだ。事業は、さまざまな職位、職種の人が関わり、それぞれの能力を引き出してこそ成立する。そんなことを意識し始めた。こうして、経営や組織という「生き物」の特性を少しずつ理解していったのだと思う。

その後、マネージャーの頃までは、掴んだ「生き物」の特性をベースに、熱量のままに、自分の信じる道を突き進んでいたと思う。後から考えると、その道が少しぐらいいびつな道であろうと、十分に気づかず、前に進むことだけを考えていたように思う。時には、大きな失敗につながることもあったが、何故かなんとか切り抜けることができた。その理由はすぐに分かった。常に見守り、裏で動いていてくれた方がいたのだ。その方は、普段はこのくらいなら大ごとにはならない。自分たちでなんとかするだろうと予測していた。一方で、流石にこのままだとまずいと感じた時は、直接的に、間接的に軌道修正をかけてくれていたのだ。世の中で、失敗から学ぶことが多いと言われているが、巧みに失敗を経験させてくれていたと思う。

結果として、大いなる反省はしながらも、潰れない程度に失敗を重ねるという経験ができた。それから程なくして役員という「見守る側の立場」になった。とはいえ、最初の頃はチームにとっての「巧みな失敗」など作れない。できても火がついてからすぐに消すことくらいだ。ここで、胆力と判断力が試される。あたふたしない。そして、「ここぞ」を見極める。周りを冷静に見て、流れを読む。人によって捉え方が多様であることを学んでいく。このあたりまで来ると、押さえるべき本質さえ持っておけば、修正が効くことに気づけた。本質は「成長」や「付加価値」に加えて、「共通のパーパス」だ。多くの人々が大事だと考えるパーパスを「のりと」にして、物事を進めていけばいいと理解した。

社長になると、さらなる変化が生まれた。主語が自分から社員に変わってきた。自分が成し遂げたいのではなく、社員に成し遂げて欲しいと考えるようになってきたのだ。一人ひとりのモチベーションも改めて大事にするようになった。さらに、自社が生み出している価値が、社会にどんな影響を与えているか、良い面と悪い面の両方を捉えるようになっていった。自社の顧客を満足させるだけでなく、それが同業や社会にどんな影響を及ぼすかを追いかけるようになった。自社の生み出す価値を、自社にとどまらず、社会の成長を生み出すきっかけとなる新たな価値に仕立てたいという気持ちが強くなったのだ。

今はコンサルティング会社を離れ、小さな会社を設立した。世の中にいる凄腕の人や凄腕の卵と一緒に活動している。そうした仲間が持つたくさんの構想に触れ、大きな刺激を受けている。自らも構想を掲げ、その実現に邁進している。構想の多くは、新たな日本に貢献しうる「未来の部品」だ。凄腕と凄腕をつなぎ、ひとつでも多く「未来の部品」を増やすと共に、それらの組み合わせで新しい社会、新しい日本を作っていきたいと思う。後から振り返って、たくさんの価値とたくさんの文化が生まれた時代と言われるべく、仲間と共に歩んでいくのが使命だと感じている。これからの日本が楽しみで仕方がない!

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きづきアーキテクト代表
長島 聡

早稲田大学理工学部にて材料工学を専攻し、各務記念材料技術研究所(旧・材料技術研究所)にて助手として、研究に携わるとともに教鞭も執る。欧州最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーに参画し、東京オフィス代表、グローバル共同代表を務める。2020年には、きづきアーキテクトを設立。「志を旗頭に得意技を集め、新たな価値を量産する」をコンセプトに、共創を梃子にした事業創出の加速化を目指す。経済産業省、中小企業政策審議会専門委員など政府関係委員を歴任。スタートアップ企業、中小企業のアドバイザー、産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト WG3 産業構造転換分野 委員、Digital Architecture Design Center アドバイザリーボード、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教授などを務める。
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