さまざまな事象を分かりやすい図解で表現し、Twitterやnoteでの発信で支持を集めるこばかなさん。多摩美術大学を卒業後、デザイナーとして歩み始めたのち、コーチング会社THE COACHの代表を務める。SNSなどで発信する内容は理路整然としているこばかなさんだが、普段どんなことを考えているのか。そして普段の発信から削ぎ落とされている“無駄”な部分にこそ、感性を刺激する大事なモノが宿っているはず! 外からの力が作用しなければ、物体は静止、または等速度運動を続けるという「慣性の法則」をなぞり、「こばかなの無駄話から生まれる“感性”の法則」と題した連載。第4回目は、無趣味だったこばかなさんが多趣味に変わったお話し。
仕事は大事、だけど趣味も大事
私はもともと趣味がないって10年くらい言い続けていて、なんとか絞り出しても「趣味はTwitter」って答えるくらいで……。休みの日の過ごし方も全然分からないタイプだったんです。でも、最近は無趣味の真逆、多趣味に変わってきました。
サウナやデッサン、料理など今ではたくさん趣味があります。最初の趣味は料理だったのですが、ウーバーイーツやコンビニのご飯に飽きたことがきっかけです。それまでは料理する時間がないとか言い訳していたのですが、いざ料理してみると自分で食材を選んで、レシピを探して作り、自分で食べたり誰かに食べてもらうのがすごく楽しかった。いまでは完全に習慣化しましたね。
そのほかの趣味も少しずつ増えていき、じゃあ「どうして趣味が増えていったんだろう?」って振り返ってみると、きっと心境の変化が大きく影響しているんだろうと思いました。
ひとつは、仕事が全てだと思っていたけど、あくまで仕事というのは人生の一部でしかないと気づけたことです。人生をもっと豊かに過ごすには、仕事では叶えられない自分の欲求や願いみたいなものを趣味を通して達成、実現した方がいいなって思えるようになりました。
もうひとつは、せっかくやってみたいという気持ちがあるのに「それ本当にやっていいのかな」って無意識にブレーキを踏んでいる自分に気づけたこと。趣味なんだから、とりあえずやってみる勇気を出す、やりたいと思っている気持ちに素直になることが必要だと思い始めました。あんまり気負い過ぎず、次の休日にやってみようというマインドですね。
休まず勉強したことで知った休息の重要性
心境の変化について、もう少し原体験に近いお話をしたいと思います。自分が受験生の頃、「365日1日も遊ばないぞ」とストイックな勉強生活を決意しました。結果的に体調を崩してしまい、そのときに頑張り方のベクトルを間違っちゃいけないなと体感したんです。
当時は作業量を増やすことだけが頑張ることだと盲信していましたが、いまは自分の身体と精神を労るために休憩を挟むなど、持続的に努力できる環境をデザインしたほうがパフォーマンスを発揮できると考えています。だからこそ仕事だけでなく、趣味に対しても積極的にトライしてみようと気持ちに余裕ができたのかも知れません。
仕事だけしていると発想が凝り固まったものになってしまうから、趣味を通じて新しく得た知識や、色んな人と会うことで受ける刺激は大事にしたいですね。あえて普段の仕事上のレールから外れて歩くと、いつもと違う面白い発見があると思います。
カメラを始めてみた
最近、新しい趣味のひとつとしてカメラを始めました。最初はフィルムカメラのNikon『F3』を購入しましたが、写真を撮る技術を上達させたくて試行回数を増やすためにデジタルカメラのSONY『α7Ⅲ』も追加で買っちゃいました。もともとは、好きな写真家がフィルムで撮っているからという理由でフィルムに興味があって。正直、「F値ってなに?」って状態からのスタートだったので、フィルムカメラを始めるハードルは高かったです。
でも、実際にやってみると想像以上に色んな発見がありました。フィルムカメラは、デジタルカメラと違って1枚の写真を撮る、シャッターを切る価値が違います。そのため、よく観察してシャッターを押すといった特徴がありますが、この集中力はデジタルで撮るのとは全然違っていて。例えるなら、デッサンをするときのような感じ。ただボーっと過ごしている状態じゃなくてレンズを通して見ると、普段の何気ない光景ですら美しく見える瞬間があったりする。これはビジネスにも置き換えられます。
ファインダーを覗くような感覚で、ビジネスの課題を探す視点を持って1日を過ごしてみると、例えば「もっとこういうプロダクトあったらいいのに」という気づきに繋がるんじゃないかなと思います。いつもは見落としがちな課題に対して意識を変えるだけで、見える景色が全然違うということをフィルムカメラを通じて改めて気付かされましたね。こう考えると、どんな趣味でも仕事や日常をもっと豊かに過ごすヒントになりそうですよね。それを目的に、趣味を探していくのも面白そう。
やりたい気持ちを無視しない
とはいえ、趣味をどうやって始めたらいいかって難しい部分もあると思います。私もフィルムカメラに対して、「初期費用がかかる」「F値ってよくわかんない」といって、ハードルを感じて長年やらず終いでした。やりたいことがあっても、無意識に自分にはできないと思い込んでいるだけで心がやりたいって言っている瞬間は、みなさんあると思います。
これをコーチング用語で「コーリング」と呼ぶんですけど、自分が何かに強く惹かれているような感覚を味わったことがあるかも知れません。1年の間に何回も起こることでもない、もしかしたら1年に1回かもしれない貴重な機会です。せっかくコーリングが起きているのに、言い訳を考えて行動しないのはもったいない。コーリングに対していかに行動していくかが、人生の充実に繋がると思います。
私はコーリングに従うようにしているので、この間カメラを2台買ってしまったのですが(笑)。趣味は下手でもいいし、まずはYouTubeで学習するっていうのもおすすめです。10年前と比べて独学しやすい環境は整っていますし、実際に私もYouTubeで学習してF値やフィルムの入れ方を理解しました。
過去の自分にも言えることですが、無趣味な人だと悩む人には「本当にやりたいことがないのか」と自問することをオススメします。もし少しでも興味が湧いてきても、無意識のうちに「自分には難しそう」「初期費用が高い」「来世でやろう」と考えてしまうのではないでしょうか。
完璧主義の人に無趣味な人って多いと思うのですが、趣味なんだから下手でもいいし、極める必要は全くない。まずはやってみることを楽しめばいいんじゃないかな、と。人生は1回しかないし、せっかくやりたい気持ちが一瞬でも起こったなら、そのままにしてしまうのはもったいないです!
text:雨谷里奈