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ビザールウォッチがおもしろすぎる!

時計技術の限界に挑んだブルガリ驚異の1.80mm極薄ウォッチ

author: 篠田 哲生date: 2022/05/22

腕時計とは「時刻を知り、また時間を計るのに使う、腕にのせる器機」である。ところが現代の高級時計の世界には、最高峰の時計技術を駆使しているにも関わらず、針も読めなければ、現在時刻もわからないという”奇妙な時計”が生まれている。それこそが「変態的腕時計=ビザールウォッチ」。高級時計を知りすぎた人がたどり着く末路へようこそ!

時計技術の限界に挑んだブルガリ驚異の1.80mm極薄ウォッチ

ブルガリ「オクト フィニッシモ ウルトラ」

手巻き、ケース直径40mm、ケース厚さ1.80mm。10m防水。世界限定10本。5221万7000円(税込、予価※完売)

世界記録を持つ"最薄"の機械式時計

機械式時計の世界には、番付がある。高度な技術を使っている程偉いとされ、その技術にはふたつの種類がある。まずは「エネルギーマネージメント力」で、限られたゼンマイの力をいかに上手に使っていくかの勝負になる。

もうひとつが腕時計というサイズの中にどれだけ多くのパーツを組み込み寸分の誤差なく動かせるかという「コンプリケーション力」。このふたつの高度な技術を巧みに組み合わせた時計こそが、時計番付の上位になるのだ。

しかし"ビザールウォッチ"は、このふたつの要素の組み合わせ方にクセがある。ブルガリの「オクト フィニッシモ ウルトラ」は、極めて高度な技術を用いているが、その時計はかなり風変わりで、そして魅力的である。

時計のサイドビュー。1.80㎜という薄さは、機械式時計とは信じられないレベルにある

ブルガリの「オクト フィニッシモ ウルトラ」の特徴は明確。"世界で最も薄い機械式時計"である。しかもその薄さは驚異的で、なんと全体の厚さが1.80㎜しかない。そういわれてもピンと来ないかもしれないが、これは500円硬貨とほぼ同じということだ。それだけ薄いケースの中に170個のパーツを組み込み、エネルギーマネージメントを行いながら寸分の誤差もなく動かし続けるのだから、驚異的だ。恐ろしいほど高度な技術によって生まれた時計であることは、誰もが想像できるだろう。

ケースバックに直接パーツを組み込むだけでなく、なるべく歯車が重ならないように配置することで薄さを追求する
ケースバックにはふたつのリューズがある。ひとつはゼンマイ巻き上げ用で、もうひとつは針修正用だ

しかし時計にそれほど詳しくない人は、「なぜブルガリが?」と思うかもしれない。一般的なブルガリのイメージは、"ローマ発祥のラグジュアリーメゾン"だろう。しかし時計業界におけるブルガリは、徹底的に薄型ウォッチにこだわる技巧派である。

なにせこれまでに、厚さ1.95mmの手巻き「オクト フィニッシモ トゥールビヨン(2014年発表)」、厚さ3.12mmの「ミニッツリピーター(2016年発表)」、厚さ2.23mmの「自動巻きウォッチ(2017年発表)」、厚さ1.95mmの「自動巻き式トゥールビヨン(2018年発表)」、厚さ3.30㎜の「自動巻き式クロノグラフGMT(2019年発表)」、厚さ3.50mmの「クロノグラフトゥールビヨン(2020年発表)」、厚さ2.75mmの「永久カレンダー(2021年発表)」といったように、7つの薄型世界記録を塗り替えてきたという実績がある。

そして8つ目の薄型ウォッチの世界記録更新となったのが、この「オクト フィニッシモ ウルトラ」なのだ。

香箱に仕掛けられた現代的な試みも

1.80㎜厚という圧巻の薄さを実現するために、ブルガリでは時計構造から見直した。まずはムーブメントをケースに入れるのではなく、ムーブメントの裏蓋に直接パーツを組み込む構造を採用した。

薄型を追求する一方で、パーツに仕上げにも抜かりはない。パーツの角を落として磨き上げる「面取り」技法は、スイス時計の伝統だ

機械式時計の基本構造は、歯車をどんどん連続させてゼンマイの動力を伝達していくが、歯車が重なると厚みが増すので可能な限り歯車を重ねず、平面で歯車を連結していく配列となった。結果として時刻表示のスペースは小さくなったが、上は時針、下が分針という分割表示にすることで針を重ねずに厚みを抑えている。さらに機械式時計には必須であるリューズ(ゼンマイを巻き上げたり、針を動かしたりするためのデバイス)も工夫し、ケースの裏側に配置している。

様々なポイントで薄さを追求する一方で、薄くても強度を出すために、炭素とタングステンによるタングステンカーバイドという高密度、高硬度、高耐久性の素材をミドルケースに使用し、さらにケースバック兼メインプレートやラグには、チタンを使用している。

さらにこの時計は、薄いだけじゃなく新しい試みにもチャレンジしている。動力ゼンマイである香箱の上にあるQRコードを読み取ると、この時計のメイキング映像やムーブメントのバーチャル3Dツアーなどを楽しめ、さらにNFTの限定アートワークが付与される。つまりこの時計は、唯一無二の芸術作品にアクセスするカギとなる現代的な価値も加わっているのだ。

QRコードはレザー加工。伝統技術と最新技術が交差する、特別な時計となった

オクト フィニッシモ ウルトラ

手巻き、チタン×タングステンカーバイドケース、ケース径40㎜、ケース厚1.80㎜。世界限定10本。52,217,000円(税込、予価※完売)

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時計ジャーナリスト
篠田 哲生

1975年生まれ。講談社「ホットドッグ プレス」編集部を経て独立。時計専門誌、ファッション誌、ビジネス誌、新聞、ウェブなど、幅広い媒体で硬軟織り交ぜた時計記事を執筆。スイスやドイツでの時計工房などの取材経験も豊富。著書に『成功者はなぜウブロの時計に惹かれるのか。』(幻冬舎)、『教養としての腕時計選び』(光文社新書)がある。
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