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1年半待った、イラストレーター「unpis」の作品

物欲がない若者、それでも欲しくなるテンションを上げるモノ

author: 小林 雄大date: 2021/12/15

僕はあまり物欲がない。僕は、というより今の20代や30代に共通するかも知れないけれど、高級な腕時計や自動車には興味がないし、一時期流行ったミニマリスト的な生き方がスタンダードになっている印象もある。まあ、そもそもお金がないのも事実だけど……。そんな僕が今年購入した中でお気に入りのモノは“絵”だ。

イラストレーター・unpisの「木々」という作品。京都のギャラリー兼セレクトショップ「VOU/棒」で開催されたunpisの個展「ユルす」で展示されていたものだ。

あるアーティストを取材させていただいた際、「アートというのはアクセサリー感覚で扱っていいと思う」という話をしてもらった。いわゆるアートや絵画というのは仰々しいものだと考えていた自分にとってハードルが低くなった、むしろハードルがなくなった瞬間だった。もちろん作品やアーティストに敬意は払うし、だからこそ頑張って働いたお金で購入するわけだが、自分が購入した作品として消化するためにはある種の気軽さが必要だと思う。

個展「ユルす」では、“普段はゆるさない線のカスレやブレなどのユルさをゆるしてみよう”という気持ちで描いたドローイングや半立体作品を展示されていた。

今回の「木々」は横幅が1m以上ある大きな作品だ。なかなか規格外の大きさのため、調べても調べてもちょうどいい額縁が見当たらなかった。そこで、自分はこの作品にラフな魅力を感じていたし、ラフに楽しみたいと思い、お気に入りの画鋲を四隅に刺して飾ることにした。額縁で飾れば違った印象も受けただろうけれど、“作品”として独立させるのではなく、自分の生活に溶け込ませたかったという想いがある。

僕がunpisを好きになったきっかけは忘れてしまったが、おそらくSNSでたまたま見つけたのだと思う。そこから過去の作品を見て、新しく発表された作品を見て、どんどん好きになった。岐阜で個展が開催されているとき、思い切ってDMを飛ばした。残念ながらどの作品もSOLD OUTだったが、とても親切に対応をしてくれて人柄も含めて好きになった。そこから1年半以上、なかなか購入の機会に恵まれず、ついに購入できたのが今回の作品だ。

個人的な解釈だが、unpisのイラストは線の美しさが最大の魅力だと思う。事物を徹底的に観察して、無駄を省いてデフォルメされた線はunpisならではの独特の世界を生み出す。そしてなにより作品のユーモアに心が打たれる。水に映った歪んだ人物の表現、靴下を履いたときのクシュッとした感じ、この他にもなぜか笑顔になってしまう作品が数多くある。過去の作品はTwitterやInstagramに投稿されているのでそちらで確認していただきたい。

フリーランスとして仕事をしているので、必然的に自宅で過ごす時間が多い。そうでなくても、ここ2年で在宅勤務の人も増えたし、自宅での過ごし方は見直され続けている。自宅での快適さを求める動きは2フェーズ目に入ったのかなと感じる。1フェーズ目は料理や掃除、リモートワーク環境の整備などの、絶対的に必要なモノのレベルの底上げだ。僕もいい椅子を買ったし、いくつかの家電を買い替えた。しかしここ最近はより精神的な充実、例えばアート作品や植物、お高めのお取り寄せグルメなど、なくても困らないモノにお金をかける人が増えてきた気がする。

絵の良いところは、普段生活している中で視界に入る度に少しテンションが上がること。もちろん自分の気分が上がるものなら何でも良いが、日々の生活の豊さにプラスになるものがあれば、ちょっとだけ毎日が楽しくなるはずだ。

2021年11月9日には作品集「DISCOVER」が発売された。
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Beyond magazine編集長
小林 雄大

ファッション業界や音楽業界、ソニー・ミュージックエンタテインメントのWebメディア「d365」副編集長を経て、独立。現在はフリーランスの編集者として、企画・編集・執筆を中心に活動。新規メディアの立ち上げや企業内の新プロジェクトなど、情報発信に関わる土台構築から実行まで広く携わる。
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